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本能寺の変は何故起こったか?4 毛利も織田もポット出の勢力

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堂田「そうですね。織田信長を頂点とした天下の中では秀吉と勝家は同格。でも織田家中という私的部分では勝家の方が格上なんでしょうね。」


浪子「山崎の合戦の勝利だけでこの会議の取りまわしに失敗していたら秀吉の時代はこなかったかもしれない。光秀が利三に主君・信長殺害の罪をかぶせて処分し、信雄を迎え入れていたら、清洲会議からぬ安土会議が開かれて、秀吉のように織田家の主導権を握ることもできたかもしれない。」


堂田「まさか!利三の責任は光秀の責任でもあるわけじゃないですか!」


波子「信雄さえ擁立できていれば信雄が共犯になるんだよ。そう単純な話じゃなくなってくるはずだ。」


堂田「それはそうかもしれませんが、信雄だって北畠の家名をついで形式上は織田家から出ているわけだし・・・。」


波子「結局、この時代の大名たちの最大の関心事項は「自分の領地がどうなるか」なんだよ。主君がどうこうというのはもっと後の時代になってからの話だ。信長だって美濃制圧は道三の娘婿という立場、そして入京時には足利将軍家を補佐するという立場を利用して、その後の天下布武の動きを始めたあたりから積極的に天皇家を利用している。旧来秩序も、既得権益も取り合えずは保護しますよ、というポーズだ。政治の基本姿勢だよ。光秀にはこれがかけているというか、このあたりが全く見えてこないわけだ。書状による本領安堵なんて役に立たないのは足利将軍が直前に知らしめてくれてるからね。これだけじゃあ、細川氏らが、光秀の突発的勝利の尻馬に乗るという賭けに出るにはまだまだ足らないんだよ。」


堂田「細川氏らが光秀の扇動に動かなかったのは、信長への忠誠心があったからではないと?」


波子「当然だよ。そんなものがあったとしたら、細川はすぐさま近江に攻めあがってるだろう。自分たちか信じられる形での将来の保証が光秀から得られなかっただけだ。それが得られていれば細川も洞ヶ峠で風見鶏を演じたという有難くない伝説をつくられた親父も当然、光秀に呼応してたに違いないよ。彼らを安堵させるには程遠い状態だったんだよ。光秀はね。そして何より信長が本当に死んだのかということについて、光秀からのリークではない確かな情報ももっていなかったのかもしれない。現代では「一生懸命」とかいうが本来は「一所懸命」だからね。武士っていうのは「一所」つまり土地や権益に命を懸けているんだ。」


堂田「じゃあ信孝の立場は?」


浪子「信孝はだめだ。光秀が動く以上、資格がない。」


堂田「資料とかみると、信雄とは同格っぽいし、信雄より有能っぽいですが。。。」


浪子「『ぽい』だけだよ。明らかに、信忠と信雄の生駒氏の娘の同母兄弟をその他の兄弟の上に置いてる。それに能力なんてわからないだろう?信雄と同程度か少し上くらいの能力なら余計に登場する価値はないしね。信雄だけでなく、信忠や柴田、丹羽、羽柴より有能でないと無理だろう。実績は信雄とトントンだろうしね。」


堂田「実績では似たようなもんかなぁ。」


浪子「それに彼は身内にたいしてかなりのコンプレックスをもっているよね。本能寺の変の後のどさくさにまぎれ、従兄弟で光秀の義理の息子である織田信澄まで殺している。義理の息子だから光秀と通じているんだろうという疑いをかけたようだが、こういう時に本心がでるからね。兄弟、従兄弟など織田家中の第二世代からはひときわ浮いた存在だったんじゃないか?宣教師には三兄弟の中で特に人気があったらしいから、キリスト教にも近かっただろうからね。キリスト教から距離をとりたくなってきていた光秀の仲間には無理だろう。何より四国対策を横取りした形になった当人だ」


堂田「四国関連もあって光秀、利三とはそりが合わない可能性が高いかぁ。キリスト教に近いんなら、叡山復興など積極的に行いそうにもないですしね。信忠の天下に反対して取り替えるんだから、信孝では駄目か。」


浪子「信孝が信雄より有能っぽいのは、大きな失敗を、この時点ではまだしてないからだろ?それに信孝は信雄より有能だったのではないかと感じる事にこそ『怨霊思想』の影響が見受けられる。信孝は秀吉への恨みを辞世にするほど秀吉を恨んでいたしね。太田牛一や後世の講談、小説の作者の判官贔屓があったんじゃなんいか?」


堂田「動きにくかった畿内周辺の武将とはちがって秀吉の場合はどうかな。どういうつもりで大返しをしたんでしょうね。」


波子「秀吉は信長あっての自分、織田家あっての羽柴家っていうのを光秀よりも深く自覚してたんだろうね。信長に花を持たせようとして、一人でも楽々できる西播磨平定そして備中高松城攻めにも信長の出馬を願ったとか言われてるが、違うんだろう。本心から信長に出てきてもらわねばならないと思い込んでたから呼んだのだろう。それに何より、光秀に畿内を完全に抑えられたら四方に敵という構図になる。これだけはどうしても避けたかったんだろう。どうしても畿内に戻りたかったはずだ。また、仮に光秀にあんなに短い合戦だけで勝てなかったとしても畿内に自分の軍を展開させる名分は立つ。」


堂田「とにかく、中央の政争に絡みたかった?」


波子「政争に絡みたいというより、自分の直属軍を中央に入れたかったんだろう。精度の高い情報を自分で収集するためにもね。そしてそれがそのまま発言権にも繋がるだろうからね。それが思わぬ効果を読んだ。さっき君は秀吉は信長の敵討ちをしたといっていたが、秀吉だって信長が死んだとは大返しを始めた時点では思ってなかったかもしれない。『信長が逃げて生き伸びている』という可能性を考慮すれば、とりあえず簡単には光秀側につくわけにはいかない。これは秀吉だけでなく信長の死を直接確認していない全ての大名、武将にも言えることだ。」


堂田「信長がまだ生きている可能性があると武将たちは思っていたということですか?」


波子「微妙に違うよ。生きている事も視野に入れて次の行動を起こすきっかけを待っていた。ということだ。何しろ戦国時代には、NHKも朝日新聞もないんだからね。情報は自分の身内を使って確認しなくてはいけない。でも京も安土も混乱している。本当の意味での確認なんて、光秀に呼応した少数の武将しか取っていなかったに違いない。」


堂田「なるほど。万が一生きていたりしたら大事になりますよね。」


波子「そうだ。その点、秀吉は中途半端に離れていたことで、畿内に向かっての軍事行動を早く起こさなくては何もかもが立ち遅れるという立場にあったから、備中や姫路あたりに居着いて情報収集と確認だけをしている場合ではなかったわけだ。情報収集するにも直接畿内に入らなくては精度の高い情報は得られなかっただろうしね。」


堂田「なるほど秀吉は信長が死んでいても生きていてもとりあえず畿内に自分の軍を入れる必要があったというわけか。もともと畿内にいる武将たちは逆に錯綜する情報の収集と確認に追われて軍を動かしにくかった。と言いたいわけですか?」


波子「そうだよ。本能寺の変が起こった直後、秀吉はとりあえず畿内に行く必要があって軍を畿内に入れるまでは畿内に入るという選択肢しかなかった。すでに畿内にいる連中は場合によっては光秀につかなくてはならなくなるかもしれないという選択肢をもっていたわけだ。だから逆に迂闊には動けない。それに畿内では本能寺の変については早くから広まっていただろうから、雑兵や一般の兵たちが光秀軍来襲の前に逃げ出したりしてただろうからね。爆心地にいたせいで逆に内部統制がとりにくかったりしたんだろうね。信長の甥の津田信澄は光秀の婿だということから従兄弟の信孝に殺されている。彼らは同じ大阪城に居たからね。細川忠興だって大阪城に詰めてたら同じ運命だったかもしれないよ。そうなってたら忠興の親父さんだって光秀に早々と寝返ってたかもしれない。とにかく畿内は混乱していた。」


堂田「うーん。なるほど。情報が早すぎるというのも、逆に判断を鈍らせるのですね。現在、インターネットを利用した情報の発信者が増えたおかげでかえって適正な情報を得られないとか言われていますがそれと似たような状況だったのかな・・・。情報の氾濫か。。。ところで秀吉は何時の時点で信長の死の確信を得たんでしょうね?」


波子「高松城から姫路に戻る間だろうな。だから高松城にいたころには半信半疑だったんだろう。毛利が気づいたのがその直後だろうけども、邪魔をしてこなかったのが秀吉の幸運だろう。秀吉は大急ぎで姫路に戻ったわりには姫路で丸一日休息している。」


堂田「毛利は元就の遺言を守って動かなかったんですよね。」


波子「もちろんそういう理由もあるだろうが、主な理由が元就の遺言というのはちょっと違うだろうなあ。」


堂田「じゃあ、やっぱり毛利には追撃する余力がなかった?」


波子「そんなことはないだろう。毛利は、いや小早川隆景は追撃して邪魔するより、秀吉に早く畿内に戻ってほしかったんじゃないか?」


堂田「へ?」


波子「だって、山崎の合戦、いや、この時点では対明智戦争だな。それがたった一週間でけりがつくとは思ってなかっただけだろう。畿内の混乱に秀吉軍が加わることによってますます畿内が混乱すると踏んだんじゃないかな?その隙に中国地方の地固めができる。天下を争うのはまだ先だと思ってたんじゃないか?混乱に拍車をかけるために秀吉軍に援助までしてる節がある。」


堂田「それがあれよあれよという間に秀吉軍の大勝利ってわけか。」


波子「毛利は秀吉勝利の報を聞いて方向を統一した。秀吉の天下に寄与するとね。信長には抵抗してたのに秀吉には協力したわけだ。」


堂田「信長が怖かった?」


浪子「それは否定しない。叡山焼き討ち一向一揆の皆殺しだとか、信長という政治家は自身の恐怖プロデュースっていうかプロパガンダも上手だったからね。この『信長に逆らうと大変な目にあわすぞ』という宣伝活動には光秀も大いにかかわっていただろう。秀吉の方が与しやすしと、小早川らは判断したのだろうね。でもね、それだけじゃない。トップの性格的怖さなんて事は問題じゃないね。毛利は相手が怖いとかいうよりも、信長という恐怖の大魔王が生きていたなら徹底抗戦したんじゃないかと思うよ。毛利家首脳が当初見せていた反織田という姿勢の中には一向宗弾圧に対する抗議の姿勢を配下の臣民たちに見せておく必要があったからだ。」


堂田「へ??臣民たちに?」


浪子「そう、毛利領内の一向門徒をまとめる必要があったのだ。勿論毛利家首脳たちの信仰心も多少は影響してるだろうがね。」


堂田「毛利にも一向宗問題?」


浪子「毛利はね。織田家のような独裁体制ではない。中国地方一帯の中小の勢力が一番実力のある毛利家を旗頭に一まとまりになっているにすぎない。一枚岩ではないんだ。だからある程度配下に対しての人気取りが必要になってくる。つまりだ。毛利家は一向宗を優遇しなくては安定を得られなかったのだ。」


堂田「毛利家といえば、西は九州、東は播磨、南は瀬戸内、北は隠岐まで最大11ヶ国を支配した大大名じゃないですか!それが、一向宗を頼らなくてはならないほど一枚岩ではない?」


浪子「そうだ。特にお膝元の安芸の国への対策だ。吉川、小早川への養子なども全て安芸の国の中小の勢力を懐柔するためという側面を持っている。」


堂田「でも、毛利家って一向宗を支援したのはあくまで畿内から攻め込まれないためだけの対策でそんなに一向宗に肩入れしてたと思えないけど・・・・」


浪子「畿内対策ってどういう意味?」


堂田「つまりですね。伸長著しい織田勢力を疲弊させるために本願寺に肩入れしただけ。。。。。。」


浪子「ああああ、なんてこったい君は歴史が好きかもしれないが、現代人すぎるね。」


堂田「そりゃ現代人ですから。。」


浪子「いいかい、織田勢力なんてものは、当時の人たち、特に織田家と係わり合いをもたない人間たちにとってはまだまだ台風みたいなもんだ。つまり吹けば飛ぶ。実際、信長が死んで飛んじゃったわけだしね。まだまだ磐石でもなければ安定なんてとてもじゃないがしていない。いわば「ぽっと出」だ。そんなぽっと出を牽制するためだけに無理をして本願寺の支援なんてする必要はないだろう?」


堂田「ぽっと出はないでしょう。なんたって当時の首都をはじめ日本の主要都市はみんな織田の勢力下にあるわけだし・・・。」

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