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二章 異変の始まり

招集された有力者

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 リテーラが衛兵に案内されたのは城の西側にある賓客用の広間に付随する部屋だった。
「お席はピグメンタムの若の隣です」
 広間には劣るが十分な広さのある小部屋に集まっていたのは、東の都の有力者か、その名代となる者。
「どうしてモニュメンタムは当主が来ないんだ。暇をしておるだろうが」
 リテーラが席に着こうとしたとき、その椅子の背に腕を回した豪商の一人が不服を表明し、リテーラはそちらを睨んだ。
「悪いけど、私は呼びつけられただけ。それなりに理由が有るはずですが?」
「まあ、落ち着きましょうよ、スクリプタム殿。モニュメンタムは投手が不甲斐無く、若いだけは取り柄のある娘が来たんでしょう」
 どこぞかの当主の名代らしき夫人はリテーラを侮蔑する様に見やる。
「若いだけが取り柄? ご婦人、冗談を言っちゃあいけませんよ。四十にもなって独り身の女に価値など無いですよ」
 別の豪商は半笑いで夫人をいさめる様に言い放つ。
「落ちたものですね、東の有力者とやらも」
 黙っていた若い男は机の端から集められた人物を一気に見渡した。
「まー、その強欲な面構えを見たらわからんでもないですよ。金に目がくらんだ下劣な連中だってことが!」
「貴様っ」
 スクリプタムの当主が声を上げたところで小部屋の扉が開かれ、当主は舌打ちをしてその腕を椅子の背から話した。
「モニュメンタム殿、お席に」
「邪魔されてたもので」
 衛兵に促され、リテーラは腰を下ろす。
 一同を案内した衛兵は静かに扉を閉めるとそのまま部屋の奥へ向かい、長机の一辺を前に立った。その様子に有力者達は顔を見合わせる。
「お集まりいただきありがとうございます。本日は殿下より皆様方にお伝えすべき事柄を預かってきました。皆様お忙しいことと存じますので、要点のみお伝えします。先ごろより北方の闇が騒がしく、何らかの異変が起こるのではと噂されておりましたが、この度、北方よりステオーラの一団が東方の廃墟群へ移る事になりました。一団は四番の月の第三週にも北方を出立するとのこと。つきましては東方廃墟群の清掃と点検を皆様方にお願いしたい」
 衛兵は淡々とその役割分担を述べ、有力者達に大工や雑用係を早急に雇用する様通達する。当然ながら、急な人員の確保を申し付けられた有力者たちは反発するが、連絡が来たのは昨夜の事だといって衛兵は話を切り上げ、通信大臣を輩出するメディウム家に連絡役、建築家一族であるテクトヌス家には人員の招集と現地での統括を任せると指示を出す。
「それから、ピグメンタム、モニュメンタムを除き、業務の割り当てが無い皆様におかれましては、人員の確保にご協力願いたい。適切な人員確保であれば一人につき銀一枚の謝礼を出す。これは殿下からのお気持ちです」
「衛兵殿」
 スクリプタムの当主が声を上げた。
「何か不服が有りますか」
「報酬に不服は無い。だが、何故ピグメンタムとモニュメンタムが除外されるんだ。こうも急な人集めになぜ彼らが協力しなくてよいのだね」
「話を最後までお聞きください。失礼。」
 スクリプタムに視線を移した衛兵は居住まいを正す。
「こちらから東方廃墟群への出発は四番の月二週目の地の日、朝七時に東門駅からナーウィスへ鉄道で向かい、ナーウィスより馬車を出します。皆様方には森で下車して頂き、廃墟群までは荷馬車を先行させて徒歩で移動して頂きます。休息はゴブリンの詰め所となっている廃墟でとっていただきます。追って帰路の為の馬を派遣しますが、あの森は道も悪く走れるものも多くありませんから、辺境のヘンプロープ村に野営地を仮設し、其処で休息を取ってから各々で戻っていただきます」
 十分な急速場所や移動手段がない事に有力者は不服を述べるが、報酬を出すのは王家であるとして衛兵は取り合わない。
「それと、ピグメンタムのブロイス殿、モニュメンタムのリテーラ殿は御用馬車に同行し、一団を迎え入れる案内役として働いていただきます。勿論、人員を紹介して頂ければ当主殿には報酬が出されますが、絶対にあなた方には直接同行して頂きます、これは殿下のお決めになった事です」
 衛兵からの話が終わると、有力者たちは口々に不満を漏らしながら小部屋を出ていく。さしたる不満を述べないのは、有力者の中でも代々大臣を輩出してきている名門の当主だけだった。
「衛兵殿」
 有力者たちが出ていくのを見計らい、リテーラは衛兵に声を掛けた。
「ステオーラがこちらに来るなんて余程の事です、何が?」
 問われ、衛兵は表情を曇らせる。
「おそらく、地下洞窟のオークが動き始めている。ステオーラの一団が隠棲する森はその洞窟の入り口を含んでいる」
「まさか」
「今までもはぐれオークが徘徊する事は有ったが、今回ばかりは本当に力を付けているのだろう。それと……墓荒らしだ」
「墓荒らし……そんな」
 リテーラは首を振った。
「まだ死霊術の影響を受けたオークの姿を見たという話は聞かないが、もし道中にオークを見つけたら確実に首を刎ねろ、いいな」
 衛兵はリテーラと共に残ったブロイスにも視線を向けた。
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