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第7章「騎士籍、復活!」
第75話「助けの求め方なんて、どうやったらわかるのよ!?」
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(UnsplashのKirill Balobanovが撮影)
ロウ=レイの瞳から、ぶわっと涙が出てきた。
自分がなぜ泣いているのか、わからない。
はじめて任せられた部下たち(ど素人の集団だが)に見捨てられて悔しいからか。
アデムの役に立とうと張り切ったのに、なにもかも空回りだからか。
あるいは。
そもそものはじめとして、ろくに恋愛経験もなく、ザロ伯に手玉に取られて
いいように利用されまくったことが、悲しいのか。
ありとあらゆるものが、牙をむいてロウ=レイに襲い掛かってくるようだった。
ぺたり、と街道の石畳に座り込む。
「なんで……なんでこうなっちゃったの。全部あたしのせいだ。
いつだって後ろも見ずに突っ込んでいくから。
ちゃんと周りを見て、助けを求めようとしないから、
こんなことになっちゃったんだわ。
だけど……」
ほろほろと泣きながら、ロウ=レイは叫んだ。
「だけど、助けの求め方なんて、どうやったらわかるのよ!?
これまで、いつだって一人だったのに!!!」
ごうごうと、涙があふれてくる。
蒼天のもと、ロウ=レイははじめて、ただの19歳の少女に戻って号泣した。
「たすけて、アデム様! 助けて、大ガラス様!
……たすけてよ、クルティカ!!!」
そのとき、ぽつん、と一滴の雨が落ちてきた。蒼天の果てに黒い雲が湧いている。
雲はすさまじい速さで押し寄せてきて、一陣の風を叩きつけた。
雲は天から駆けくだり、ホツェル街道にたつ男たちとロウ=レイを取り囲んだ。
「……なにこれ。ただの雨……じゃない」
ロウは思わずレイピアをかまえた。
黒々とした雨つぶ相手に刃が役に立つとは思えないが、
騎士であるロウ=レイには、鋼の武器以外に頼れるものは無い。
「何か来る……ろくでもないものが……
『アデム親衛隊』! 全員、ただちに退避せよ!」
ロウがそう叫んでも、素人集団である『親衛隊』の面々は、口を開けて
次第に勢いを増す雨と風を見上げるばかり。
「なんだなんだ、なんだこりゃ?」
「この雨つぶ、当たると痛えぞ!」
「はああ? 不思議だなあ……あちっ、あちちっ! びりびりするぞ!」
ロウ=レイは叫んだ。
「『アデム親衛隊』、直ちに退避を……っていうか、
もう間に合わない気がするから!
とにかく全員、メタゼ樹の後ろに隠れて!」
宿『青猪』のあるじがのんきそうに大声で、
「ほーい。逃げるよ。あんたも来い、ねえちゃん?」
ロウはレイピアを構えたまますっくとたち、短く答えた。
「いいえ。これは普通の雨じゃない。何かあるわ。
だから」
「だから?」
「邪悪なものかもしれない、となれば、一歩も引けない。
相手が邪悪だろうと、あやかしだろうと、
騎士たるもの、人々を守護するのが使命ですっ!!」
「おおおお、ねえちゃん、かっこいい! けど、あぶない!
この雨つぶ、あたるとビリビリするぞ!」
「ええ、そうみたいですね……」
そう言うとロウ=レイは、にやりと背後の男たちに笑いかけた。
「だが、私は蒼天騎士。蒼天騎士は、つねに雲の上にあるべし! !!
そう叫んだ時、ひときわ凶悪な雨つぶと風が、ロウの小さな身体に襲い掛かった。
ぐらり、とロウの身体がかたむく。
……ここまでか……!
脳裏にあざやかに浮かぶのは。
常に頼りになった、幼なじみの騎士、クルティカのあざやかな姿。
「クルティカ! あんただけでも生き延びて、古龍の呪詛に打ち勝って……!」
そのとき暴風に乗って、ゆらゆらとゆらめく不思議な乙女たちの姿が浮かび上がった。
薄青い衣を身に着け、軽やかに踊る乙女たちは、口々に歌を口ずさんでいる。
、
『われら……たゆたえども……沈まず、
団結が、汝を呼び出す………。
ない……まだ。
呼び出されない、まだ。
もうすぐ。
もうすぐ。
双頭の龍は、呼び出される……』
乙女たちはゆるゆると踊りつづけながら、少しずつ黒天へのぼってゆく。
『もうすぐ。
もうすぐ。
約束されたときは、くる。
もうすぐ。
双頭の龍は、護り手に、言葉をさずける。
フルクトゥト・ネック・メネギット
ヴィト・ユニ・フォルティオ』
「……ふる?」
しだいに弱くなっていく雨と風に乗り、乙女たちはのぼりつづける。
不思議な声も、少しずつ薄れていく。
『フルクトゥト・ネック・メネギット
ヴィト・ユニ・フォルティオ
……早く覚えて、このスカタン……』
「スカタンっ!? って、それ、あたしの事!?」
ロウ=レイがレイピアを振りまわして怒鳴ると、列の最後にいた乙女がかすかに振りかえった。
彼女は金と銀の両目をきらめかせて、にこりと笑う。
『フルクトゥト・ネック・メネギット
ヴィト・ユニ・フォルティオ。
三度いったわ。これで覚えてね。
まっている。
まっている。
団結だけが、私を呼びだす……』
すうううっと、雨がやむ。風が止まる。
あとには、ずぶぬれの『アデム親衛隊』と、レイピアを持ったままのロウ=レイが、
取り残されていた。
ロウ=レイの瞳から、ぶわっと涙が出てきた。
自分がなぜ泣いているのか、わからない。
はじめて任せられた部下たち(ど素人の集団だが)に見捨てられて悔しいからか。
アデムの役に立とうと張り切ったのに、なにもかも空回りだからか。
あるいは。
そもそものはじめとして、ろくに恋愛経験もなく、ザロ伯に手玉に取られて
いいように利用されまくったことが、悲しいのか。
ありとあらゆるものが、牙をむいてロウ=レイに襲い掛かってくるようだった。
ぺたり、と街道の石畳に座り込む。
「なんで……なんでこうなっちゃったの。全部あたしのせいだ。
いつだって後ろも見ずに突っ込んでいくから。
ちゃんと周りを見て、助けを求めようとしないから、
こんなことになっちゃったんだわ。
だけど……」
ほろほろと泣きながら、ロウ=レイは叫んだ。
「だけど、助けの求め方なんて、どうやったらわかるのよ!?
これまで、いつだって一人だったのに!!!」
ごうごうと、涙があふれてくる。
蒼天のもと、ロウ=レイははじめて、ただの19歳の少女に戻って号泣した。
「たすけて、アデム様! 助けて、大ガラス様!
……たすけてよ、クルティカ!!!」
そのとき、ぽつん、と一滴の雨が落ちてきた。蒼天の果てに黒い雲が湧いている。
雲はすさまじい速さで押し寄せてきて、一陣の風を叩きつけた。
雲は天から駆けくだり、ホツェル街道にたつ男たちとロウ=レイを取り囲んだ。
「……なにこれ。ただの雨……じゃない」
ロウは思わずレイピアをかまえた。
黒々とした雨つぶ相手に刃が役に立つとは思えないが、
騎士であるロウ=レイには、鋼の武器以外に頼れるものは無い。
「何か来る……ろくでもないものが……
『アデム親衛隊』! 全員、ただちに退避せよ!」
ロウがそう叫んでも、素人集団である『親衛隊』の面々は、口を開けて
次第に勢いを増す雨と風を見上げるばかり。
「なんだなんだ、なんだこりゃ?」
「この雨つぶ、当たると痛えぞ!」
「はああ? 不思議だなあ……あちっ、あちちっ! びりびりするぞ!」
ロウ=レイは叫んだ。
「『アデム親衛隊』、直ちに退避を……っていうか、
もう間に合わない気がするから!
とにかく全員、メタゼ樹の後ろに隠れて!」
宿『青猪』のあるじがのんきそうに大声で、
「ほーい。逃げるよ。あんたも来い、ねえちゃん?」
ロウはレイピアを構えたまますっくとたち、短く答えた。
「いいえ。これは普通の雨じゃない。何かあるわ。
だから」
「だから?」
「邪悪なものかもしれない、となれば、一歩も引けない。
相手が邪悪だろうと、あやかしだろうと、
騎士たるもの、人々を守護するのが使命ですっ!!」
「おおおお、ねえちゃん、かっこいい! けど、あぶない!
この雨つぶ、あたるとビリビリするぞ!」
「ええ、そうみたいですね……」
そう言うとロウ=レイは、にやりと背後の男たちに笑いかけた。
「だが、私は蒼天騎士。蒼天騎士は、つねに雲の上にあるべし! !!
そう叫んだ時、ひときわ凶悪な雨つぶと風が、ロウの小さな身体に襲い掛かった。
ぐらり、とロウの身体がかたむく。
……ここまでか……!
脳裏にあざやかに浮かぶのは。
常に頼りになった、幼なじみの騎士、クルティカのあざやかな姿。
「クルティカ! あんただけでも生き延びて、古龍の呪詛に打ち勝って……!」
そのとき暴風に乗って、ゆらゆらとゆらめく不思議な乙女たちの姿が浮かび上がった。
薄青い衣を身に着け、軽やかに踊る乙女たちは、口々に歌を口ずさんでいる。
、
『われら……たゆたえども……沈まず、
団結が、汝を呼び出す………。
ない……まだ。
呼び出されない、まだ。
もうすぐ。
もうすぐ。
双頭の龍は、呼び出される……』
乙女たちはゆるゆると踊りつづけながら、少しずつ黒天へのぼってゆく。
『もうすぐ。
もうすぐ。
約束されたときは、くる。
もうすぐ。
双頭の龍は、護り手に、言葉をさずける。
フルクトゥト・ネック・メネギット
ヴィト・ユニ・フォルティオ』
「……ふる?」
しだいに弱くなっていく雨と風に乗り、乙女たちはのぼりつづける。
不思議な声も、少しずつ薄れていく。
『フルクトゥト・ネック・メネギット
ヴィト・ユニ・フォルティオ
……早く覚えて、このスカタン……』
「スカタンっ!? って、それ、あたしの事!?」
ロウ=レイがレイピアを振りまわして怒鳴ると、列の最後にいた乙女がかすかに振りかえった。
彼女は金と銀の両目をきらめかせて、にこりと笑う。
『フルクトゥト・ネック・メネギット
ヴィト・ユニ・フォルティオ。
三度いったわ。これで覚えてね。
まっている。
まっている。
団結だけが、私を呼びだす……』
すうううっと、雨がやむ。風が止まる。
あとには、ずぶぬれの『アデム親衛隊』と、レイピアを持ったままのロウ=レイが、
取り残されていた。
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