Black Rain

鈴本 龍之介

文字の大きさ
上 下
7 / 16

第6話 蠢く恐怖

しおりを挟む

 悠夜は謎のメモを母親に見せて言った。

「母さん、このメモ知ってる?」
「んー?メモ?」

 母親は手を止め悠夜の話を聞く。

「捧げしなんたらを決意したってとか書いてあるんだよ」
「へー、何だろう?捧げしもの?」
「分かんないならいいや、ありがと」

 そう言って悠夜は再び部屋へと戻った。
 とりあえずメモは机の片隅に置いておいて、再び課題の続きをする事にした。
 都合よくメモが挟まっていたページが開いていたのでこのページの話をまとめる事に。

 そのページには、ベイズ村という村が滅んでしまった話が書かれている。内容はこうだ。
 ベイズという村は非常に食料が豊富だった。それはこの村の民族が食べる物に抵抗がなく、ありとあらゆる物を食べていたからだ。
 ある時、村の周りを開拓している時に草が生い茂っている場所を見つけたベイズ村の1人は、大喜びでその草を食べてしまった。
 何日か経ったある日、ベイズ村の人々はみんな苦しみ悶えていた。
 そしてこの村には医者が居なかったためそのまま滅んでしまった……
 後に分かった事だが、村の周囲に生えていたのは”生いし草”と呼ばれており、この地域では沢山自生してる植物だった。
 これは別名”美味し草”と呼ばれ猛毒を持っている植物だと分かる。恐ろしい事にこの草の毒は人に感染る。
 少量であれば視覚障害程度で済むが、こっそり食べた1人は物凄い量を食べたのだろう。そこから村の人々に移り滅んでしまったのだ。

「(んー……まあこれでいいか)」

 悠夜は本に書いてある事を写しつつ、所々を別の言葉で言い換えまとめた。
 次に悠夜は昨日の昼休みに先生から聞いた謎の独り言の意味を知るために地図を広げる。
 悠夜の暮らしている村は山々に囲まれており、その大小様々な山には名前がついている。

「(光り輝く山か……)」

 くまなく地図を探してみると悠夜はある山を見つける。
 それは光輝山と呼ばれる山のようだ。
 しかし、悠夜はある事に気がつく。この名前の山はこの村にはないという事を。

「(光輝山……コウキヤマ……そうだ!)」

 地名や山や港などは、時代が変わる毎にその名前も変わる事がある。今悠夜が見ている地図は20年前の地図だ。
 そこで悠夜は新しい地図と場所を照らし合わせてみるとようやく先生の独り言の謎の半分が分かった。
 その場所は”高樹山”だ。昔は太陽が山にかかる姿が光り輝く様に見えたところから光輝山と呼ばれていた。
 しかし今は高い木が多いところをとって高樹山となっている。
 残るは半分、カラスの部分だ。この部分が悠夜の頭を悩ませた。
 最初に聞いた時から山の部分は大体が想像がついた。
 だが、カラスの部分だけがどうにもピンとこない。先生は何故こうも分かりにくい暗号を残したのだろうか?行き詰まった悠夜はもう一度最初から考え直す事にした。
 黒い雨の原因は鴉御家だ。ここで悠夜はピンときた。鴉御という名字にはカラスという漢字が入っている。
 つまり、高樹山に鴉御家があるという事だ。
 ここで悠夜の頭の中に一つ疑問が浮かぶ。鴉御家はこの世には存在しないのではないのかと。
 あの一件以来、鴉御家は世間に顔を出す事はない。何故なら一家心中を図って死んでしまったからだ。
 ならば何故、先生は悠夜にこの言葉を残したのだろう。
 答えにたどり着いた悠夜だが、心中はモヤモヤしたままだ。

――翌日

 昼休み、再び先生のいる用務室を訪れノックをして部屋に入ろうとする。
 しかし、鍵がかかっていて開く様子はない。仕方なく悠夜は外から先生を呼んだ。

「せんせーい!昨日の事なんですけどー?」

 すると中から先生が現れ、口に指を当て静かにといった様に口を動かした。悠夜は声のトーンを落とし、小声で先生に話しかける。

「どうして小声なんですか?」
「私の用務室は盗聴されている」
「え!?本当ですか!?」
「あぁ、そうだ。校長先生が仕掛けたんだ」
「でも何でそんな事……」
「黒雨事件には秘密があるんだ」
「その秘密って鴉御家の事ですか?」
「そこまでたどり着いたなら行ってみなさい」
「先生の口からは聞けないんですか?」

 悠夜が核心に近づこうとしたその時、遠くからある声が近づいてきた。

「おー、先生と大神くんじゃないか!こんな所で何してるんだ?」

 声の主は校長だった。盗聴器で盗み聞きしていたが、不穏な空気を感じ取ったのか用務室まで姿を表した。
 そこで先生はまずいと思ったのか悠夜との話を切り上げた。

「その進路は君にピッタリだと思う。頑張るんだよ」
「先生を辞めてもなお、教え子の進路相談に乗るとは感動しますなぁ~」
「じゃ、じゃあ先生ありがと!」
「大神くん!君もこの先生みたいに立派な大人を目指しなさい」

 悠夜は逃げる様に去っていったが、先生は校長先生と2人きりで残してきた事を少し後悔した。
 最後に校長から一言あったが、きっと本当の性格ならあの様な事は言わないのだろうと少し違和感を覚え嫌な予感がした。

 次の日、嫌な予感は的中した。
 先生は学校からも消えていた。
 悠夜はひどく後悔し、そして黒雨事件の裏で蠢く巨大な影に少し恐怖した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月明かりの儀式

葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、幼馴染でありながら、ある日、神秘的な洋館の探検に挑むことに決めた。洋館には、過去の住人たちの悲劇が秘められており、特に「月明かりの間」と呼ばれる部屋には不気味な伝説があった。二人はその場所で、古い肖像画や日記を通じて、禁断の儀式とそれに伴う呪いの存在を知る。 儀式を再現することで過去の住人たちを解放できるかもしれないと考えた葉羽は、仲間の彩由美と共に儀式を行うことを決意する。しかし、儀式の最中に影たちが現れ、彼らは過去の記憶を映し出しながら、真実を求めて叫ぶ。過去の住人たちの苦しみと後悔が明らかになる中、二人はその思いを受け止め、解放を目指す。 果たして、葉羽と彩由美は過去の悲劇を乗り越え、住人たちを解放することができるのか。そして、彼ら自身の運命はどうなるのか。月明かりの下で繰り広げられる、謎と感動の物語が展開されていく。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

愛脳中毒

じえり
ミステリー
世の中に疲れた紀田聖 お金欲しさに臨床試験の被験者となる 昔好きだった奏に偶然であってまた恋に落ちる 人生に色がついていく感覚に心躍る毎日 そんな時奏とは全く違うタイプのヨンこと真由に好きだと告白される 自分の人生の奇跡 しかしコウキが参加した臨床試験には秘密があった 謎の研究機関√が若者を集めて行なっている恐ろしい人体実験 コウキがたどる人生のラストとは?

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

叢生記

ルム
ミステリー
誕生日に突然神様が現れた。 何をするでもなく、何を言うでもなく。 無視を決め込む男の7日間のショートショート。

【完結】縁因-えんいんー 第7回ホラー・ミステリー大賞奨励賞受賞

衿乃 光希
ミステリー
高校で、女子高生二人による殺人未遂事件が発生。 子供を亡くし、自宅療養中だった週刊誌の記者芙季子は、真相と動機に惹かれ仕事復帰する。 二人が抱える問題。親が抱える問題。芙季子と夫との問題。 たくさんの問題を抱えながら、それでも生きていく。 実際にある地名・職業・業界をモデルにさせて頂いておりますが、フィクションです。 R-15は念のためです。 第7回ホラー・ミステリー大賞にて9位で終了、奨励賞を頂きました。 皆さま、ありがとうございました。

ゴーストからの捜査帳

ひなたぼっこ
ミステリー
埼玉県警刑事部捜査一課で働く母を持つアキは、ゴーストを見る能力を持っていた。ある日、県警の廊下で、被害者の幽霊に出くわしたアキは、誰にも知られていない被害者の情報を幽霊本人に託される…。

声の響く洋館

葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、友人の失踪をきっかけに不気味な洋館を訪れる。そこで彼らは、過去の住人たちの声を聞き、その悲劇に導かれる。失踪した友人たちの影を追い、葉羽と彩由美は声の正体を探りながら、過去の未練に囚われた人々の思いを解放するための儀式を行うことを決意する。 彼らは古びた日記を手掛かりに、恐れや不安を乗り越えながら、解放の儀式を成功させる。過去の住人たちが解放される中で、葉羽と彩由美は自らの成長を実感し、新たな未来へと歩み出す。物語は、過去の悲劇を乗り越え、希望に満ちた未来を切り開く二人の姿を描く。

処理中です...