Please,Call My Name

叶けい

文字の大きさ
上 下
24 / 52
第六話 君には笑顔が似合う

scene24 手紙

しおりを挟む
―大知―
カーテンの隙間から見える空の色が、仄かに明るくなり始めていた。
ウインドブレーカーのファスナーを上げ、黒いキャップを目深にかぶる。軽くストレッチをしていると、ふと机の隅に伏せて置いたスマホが目に入った。
手に取り、通知を確かめる。何度見たって、期待している相手からの連絡は来ないのに。
メッセージアプリを開き、眞白とのトーク画面を開いた。あの日送られてきた一言以来、何も会話は続いていない。今日こそ何か送ろう、と決めて画面を切り、元通りに伏せて置いた。朝の運動に出る時はスマホを持たないと決めている。音楽などを聴いたりしない方が、頭がすっきりするからだ。
部屋を出て鍵を閉め、マンションの外に出た。いつもの道を、軽いジョギングから始めて徐々にスピードを上げ走って行く。
閑静な住宅街を抜けると、広い公園が見えてくる。ここで少し休憩して、またマンションへ戻るのがいつものランニングコースだった。
上がった呼吸を整えながら、公園内の坂道を歩く。小さな山のように盛り上がった頂上に水飲み場とベンチが置かれていて、時々ここで悠貴と顔を合わせる事もあった。彼も週に一回くらい、朝早くランニングに出ている。今日はいないらしい。
代わりに、見覚えのあるネイビーのダッフルコートを着た後ろ姿がベンチにあった。
「……眞白?」
まさか、と思いながら近づいて行く。ベンチの近くに建つ時計台を見れば、まだ七時前だ。
歩いていくと、足元にあった小石を蹴ってしまった。ベンチの方へ転がって行く。グレーのスニーカーを履いた足元に小石がぶつかった。気づいた人影がこちらを向く。
思ったとおり、眞白だった。
俺と目が合うなり、弾かれたようにベンチから立ち上がる。
「偶然……じゃ、ないよね」
キャップを外し、汗をかいた前髪をかき上げ被り直した。鼓動が、忙しなく大きくなっていく。
「えっと……久しぶり」
ぎこちなく手を上げてみたけれど、眞白は肩にかけたトートバッグの持ち手を握りしめたまま動かない。
そうだスマホ、と思いポケットを探ろうとして、持っていないことを思い出した。
「あーしまった……ええと、どうしよう」
一人で焦っていると、眞白はトートバッグの中に手を入れ、白い表紙の本を取り出して俺に差し出してきた。受け取り、表紙に目を落とす。
「あ、これ俺が貸してた……そっか、これを返しに来てくれたのか」
なんだ、と少し落胆する。わざわざ会いに来てくれたのかと思った。
すると眞白は、自分の両手を本のように開き、二本の指でなぞるような仕草をしてから、じっと俺を見てきた。指先が微かに震えている。
「……え?読んで、ってこと?」
本を指差すと、小さく頷きが返ってきた。
怪訝に思いながら本を開く。すると、表紙の裏に何かが挟まっているのに気がついた。表紙を捲る。
二つ折りにされたルーズリーフが出てきた。
本を閉じ、薄く罫線の引かれた紙を開く。
それは、眞白からの手紙だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

想いの名残は淡雪に溶けて

叶けい
BL
大阪から東京本社の営業部に異動になって三年目になる佐伯怜二。付き合っていたはずの"カレシ"は音信不通、なのに職場に溢れるのは幸せなカップルの話ばかり。 そんな時、入社時から面倒を見ている新人の三浦匠海に、ふとしたきっかけでご飯を作ってあげるように。発言も行動も何もかも直球な匠海に振り回されるうち、望みなんて無いのに芽生えた恋心。…もう、傷つきたくなんかないのに。

コネクト

大波小波
BL
 オメガの少年・加古 青葉(かこ あおば)は、安藤 智貴(あんどう ともたか)に仕える家事使用人だ。  18歳の誕生日に、青葉は智貴と結ばれることを楽しみにしていた。  だがその当日に、青葉は智貴の客人であるアルファ男性・七浦 芳樹(ななうら よしき)に多額の融資と引き換えに連れ去られてしまう。  一時は芳樹を恨んだ青葉だが、彼の明るく優しい人柄に、ほだされて行く……。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

ゴミ捨て場で男に拾われた話。

ぽんぽこ狸
BL
 逃げ出してしまった乎雪(こゆき)にはもう後が無かった。これで人生三回目の家出であり、ここにきて人生の分岐点とも思われる、苦境に立たされていた。    手持ちのお金はまったく無く、しかし、ひとところに留まっていると、いつの間にか追いかけてきた彼に出くわしてしまう。そのたびに、罵詈雑言を浴びせられるのが、心底いやで気力で足を動かす。  けれども、ついに限界がきてそばにあった電柱に寄りかかり、そのまま崩れ落ちて蹲った。乎雪は、すぐそこがゴミ捨て場であることにも気が付かずに膝を抱いて眠りについた。  目を覚まして、また歩き出そうと考えた時、一人の男性が乎雪を見て足を止める。  そんな彼が提案したのは、ペットにならないかという事。どう考えてもおかしな誘いだが、乎雪は、空腹に耐えかねて、ついていく決心をする。そして求められた行為とペットの生活。逃げようと考えるのにその時には既に手遅れで━━━?  受け 間中 乎雪(まなか こゆき)24歳 強気受け、一度信用した人間は、骨の髄まで、信頼するタイプ。  攻め 東 清司(あずま せいじ)27歳 溺愛攻め、一見優し気に見えるが、実は腹黒いタイプ。

処理中です...