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第1章
03
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『アルベール』の王族が住まう城はまるで要塞だ。レンガで積み上げられた建物は何者の侵入も許さない高い城壁で囲まれている。けれども、一度中に入れば美しい庭園が広がり、そこからかぐわしい香りが香ってくる。空は澄み渡るほどの青空が広がっていて、清々しい。本来ならウキウキした気分になりそうなほどなのに
(ジェラルド様のバカあああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!)
私の心は雷雨の如く激しい怒りが沸き起こり、心の中で叫ぶ。周りに誰もいないことをいいことに思わず頬を膨らました。我ながらはしたないことをしている自覚はある。けれども、そうせざる負えない気分なのだ。
「何よ、あんな言い方しなくったって――」
小さく呟いた視線の先の鏡に映るのは紫陽花色のドレスに身を包んで亜麻栗色の髪を綺麗に結い上げ、首元には美しい真珠のネックレスをかけた私。耳元に輝くのは首元のネックレスと同じ真珠。いつもとは違う装いで少しドキドキしていた――、そう先ほどまでは。
♢ ♢ ♢
カイル殿下とお会いすることになった私は、『アルベール』が王女『セイラ・アルベール』様にお会いすることになったジェラルド、そして『アルベール』の視察のためにやってきたジョシュア様と共にこの『アルベール』の王都『アイリス』を訪れた。馬車にゴトゴトと揺られること5日。城に辿り着いたのはつい先ほどのこと。客室に通された私たちは、身支度を整えてジェラルドの部屋で一度集まることで話がまとまり、各々身支度を整えに与えられた客室に向かうことになった。
『夢みたい……』
客室に向かうとそこは乙女の憧れの天蓋ベットをはじめ、装飾が施された机や椅子などの家具が置かれていた。身支度をということで、私にも城に仕えるメイドがあてがわれたが、あくまで私はただの侍女だからとその申し出はすっぱり断って、私はカイル殿下にお会いするための準備をすることになった。
『綺麗なドレス……』
私はその部屋のベットに持ってきていたドレスを広げた。カイル殿下にお会いするのにいつものメイド衣装は失礼ということで、ミッシェル様が直々にドレスを用意してくださったのだ。『私が若い頃に来ていたドレスだから、エリンにあげるわ!それで、射止めてきなさい』と渡されたそれを纏うとそれだけで一層華やかだ。
(別にカイル殿下を射止めたいかと言われたら、別にそういうわけでもないんだけれども……。でも、向こうがせっかくお招きくださったのだからきっちりしていかないと)
そう思いながらいつもは無造作に結い上げている髪をきちりと結い、最後に紅を引いて、唇を数度合わせれば
『よし、出来た』
まるで自分が別人ように感じられた。
そのときに思い浮かんだのは、カイル殿下でもなく、ジョシュア様でもなく……、ジェラルドの顔だった。何故だか、彼に見てもらいたいと思ったのである。
だから、『ジェラルド様、なんていうかな』なんて、少しの期待を抱いて、私はジェラルドの部屋に向かったのだ。
♢ ♢ ♢
――コンコン
と扉を数度ノックして
『ジェラルド様、失礼いたします』
扉を開けると私の視線の先、漆黒の髪を風にたなびかせ、少し長めの髪を耳にかけている我が主、ジェラルド・アルバーンが王女に会うために正装に身を包んで窓辺に立っていた。窓から入ってくる風が心地よく、小鳥のさえずりが聞こえる。
『エリンか』
私が入ってきたことに気が付いたのか、ジェラルドはゆっくりと振り返った。
『……っ……』
そして、その瞬間何故だか息を飲んだかのように目を見張った。その様子に不思議に思いながらも私は他の疑問が湧いて私は首を傾げながら、ジェラルドの元へ数歩歩んで向かう。
『ジェラルド様、城の方々はどうされたのですか?』
私にメイドが用意されていたぐらいだ。ジェラルドに誰もついていないということなどありえない。
『必要ないと全て断った』
対してジェラルドは短く言った。
『そうですか』
ジェラルドならその一言で何もかも一蹴しそうだ。ならば、身支度もすべて一人でしたということか。そんなことを思っていると
『そのドレス……』
ジェラルド様は何故だか顔を顰めた。おまけに声に棘がある気がする。けど、不機嫌になる要素あったっけ?思い返してみても特に原因は見当たらず、気のせいなのだろうと思いながら
『このドレスですか?ミッシェル様が昔着てらっしゃったそうです。とても素敵なドレスですよね。ミッシェル様から、このドレスを着て、射止めてきなさいと言われました』
冗談交じりに笑いかけた。すると、今度は黙り込む。どこか苦虫を嚙み潰したような表情だ。
(え?何?私、何か言った?)
表情の意図がわからず、ジェラルドを見つめているとそのサファイアの瞳がスッと一瞬閉じられた。まるで気持ちを切り替えるように。次の瞬間、開かれた瞳はどこか深い影を落としていて
『貧相な顔がそのドレスのせいで余計に貧相に見えて滑稽だな』
腕を組んで私に言い放った。
(な、な、な、な、なんて言った!?今!?)
あまりの言葉に私は声が出ずにただただジェラルドを見返した。聞き間違いだと思った。
『どうせそのドレスを着たところで、お前のガサツさは隠せない』
『…………』
否、聞き間違いだと思いたかったのである。
『カイル殿下もその姿を見たら、さぞがっかりだろうな』
『…………』
ジェラルドの口から出てくる棘のある言葉に私は我慢ならず両手を握りしめて顔を上げた。そのサファイアの瞳を見返して、私は一言言い放った。
『ジェラルド様は、何にもわかっていない!!』
その瞬間、扉が開いた。ギギィーという音がして、振り返ると
『支度に手間取った、遅れてすまない』
そう言いながら扉に入ってきたのはジョシュア様。ジョシュア様はジェラルド様同様、正装に身を包んでいた。
『…………』
『…………』
黙り込むジェラルドと若干涙目になっている私。剣呑な雰囲気を察したのだろう。
『どうしたんだ!?』
と私とジェラルドを交互に見た。居ても立っても居られなれず、私は顔を俯かせて
『申し訳ありません。化粧が崩れたので部屋で直します。時間がかかると思いますので、そのままカイル殿下の謁見を行って参ります』
ジョシュア様が入ってきた扉へ向けて駆け出した。『ちょっと、エリン!!』というジョシュア様の制止する声が聞こえたけれども、私は一目散に与えられた客室へ走りながら、唇を噛みしめた。部屋から出る際に見たジェラルドはあらぬ方向を向いていた。まるで、もう興味がないというばかりに。こんなはずじゃなかったのに。
(私は、ただ……)
(あの少しからかうような……、それでいて優しい笑顔で……)
(ほんの少しでいいからジェラルド様に笑いかけてもらいたかっただけなのに)
♢ ♢ ♢
「ジェラルド様の馬鹿――……」
わずかに乱れてしまった髪を直して私は小さく呟いた。広い客間でやけに大きく響き渡る。
冷静に考えれば王族に対して失礼なことを言ってしまった。まさか、ジェラルドが私に失敬罪を課すとは思えないけれど、思いたくはないけれど、正直顔を合わせにくい。となると、戻らなくてもいい方法は……。
「……カイル殿下と婚約か」
できるとは思っていないし、今日呼ばれたのもカイル殿下の気まぐれだろうけれども。
「それも、ありなのかな……」
前世でも結婚はすることは叶わなかったし、現世お母さまも、ミッシェル様も応援してくださっている。もし、仮にカイル殿下が本気でお考えなら……。
そこまで考えたところで、コンコンと扉がノックされた。『はい』と立ち上がって扉の元へ歩くと
「エリン殿、カイル殿下がお呼びでございます」
そう声がかけられた。
ーーーー
【以下、作者コメントなので読まなくて大丈夫です。次話は作成中ですので物語を読みたい方はここまでで大丈夫です】
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LPS48なおたん様
コメントありがとうございます!
溺愛系王子と毒舌系王子……、私の作品は本当ふたくせ以上ある王子ばかりですね←
どうしてでしょう?
次話分の話、あと少しで完成ですのでしばらくお待ちくださいませ!