幸せな人生を目指して

える

文字の大きさ
上 下
224 / 227
第11章 紅姫と四黎公

2 即位

しおりを挟む
「既に妾の言いたい事に勘付いている者もいるだろうが――。
率直に言わせてもらう。先日起きたシェルバート伯爵家で起きた騒動について、詳しく聞かせてもらいたい」

「騒動についてやはり知っていたのですね」

予想が的中した瞬間だった。やっぱりその件はルリ様も気になっていたんだ。

「その件には魔族が絡んでいるという話だからな。魔族とくれば我々ヴァンパイアの一族も看過できない」

現在最強種族と名高いヴァンパイアのルリ様にそう言わせる程、魔族は脅威なんだ。
そんな存在と数回対峙したと言うのに、今こうして五体満足で自分がいる事が奇跡のように感じられる。

弱気になる気はないけれど、以前魔族と対峙した時、本能的な恐怖を感じたのを今でも鮮明に覚えているし、あの時魔族の力の一端を見た。それだけでも彼らの強大な力は脅威と言える。

「その事は構わない。だが俺達も情報が欲しい。
――持っているんだろう?魔族に関する情報を」

取引とでも言わんばかりに、確信を持っているらしいレヴィ君は臆する事なくルリ様にそう提案する。
そんな彼の態度を彼女は咎める事無く、それどころか口元にフッと笑みをつくって言った。

「勿論だ。妾が知っている事を全て話そう。
妾は一国の主と言う立場からだけではなく、お前達の友人として、今話をしたい」

表情は柔らかいが彼女の目は真剣そのもの。そんな彼女に私達は頷く事で応えた。

「では、まず私達が遭遇した騒動について詳しくお話します」


私はあの時の事を思い返しながら、詳細な内容を彼女に話した――。



「なるほど。魔族の影はあれど、魔族自身は公の場に姿は見せなかったと言う訳か。
全く奴ららしい。影から人を操り、好機を伺い隙を狙う――昔から変わらず卑怯な連中だ」

私の話を聞き終えたルリ様は何か思い出したのか、眉を顰め怒気の籠った口調で吐き捨てた。

「昔から知っているような口ぶりね。それでは聞かせてもらえるかしら?貴方の知っている魔族に関する事を」

成り行きを見守っていたユキが口を開く。ルリ様に先を促すように問いかけた。

「そうだな。では約束通り、今度は妾が話す番だな」

そう前置きをして彼女は静かに語り出した――。

「これは千年以上前の話だ――」


語られたのは想像も出来ないような遥か昔の出来事――。


千年以上前――まだ魔族が日常の中に当たり前に存在していた頃。
この時代は現在と比べてしまうと、殺伐としており、小さなきっかけで簡単に戦争を勃発させていた。

種族としては人間も存在はしていたものの、中でも圧倒的力を誇っていのは魔族とヴァンパイアであって。
この二大勢力の前では、人間達など為す術はなく、唯々自分達に矛先が向かぬよう息を顰め、いつ襲われその命が儚く散るかもしれないと言う恐怖と日々戦っていたのだった。

そんな人間の気持ちに等気にも留めず、魔族とヴァンパイアは自分本位の戦いを日々繰り広げる。
戦争の理由は様々。領土支配、物資略奪、種族の違い、力比べ等々。言い出したらキリがないが、ほとんどがくだらない理由であり、その争いに巻き込まれる他種族はたまったものではない。
ただでさえ規格外な力を有した種族達だ。彼等にとっては可愛い喧嘩かもしれないが、人々にとっては脅威でしかない。


そしてその二つの勢力の内、魔族は彼らを束ねる王と言う存在がいないが、ヴァンパイアにはその王が存在していた。
若き王と妃。二人の支配者。

若いと言っても長寿のヴァンパイアの中での話であり、二人は既に数百年は生きている。
そんな二人はとても聡明であり、身体能力も特に優れていた。王族の中でも稀に見る奇才であった。

王族であり優れた能力を併せ持つ二人は、力が指針であり、自分よりも弱い者には絶対に従わない信念を持つヴァンパイア達を纏め、当たり前のように従わせていた。
ただしそれは二人の力を認めている者達に限った話であり、二人の主義に意義を成す者達は確かに存在した。彼らは派閥を作り、好き勝手力を振るっていた。そのヴァンパイア達が主にこのくだらない戦争を引き起こしていたのだった。

考えは人それぞれと言うが、力を持っていようと、国を治め同族を従わせる資質があろうとも、全てのヴァンパイアの考えを変える事は出来ない。
戦争も絶えず起こり、王族の二人も困り果てていた。力があろうとなかろうと無駄な血を流す事を二人は好まない。
だからこそどうにかして魔族との争いを終わらせたいと日々思っていたのだ。


そんな時だ。
二人の間に一人の子供が生まれたのは――。

紅のような真っ赤な髪をした娘であった。

争いの真っただ中にも関わらず、戦争の苦しみを癒してくれる存在として、彼女――幼き王女は両親、そして配下の者達にとても大切にされた。

だが王女の誕生は、一時の平穏をもたらすと共に、邪な者共の格好の標的となってしまう。
いかに王の子と言えど、王女はまだ小さな赤子。
その尊き血筋、能力を求める者、妬みから害そうと、亡きものにしようとする輩と様々な思惑によって、幼き王女は生まれた瞬間からその命を狙われる事となってしまった。

そして魔族も同様に王女が生まれた事を知った奴等は王女を狙い大胆にも、ヴァンパイアの王国――その中心である王城を攻め入ったのだ。

不運はそれだけでなく更に続いた。
この時、王城に攻め入って来た輩の中には、強大な能力を持った魔族がおり、王女を守る王と妃にその猛威を振るった。
魔族一体であれば防戦一方となる事もなかっただろうに、惜しくも攻め入って来た魔族は多数。それも前触れもなく突然に。


当時、王女達三人の他に城には多数のヴァンパイアが警備に当たっていたが、ヴァンパイア側にも多少の油断があったのもあり、数いる魔族に手間取り、気づいた時には王女達は完全に孤立してしまっていた。

こうなってしまっては行動も限られてくる。王と妃の取った行動はただ一つ。
王女を守る為に戦った。

しかし、相手はそこらにいる雑魚ではない。
長きにわたる攻防の末、その果てに二人は魔族を瀕死の状態まで追い込んだものの自分達も同じく深手を負ってしまう。
このままでは王女の身が危険と判断し、二人は最後の力を振り絞りその場にいた魔族をどうにか退けると、漸く三人の元へ駆けつけていた配下のヴァンパイアへ王女とその後の事を託した。

――そして王と妃は長い長い眠りへとついた。



こうして一人残された王女は、王族の次位に力を持つ四人のヴァンパイアに見守られながら、自身と両親の身に起きた出来事を何も知らぬまま成長していき、新たな女王として王国を治める事となったのだった――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

慟哭の時

レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。 各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。 気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。 しかし、母には旅をする理由があった。 そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。 私は一人になったのだ。 誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか…… それから母を探す旅を始める。 誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……? 私にあるのは異常な力だけ。 普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。 だから旅をする。 私を必要としてくれる存在であった母を探すために。 私を愛してくれる人を探すために……

おっす、わしロマ爺。ぴっちぴちの新米教皇~もう辞めさせとくれっ!?~

月白ヤトヒコ
ファンタジー
 教皇ロマンシス。歴代教皇の中でも八十九歳という最高齢で就任。  前任の教皇が急逝後、教皇選定の儀にて有力候補二名が不慮の死を遂げ、混乱に陥った教会で年功序列の精神に従い、選出された教皇。  元からの候補ではなく、支持者もおらず、穏健派であることと健康であることから選ばれた。故に、就任直後はぽっと出教皇や漁夫の利教皇と揶揄されることもあった。  しかし、教皇就任後に教会内でも声を上げることなく、密やかにその資格を有していた聖者や聖女を見抜き、要職へと抜擢。  教皇ロマンシスの時代は歴代の教皇のどの時代よりも数多くの聖者、聖女の聖人が在籍し、世の安寧に尽力したと言われ、豊作の時代とされている。  また、教皇ロマンシスの口癖は「わしよりも教皇の座に相応しいものがおる」と、非常に謙虚な人柄であった。口の悪い子供に「徘徊老人」などと言われても、「よいよい、元気な子じゃのぅ」と笑って済ませるなど、穏やかな好々爺であったとも言われている。 その実態は……「わしゃ、さっさと隠居して子供達と戯れたいんじゃ~っ!?」という、ロマ爺の日常。 短編『わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……』を連載してみました。不定期更新。

若輩当主と、ひよっこ令嬢

たつみ
恋愛
子爵令嬢アシュリリスは、次期当主の従兄弟の傍若無人ぶりに振り回されていた。 そんなある日、突然「公爵」が現れ、婚約者として公爵家の屋敷で暮らすことに! 屋敷での暮らしに慣れ始めた頃、別の女性が「離れ」に迎え入れられる。 そして、婚約者と「特別な客人(愛妾)」を伴い、夜会に出席すると言われた。 だが、屋敷の執事を意識している彼女は、少しも気に留めていない。 それよりも、執事の彼の言葉に、胸を高鳴らせていた。 「私でよろしければ、1曲お願いできますでしょうか」 ◇◇◇◇◇ 設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。 R-Kingdom_4 他サイトでも掲載しています。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

生真面目君主と、わけあり令嬢

たつみ
恋愛
公爵令嬢のジョゼフィーネは、生まれながらに「ざっくり」前世の記憶がある。 日本という国で「引きこもり」&「ハイパーネガティブ」な生き方をしていたのだ。 そんな彼女も、今世では、幼馴染みの王太子と、密かに婚姻を誓い合っている。 が、ある日、彼が、彼女を妃ではなく愛妾にしようと考えていると知ってしまう。 ハイパーネガティブに拍車がかかる中、彼女は、政略的な婚姻をすることに。 相手は、幼い頃から恐ろしい国だと聞かされていた隣国の次期国王! ひと回り以上も年上の次期国王は、彼女を見て、こう言った。 「今日から、お前は、俺の嫁だ」     ◇◇◇◇◇ 設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。 R-Kingdom_6 他サイトでも掲載しています。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

処理中です...