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第一章 The war ain't over!
16-2 払う犠牲は確かな見返りを求めてる
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モニターに映る賑やかな広告映像を切り、ルーシーはレインを見た。
「……二人とも巻き込んで、本当にごめん」
項垂れたレインは呟き、頭の重さに任せて背中を丸めた。
「気にするな。多分、おばさんはあの女があんな人間だと知らずに話をしたんだろう、おばさんも被害者みたいなものだ。おそらく、その友達とやらはあの蓮っ葉でどうしようもない娘を手放したかったんだろう。金蔓兼子守り役の男が要れば安心だ、とな」
レインは溜息を零す。
「だが……ユウキ君、ひとつ謝らなければならない」
「は?」
レインは力なく顔を上げる。
「実はもう一件、おばさんはお前にお見合いを用意しているらしい」
「どういう事……」
「吉沢のメグちゃんと呼ぶ女の人も、キミに紹介したいらしい」
「吉沢……おい、それって……俺の事をなじり倒した元カノじゃねぇかよ」
レインは再び項垂れる。
「元カノ? おばさんは知っているのか?」
「うん……でも、なじり倒された事は、言ってない。そもそも、吉沢さんは元アメリカ勤めのキャリアウーマンで、同じピアノ教室に通っている同級生だった」
またしてもおばは無茶な見合いをさせようとしているのか、ルーシーの表情が急激に曇る。
「それが、五年くらい前かな、アメリカから戻って来た時に、ピアノ教室の同級会が有って、音楽やっているなら出ろと言われて出たところで顔を合わせてね。正直、個人的な付き合いはそれまでなかったんだけど、音楽を仕事にしていると言ったら向こうが興味を持って、それで付き合い始めた」
元恋人とよりを戻させたい母親の意図は理解出来るが、それでも一度破局した二人を引き合わせるのは無理があるのではないか。ルーシーとランは思わず顔を見合わせる。
「だけど……背伸びしたフレンチの店で、二枚貝か何かでアナフィラキシー起こしてぶっ倒れたんだよ。そしたら、店の人は悪くないのに謝ってくれたってのに、あの女、デートを台無しにした、メンツをつぶしたと俺の事をなじり倒して……あれの目の前で自己注射までする騒動だったのに、その反応。こんなのと付き合ってたら死ぬと思ってそのまま別れた」
「ですよねー」
ランは思わず呟く。
「それで、その事をおばさんやおじさんは……」
「知らないよ。ていうか、吉沢さんはかーさんと面識有るし、親も知ってるし、彼女は面子至上主義だから、最大限譲歩して性格の不一致って事にした。別れてからも騒がれるのは面倒だし……」
沈み切った空気に耐えきれず、ルーシーはグラスのカクテルに口を付けた。
「……ユウキ君、この話をするのは気が引けるんだが……その吉沢さんとやらも、どうやら今は子供が居るらしい」
レインは光の無い眸をルーシーに向ける。
「さっきの女性が子持ちという事は聞かされてなかったんだが、その吉沢さんとやらの事は、まあ色々と喋って……察するに子供はまだ乳飲み子で、仕事復帰前に見合いをという事だと思う。とりあえずは、育児疲れしているようだから、少し話を聞いてやって欲しいという事だったよ」
ランはレインを見遣る。
「……レイに子供いないのに?」
「大方、家政夫が欲しいんだろう。話を聞くにプライドの高いキャリアウーマンの様だし、未婚で子供を産んだはいいが想像以上に大変で、収入よりは生活の融通が利く配偶者が居れば万事解決、と」
レインは黙って項垂れた。
「…‥え、ちょっと待って。それ言うなら、さっきの蓮っ葉な女の人はどゆこと?」
ランはレインとルーシーを交互に見る。
「思うに、おばさんとしてはどちらでもいいが、おじさんとしては近所に住んでて見知ったあの女性の方がいいという考えかもしれない。あと、子供三人と公営暮らしは手狭だろうから、ユウキ君を家から追い出す口実にもなる。おそらく家と車を取り上げて、音楽を辞めさせる為にあの人を使おうとしたんだろう。もしかしたら、人助けのつもりだったのかもしれないがな」
ルーシーは呆れた様に溜息を吐き、グラスを手に取った。
「……二人とも巻き込んで、本当にごめん」
項垂れたレインは呟き、頭の重さに任せて背中を丸めた。
「気にするな。多分、おばさんはあの女があんな人間だと知らずに話をしたんだろう、おばさんも被害者みたいなものだ。おそらく、その友達とやらはあの蓮っ葉でどうしようもない娘を手放したかったんだろう。金蔓兼子守り役の男が要れば安心だ、とな」
レインは溜息を零す。
「だが……ユウキ君、ひとつ謝らなければならない」
「は?」
レインは力なく顔を上げる。
「実はもう一件、おばさんはお前にお見合いを用意しているらしい」
「どういう事……」
「吉沢のメグちゃんと呼ぶ女の人も、キミに紹介したいらしい」
「吉沢……おい、それって……俺の事をなじり倒した元カノじゃねぇかよ」
レインは再び項垂れる。
「元カノ? おばさんは知っているのか?」
「うん……でも、なじり倒された事は、言ってない。そもそも、吉沢さんは元アメリカ勤めのキャリアウーマンで、同じピアノ教室に通っている同級生だった」
またしてもおばは無茶な見合いをさせようとしているのか、ルーシーの表情が急激に曇る。
「それが、五年くらい前かな、アメリカから戻って来た時に、ピアノ教室の同級会が有って、音楽やっているなら出ろと言われて出たところで顔を合わせてね。正直、個人的な付き合いはそれまでなかったんだけど、音楽を仕事にしていると言ったら向こうが興味を持って、それで付き合い始めた」
元恋人とよりを戻させたい母親の意図は理解出来るが、それでも一度破局した二人を引き合わせるのは無理があるのではないか。ルーシーとランは思わず顔を見合わせる。
「だけど……背伸びしたフレンチの店で、二枚貝か何かでアナフィラキシー起こしてぶっ倒れたんだよ。そしたら、店の人は悪くないのに謝ってくれたってのに、あの女、デートを台無しにした、メンツをつぶしたと俺の事をなじり倒して……あれの目の前で自己注射までする騒動だったのに、その反応。こんなのと付き合ってたら死ぬと思ってそのまま別れた」
「ですよねー」
ランは思わず呟く。
「それで、その事をおばさんやおじさんは……」
「知らないよ。ていうか、吉沢さんはかーさんと面識有るし、親も知ってるし、彼女は面子至上主義だから、最大限譲歩して性格の不一致って事にした。別れてからも騒がれるのは面倒だし……」
沈み切った空気に耐えきれず、ルーシーはグラスのカクテルに口を付けた。
「……ユウキ君、この話をするのは気が引けるんだが……その吉沢さんとやらも、どうやら今は子供が居るらしい」
レインは光の無い眸をルーシーに向ける。
「さっきの女性が子持ちという事は聞かされてなかったんだが、その吉沢さんとやらの事は、まあ色々と喋って……察するに子供はまだ乳飲み子で、仕事復帰前に見合いをという事だと思う。とりあえずは、育児疲れしているようだから、少し話を聞いてやって欲しいという事だったよ」
ランはレインを見遣る。
「……レイに子供いないのに?」
「大方、家政夫が欲しいんだろう。話を聞くにプライドの高いキャリアウーマンの様だし、未婚で子供を産んだはいいが想像以上に大変で、収入よりは生活の融通が利く配偶者が居れば万事解決、と」
レインは黙って項垂れた。
「…‥え、ちょっと待って。それ言うなら、さっきの蓮っ葉な女の人はどゆこと?」
ランはレインとルーシーを交互に見る。
「思うに、おばさんとしてはどちらでもいいが、おじさんとしては近所に住んでて見知ったあの女性の方がいいという考えかもしれない。あと、子供三人と公営暮らしは手狭だろうから、ユウキ君を家から追い出す口実にもなる。おそらく家と車を取り上げて、音楽を辞めさせる為にあの人を使おうとしたんだろう。もしかしたら、人助けのつもりだったのかもしれないがな」
ルーシーは呆れた様に溜息を吐き、グラスを手に取った。
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