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第一章 数の暴力は雑魚キャラを最凶にする

スライム脱水機エルフ

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 天野が着任して二日目の朝、調査係一同はは令状が発行されると同時に八王子方面に向かい、怪しげな家屋に対する立ち入り調査を断行した。武寿賀は亜人対応を熟知している警察官二人と共にその家屋の玄関扉を叩いた。
「警視庁亜人相談室調査係です、ご在宅ですか」
 武寿賀が扉の取っ手に手を掛けようとしたところで、脇の掃き出し窓の中から何かが飛び出してきた。
「に、逃げろ! は、早く逃げるんだーっ!」
 転がらんばかりの勢いで飛び出してきたのは、おそらくは亜人らしき若い男。武寿賀と二人の警察官が慌ててその方向を見ると、二人の警察官は血相を変えて吐き気を催した。
「あぁ……」
 掃き出し窓の隙間から溢れていたのは、透明な餅に似た自発的に動く物体。それは庭先の砂を絡め取りながら得体の知れない汚れたスライムへと変貌してく。
「イードス・ネロ」
 武寿賀の呪文に呼応し、汚れたスライムの動きが止まる。
「何が有ったのですか」
 乾いたスライムを蹴散らかして窓を閉め切った武寿賀は、スライムに絡め取られて転倒していた男を立ち上がらせると静かに詰め寄った。
「じ、じ、事故なんだ! 水道の栓が壊れて、まだ使ってない媒介メシテーヴォと中和剤が」
 警察官二人が混乱に首を傾げる中、武寿賀はそこはかとなく理解した。
「身柄を確保したまま、此処から離れて下さい、中に入りますので」
 警察官二人は顔を見合わせながら、武寿賀が胸倉を掴む男の方に向かい、男の両脇を抱えて警察車両へと連行する。
「天野君、聞こえますか?」
 武寿賀は無線越しに天野を呼ぶ。
「これから屋内に入って、ゼレの脱水処理をします。もしかしたら無線が壊れるかもしれませんが、私が外に出るまで絶対に扉や窓を開けないで下さい、良いですね」
 無線の向こうで天野が困惑しているのを感じながら、武寿賀は通信を切って掃き出し窓に手を掛けた。
風の盾アピスダ・アネモス!」
 窓ら開くと同時に強い力が溢れださんとするスライムを押し返す。そして、足元を覆い尽くすスライムの水分を分離し、半透明の固形物になったスライム水気の無い机に積み上げた。
「天野君、聞こえますか?」
 台所から続いていた今のスライムを脱水したところで、武寿賀は再び天野に呼びかける。
「風見君に伝えて下さい、この家の水道の元栓を閉める様にと。工具はトランクに有るはずです」
 通話口の向こうで天野が慌ただしく指示を出すのを聞きながら、武寿賀は台所に向かう。台所の水道に異常は無かったが、其処には金属が解けていると思しき混濁した液体の入った水槽や、薬品に対する耐久性の高い実験器具が所狭しと並べられていた。更に奥へ進み風呂場に向かうと、水道栓が破綻したらしく、蛇口からは激しく水が漏れていた。その水没した現場には数枚のビニール袋が浮かび、プラスチック製の食器と金属製のやすり、そして焦げ付いた鍋が沈んでいる。
「生物分解性プラスチックの粉末を媒介にした生体操作、あるいはゼレ造り、ですか……」
 呆れた様に呟きながら、武寿賀は二階へと続く階段を見上げる。おそらくはトイレと思しき扉の奥からは、何かがぶつかる様な不穏な音が響く。
 実際に二階に到達すると、二階の廊下には焦げ臭い臭気が立ち込めており、武寿賀は眉を顰めた。開けっ放しの扉の奥を除くと、電気オーブンと思しき家電が置かれていた。
「という事は……」
 濃縮させた生物を焼き払い、その灰の中から金属を回収させるのが最終段階と仮定して居た武寿賀は、トイレらしき扉の向こうにある物を理解する。そして扉を開けると、其処には倒れた水槽から零れ出した金属のゼリー寄せゼレ・メタレイアが無数に飛び跳ねていた。
 ――これは瀬戸君が見たら卒倒しそうですね。
 水分を分離して鎮圧したいところだったが、証拠品の保全の為にはそうも出来ないと諦め、武寿賀は倒れた水槽を元に戻してスライムを放り込む。
「係長? 係長!」
 雑音の入った無線に呼ばれ、武寿賀は応答する。
「天野君?」
「水道の元栓が閉まりました、どうします?」
「この家の外には、確か井戸が有りましたよね」
「は、はい……」
「申し訳ないのですが、用意していたバケツに水を汲んできていただけますか」
 武寿賀は天野が無線の向こうで首を傾げるのを察知して続けた。
「一階に発生したゼレは一時的に脱水しましたが、二階の御不浄に証拠品の金属のゼリー寄せゼレ・メタレイアが居て、水槽を被せてもまた逃げ出しそうなほどに暴れています。内包する水分量を増やせば動きが鈍るはずなので、一階のゼレが乾いている内に、二階の御不浄にそれを持ってきてください。それと、掃き出し窓が開いているので、其処から入って来て下さい。もしゼレが動いていても、まだ暴れられるほどではないでしょうから、脱走しそうなものは室内に投げ込んで下さい」
 特段に跳ね回る個体に被せた水槽を踏みつけながら武寿賀は指示を出した。
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