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『電話』(掌編・戯曲もどき・2020年8月)

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 あ、もしもし、アキラ? タカシだけどさ、今いいか?
 ――タカシ? こんな時間に電話寄越すなんて珍しいな。

 いや、さっき変な事が有ってさ。
 ――なんだよ。

 それが……マサトから電話っつーか、通話アプリの着信が有ってな……なんか、捨てたはずのカノジョさんのぬいぐるみが巨大化して、勝手に動き出したとか何とか。
 ――はぁ?

 いや、俺だって最初はラリってんのかと思ったんだけど……話聞いてたら、案外まともで。どうも、事の発端は同棲始めたカノジョさんの持ってきたぬいぐるみが、邪魔で邪魔で仕方ないからって、全部捨てたらしいんだよ。
 ――うわー、それ人間としてムリなやつじゃん。

 だよな。でもさ、俺の連れ合いにそれやったら俺その場で殺されるから、マサトのカノジョさんは我慢してたんだと思う。
 ――だけど、ぬいぐるみが巨大化して戻って来るってのは流石に噴飯物じゃね?

 あぁ、そうなんだ。だけどさ、妙にそれがリアルで……通話が始まった時にはダイニングでカノジョさんの買ってきたドーナツを貪ってたとか言ってたんだ。
 ――既におかしいだろ。

 でさ、話してるうちに、ご丁寧にコーヒー淹れてて、気が付いたらもう一体、二つ並んで仲良くティータイムをしていたんだと……妙にリアルだろ?
 ――そりゃシュールだな。

 確かにシュールかもしれないけどさ、まだ続きが有って、気が付いたら電話してる隣で別のぬいぐるみの巨大化した奴が、スプラッタホラーゲームしてるって言うんだよ、しかもその音が聞こえててな。
 ――おい、それ、まじか?

 いや、俺だって信じたくはないんだけど、まじでコントローラー触る音とか全部聞こえてきたんだよ、俺にも。で、そうこうしてたら風呂場から音が聞こえると言って……捨てた時に汚されてしまったらしいぬいぐるみの巨大化した奴が、風呂に入ってるって言い出したんだ。
 ――おいおい。

 其処まで聞いてさ、なんかカノジョさんと揉めてるってのは聞いてたから、少し休んだ方がいいんじゃないのかって言ったんだ。だけど、その、風呂に入ってたぬいぐるみがこっちに来るって騒ぎだして……多分逃げようとしたんだろうけど、玄関先に、喧嘩した時に破ったテディベアが天井まで届くサイズになって鎮座してるとか言い出して。
 ――タカシ、それ、ぜってーヤクやってるよ。警察に言った方がいいんじゃ

 いや最後まで聞いてくれ……その、玄関塞がれたとか言い出した時点で、俺も固定電話から警察に電話しようかなって思ったんだよ。だけどさ、多分、居間の方に戻ったあいつが、捨てたのが全部でかくなって戻ってきた、逃げられない、濡れたのがこっちに来た、全部どんどんでかくなる、押し潰されるとか言い出して……切れちまったんだ、通話が。
 ――タカシ、それ今すぐ警察に。

 それが……言わなくてもいいんだ。マサトのアパート、道路一本挟んだ向かい側なんだけど、あいつの部屋に今、警察来てるんだ。
 ――え……。

 通話してる時にはさ、俺脱衣所に居たから知らなかったんだけど、帰ってきたうちの連れ合いが言うには、心中事件っぽいとか。
 ――タカシ

 うち連れ合いも、すぐそこの情報屋おばさんが野次馬してるのから聞いた話らしいんだが……血まみれでずぶ濡れの女の子と、多分死んでるっぽい若いのが運び出されたって。
 ――……。

 でもおかしいんだ……俺が通話してる時にはさ、多分、とっくにあれしてたはずなんだよ。だって、うちの連れ合いが戻ってきたの、この電話かける直前だけど、うちの連れ合いが戻って来る直前まで、俺、あいつの声を聴いてたんだから……。
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