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2章

グラスに入ったレモネード02

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「本当、美味しかったー!」

目の前には綺麗に平らげられたお皿。バンボラさん特製オムレツ。ひき肉にたまねぎ、にんじんなど様々な具材が入り、ふわふわの卵で包まれていた。バンボラさん特製のトマトベースのソースをかければ口内が幸せで満たされる。今まで食べたどのお店のオムレツよりも美味しい。思わず笑顔になる。バンボラさんは、「それは何よりです」と言いながら、私が食べたお皿を持ち上げた。その様子を見ていると、対面に座っているハルは割って入るように唐突に言い放った。

「……デザートは俺が作る」

少し不服そうなハルの声。

まるで犬が好物を横取りされて腹を立てているような、そんな感じ。あれ?ハルってオムレツ好きなの?いや、でも人形だから食事はいらないっていっていたし、そもそも食事しているのみたことないし。そんなことを思っていれば

「マスター、何食べたい?」
「え?」

テーブル越しにずいっとこちらに顔を寄せてきた。なんで怒っているのかわからないが、有無を言わさせないその様子にメニュー表を見て、目に入ったものを答える。

「じゃ、じゃあ、パンケーキ」
「オッケー!バンボラ、俺が作っていいよね?」

ハルがバンボラさんに問いかけると、バンボラさんは「えぇ、大丈夫ですよ」と快諾して

「けれど、困りましたね。さっきのオムレツで、卵を切らしてしまって」

申し訳なさそうにそう付け加えた。

「じゃあ、俺が買ってくるよ。マスター、少し待っててもらえる?」
「え?大丈夫だけど」

ハルの言葉に私が縦に頷くと、バンボラさんは「では、ついでに」といってハルに手慣れた手つきで、ほかにいくつか食材を頼む。そんな様子を見ていれば、ハルはこちらを振り向いて

「バンボラよりも美味しいパンケーキ作るからね」

そう宣言した。おまけに片目をつぶって、さきほどの不服顔が嘘のように明るい。「楽しみにしてるね」というと、「任せて!」といってあっという間に扉から出ていき、店内には私とバンボラさんだけが残った。

「…………」

なんとなく手持ち無沙汰だ。バンボラさんは私が使った食器をカウンターで洗っていた。水道から水が流れる音が聞こえる。

「あの、バンボラさん」
「はい、なんでしょう?」

カウンターで洗っている彼の前の席に移動して尋ねた。

「……何かお手伝いすることはありますか?」
「お嬢さんはお客さまですからね、ゆっくりくつろいでいてください」
「……くつろぐ」

オウム返しに繰り返すとバンボラさんはくすりと笑って、流しに残っていた最後のグラスを綺麗に洗って脇にコトリと置いた。

「では、お嬢さん、私と二人きりでお話しませんか?」
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