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第10章 アマビリスの乙女
2 彼女の想い人
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恋する姉様はとても可愛いらしく、乙女だなと微笑ましく思う。
そしてそれと同時に姉様にそこまで思われている彼の人が、一体どんな人物なのかが私は凄く気になっていた。
姉様の話を聞いた限り優しい良い人、だと言うのは凄く伝わってくるのだが、それでもやはり自分の目でも見てみたいと思ってしまう。
と言う訳で恋愛トークに花咲かせた翌日、早速様子を伺いに姉様の元へ行く事に決めた。即行動あるのみ。
ちなみに最上級生のクラスに一人で行くのは流石に緊張する為、私はユキを連れていざ向かう事にしたのだった。
最初は呆れていたユキだが、なんだかんだ言いながらも結局は付いて来てくれる、そんなユキの面倒見の良いところが私は結構好きだったりする。
それに今では私よりもユキの方がノリノリなのがまた面白いところだ。恋愛話なんて話さないし、そう言った話を聞かないユキでも、実はその手の話題に興味があるのかもしれない。だって女の子だしね。
と、そんなこんな考えていると目的の教室へ到着する。
姉様は成績優秀なので一年生の時を除き、二年生の時から万年Aクラスで最上級生まで上り詰めたのだが、普通に考えてそれは凄い事でもある。
それだけ成績を維持しているという事だから。そう考えると、姉様が周りの生徒達から憧れられるのも良く分かる。
私も課題、ではなくコツコツと毎日の努力で成績を維持出来るようにしたいと思うし、見習わなくてはいけないともしみじみ思うのだった。
それはそうと、目的地に到着してから周囲の視線が気になっていたけれど、今更ながら他学年の生徒がいれば気になるのも仕方ないだろうと直ぐに思い至った。
制服でも他学年の見分けはつくけれど、私の場合は姉様が優秀過ぎ、有名過ぎて、彼女の妹という事が他学年の生徒達に知れ渡っているのだと思われる。
ユキも外見が目を引くと言う理由もあるだろうが、何と言っても家が名家なのだ。その為、やはり周りから一目置かれている存在なのだ。
そう思うと本当に一人で来なくて良かったなとしみじみ思うのだった。
まあそんな中でも気にしているのは私だけらしく、ユキは普段と変わらないし、自身に刺さる視線をものともしていない。それどころかどうしたの?と視線で私に問いかけてくるくらいだ。
そんな中、私は当初の目的を思い出し、視線がまだ気になるものの、目的の人物を探す事に集中する。
――あっ!
そうこう探している内に、当初の目的の人物、ではなく何やら困った様子の姉様の姿が視界に入る。
姉様は少し緊張した面持ちである人物を見ているようだ。そして意を決したと言う様子で、その人物の方へと近づいていく。そんな姉様を視線で追っていくと一人の男子生徒が目に入った。
あっ、彼が姉様の――。
話には聞いていたけれど、その男子生徒が姉の想い人である人物なのだろうと言う事が分かる。
彼の名前は確か、フラン・シェルバート。シェルバート伯爵家の次男で、年の離れた兄がいたはず。
と言うのは姉様からの情報である。
ただ私がイメージしていたよりも彼はスラッとした長身で、優しそうな穏やかそうな表情が印象的な男の子だった。
赤みがかった茶髪の髪は少しくせ毛で、顔は整っており優しいが何処か凛とした緑の瞳が覗いており、装いも相まって彼の紳士然とした風貌を際立たせていた。
その彼の瞳が姉様の姿を捉えたのか、不意に表情が穏やかに緩む。
そんな彼に姉様は駆け寄り何やら話をしている模様。けれど姉様の方が時折目が泳いでいて……。
姉様的にはあれでいつも通りを、普通を心掛けているつもりなのだろうが、傍から見たら完全に動揺しているのがバレバレだった。
ユキもあらあら、と言いながらその様子を見ていたくらいには。
でも様子を伺うに彼は姉様に対して態度が違うような気がするし、先程彼女の姿を捉えた瞬間も、嬉しそうに目を細めたのを私は見逃さなかった。
彼が何処まで姉様の事を想っているのかはまだ分からないが、少なくとも彼も彼女に好意的であるのでは?と思う。
そうとなれば姉様の恋が実る可能性も十分あり得る訳で。
これは陰ながら見守りつつ、時には背中を押してあげなくてはいけないな!と変に気合が入る。
「あれはもう、時間の問題じゃないかしらね」
そこで成り行きを見守っていたユキがポツリと呟く。それに私も頷き、
「でもまだ彼の気持ちが分からない以上、下手な事は出来ません。まずは二人きりで、お互いの距離を縮めていくのが先決かと思うのですが」
「そうね。はあ、他の人の事には敏いのに、どうして自分の事となると途端鈍くなるのかしらね…」
私の提案に賛同したかと思えば、次いでユキの口から出たのは重い溜息。しかも独り言のように声を落として続いたその言葉の意味が、私には今一しっくりこなくて首を傾げた。
「それってどういう……?」
気になり尋ねたがユキはそれに首を振っただけだった。
「何でもないわ。気にしないで。
それより今は彼女達の事でしょう?」
そしてユキにさり気なく話題を変えられてしまい、奇しくもこの話は一旦終わりとなった。
…気になるけれどまた今度だね…今は姉様の方が重要なわけだし。
私は前向きにそう思い直す事にし、ユキとの会話を頭の片隅に追いやり、姉様の恋路を成功させる為の作戦を練る事に思考を切り替えたのだった。
そしてそれと同時に姉様にそこまで思われている彼の人が、一体どんな人物なのかが私は凄く気になっていた。
姉様の話を聞いた限り優しい良い人、だと言うのは凄く伝わってくるのだが、それでもやはり自分の目でも見てみたいと思ってしまう。
と言う訳で恋愛トークに花咲かせた翌日、早速様子を伺いに姉様の元へ行く事に決めた。即行動あるのみ。
ちなみに最上級生のクラスに一人で行くのは流石に緊張する為、私はユキを連れていざ向かう事にしたのだった。
最初は呆れていたユキだが、なんだかんだ言いながらも結局は付いて来てくれる、そんなユキの面倒見の良いところが私は結構好きだったりする。
それに今では私よりもユキの方がノリノリなのがまた面白いところだ。恋愛話なんて話さないし、そう言った話を聞かないユキでも、実はその手の話題に興味があるのかもしれない。だって女の子だしね。
と、そんなこんな考えていると目的の教室へ到着する。
姉様は成績優秀なので一年生の時を除き、二年生の時から万年Aクラスで最上級生まで上り詰めたのだが、普通に考えてそれは凄い事でもある。
それだけ成績を維持しているという事だから。そう考えると、姉様が周りの生徒達から憧れられるのも良く分かる。
私も課題、ではなくコツコツと毎日の努力で成績を維持出来るようにしたいと思うし、見習わなくてはいけないともしみじみ思うのだった。
それはそうと、目的地に到着してから周囲の視線が気になっていたけれど、今更ながら他学年の生徒がいれば気になるのも仕方ないだろうと直ぐに思い至った。
制服でも他学年の見分けはつくけれど、私の場合は姉様が優秀過ぎ、有名過ぎて、彼女の妹という事が他学年の生徒達に知れ渡っているのだと思われる。
ユキも外見が目を引くと言う理由もあるだろうが、何と言っても家が名家なのだ。その為、やはり周りから一目置かれている存在なのだ。
そう思うと本当に一人で来なくて良かったなとしみじみ思うのだった。
まあそんな中でも気にしているのは私だけらしく、ユキは普段と変わらないし、自身に刺さる視線をものともしていない。それどころかどうしたの?と視線で私に問いかけてくるくらいだ。
そんな中、私は当初の目的を思い出し、視線がまだ気になるものの、目的の人物を探す事に集中する。
――あっ!
そうこう探している内に、当初の目的の人物、ではなく何やら困った様子の姉様の姿が視界に入る。
姉様は少し緊張した面持ちである人物を見ているようだ。そして意を決したと言う様子で、その人物の方へと近づいていく。そんな姉様を視線で追っていくと一人の男子生徒が目に入った。
あっ、彼が姉様の――。
話には聞いていたけれど、その男子生徒が姉の想い人である人物なのだろうと言う事が分かる。
彼の名前は確か、フラン・シェルバート。シェルバート伯爵家の次男で、年の離れた兄がいたはず。
と言うのは姉様からの情報である。
ただ私がイメージしていたよりも彼はスラッとした長身で、優しそうな穏やかそうな表情が印象的な男の子だった。
赤みがかった茶髪の髪は少しくせ毛で、顔は整っており優しいが何処か凛とした緑の瞳が覗いており、装いも相まって彼の紳士然とした風貌を際立たせていた。
その彼の瞳が姉様の姿を捉えたのか、不意に表情が穏やかに緩む。
そんな彼に姉様は駆け寄り何やら話をしている模様。けれど姉様の方が時折目が泳いでいて……。
姉様的にはあれでいつも通りを、普通を心掛けているつもりなのだろうが、傍から見たら完全に動揺しているのがバレバレだった。
ユキもあらあら、と言いながらその様子を見ていたくらいには。
でも様子を伺うに彼は姉様に対して態度が違うような気がするし、先程彼女の姿を捉えた瞬間も、嬉しそうに目を細めたのを私は見逃さなかった。
彼が何処まで姉様の事を想っているのかはまだ分からないが、少なくとも彼も彼女に好意的であるのでは?と思う。
そうとなれば姉様の恋が実る可能性も十分あり得る訳で。
これは陰ながら見守りつつ、時には背中を押してあげなくてはいけないな!と変に気合が入る。
「あれはもう、時間の問題じゃないかしらね」
そこで成り行きを見守っていたユキがポツリと呟く。それに私も頷き、
「でもまだ彼の気持ちが分からない以上、下手な事は出来ません。まずは二人きりで、お互いの距離を縮めていくのが先決かと思うのですが」
「そうね。はあ、他の人の事には敏いのに、どうして自分の事となると途端鈍くなるのかしらね…」
私の提案に賛同したかと思えば、次いでユキの口から出たのは重い溜息。しかも独り言のように声を落として続いたその言葉の意味が、私には今一しっくりこなくて首を傾げた。
「それってどういう……?」
気になり尋ねたがユキはそれに首を振っただけだった。
「何でもないわ。気にしないで。
それより今は彼女達の事でしょう?」
そしてユキにさり気なく話題を変えられてしまい、奇しくもこの話は一旦終わりとなった。
…気になるけれどまた今度だね…今は姉様の方が重要なわけだし。
私は前向きにそう思い直す事にし、ユキとの会話を頭の片隅に追いやり、姉様の恋路を成功させる為の作戦を練る事に思考を切り替えたのだった。
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