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1章

来訪者

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1544年(天文13年) 6月中旬 那古野城 吉法師

 俺が転生して2か月が経過した。俺は相変わらず鍛錬と手習いの日々だ。
 吉法師軍団は、日々着実に成長を遂げている。主に人数的な意味で。武士の子供だけではなく、農民や河原者と呼ばれる奴らで、体の丈夫そうな奴や頭の回転が速そうな奴を積極的にスカウトしていったんだ。農民の方は、家の仕事に影響が出ない範囲で3男4男辺りを中心に。河原者の子供は親がいれば親の許可をとってから採用している。まぁ孤児もかなり多いけど。

 河原者っていうのは、河原など課税されない土地に住んで牛馬の屠畜なんかを行なって生活している人々なんだけど、ちょっとした差別対象だったりするんだ。動物を殺すことを生業としている事に対する忌避感からくるのか、現代で言うホームレス的な感じなのか良く分からんが……まぁ俺は全く気にしてないんだけどね。寧ろ八兵衛に頼んでこの辺りの河原者の代表みたいな人に繋ぎをとってもらって、吉法師軍団に食わす肉をちょくちょく売ってもらったりしている。

 以前から石鹸作りの為に獣の脂を買い取ったりもしていたから、八兵衛に対する印象も悪くないみたいで、俺もついでに仲良くさせてもらっている。桶狭間の時に信長が河原者を使ったとかって説もあったし、伝手は大切にしておかないと。

 そんな感じで吉法師軍団の風貌が着実に悪くなっているものだから、俺の評判も中々悪くなってきてしまった。主に武士たちの間で。逆に、河原者や一部の農民なんかからの評判は、段々良くなってきているんだよな。多分これは、吉法師軍団の最低限の掟として『無用な暴力は振るわない』ということを口酸っぱくして皆に教え込んでいるおかげだろう。この掟は、将来こいつらが足軽兵を率いて戦争に出た時に、農民たちに略奪や狼藉を働かないようにするためでもある。

 他にも、訓練を始める時には必ず、その訓練をする意味を説明してから行わせている。何故、準備体操が必要なのか。何故、受け身の練習が必要なのか。何故、肉を食う必要があるのか。何故、人様に迷惑を掛けてはいけないか。一つ一つの行動の理由を教えることで、ただ言われたことをこなすだけの足軽兵ではなく、自分で考えて行動が出来る将に育ってくれるよう期待している。

 それと、文字も空いている時間に教え始めた。小屋を使い必要な道具は俺が準備し、週に何度かは手習いをさせている。まぁ(俺は大分読めるようになってきたけど)半分くらいの奴は文字も読めないから、武士の子供たちにマンツーマンで指導させた。それだと武士の子供が文句を言い始めると思ったから、武士連中には未来の50音の平仮名を俺が教えたりしている。この時代の文字って、同じ言葉でも色々と難しくしていて面倒なんだよな。将来俺がトップに立ったら、仕事上の文はこれで統一させてやろうと密かに企んでいる。




 
1544年(天文13年) 6月下旬 那古野城寝所 吉法師

 夜中、夢にうなされ目が覚める。最近、前世の記憶の夢をよく見る様になってきた。とても漠然とした夢だ。何かに追われる一方で、色々なことに挑戦していた。俺が今色々と知識を利用できているのも、きっとこの好奇心旺盛な前世のおかげなんだろう。ただ、やはり具体的なことは何も思い出せない。すごく気持ちが悪い。もう忘れてしまった方が良いのかもしれないとすら、最近考える様になってきている。

 そんなことを目を開けて考えていると、ふと視線の端に誰かが立っているのが見えた。

 知らない男だ。

 胸の鼓動が早くなるのを感じる。

 あちらも俺が起きていることに気づいているのが分かった。

 だって俺、発光してるし。男の姿が丸見えだ。

「誰だ?」

 俺はその男に問いかける。男はこちらを見つめたまま、少し困惑した顔をする。
 百戦錬磨を絵に描いた様な雰囲気のある壮年の男が、困った顔で頬を掻いている。それが妙に滑稽で、それまであった緊張が途端に解れ、俺は思わず吹き出してしまった。
 笑い出した俺に、男が怪訝な顔をする。

「フフ、すまん。お主の顔が面白くてな。何故そんな困った顔をしておる」

 男は、はぁ、とため息をついた後、口を開いた。

「いえ、大したことではございません。我らは闇夜に忍ぶもの。此度も闇夜の中ご挨拶をさせていただこうと思っていたのですが、余りに明るく困惑しておったのです」

 闇夜に忍ぶもの、か。未来の日本人が言うと中二っぽいが、こういう雰囲気のある奴が言うと普通にカッコいいな。これで明るくなかったら、もっと様になっていたんだろうけど。
 ってことはこの男こそ、俺が待ち望んでいた人物なのだろう。

「なるほど、それはすまなんだ。ワシはこういう体質なのじゃ」

 俺の言葉を聞き、ますます困った顔をする男。ダメだ、また笑ってしまう。

「くっくっ、まぁその辺りもゆっくりと話そうではないか。ワシが吉法師である」

「……はっ。服部半蔵保長にございます」
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