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播磨の章

シイネツヒコ

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と、シイネツヒコは不敵な笑みを続けた。アラシトは酷く困惑した。確かに吉備に入ってから数年激しく抵抗を示していた瀬戸の海人たちは3年前からピタリとおとなしくなって吉備の配下となるものも増えてきたアラシトの戦略がずばりと当たったためと思いこんでいたがそうではなかったのかもしれない。

第一、播磨の港を制圧した後も出雲や大和には瀬戸内からの貢物が上がっていた。播磨に残ったアシハラシコオの軍からだと思いこんでいたが、よくよく考えてみれば海産物を貢ぐには無理がある。アラシトの目をかいくぐってこやつらが貢いでいたのかもしれぬ。そう思ったらアラシトの脳裏に急に不安が巻き起こった。

「ではそなたの周旋の策を聞かせてもらおう。我ら吉備や筑紫が飲めるものならヤブサカではない」

「では、開陳させていただく、心してお聞きなされ。まず、

第一に倭国の都は大和とする。

第二に出雲の大国主を大和に移し大物主を廃止し倭国の正統国王とする。

第三に筑紫と出雲大和と再び婚姻を結びミマキイリヒコ夫妻は筑紫のヒミコとなる。

第四に筑紫は副都とし宇佐に政庁を置き、邪馬台国連合をなくし狗奴国を併呑し。

第五に出雲の西部と丹波但馬はアラシト殿ら、日矛のものとし鉄山も銅山も好きに使われるがよろしい。

第六にニギハヤヒとモノノベらは東国尾張に移しそこから先は切り取り自由じゃ。

そして最後にタカミムスビとオモイカネ親子はオモイカネの娘をコトシロヌシに娶わせ大和にて大国主の岳父として権勢を誇られるがよかろう。いかがじゃ?」

「それは・・・・。」

アラシトの心は乱れた。アラシトが出雲を憎む理由として故郷である半島北東部との交易圏を大国主に握られていることがある。それも自らの手に入りしかもこれからの世で利益を生むであろう銅山と鉄山の権利を手にできるのだ。しかも邪魔者ニギハヤヒを東国においやることができる。出雲と鉄山が手にはいるのであれば一旦これを了承し後にでも独力での倭国支配も夢ではない。

だが話しが上手すぎる。たかだか伊予の水軍大将にそれほどの実行力があるとは思えない。しかもこれらの策では瀬戸内しかシイネツヒコは手に入れられない。これだけの列島勢力の大改造を行う元となる彼がどうしてこれで納得できるのか半島生まれのアラシトには理解できなかった。半島南部と同化しているヤマタイ連合のオモイカネらも不思議であろう。

オモイカネらはもともと自分達が王となるのを望んではいない。今回も新しいヒミコを大和から呼び寄せて女王とし、これを裏で操り筑紫島を統一するのが先決と思っている。アラシトとしてはタヂカラオを捕らえられた今、筑紫に落ちるかイリヒコと結んで少数クーデターを起こし大和を奪うしか道は残されていない。

この自信満々の態度からして、残りの船団に襲われているだろう吉備児島は風前の灯火のはずだ。へたをするともう残してきた天之日矛らは駆逐され、港も奪われているかもしれない。アラシトには港の部分しか土地を必要しない海人が求めるものが今一つ理解できないのだ。国という土地を所望しないこの男がもう一つ信用できなかった。

「シイネツヒコ殿、そなたは何の利益があってこの周旋を思いついた。何が望なのだ」

「そうさなぁ?わしら海人には領地は必要ない、商売のための港が平穏であればそれでいいのだ。戦のために港を閉められてはこちとら御飯のくいあげだからな」

といってシイネツヒコはニヤリと笑った。

「そうそう、もう一つ条件がある。これは其方らの得、我には損となる条件だ」

「ワシらに々じゃと?」

「我には子が幾人かおる。これらの子と大国主、イリヒコ、オモイカネ、ニギハヤヒそして御主と婚姻を結びたい。そうすれば我が血筋は今後どういう世がこようとどこかで生き続けられよう。それがワシの望みだ。系譜を繋ぎ先祖の御霊を永久に祀り続ける事。それが我ら元々の倭人の最大の望みじゃ。」

といって大きな声で笑いだした。

そうこうしているうちに、室津の海の向こう、伊予の二名島の方角から太陽が昇ってきた。アラシトはひとまず考えさせてくれとシイネツヒコに頼み、とりあえず大和へ向かう事にした。

シイネツヒコは後に河内でアラシトと会うことを約し、海へと帰っていった。
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