上 下
7 / 57
1章

Side 信秀

しおりを挟む
1544年 那古野城 織田弾正忠信秀

 昨日、吉法師が松の木から落ちたと知らせがあった。
 併せて、空が雷でも落ちたかの様に激しく光ったとの知らせもあったが、ワシはまたいつものうつけ事かと高をくくって放置していた。
 しかししばらくしても目を覚まさないと平手が騒ぎ出し、慌てて医者を呼ぶこととなった。
 医者が言うには特に異常はないとのことでひとまず安心はしたものの、この時は流石のワシも肝を冷やしたわい。

 吉法師は織田家の嫡男として産まれた。
 幼いころから眼力が強く、こちらを見透かすような目をしていた。
 言葉を話すのも他の子よりも早く、優秀な後継を得たと安心したもんじゃ。
 しかしある時期を過ぎたころから、武家にあるまじき行動をとるようになってしもうた。
 他家の2男や3男など、後継と関係の無い者を集め、川で遊んだり相撲をとったりとやりたい放題。
 仕舞には尾張の大うつけなどと呼ばれる始末じゃ。

 最近はワシの所にもほとんど顔を出さず、悪い噂ばかりが耳に入りワシも頭を悩ませていた。
 周りの家臣や正妻である土田御前は、吉法師を廃嫡し、弟である勘十郎を次期当主にとワシに迫って来てくる始末。
 そして此度の転落騒動じゃ。
 ワシもいよいよ吉法師の廃嫡を決断せねばならぬのかと頭を抱えていた。

 無事に奴が目を覚ましたとの知らせが入った時は、思わず胸を撫で降ろしたわい。
 しかし此度の事で、後継について改めてきちんと考えねばならんと痛感させられた。
 ワシは吉法師を見極めるため、ワシの所へと呼び出すことにした。



「オヤジ、入るぞ」

 久しぶりに奴の顔をみて、ワシは驚いた。
 幼いころと同じ澄んだ目をしており、少し輝いてすら見える。
 うつけなどとは程遠いではないか。
 
「きたか。どうだ体調は」

「あぁ、問題ない。少し頭を打っただけだ」

 丸一日目を覚まさず、何が少しだ。
 心配したこちらの気持ちにもなれ。

「そうか。平手が騒いでおったが問題ないのであればよい。これに懲りたら少しは嫡男としての自覚を持て」

「自覚はあるぞ。が、態度を改める気はない」

 真っすぐな目でこちらを見つめてくる。
 こちらが気を緩めれば、飲み込まれてしまいそうな目をしておるわ。
 ふふ、これのどこがうつけなのだ。
 やはり、虎の子は虎と言う事か。

「ふん、まぁよい。この城の主はお前だ。好きにしろ」

「あぁ、ありがとう。これから色々と動くつもりだ。が、出来るだけ外に情報を漏らしたくない。オヤジに知らせがいっても、そこで止めておいてくれ」

 色々と動く、か。
 今まで散々好き勝手してきただろうに。
 それをわざわざワシに伝えてきたと言う事は、何か本格的に動き出すと言う事か?

「……」

 ワシはじっと吉法師の目を睨みつける。

「ん?」

 しかしワシの視線を受けても、奴は何でもないように受け流す。

「いや、なんでもないわ。いいだろう。情報はこちらで上手くやっておく。好きにしろ」

「……あぁ」

 何か思う所があったのか、少し納得しない表情をしつつ、奴は部屋を下がっていった。
 奴が去った後を見つめ、ワシは思わず笑みをこぼす。
 
 ふふ、面白い。面白いのう。
 あやつはやはり儂の後を継ぐにふさわしい。
 うつけの振る舞いも、周りを欺くためであったのやもしれぬな。

 情報を止めろ、か。
 あやつも今の尾張の不安定な状況を考え、色々と思案しているのだろう。
 折角息子が周りを油断させ身を守ろうとしておるのだ。
 ワシも一肌脱いでやるとしようかの。


織田弾正忠信秀 信仰度
 青 20P→30P  白 0P
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。 賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!? フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。 タイトル変えました。 旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~ ※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。 あまりシリアスにするつもりもありません。 またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。 感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。 よろしくお願いします。 想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。 ※カクヨムさんでも連載はじめました。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

異世界に転生したら風俗商会の女主になっていた!?

堕ちた勇者
ファンタジー
始めに書いときます、性転換系小説です! どこにでもいる普通の独身サラリーマンの琥太郎、36歳。ある日同期とキャバクラに行く事になり、楽しんだ。 しかし帰りに交通事故で死亡…………… 目が覚めたら、見たことのない部屋に座っていた。 今後の参考にしたいので、感想やご指摘お待ちしております♪ バンバン返事しますよ!! また、知り合いの絵師さんに描いて頂いた表紙に使わせて頂いてます!

中の御所奮闘記~大賢者が異世界転生

小狐丸
ファンタジー
 高校の歴史教師だった男が、生徒達と異世界召喚されてしまう。だが、彼は生徒達の巻き添え召喚だった。それでも勇者である生徒をサポートする為、彼は奮闘する。異世界を生き抜き、やがて大賢者と呼ばれる様になった男は、大往生で寿命を終える。日本に帰ることを最後まで夢みて。  次に男が目を覚ますと、彼は日本で赤ちゃんとして生まれ変わっていた。ただ平成日本ではなく、天文年間であったが…… ※作者の創作を多分に含みます。史実を忠実に描いている訳ではありません。

僕の従魔は恐ろしく強いようです。

緋沙下
ファンタジー
僕は生まれつき体が弱かった。物心ついた頃から僕の世界は病院の中の一室だった。 僕は治ることなく亡くなってしまった。 心配だったのは、いつも明るく無理をして笑うお母さん達の事だった。 そんな僕に、弟と妹を授ける代わりに別の世界に行って見ないか?という提案がもたらされた。 そこで勇者になるわけでもなく、強いステータスも持たない僕が出会った従魔の女の子 処女作なのでご迷惑かける場面が多数存在するかもしれません。気になる点はご報告いただければ幸いです。 --------------------------------------------------------------------------------------- プロローグと小説の内容を一部変更いたしました。

処理中です...