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第一章 幼少期編

41.初めての友達?①

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「ふぅ、とりあえずなんとか乗り切ったな……」

 ヒルデガンド第一王女とリスパーダ公爵夫人であるお祖母様を無事に見送り、俺は自室のベッドに倒れ込んだ。
 そんな俺を、傍からじっと立ったまま見つめる四つの瞳。

「なんというか……王女の婚約相手のこと羨ましいとか思ってたけど、これはこれで大変そうだな」

 そう言って気の毒な目で見つめるのは、褐色の癖っ毛を持つ人族の奴隷ジャックス。
 
「……そう? なんだかんだ主は楽しんでいると思う」

 表情の変化少なげにそう呟くのは、エルフ族の奴隷ソフィーネだ。
 二人はこの二日ずっと俺を見てきたせいか、大分俺になじんできたな。
 
 俺たちの婚約話が纏まった後、とりあえず俺はヒルデガンド王女とこの二人に俺の事を話すことにした。
 当然契約魔法で契約してからだ。

 初めは百面相をかましていた三人であったが、話し終えた時にはそれぞれ違った反応を見せた。
 ヒルデガンドは素晴らしいと俺を褒めちぎり、ジャックスは逆に俺を胡散臭い物でも見つめるかの様な視線を向け、ソフィーネは……相変わらずぼーとした顔をしていたな。

 その後は館をヒルデガンド王女を連れて案内したり、食事を摂ったり、逆に彼女の話を聞いたりとしている内に、あっという間に時間が過ぎてしまった。

 彼女から聞いた話では、狐人族は昔酷い迫害を受けていたそうだ。 
 ただそれも五百年も昔の話で、今では狐狩りと呼ばれる処刑騒ぎの結果、その姿を目にすることは無いらしい。
 しかし今でもその差別意識は漠然と残っており、彼女もそう言った視線に悩んでいたそうだ。
 
 救いは、彼女が王女という表向きは侮蔑されない立場であったことと、家族たちに愛されていることだろう。
 少し立場や周囲が違っていれば、彼女が未だに生きていることは難しかったかもしれない。

 しかし不思議と、そのことを語る彼女の顔は清々しいものに見えた。
 彼女曰く、

「アルフォンス様のおかげで、自分の生きる目標が決まりました。ですから、もう周りの視線を一々気にするのはやめにいたします!」

だそうだ。
 王女が周りを気にしなくなるのはそれはそれでどうなんだと思ったりもしたけれど、まぁそこはお祖母様を始めとした周りが上手くやってくれるだろう。
 俺はとても可愛い笑顔で笑う彼女を、心から応援したいと思った。

 そんなことを思い出しながら考えているとジャックスがぼそりと呟く。

「アル様、顔がだらけてますよ」

「うっ……うるさいなー。良いじゃん別に。少しぐらい余韻に浸らせてよ」

 俺の言葉に、肩をすくめて返すジャックス。

「……ジャック、そういう時はそっとしておくのが大人の対応」

 表情も変えずそうぼそりと呟くソフィーネ。
 彼女は基本無口なのだが、人を小ばかにするときは少し口数が多くなるらしい。
 
「ソフィ、そう言うのは本人に聞こえないように言わないと意味が無いと思うんだけど」

 そう指摘してやると、今までの無表情とは見違えるような微笑みで返してくるソフィーネ。
 彼女は小ばかにするときと何かを誤魔化す時は、こうやってとんでもなく綺麗な微笑みを返してくるのだ。


「……はぁ。二人とも、よく二日でそこまで馴染めるよね」

「そりゃまぁアル様の御要望ですし」

「……そう。主の望みをかなえるのは奴隷の務め」

「そうなんだけどさー。なんというか、なんだかなー」

 この二人と契約するにあたって、俺は二人にあるお願いをした。
 二人はこれから基本四六時中俺の傍に控えることになるらしい。
 だから、二人とは出来るだけ気軽に付き合っていきたいと思って言ったのだが……。

「奴隷であると同時に、友としても付き合ってほしいなんて、アル様も無茶言いますよね」

「……同意。主の無茶苦茶な命令を遂行するために毎日苦労が絶えない」

 そう言って呆れた声を掛けてくるジャック。
 ソフィは絶対にそんなことは思っていないと思うが。

 奴隷であると同時に、友であって欲しい。随分と傲慢で、矛盾したお願いだと自分でも思う。
 でもまぁこれからずっと一緒にいる事を考えたら、変に癖がつく前に行っておいた方が良いと思い二人にお願いしたのだ。
 予想以上に早く順応してくれたようだが。

 俺も二人の前では出来るだけ飾らないよう心掛けている。
 長年見た目に合わせた話し方をしていたせいか、はたまた元々そういう話し方だったのかは分からないが、この砕けた話し方が一番気が楽なのだ。

「……まぁいいや。それじゃぁ夕食までの間、二人の能力の確認をしておこうか」

 俺のジト目に対し素敵な微笑みを返すソフィは置いておいて、二人のスキルの確認をしておくとしよう。

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