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第四話 素直になれなくて
scene4-2
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―雅孝―
「おはようございます、主任」
「ああ、おはよう」
オフィスフロアで待ち構えていた五十嵐に鞄を預け、一番奥のデスクでパソコンに向かっていた事業部長の元へ向かう。
「おはようございます、遅れてすみません」
「ああ、おはようございます。雅孝様」
髪に白いものが混じった五十代前半の部長が、慌てた様に席を立つ。
「あの、社内でその呼び方は……」
「申し訳ない、つい」
社内では、もちろん俺が社長の息子であることは知れ渡っている。新人社員の中には知らない者もいるが。
「ところで、例のプロジェクトの件ですが」
「そうでした。柳主任、来月初めには現地に向かって頂くという事でよろしかったですかな」
「はい」
返事をしながら、右腕を固くギプスで覆われていた慶一さんの事を思い出す。
確か、全治四週間と言っていた。なら間に合うか。
「問題ありません」
「では、予定通りに進めさせて頂きます」
「はい、お願いします―」
―慶一―
ようやくの事で長い一日が終わり、職員室でほっと一息をつく。
板書が辛いかと思ったが、意外とチョークを持つのに問題は無かった。ただ、いつもより当然時間はかかってしまう。
何より、一体どうしたのかと言いたげな生徒たちの視線が辛い。
詳しく触れられたくなかったので転んだ事にしておいたが、何かおかしな噂でも立ったら最悪だ。
手元に出したスマホを見つめる。
必ず迎えに来ると言っていたが、あんな目立つ高級外車に乗り込む所を万が一、生徒に見られた日にはどんな噂が立つのやら。考えたくもない。
校門を出て、道路を渡り少し歩いたところに一軒だけコンビニが建っている。
挙動不審かと思ったが、周囲に顔見知りの生徒がいない事を確認してから、一番端の駐車スペースに停まっている黒塗りの外車の戸を開けた。
「お帰りなさい」
「わざわざどうも」
急いでシートベルトを締める。
「どうかしたんですか」
「いや、生徒に見られたらまずいから」
「まずい?なぜ」
「目立つんだよ、この車」
見れば誰でも分かるような、有名な高級外車のマークがしっかりとついているのだから。
「何だかよく分かりませんが、気にし過ぎでは?」
「いいから、早く」
「分かりました」
エンジンがかかる。走り出した車の中から、よせばいいのについ周囲をきょろきょろ見てしまう。
「結構、気にしいなんですね」
片手でハンドルを切りながらそう言われる。
「悪かったな。色々と些細なことが気になる性格なんだよ」
「繊細なんですね」
「そういうわけじゃないけど」
右腕を覆うギプスを見る。
「まるで喧嘩して怪我したみたいだろ、これ」
「はあ。喧嘩と言えば、ある意味そうなんですかね」
「あのなあ」
「ちょっとすみません」
柳さんは不意に、胸ポケットからイヤフォンを取り出すと耳に着けた。
「はい……どうした、今運転中……」
仕事の話だろうか。やはり、俺の都合に合わせて送迎をするなんて無理があったのだろう。
「分かった、すぐ戻る」
イヤフォンのスイッチを切り、再び胸ポケットにしまう。
「慶一さん、すみませんが」
「ああいいよ、仕事戻るんだろ?歩いて帰るから、どこか適当な所で」
「いえ。申し訳ないのですが、このまま行きます」
「は?」
交差点に差し掛かったところで、右にハンドルが振られた。
「ちょっ?!」
勢いよくUターンしたせいで、遠心力によって体がドアに押し付けられた。
「すみません。会社へ戻ります」
「このまま?!」
「後できちんと家まで送り届けますから、少しだけ付き合ってください」
「お前、本当強引だなっ……!」
すみません、と淡々と繰り返すばかりなので文句を言うのは諦めた。
窓の外を見る。気づけば、遠目にレインボーブリッジが見えてきていた。
「おはようございます、主任」
「ああ、おはよう」
オフィスフロアで待ち構えていた五十嵐に鞄を預け、一番奥のデスクでパソコンに向かっていた事業部長の元へ向かう。
「おはようございます、遅れてすみません」
「ああ、おはようございます。雅孝様」
髪に白いものが混じった五十代前半の部長が、慌てた様に席を立つ。
「あの、社内でその呼び方は……」
「申し訳ない、つい」
社内では、もちろん俺が社長の息子であることは知れ渡っている。新人社員の中には知らない者もいるが。
「ところで、例のプロジェクトの件ですが」
「そうでした。柳主任、来月初めには現地に向かって頂くという事でよろしかったですかな」
「はい」
返事をしながら、右腕を固くギプスで覆われていた慶一さんの事を思い出す。
確か、全治四週間と言っていた。なら間に合うか。
「問題ありません」
「では、予定通りに進めさせて頂きます」
「はい、お願いします―」
―慶一―
ようやくの事で長い一日が終わり、職員室でほっと一息をつく。
板書が辛いかと思ったが、意外とチョークを持つのに問題は無かった。ただ、いつもより当然時間はかかってしまう。
何より、一体どうしたのかと言いたげな生徒たちの視線が辛い。
詳しく触れられたくなかったので転んだ事にしておいたが、何かおかしな噂でも立ったら最悪だ。
手元に出したスマホを見つめる。
必ず迎えに来ると言っていたが、あんな目立つ高級外車に乗り込む所を万が一、生徒に見られた日にはどんな噂が立つのやら。考えたくもない。
校門を出て、道路を渡り少し歩いたところに一軒だけコンビニが建っている。
挙動不審かと思ったが、周囲に顔見知りの生徒がいない事を確認してから、一番端の駐車スペースに停まっている黒塗りの外車の戸を開けた。
「お帰りなさい」
「わざわざどうも」
急いでシートベルトを締める。
「どうかしたんですか」
「いや、生徒に見られたらまずいから」
「まずい?なぜ」
「目立つんだよ、この車」
見れば誰でも分かるような、有名な高級外車のマークがしっかりとついているのだから。
「何だかよく分かりませんが、気にし過ぎでは?」
「いいから、早く」
「分かりました」
エンジンがかかる。走り出した車の中から、よせばいいのについ周囲をきょろきょろ見てしまう。
「結構、気にしいなんですね」
片手でハンドルを切りながらそう言われる。
「悪かったな。色々と些細なことが気になる性格なんだよ」
「繊細なんですね」
「そういうわけじゃないけど」
右腕を覆うギプスを見る。
「まるで喧嘩して怪我したみたいだろ、これ」
「はあ。喧嘩と言えば、ある意味そうなんですかね」
「あのなあ」
「ちょっとすみません」
柳さんは不意に、胸ポケットからイヤフォンを取り出すと耳に着けた。
「はい……どうした、今運転中……」
仕事の話だろうか。やはり、俺の都合に合わせて送迎をするなんて無理があったのだろう。
「分かった、すぐ戻る」
イヤフォンのスイッチを切り、再び胸ポケットにしまう。
「慶一さん、すみませんが」
「ああいいよ、仕事戻るんだろ?歩いて帰るから、どこか適当な所で」
「いえ。申し訳ないのですが、このまま行きます」
「は?」
交差点に差し掛かったところで、右にハンドルが振られた。
「ちょっ?!」
勢いよくUターンしたせいで、遠心力によって体がドアに押し付けられた。
「すみません。会社へ戻ります」
「このまま?!」
「後できちんと家まで送り届けますから、少しだけ付き合ってください」
「お前、本当強引だなっ……!」
すみません、と淡々と繰り返すばかりなので文句を言うのは諦めた。
窓の外を見る。気づけば、遠目にレインボーブリッジが見えてきていた。
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