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第三話 センパイは料理上手
Chapter8
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―怜二―
「…三浦。」
「はい。」
「何か言うてや。」
ひたすら黙々と食べている三浦に向かってそう言うと、三浦は、あぁ、と声を漏らした。
「俺、一つの事にしか集中できないんですよね。」
「モノも言えんほど食べるのに集中しとるんか。」
「はい、美味しすぎて。」
さらりと真顔で言ってのけ、卵焼きを掴んで口に運ぶ。
「めちゃ美味しいです。」
それだけ言って、また黙々と食べ始める。見ているだけでこっちはもうお腹いっぱいだ。
『弁当一緒に食べよう―。』そう誘ったは良いものの、いざ二人で弁当を食べようと思うと人目が気になってしまい、どうしようか悩んだ挙句に会社近くの公園のベンチまでわざわざ三浦を呼び出してしまった。
「天気よくて良かったわ。」
「…」
「最近だいぶ寒くなってきたけど、今日は暖かいな。」
「…」
「…ほんまに、食べとると聞こえへんのやね。」
嫌味っぽく言ってようやく三浦が顔を上げた。
「聞こえてます、今日は暖かいですね…」
あ、と三浦が俺の背後へ視線を移す。
「?どないしたん…」
「なーにやってんの。仲いいな。」
顔を見なくても、にやにやしているのが分かる声でからかってくるのは。
「ナベさん、何でここに?!」
「えー?天気良いからコーヒー買いに行ってきたんだけどさあ、見たことある後ろ姿だなーって。」
アイスコーヒーの入ったカップを片手に、予想通りのにやにや顔で背後から俺の手元を覗き込んでくる。
「佐伯の手作り弁当じゃん。それを…」
箸を持ったまま所在なさげにしている三浦へ、ナベさんの視線が向く。
「三浦が食べてんの?え、君らいつの間にそんな仲良く」
「ちょ、ええから…」
ナベさんに、あっち行ってと仕草で訴える。…が。
「あ、実は昨日夕飯もご馳走になってて。」
また三浦が余計なことを正直に言ってしまうので焦った。
「三浦、いらんこと言いなや…っ!」
「まじ?!夕飯!おいおい佐伯、何で俺のことは呼んでくれないわけ?」
いよいよ楽しそうに身を乗り出してきたナベさんを押しとどめる。
「ナベさんっ、午後イチで会議あるやろ!早よ行かな間に合わへんで!」
「おっと、そうだった残念。また後で聞かせろよ。」
じゃあな、と爽やかに手を振って去って行くナベさんを恨みがましく見ていると、隣で三浦が吹き出した。
「佐伯さん、顔真っ赤。」
「ほっとけや…っ」
ペットボトルのお茶を勢いよく飲む。ごちそうさまでした、と三浦は箸を置いて弁当箱のふたを閉めた。
「めちゃくちゃ美味かったです。午後からも仕事がんばれそう。」
「そ、そおか。なら良かったわ。」
透明な蓋越しに綺麗に空になった弁当箱の中を見て嬉しくなる。
「モノも言えんほど夢中で食べてくれたら作り甲斐あるわ。」
「すんません、それは。気を付けます。」
「素直やな。ええよ別に。」
殊勝に謝るものだからおかしくて笑ってしまう。
「さ、戻ろか。」
「はい。あ、佐伯さん。」
「何?」
不意に、三浦の手が伸びてきて俺の前髪に触れた。
「葉っぱついてる。」
「え」
「じっとしてて。」
乱れていたのか、ついでのように前髪を梳いてくれる。
「ん、良いですよ。」
「…あ、ありがとな。」
慌てて目を逸らした。ポケットのスマホをまさぐって取り出す。
「あ、ちょっと電話来とったわ。先戻っとって。」
「はい。俺、弁当箱持って行きますよ。」
「ん、デスクに置いといてや。」
「分かりました。…佐伯さん。」
「何?」
「今度、何かお礼しますね。」
目が合う。三浦は俺の手から、すっと弁当箱の入ったトートバッグを取ると、先に会社へ戻って行った。
「お礼、なぁ…」
手の中でスマホを転がす。電話の話は、誤魔化すためについた嘘だった。
前髪に触れる。ついさっき、触れてきた手の感触が思い出された瞬間、落ち着きかけていた鼓動が再び走り出す。
「…っ」
―何で、こんな。
これじゃまるで、三浦の事―。
「…三浦。」
「はい。」
「何か言うてや。」
ひたすら黙々と食べている三浦に向かってそう言うと、三浦は、あぁ、と声を漏らした。
「俺、一つの事にしか集中できないんですよね。」
「モノも言えんほど食べるのに集中しとるんか。」
「はい、美味しすぎて。」
さらりと真顔で言ってのけ、卵焼きを掴んで口に運ぶ。
「めちゃ美味しいです。」
それだけ言って、また黙々と食べ始める。見ているだけでこっちはもうお腹いっぱいだ。
『弁当一緒に食べよう―。』そう誘ったは良いものの、いざ二人で弁当を食べようと思うと人目が気になってしまい、どうしようか悩んだ挙句に会社近くの公園のベンチまでわざわざ三浦を呼び出してしまった。
「天気よくて良かったわ。」
「…」
「最近だいぶ寒くなってきたけど、今日は暖かいな。」
「…」
「…ほんまに、食べとると聞こえへんのやね。」
嫌味っぽく言ってようやく三浦が顔を上げた。
「聞こえてます、今日は暖かいですね…」
あ、と三浦が俺の背後へ視線を移す。
「?どないしたん…」
「なーにやってんの。仲いいな。」
顔を見なくても、にやにやしているのが分かる声でからかってくるのは。
「ナベさん、何でここに?!」
「えー?天気良いからコーヒー買いに行ってきたんだけどさあ、見たことある後ろ姿だなーって。」
アイスコーヒーの入ったカップを片手に、予想通りのにやにや顔で背後から俺の手元を覗き込んでくる。
「佐伯の手作り弁当じゃん。それを…」
箸を持ったまま所在なさげにしている三浦へ、ナベさんの視線が向く。
「三浦が食べてんの?え、君らいつの間にそんな仲良く」
「ちょ、ええから…」
ナベさんに、あっち行ってと仕草で訴える。…が。
「あ、実は昨日夕飯もご馳走になってて。」
また三浦が余計なことを正直に言ってしまうので焦った。
「三浦、いらんこと言いなや…っ!」
「まじ?!夕飯!おいおい佐伯、何で俺のことは呼んでくれないわけ?」
いよいよ楽しそうに身を乗り出してきたナベさんを押しとどめる。
「ナベさんっ、午後イチで会議あるやろ!早よ行かな間に合わへんで!」
「おっと、そうだった残念。また後で聞かせろよ。」
じゃあな、と爽やかに手を振って去って行くナベさんを恨みがましく見ていると、隣で三浦が吹き出した。
「佐伯さん、顔真っ赤。」
「ほっとけや…っ」
ペットボトルのお茶を勢いよく飲む。ごちそうさまでした、と三浦は箸を置いて弁当箱のふたを閉めた。
「めちゃくちゃ美味かったです。午後からも仕事がんばれそう。」
「そ、そおか。なら良かったわ。」
透明な蓋越しに綺麗に空になった弁当箱の中を見て嬉しくなる。
「モノも言えんほど夢中で食べてくれたら作り甲斐あるわ。」
「すんません、それは。気を付けます。」
「素直やな。ええよ別に。」
殊勝に謝るものだからおかしくて笑ってしまう。
「さ、戻ろか。」
「はい。あ、佐伯さん。」
「何?」
不意に、三浦の手が伸びてきて俺の前髪に触れた。
「葉っぱついてる。」
「え」
「じっとしてて。」
乱れていたのか、ついでのように前髪を梳いてくれる。
「ん、良いですよ。」
「…あ、ありがとな。」
慌てて目を逸らした。ポケットのスマホをまさぐって取り出す。
「あ、ちょっと電話来とったわ。先戻っとって。」
「はい。俺、弁当箱持って行きますよ。」
「ん、デスクに置いといてや。」
「分かりました。…佐伯さん。」
「何?」
「今度、何かお礼しますね。」
目が合う。三浦は俺の手から、すっと弁当箱の入ったトートバッグを取ると、先に会社へ戻って行った。
「お礼、なぁ…」
手の中でスマホを転がす。電話の話は、誤魔化すためについた嘘だった。
前髪に触れる。ついさっき、触れてきた手の感触が思い出された瞬間、落ち着きかけていた鼓動が再び走り出す。
「…っ」
―何で、こんな。
これじゃまるで、三浦の事―。
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