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1章

銭が無い

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「さて、あとは金策か……」

 これから何を始めるにしても、銭は必要だ。楽市楽座なんかも始めたいが……それは尾張を統一してからだな。

「金策、ですか。今の主な収入は、米と関からの税ですが……関の税を上げれば人が集まりませぬ。かと言って、米の量もそうそう簡単には……」

 そうか。この時代の武士ってあんまり商売とかに関心が無いんだった。銭に対して忌避感でもあるんだろうか。米も税も結局は銭だと思うんだがなぁ。まぁいい、俺の家臣には少しづつそこら辺の認識を改めさせていこう。
 さて、農業に手を加えても良いんだが、今までと違う方法をやれと言われて皆が皆素直にやるとは思えないんだよなぁ。この時代、田畑はそれぞれの地域で庄屋が取りまとめ、指揮を執っている。尾張は肥沃な土地だ。どこの庄屋もすでに安定した収入が見込まれているのに、効果があるかどうかも分からない農法など手を出したくはないだろう。まずはどこか地域を絞って試験的に始めて見るか……

「爺よ、米の量を増やす方法はある」

「なんと。それも神様から頂いた知識ですかな?」

「うむ。が、どの庄屋も訳の分からぬ農法などには手を出したくは無いだろう。ワシが言い出したのでは余計にな」

「それは……」

 俺の言葉に、爺は苦い顔をする。
 ワザとうつけの振りを続けてるだけなんだから、そんな顔しなくてもいいのにな。まぁ仕える相手の評判が悪いというのは、家臣からしたらつらいことなのかもしれん。が、もう少し耐えてくれよ。俺の身の安全のためにも。

「ま、誰もうつけの話など聞かぬのは当然のことだ。そこでだ、神さんの名前を使わせてもらうことにする」

「なっ!? し、しかし、そのお力はお隠しするという話では」

「うむ、吉法師としては、な」

「……まさか」

「うむ。顔を隠し変装をし、庄屋の下に直接赴く。籠で移動し御簾越しに話しかければ、誰もワシとは分かるまい。本人や家族が怪我や病に苦しんでいるのであれば、ワシの力で治して見せよう。そんなワシの言葉であれば、皆素直に聞き入れてくれるであろう」

 吉法師のうつけぶりは有名だ。これを改善するのはちょっとやそっとじゃ無理だろう。それこそ桶狭間で今川という大大名を打ち破る様な強いインパクトが必要だ。
 この世界では、桶狭間の戦いが史実通り起きてくれるかは分からない。俺という異物が紛れ込んだ世界だ。史実とは少しずつズレていくだろう。
 であれば、桶狭間の代わりになるイベントが必要になるかもしれん。まぁここは戦国の世。有り難くないことに命を懸けたイベントには事欠かなさそうではあるが……
 まぁその保険の1つが、この『正体を隠して人助け大作戦』である。
 村々を回って人助けをしながら信仰を集めつつ、時が来れば正体を明かし、うつけが仮の姿であったと皆に知らしめるのだ。我ながら安直な案であるとは思うが、あくまで保険の1つと言う事で。

 それに、爺の白ポイントを見ていて、少し気になることがあるんだよな。その実験も兼ねるためにも、ある程度の人数に信仰させて経過を見てみたい。

「はぁ、若は本当に次から次へと突拍子も無いことを考えまするなぁ。まぁ良いでしょう。が、お付きのものに関しては、爺めがご用意させていただきます。よろしいですな?」

 物言いは柔らかだが、どこか有無を言わせない迫力があった。

「う、うむ。任せる」

 ま、俺が今自由に動かせて信頼できる奴らって、三バカくらいしか思いつかんしな。そう考えると、今の吉法師って簡単に殺されるんじゃないか? 
 ……やべぇ、早く護衛を何とかしてもらおう。どっかに怪我をした凄腕の剣豪とか落ちてないかな?
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