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第八話 会いたいと思ってはいけませんか
scene8-3
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―雅孝―
急用の案件を片付け腕時計を見ると、慶一さんとの約束の時間から、既に三十分以上過ぎてしまっていた。
「主任、今日お約束があったのでは」
五十嵐が声をかけてくる。
「ああ、もう行く」
「気をつけて」
「あとは頼む」
会社から出て、車に乗り込む。スマホを見ると、慶一さんから返信が来ていた。
『分かった。駅前で待ってる』
家まで迎えに行くつもりでいたのに申し訳ない気持ちになる。それでも、会う気になってくれただけで嬉しかった。
出張前、最後に会った時の慶一さんは何か怒っているように見えた。嫌われるようなことをした覚えは無かったが、心当たりがあるとすれば、朔也との事だろうか。
慶一さんが付き合っていたのが、本当にあの若いの―名前が分からないが、今朔也と付き合っているあの青年だとしたら、彼から俺の元恋人が朔也だと聞いたのかもしれない。だとしたら正直、複雑な心境にもなっただろう。
でも。
過去は関係ない。俺はただ、慶一さんの事を―。
スマホの連絡先一覧から慶一さんの番号を呼び出し、通話をタップする。
しばらく発信音が続いてから、留守電に変わった。どこか電話に出られない所にでも居るのだろうか。
とにかく待ち合わせ場所へ向かうことにした。ここから大した距離ではない。
車のエンジンをかける。会社の駐車場を出て、待ち合わせの駅前へ急いだ。
レインボーブリッジを渡り、駅舎が見えてくる。
「……?」
人だかりの近くに、救急車が止まっているのが見えた。事故でもあったんだろうか。
迂回しようとハンドルを切りかけ、担架に乗せられた男性の横顔が見えて、急ブレーキを踏んだ。
「慶一さん……っ?!」
慌てて路肩に車を寄せて停めた。運転席から降り、救急車に駆け寄る。
「慶一さん!」
「お知り合いですか?」
救急隊員が聞いてくるが、頭が真っ白になっていた。
担架に乗せられた慶一さんのこめかみから大量に流れ落ちる、真っ赤な血。
乗ってください、と促され、救急車に乗り込んだ。
震えながら、慶一さんの手を握った。握り返してこない力ない手を、強く、強く握った。
「……慶一さん……っ」
どうして。どうしてこんな。
朔也が発作を起こして運ばれた時の事を思い出す。―どうして。神様。
お願いだから、これ以上俺から大切な人を奪わないでくれ…―。
急用の案件を片付け腕時計を見ると、慶一さんとの約束の時間から、既に三十分以上過ぎてしまっていた。
「主任、今日お約束があったのでは」
五十嵐が声をかけてくる。
「ああ、もう行く」
「気をつけて」
「あとは頼む」
会社から出て、車に乗り込む。スマホを見ると、慶一さんから返信が来ていた。
『分かった。駅前で待ってる』
家まで迎えに行くつもりでいたのに申し訳ない気持ちになる。それでも、会う気になってくれただけで嬉しかった。
出張前、最後に会った時の慶一さんは何か怒っているように見えた。嫌われるようなことをした覚えは無かったが、心当たりがあるとすれば、朔也との事だろうか。
慶一さんが付き合っていたのが、本当にあの若いの―名前が分からないが、今朔也と付き合っているあの青年だとしたら、彼から俺の元恋人が朔也だと聞いたのかもしれない。だとしたら正直、複雑な心境にもなっただろう。
でも。
過去は関係ない。俺はただ、慶一さんの事を―。
スマホの連絡先一覧から慶一さんの番号を呼び出し、通話をタップする。
しばらく発信音が続いてから、留守電に変わった。どこか電話に出られない所にでも居るのだろうか。
とにかく待ち合わせ場所へ向かうことにした。ここから大した距離ではない。
車のエンジンをかける。会社の駐車場を出て、待ち合わせの駅前へ急いだ。
レインボーブリッジを渡り、駅舎が見えてくる。
「……?」
人だかりの近くに、救急車が止まっているのが見えた。事故でもあったんだろうか。
迂回しようとハンドルを切りかけ、担架に乗せられた男性の横顔が見えて、急ブレーキを踏んだ。
「慶一さん……っ?!」
慌てて路肩に車を寄せて停めた。運転席から降り、救急車に駆け寄る。
「慶一さん!」
「お知り合いですか?」
救急隊員が聞いてくるが、頭が真っ白になっていた。
担架に乗せられた慶一さんのこめかみから大量に流れ落ちる、真っ赤な血。
乗ってください、と促され、救急車に乗り込んだ。
震えながら、慶一さんの手を握った。握り返してこない力ない手を、強く、強く握った。
「……慶一さん……っ」
どうして。どうしてこんな。
朔也が発作を起こして運ばれた時の事を思い出す。―どうして。神様。
お願いだから、これ以上俺から大切な人を奪わないでくれ…―。
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