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家族の過去
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事の始まりは学生時代、父の婚約者だったアスター母上が流行り病に罹って以降 体調を崩すことが多くなり、婚約の解消を求めた。だが当時王太子だった父がそれを聞き入れず、周りも困り果てていたようだ。
父は祖父上の唯一の子だったのだが、祖父上は病弱な令嬢に無理をさせるくらいなら他の王族を立太子させるつもりで父を廃そうとした。だが祖母の実家のラパーシャス公爵家を始めとする貴族たちに断固反対され実現できなかったらしい。そこで母上の親友の義母上が自分が守ると宣言し、第二王太子妃として嫁いだ。
王族に連なるレゾルート公爵家の令嬢なのに第二妃。因みに母上は侯爵令嬢だった。子供時代に行われた婚約者の選定の際にも義母上は候補に上がったが、祖父上の従兄である当時のレゾルート公爵が、これ以上 王家との繋がりを強める必要は無いと断ったらしい。なのに今になって第二妃とは何事かと大反対されたと聞く。無理も無い。
だが義母上の母上に対する執着ぶりを知っていた彼女の兄上──現レゾルート公爵──が無理に引き離すと良くないからと味方に回り、何とか実現したようだ。
婚姻後も病弱な母上に代わり妃としての務めのほぼ全てをこなす義母上を第一妃にとの声が多かったのを全てねじ伏せ、最期まで母上を守り通したと聞く。母上の十周忌に「本当は名実共にあの人の正妃になるのが嫌で仕方なかったのよ。結局今は王妃だけどね」と笑って俺たちに教えてくれた義母上の目は凍てついていた。
父はもう公務以外では義母上に顔も見せてもらえない程に嫌われている。当時の話を聞いて当然だと思ったけどな。
姿絵を見るに、アスター母上は細身で儚げな美人。対するカルミア義母上は華やかな美人で、華奢なのにある部分だけがボリューム満点。父はその両方を手に入れて喜んでいたらしい。クズだな。
そして母上を案ずる義母上の心に付け込み、毎晩閨で楽しんでいたらしい。クソか。
それなのに結局我慢できず「最近は体調が良さそうだったから」と言い訳しながら母上に手を出したとか。その時、義母上は兄上の教育や公務、危篤状態の前レゾルート公爵の見舞いなどに忙しく、毎晩気絶するように眠りに落ちていた。そんな義母上を煩わせたくなくて母上も何も言えなかったらしい。鬼畜が。いや、鬼や獣に失礼だな。
身体の弱い母上が双子の妊娠と出産に耐えられる筈もなく、坂を転がり落ちるように体調が悪化した。それを反省もせず、母上の妊娠中はまた義母上を好きにしていた、と聞く。もう死んでくれないかな、あのゴミ。
事態を知った祖父上の怒りは凄まじく、父を殺さんばかりだったらしい。
父の我儘のせいで義母上は本来なら必要ない第二妃としての輿入れに甘んじてくれたのに、そして母上の身代わりとして父に身を任せていたと言うのに、その覚悟を踏み躙ったのだから。何より病弱だからと婚約の解消を申し入れていた母上とその両親である侯爵夫妻に、決して無理はさせないからと誓っておきながら このザマだ。
二人の女性をここまで踏みつけにする痴れ者など息子とも思わない、ましてや国を任せるなど問題外だ、何処で野垂れ死のうと知ったことではないと言い切り、王籍を抹消しようとした。
だが又しても大反対に遭い、強行できなかった。悲しいことにカスは血筋、執務能力共に次代の王として何ら問題無かったから。そして当時の最有力貴族であるラパーシャス公爵家の関係者にとって、ヤツの行いは気にすることでもなかったらしい。幾らでも替えの利く令嬢二人の人生など、一々気に掛けている場合ではないのだとか。カルミア義母上は建国王の色を受け継ぐ王族なんだがな。
国王と言えど妃の生家であると同時に議会を牛耳る大貴族でもある公爵を無視できる筈もなく、ヤツは何のお咎めも無かった。少なくとも表向きは。
王太子ともあろう者があっさりと誓約を反故にした。そして そのことを問題だとも思わない者が多いこの国の有り様に、祖父上は危機感を覚えたらしい。
なので法を整備し、婚約や婚姻を どちらからでも解消の申し立てが出来るようにした。その上で、関係の継続が著しく困難で話し合いでも解決に至らない場合、訴訟を起こすことも可能にしてしまった。そうでないと今までのように立場が上の者が押し切ってしまうから。
極めて私的な問題を法で規制し、剰え訴訟によって衆人環視の下に晒すなど、この国では考えられなかったことだ。だが祖父上はそれを実施している隣国の法律家に協力を仰ぎ、二年もかけずに施行してしまった。
そこに至るまでに上位貴族のみが支配する議会の在り方を変えるため、下位貴族や平民にも席を与えるなど凄まじい勢いで改革を推し進めた。
祖父上は祖母の実家の力を削ぎたかったのだろう。今ではそのラパーシャス公爵家一門はかつての権勢を取り戻せないままだ。。
当時を知る侍女長に全てを聞き出した時、四人の心は一つだった。本当は妹たちには聞かせたくなかったけど、女の子の勘って凄い。何かあると気付いて踏み込まれ「私たちを除け者にしないで」「同じ女として お母様たちに何があったのか知りたいの」と泣かれたら、俺たちには勝ち目なんて無かったよ。
とにかく、その日から俺たちの共通の敵は父王だ。子供全員から敵視される父親ってロクでもないな。
幸いあの男は仕事だけならそこそこ出来るし(兄上はもっと凄いけど)本当に困った時には祖父上がいる。現レゾルート公爵も妹が大切に育てている子供たちだと、俺やリーアも分け隔てなく可愛がってくれる。味方が沢山居るのはありがたい。
因みに母上が亡くなった後、今まで以上に義母上を堪能しようとした父は「愛妾を雇え」と拒絶されたらしい。母上の盾になるために相手していたのだから、その必要が無くなったら当然だろう。
周囲の者も母上に殉じてしまいそうな義母上を刺激しないよう、必死になって守ったようだ。実際、子供たちを守り育てるためだけに辛うじて生きている状態だったと聞く。当時を覚えている兄上も自分の母が消えてしまいそうで、常に気を張っていたと溢していた。俺たちが一歳の時なら、兄上はまだ四歳だったのに。
そんな兄上の心の支えが俺たちだったと聞いて流石に泣いたね。皆が言うには、兄上は自分も幼いのに積極的に俺たちの面倒をみてくれたようだ。
そんな日々の中、徐々に心の安寧を取り戻していく義母上を煩わせるアホの味方は少数派だった。次代を担う王子と王女が二人ずつ、女性にも継承権があるこの国で、これ以上の後継者も必死無い。カスが下半身を持て余そうと、全力で放置されるに決まっている。
だが奇跡が起きた。いや、当然の報い……と言うには生温いけど、少しだけ良いことがあった。
義母上に拒絶されたすぐ後に父の肉欲が消滅したらしい。
母上が今際の際に口にしたのは幼い俺たちを遺して逝くことへの悲哀、兄上や生まれたばかりのアイリを含めた四人の子供たちへの愛惜。そして義母上を巻き込んでしまったことへの懺悔。
それ以上に義母上を始めとした、これまで支えてくれた人々への感謝。それだけだった。
自分の夫には一言も無い。母上にとっては舅である祖父上には感謝の言葉を遺していたのに。それどころか、日記には婚約者だった時も父との顔合わせが辛かったとか、嫁いでからも義母上が居なかったら自ら命を絶っていた程に毎日が苦痛だったと書かれていた。
反対を押し切って求めた妻に、今際の際に一言もかけてもらえない程に嫌われていた。だけではなく、心底気に入っていた もう一人の妻にも拒絶され、男としての自信を喪失したらしい。
もっと早くそうなっていたら誰も犠牲にならなかったのに。でもそうすると兄上や妹たちも存在しない。悩ましい限りだ。
父は祖父上の唯一の子だったのだが、祖父上は病弱な令嬢に無理をさせるくらいなら他の王族を立太子させるつもりで父を廃そうとした。だが祖母の実家のラパーシャス公爵家を始めとする貴族たちに断固反対され実現できなかったらしい。そこで母上の親友の義母上が自分が守ると宣言し、第二王太子妃として嫁いだ。
王族に連なるレゾルート公爵家の令嬢なのに第二妃。因みに母上は侯爵令嬢だった。子供時代に行われた婚約者の選定の際にも義母上は候補に上がったが、祖父上の従兄である当時のレゾルート公爵が、これ以上 王家との繋がりを強める必要は無いと断ったらしい。なのに今になって第二妃とは何事かと大反対されたと聞く。無理も無い。
だが義母上の母上に対する執着ぶりを知っていた彼女の兄上──現レゾルート公爵──が無理に引き離すと良くないからと味方に回り、何とか実現したようだ。
婚姻後も病弱な母上に代わり妃としての務めのほぼ全てをこなす義母上を第一妃にとの声が多かったのを全てねじ伏せ、最期まで母上を守り通したと聞く。母上の十周忌に「本当は名実共にあの人の正妃になるのが嫌で仕方なかったのよ。結局今は王妃だけどね」と笑って俺たちに教えてくれた義母上の目は凍てついていた。
父はもう公務以外では義母上に顔も見せてもらえない程に嫌われている。当時の話を聞いて当然だと思ったけどな。
姿絵を見るに、アスター母上は細身で儚げな美人。対するカルミア義母上は華やかな美人で、華奢なのにある部分だけがボリューム満点。父はその両方を手に入れて喜んでいたらしい。クズだな。
そして母上を案ずる義母上の心に付け込み、毎晩閨で楽しんでいたらしい。クソか。
それなのに結局我慢できず「最近は体調が良さそうだったから」と言い訳しながら母上に手を出したとか。その時、義母上は兄上の教育や公務、危篤状態の前レゾルート公爵の見舞いなどに忙しく、毎晩気絶するように眠りに落ちていた。そんな義母上を煩わせたくなくて母上も何も言えなかったらしい。鬼畜が。いや、鬼や獣に失礼だな。
身体の弱い母上が双子の妊娠と出産に耐えられる筈もなく、坂を転がり落ちるように体調が悪化した。それを反省もせず、母上の妊娠中はまた義母上を好きにしていた、と聞く。もう死んでくれないかな、あのゴミ。
事態を知った祖父上の怒りは凄まじく、父を殺さんばかりだったらしい。
父の我儘のせいで義母上は本来なら必要ない第二妃としての輿入れに甘んじてくれたのに、そして母上の身代わりとして父に身を任せていたと言うのに、その覚悟を踏み躙ったのだから。何より病弱だからと婚約の解消を申し入れていた母上とその両親である侯爵夫妻に、決して無理はさせないからと誓っておきながら このザマだ。
二人の女性をここまで踏みつけにする痴れ者など息子とも思わない、ましてや国を任せるなど問題外だ、何処で野垂れ死のうと知ったことではないと言い切り、王籍を抹消しようとした。
だが又しても大反対に遭い、強行できなかった。悲しいことにカスは血筋、執務能力共に次代の王として何ら問題無かったから。そして当時の最有力貴族であるラパーシャス公爵家の関係者にとって、ヤツの行いは気にすることでもなかったらしい。幾らでも替えの利く令嬢二人の人生など、一々気に掛けている場合ではないのだとか。カルミア義母上は建国王の色を受け継ぐ王族なんだがな。
国王と言えど妃の生家であると同時に議会を牛耳る大貴族でもある公爵を無視できる筈もなく、ヤツは何のお咎めも無かった。少なくとも表向きは。
王太子ともあろう者があっさりと誓約を反故にした。そして そのことを問題だとも思わない者が多いこの国の有り様に、祖父上は危機感を覚えたらしい。
なので法を整備し、婚約や婚姻を どちらからでも解消の申し立てが出来るようにした。その上で、関係の継続が著しく困難で話し合いでも解決に至らない場合、訴訟を起こすことも可能にしてしまった。そうでないと今までのように立場が上の者が押し切ってしまうから。
極めて私的な問題を法で規制し、剰え訴訟によって衆人環視の下に晒すなど、この国では考えられなかったことだ。だが祖父上はそれを実施している隣国の法律家に協力を仰ぎ、二年もかけずに施行してしまった。
そこに至るまでに上位貴族のみが支配する議会の在り方を変えるため、下位貴族や平民にも席を与えるなど凄まじい勢いで改革を推し進めた。
祖父上は祖母の実家の力を削ぎたかったのだろう。今ではそのラパーシャス公爵家一門はかつての権勢を取り戻せないままだ。。
当時を知る侍女長に全てを聞き出した時、四人の心は一つだった。本当は妹たちには聞かせたくなかったけど、女の子の勘って凄い。何かあると気付いて踏み込まれ「私たちを除け者にしないで」「同じ女として お母様たちに何があったのか知りたいの」と泣かれたら、俺たちには勝ち目なんて無かったよ。
とにかく、その日から俺たちの共通の敵は父王だ。子供全員から敵視される父親ってロクでもないな。
幸いあの男は仕事だけならそこそこ出来るし(兄上はもっと凄いけど)本当に困った時には祖父上がいる。現レゾルート公爵も妹が大切に育てている子供たちだと、俺やリーアも分け隔てなく可愛がってくれる。味方が沢山居るのはありがたい。
因みに母上が亡くなった後、今まで以上に義母上を堪能しようとした父は「愛妾を雇え」と拒絶されたらしい。母上の盾になるために相手していたのだから、その必要が無くなったら当然だろう。
周囲の者も母上に殉じてしまいそうな義母上を刺激しないよう、必死になって守ったようだ。実際、子供たちを守り育てるためだけに辛うじて生きている状態だったと聞く。当時を覚えている兄上も自分の母が消えてしまいそうで、常に気を張っていたと溢していた。俺たちが一歳の時なら、兄上はまだ四歳だったのに。
そんな兄上の心の支えが俺たちだったと聞いて流石に泣いたね。皆が言うには、兄上は自分も幼いのに積極的に俺たちの面倒をみてくれたようだ。
そんな日々の中、徐々に心の安寧を取り戻していく義母上を煩わせるアホの味方は少数派だった。次代を担う王子と王女が二人ずつ、女性にも継承権があるこの国で、これ以上の後継者も必死無い。カスが下半身を持て余そうと、全力で放置されるに決まっている。
だが奇跡が起きた。いや、当然の報い……と言うには生温いけど、少しだけ良いことがあった。
義母上に拒絶されたすぐ後に父の肉欲が消滅したらしい。
母上が今際の際に口にしたのは幼い俺たちを遺して逝くことへの悲哀、兄上や生まれたばかりのアイリを含めた四人の子供たちへの愛惜。そして義母上を巻き込んでしまったことへの懺悔。
それ以上に義母上を始めとした、これまで支えてくれた人々への感謝。それだけだった。
自分の夫には一言も無い。母上にとっては舅である祖父上には感謝の言葉を遺していたのに。それどころか、日記には婚約者だった時も父との顔合わせが辛かったとか、嫁いでからも義母上が居なかったら自ら命を絶っていた程に毎日が苦痛だったと書かれていた。
反対を押し切って求めた妻に、今際の際に一言もかけてもらえない程に嫌われていた。だけではなく、心底気に入っていた もう一人の妻にも拒絶され、男としての自信を喪失したらしい。
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