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第一章 よろこべ、これが異世界だ!

17.第三都市カリキ:安宿街の雑貨屋と小銭

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 オルドが元締めと共に大通りに面した建物から修理の終わった自動打腱器と、完成した自動打腱器の記録板を引き取って帝都に向かう荷馬車にそれを積み込んだ頃には、日が傾いていた。しかし、元来た職業案内所に戻らなければ、方々に配達された荷物が届けられたか否かが分からず、日当も受け取れない。
 二人が元来た職上案内所に戻ると、官吏は三階の大広間に戻ってきた者を集めていると言った。
「今日はご苦労だった」
 労働者達は受取証と引き換えに日当の小切手とパンの引換券を受け取る。
「君もご苦労だった」
「ありがとうございます」
 小切手とパンの引換券を受け取ったオルドは頭を下げた。
「雇い主に頭を下げるとは珍しいな……また縁が有ったら来てくれ」
「はい!」
 オルドは報酬を受け取り章苦行紹介所を後にするが、都市の何処に何が有るのかを把握しているわけではなく、何処の宿が安い宿なのか分からないまま歩き出す。幸いにして小切手の換金が出来る銀行と、パンの引換が出来る店はそれぞれにその所在を示した地図が記されているが、オルドの記憶にある銀行は閉店が早く、既に換金は出来ないものと判断し、宿を探す事にした。
 しかし、既に日が暮れて警戒に当たる憲兵が巡回を始めており、オルドは元来た道を引き返して昨夜と同じ宿に泊まろうと考える。
(昨日貰ったクッキーみたいなのも有るし、お水くらいは女将さんに行ったら貰えるかな……)
 オルドが昨夜は睡眠も半ばで出る羽目になった安宿に着くと、割腹の良い女将は外に出ていた。
「悪いけど今日は満室よ。うちほどじゃないけど、義姉ねえさんがやってる宿が少し先に有るから、そっちに行ってみな」
 女将は玄関に満室の札を掛け、その奥に引っ込んでしまう。
(まぁ、そんなに高くなかったらいいか……)
 最低限、毛布が有れば夜を明かす事は出来る事が分かっていたオルドは女将が示した方へと歩き、それらしい宿を見つけた。
 その宿もまた件の安宿と同じく、番台に女性が一人構えているだけの簡素な宿だった。
「一泊鉄銭六枚、ランプは別料金よ」
 オルドは必要なだけの硬貨を出した。
「部屋は二階の三番ね」
「ありがとうございます……あ、その、飲み水は……」
「それなら隣の雑貨屋に行きな、ウチが玄関を閉めるまでは開けてるよ」
「そうですか、どうも……」
 オルドは番台を離れ、女将の言う雑貨屋に向かう。
 店は三階建ての建物の一階に有り、旅人か日雇い労働者の様な人物が階段を進んでいく様子から、上層階は安宿らしかった。
 店の中は低い棚が据えられ、其処には乾パンの様な保存食や瓶詰にされた飲用水、傷薬と思しき小瓶に詰められた何かなど、需要の高そうな物だけが並べられている。
 手頃な大きさの瓶に詰められた飲み水は店の奥の棚に並んでおり、値札には四分の一と表記されていた。オルドはその価値が分からず狼狽ろうばいするが、彼と同じ様に貧しい労働者風の男がその瓶を手に取って会計に向かうのを見て、高い物ではないのだと理解し瓶を手に取った。
 オルドが会計に向かうと先客が居り、その客もまた日雇い労働者風の身なりで、三本の空き瓶を机に出している。
「四分の一ケーリだ」
 不愛想な店主が買値を告げると、客は黙って瓶を机の奥に押しやった。店主は後ろの棚に瓶を片付け、艶やかな樹脂製の小銭を机に出す。
(これは、もしかして)
 先客と入れ替わったオルドは机に瓶を出し、腰の小銭入れから鉄銭を一枚取り出す。
「四分の一ケーリ。釣りだな」
 店主は鉄銭を足元の棚に収めると、先ほどの客に出したのと同じ艶やかな樹脂製の小銭を九枚机に出す。
 オルドは小銭をかき集め、瓶を持って店の外に出た。
(こりゃ、小銭入れがもう一つ欲しいな……)
 彼は店の軒先で小銭入れに樹脂製の銭を入れ、その一枚だけを眺めた。それはオルドがかつて生きていた世界でお洒落な雑貨として流通していたシーリングワックスによく似ているが、ただの蝋の塊にしてはやや重く、何かを芯にしている様だった。
(これがお金なんだ……)
 感心するのも束の間、巡回する憲兵の足音に、オルドは小銭を仕舞って慌てて宿へと駆け込む。そして、指定された部屋に向かった。
 この宿も昨日の宿同様、小部屋の扉が並ぶだけの質素な廊下を申し訳程度の明かりが照らしており、室内に照明は無かった。部屋の幅も両手を広げた程度で、備品は毛布と箱を兼ねた椅子が一脚だけ。ただ昨日と違うのは、追加料金を払えばランプが借りられる事と、玄関広間には多少の椅子が置かれており、宿を出るまではくつろげるだけの設備が整えられていた事である。
(多分あのお店は朝になったら空いてるだろうし……ひとまずこのお水とクッキーを食べて寝よう……)
 オルドは他の労働者と違い、配達の仕事の合間に元締めから粗末なパンに塩辛い肉を挟んだサンドイッチの様な物を貰ってはいたが、その後も歩き通しで空腹だった。
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