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1章
Side 信秀
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1544年 那古野城 織田弾正忠信秀
昨日、吉法師が松の木から落ちたと知らせがあった。
併せて、空が雷でも落ちたかの様に激しく光ったとの知らせもあったが、ワシはまたいつものうつけ事かと高をくくって放置していた。
しかししばらくしても目を覚まさないと平手が騒ぎ出し、慌てて医者を呼ぶこととなった。
医者が言うには特に異常はないとのことでひとまず安心はしたものの、この時は流石のワシも肝を冷やしたわい。
吉法師は織田家の嫡男として産まれた。
幼いころから眼力が強く、こちらを見透かすような目をしていた。
言葉を話すのも他の子よりも早く、優秀な後継を得たと安心したもんじゃ。
しかしある時期を過ぎたころから、武家にあるまじき行動をとるようになってしもうた。
他家の2男や3男など、後継と関係の無い者を集め、川で遊んだり相撲をとったりとやりたい放題。
仕舞には尾張の大うつけなどと呼ばれる始末じゃ。
最近はワシの所にもほとんど顔を出さず、悪い噂ばかりが耳に入りワシも頭を悩ませていた。
周りの家臣や正妻である土田御前は、吉法師を廃嫡し、弟である勘十郎を次期当主にとワシに迫って来てくる始末。
そして此度の転落騒動じゃ。
ワシもいよいよ吉法師の廃嫡を決断せねばならぬのかと頭を抱えていた。
無事に奴が目を覚ましたとの知らせが入った時は、思わず胸を撫で降ろしたわい。
しかし此度の事で、後継について改めてきちんと考えねばならんと痛感させられた。
ワシは吉法師を見極めるため、ワシの所へと呼び出すことにした。
「オヤジ、入るぞ」
久しぶりに奴の顔をみて、ワシは驚いた。
幼いころと同じ澄んだ目をしており、少し輝いてすら見える。
うつけなどとは程遠いではないか。
「きたか。どうだ体調は」
「あぁ、問題ない。少し頭を打っただけだ」
丸一日目を覚まさず、何が少しだ。
心配したこちらの気持ちにもなれ。
「そうか。平手が騒いでおったが問題ないのであればよい。これに懲りたら少しは嫡男としての自覚を持て」
「自覚はあるぞ。が、態度を改める気はない」
真っすぐな目でこちらを見つめてくる。
こちらが気を緩めれば、飲み込まれてしまいそうな目をしておるわ。
ふふ、これのどこがうつけなのだ。
やはり、虎の子は虎と言う事か。
「ふん、まぁよい。この城の主はお前だ。好きにしろ」
「あぁ、ありがとう。これから色々と動くつもりだ。が、出来るだけ外に情報を漏らしたくない。オヤジに知らせがいっても、そこで止めておいてくれ」
色々と動く、か。
今まで散々好き勝手してきただろうに。
それをわざわざワシに伝えてきたと言う事は、何か本格的に動き出すと言う事か?
「……」
ワシはじっと吉法師の目を睨みつける。
「ん?」
しかしワシの視線を受けても、奴は何でもないように受け流す。
「いや、なんでもないわ。いいだろう。情報はこちらで上手くやっておく。好きにしろ」
「……あぁ」
何か思う所があったのか、少し納得しない表情をしつつ、奴は部屋を下がっていった。
奴が去った後を見つめ、ワシは思わず笑みをこぼす。
ふふ、面白い。面白いのう。
あやつはやはり儂の後を継ぐにふさわしい。
うつけの振る舞いも、周りを欺くためであったのやもしれぬな。
情報を止めろ、か。
あやつも今の尾張の不安定な状況を考え、色々と思案しているのだろう。
折角息子が周りを油断させ身を守ろうとしておるのだ。
ワシも一肌脱いでやるとしようかの。
織田弾正忠信秀 信仰度
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昨日、吉法師が松の木から落ちたと知らせがあった。
併せて、空が雷でも落ちたかの様に激しく光ったとの知らせもあったが、ワシはまたいつものうつけ事かと高をくくって放置していた。
しかししばらくしても目を覚まさないと平手が騒ぎ出し、慌てて医者を呼ぶこととなった。
医者が言うには特に異常はないとのことでひとまず安心はしたものの、この時は流石のワシも肝を冷やしたわい。
吉法師は織田家の嫡男として産まれた。
幼いころから眼力が強く、こちらを見透かすような目をしていた。
言葉を話すのも他の子よりも早く、優秀な後継を得たと安心したもんじゃ。
しかしある時期を過ぎたころから、武家にあるまじき行動をとるようになってしもうた。
他家の2男や3男など、後継と関係の無い者を集め、川で遊んだり相撲をとったりとやりたい放題。
仕舞には尾張の大うつけなどと呼ばれる始末じゃ。
最近はワシの所にもほとんど顔を出さず、悪い噂ばかりが耳に入りワシも頭を悩ませていた。
周りの家臣や正妻である土田御前は、吉法師を廃嫡し、弟である勘十郎を次期当主にとワシに迫って来てくる始末。
そして此度の転落騒動じゃ。
ワシもいよいよ吉法師の廃嫡を決断せねばならぬのかと頭を抱えていた。
無事に奴が目を覚ましたとの知らせが入った時は、思わず胸を撫で降ろしたわい。
しかし此度の事で、後継について改めてきちんと考えねばならんと痛感させられた。
ワシは吉法師を見極めるため、ワシの所へと呼び出すことにした。
「オヤジ、入るぞ」
久しぶりに奴の顔をみて、ワシは驚いた。
幼いころと同じ澄んだ目をしており、少し輝いてすら見える。
うつけなどとは程遠いではないか。
「きたか。どうだ体調は」
「あぁ、問題ない。少し頭を打っただけだ」
丸一日目を覚まさず、何が少しだ。
心配したこちらの気持ちにもなれ。
「そうか。平手が騒いでおったが問題ないのであればよい。これに懲りたら少しは嫡男としての自覚を持て」
「自覚はあるぞ。が、態度を改める気はない」
真っすぐな目でこちらを見つめてくる。
こちらが気を緩めれば、飲み込まれてしまいそうな目をしておるわ。
ふふ、これのどこがうつけなのだ。
やはり、虎の子は虎と言う事か。
「ふん、まぁよい。この城の主はお前だ。好きにしろ」
「あぁ、ありがとう。これから色々と動くつもりだ。が、出来るだけ外に情報を漏らしたくない。オヤジに知らせがいっても、そこで止めておいてくれ」
色々と動く、か。
今まで散々好き勝手してきただろうに。
それをわざわざワシに伝えてきたと言う事は、何か本格的に動き出すと言う事か?
「……」
ワシはじっと吉法師の目を睨みつける。
「ん?」
しかしワシの視線を受けても、奴は何でもないように受け流す。
「いや、なんでもないわ。いいだろう。情報はこちらで上手くやっておく。好きにしろ」
「……あぁ」
何か思う所があったのか、少し納得しない表情をしつつ、奴は部屋を下がっていった。
奴が去った後を見つめ、ワシは思わず笑みをこぼす。
ふふ、面白い。面白いのう。
あやつはやはり儂の後を継ぐにふさわしい。
うつけの振る舞いも、周りを欺くためであったのやもしれぬな。
情報を止めろ、か。
あやつも今の尾張の不安定な状況を考え、色々と思案しているのだろう。
折角息子が周りを油断させ身を守ろうとしておるのだ。
ワシも一肌脱いでやるとしようかの。
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