8 / 57
婚約者は年下の王子様
05
しおりを挟む
♢ ♢ ♢
ということは、やはり目の前にいる“彼”もとい殿下は、あのときの『レイ君』ということになる。
改めて見るとどことなく面影は残っている。
「この10年間、レナ姉の……いや、貴女にふさわしい人になるためだけに自分を磨いてきました」
思い返してみると、にこりと笑う顔もあの頃のままだ。
でも、待て待て。一瞬、トキメキそうになったけれど、よくよく考えたら私、「アラサー令嬢」!レイ君は、前世でいうなればDK。所謂、男子高校生だ。男子高校生が年の離れたアラサーに恋心を抱くものなのか。それに、アラサーと男子高校生って響き、なんだか犯罪チックな響きだ。
は!犯罪!?もしかして、結婚詐欺ならぬ、婚約詐欺なのか!?詐欺とは知らずにぬか喜びしている「アラサー令嬢」を後からあざ笑う的な!?
一瞬、舞い上がっていた気持ちが、冷静になってくる。これは、やんわりとお断りするが吉と出た。
「でも、9歳も違いますし……」
正確に言えば前世での27年を含めれば45歳ほど違う。精神年齢だけで考えると、親と子ほどの差がある。やばい、犯罪チックな響きどころの話ではない。
「たかが、9歳です。貴女を想っていた期間の方が長いですよ」
ぐぬぬ、手ごわい。ならば、次!
「で、でも!私はもう27歳です。殿下のお傍にいても、見劣りするかと。それに、この先は老いるだけです。」
「貴女は自分が思っている以上に綺麗ですよ。それに、人は皆、等しく年を取っていきますから」
よろしい!ならば、次だ!
「で、でも!そうは言っても、私と結婚したとしても、殿下の周りには若くて美しい令嬢がいて、そちらに目移りしちゃうかも……」
「10年間、貴女のことを想い続けて、すべての縁談を断っていた私が、今更他の令嬢に目移りするはずはありませんが」
私が言うことに対して、怯むことなく何のことはないように言ってのけるレイ君。冷静に考えたら、すごく恥ずかしいこと言われてない?
熱を持ち始めた頬をどうにか落ち着かせ、次にどう反論しようかと考えを巡らしていると
「……――レナ姉」
と耳元で囁かれた。10年前の愛らしい声とは違い、その声は低く落ち着いていている。私が考えを巡らしている間に、いつの間にか私の顔のすぐ右側に“彼”の顔が迫っていた。
「殿下と呼ばれるのは嫌だと言ったよね。昔のように呼んでいいんだよ。もしくは、呼び捨てにしてくれた方が“僕”的には嬉しいんだけど」
10年前と同じ口調で言われたもののすぐ傍で流し目のエメラルドグリーンの瞳は、どこか怪しげで10年前にはなかった色気のようなものが漂っている。“彼”に見つめられる側が熱い。
「わかった?ほら、“僕”の名前を呼んで?敬語でかしこまらなくてもいいから」
極めつけはこれだ。なんだか低い声が甘く聞こえるのは幻聴か。あれか、男性に対する免疫がないだけか。
「……レイ君」
カッと赤くなった顔を隠すように顔を背けながら言うと
「本音を言えば呼び捨ての方がよかったですが、今回はよしととします」
と元の口調に戻った。どこか満足気なように見えるのは私の気のせいではないだろう。そんなに『殿下』と呼ばれるのが嫌いだったのか。言わないように気を付けよう。婚期を逃したアラサーの男性の耐性のなさを舐めない方がいい。これは心臓に悪い。
もしかして、レイ君は本当に私に好意を持っているのだろうか。犯罪とか、婚約詐欺でからかっているというわけでなく?
そんなことを思い始めて
「……でも、レイ君のような紳士な人なら引く手あまただと思うんですけど……じゃなかった。思うんだけど」
敬語で言いかけた瞬間、レイ君の目がすーと細まり、私は慌てて言い直した。熱を持った頬に両手を当てながら。
けれども、実際にレイ君は紳士的だとは思う。ここに来る時のエスコートも長いドレスを着ている私が転ばないように気を配ってくれていたし。
すると私の言葉にレイ君は一瞬、虚を突かれたかのように黙り込んだ。
え?何?この反応!やっぱり私の嫌な予感が的中してるやつ?
けれども、黙り込んだのはほんの一瞬のことで
「私の婚約者は貴女以外考えられませんよ」
ときっぱりと言い放ち、いたずらっぽく笑ってこうも付け加えた。
「それに、“僕”は、レナ姉が思っているほど紳士ではないのかもしれないよ」と。
こ、これはまさか……!
レイ君の言葉で私は確信した。
婚約詐欺なのか何なのかはまだわからないが、やっぱりこれは何かの罠に違いない?
♢ ♢ ♢
27歳の誕生日、9つ下の婚約者(?)が現れました。
ということは、やはり目の前にいる“彼”もとい殿下は、あのときの『レイ君』ということになる。
改めて見るとどことなく面影は残っている。
「この10年間、レナ姉の……いや、貴女にふさわしい人になるためだけに自分を磨いてきました」
思い返してみると、にこりと笑う顔もあの頃のままだ。
でも、待て待て。一瞬、トキメキそうになったけれど、よくよく考えたら私、「アラサー令嬢」!レイ君は、前世でいうなればDK。所謂、男子高校生だ。男子高校生が年の離れたアラサーに恋心を抱くものなのか。それに、アラサーと男子高校生って響き、なんだか犯罪チックな響きだ。
は!犯罪!?もしかして、結婚詐欺ならぬ、婚約詐欺なのか!?詐欺とは知らずにぬか喜びしている「アラサー令嬢」を後からあざ笑う的な!?
一瞬、舞い上がっていた気持ちが、冷静になってくる。これは、やんわりとお断りするが吉と出た。
「でも、9歳も違いますし……」
正確に言えば前世での27年を含めれば45歳ほど違う。精神年齢だけで考えると、親と子ほどの差がある。やばい、犯罪チックな響きどころの話ではない。
「たかが、9歳です。貴女を想っていた期間の方が長いですよ」
ぐぬぬ、手ごわい。ならば、次!
「で、でも!私はもう27歳です。殿下のお傍にいても、見劣りするかと。それに、この先は老いるだけです。」
「貴女は自分が思っている以上に綺麗ですよ。それに、人は皆、等しく年を取っていきますから」
よろしい!ならば、次だ!
「で、でも!そうは言っても、私と結婚したとしても、殿下の周りには若くて美しい令嬢がいて、そちらに目移りしちゃうかも……」
「10年間、貴女のことを想い続けて、すべての縁談を断っていた私が、今更他の令嬢に目移りするはずはありませんが」
私が言うことに対して、怯むことなく何のことはないように言ってのけるレイ君。冷静に考えたら、すごく恥ずかしいこと言われてない?
熱を持ち始めた頬をどうにか落ち着かせ、次にどう反論しようかと考えを巡らしていると
「……――レナ姉」
と耳元で囁かれた。10年前の愛らしい声とは違い、その声は低く落ち着いていている。私が考えを巡らしている間に、いつの間にか私の顔のすぐ右側に“彼”の顔が迫っていた。
「殿下と呼ばれるのは嫌だと言ったよね。昔のように呼んでいいんだよ。もしくは、呼び捨てにしてくれた方が“僕”的には嬉しいんだけど」
10年前と同じ口調で言われたもののすぐ傍で流し目のエメラルドグリーンの瞳は、どこか怪しげで10年前にはなかった色気のようなものが漂っている。“彼”に見つめられる側が熱い。
「わかった?ほら、“僕”の名前を呼んで?敬語でかしこまらなくてもいいから」
極めつけはこれだ。なんだか低い声が甘く聞こえるのは幻聴か。あれか、男性に対する免疫がないだけか。
「……レイ君」
カッと赤くなった顔を隠すように顔を背けながら言うと
「本音を言えば呼び捨ての方がよかったですが、今回はよしととします」
と元の口調に戻った。どこか満足気なように見えるのは私の気のせいではないだろう。そんなに『殿下』と呼ばれるのが嫌いだったのか。言わないように気を付けよう。婚期を逃したアラサーの男性の耐性のなさを舐めない方がいい。これは心臓に悪い。
もしかして、レイ君は本当に私に好意を持っているのだろうか。犯罪とか、婚約詐欺でからかっているというわけでなく?
そんなことを思い始めて
「……でも、レイ君のような紳士な人なら引く手あまただと思うんですけど……じゃなかった。思うんだけど」
敬語で言いかけた瞬間、レイ君の目がすーと細まり、私は慌てて言い直した。熱を持った頬に両手を当てながら。
けれども、実際にレイ君は紳士的だとは思う。ここに来る時のエスコートも長いドレスを着ている私が転ばないように気を配ってくれていたし。
すると私の言葉にレイ君は一瞬、虚を突かれたかのように黙り込んだ。
え?何?この反応!やっぱり私の嫌な予感が的中してるやつ?
けれども、黙り込んだのはほんの一瞬のことで
「私の婚約者は貴女以外考えられませんよ」
ときっぱりと言い放ち、いたずらっぽく笑ってこうも付け加えた。
「それに、“僕”は、レナ姉が思っているほど紳士ではないのかもしれないよ」と。
こ、これはまさか……!
レイ君の言葉で私は確信した。
婚約詐欺なのか何なのかはまだわからないが、やっぱりこれは何かの罠に違いない?
♢ ♢ ♢
27歳の誕生日、9つ下の婚約者(?)が現れました。
4
お気に入りに追加
1,169
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる