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第4章「『二頭のクマ亭~ クマとシカ!?』」
第44話「一番弟子」
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(UnsplashのAli Karimiboroujeniが撮影)
女に、クルティカの繰り出した箒の柄が当たった、と思った瞬間に、うしろへ100タールほど飛び下がった。
素早い動きだ。
よく訓練された動き……。
クルティカは動きをとめずに、次の攻撃を仕掛けた。
最初はこめかみ、次は胸元、鎖骨のあたりを狙うのが定石だ。
運が良ければ鎖骨を砕ける……ただのほうきの柄ではない。
史上最年少で蒼天騎士になったクルティカの突き技だ。たやすく避けられるはずがない。
だが。
深紅の女は軽々とよけた。
後ろに飛びすさり、酒場を出る。同時に屋根へ高々と飛んだ。
「なにっ!?」
追い詰めたはずのクルティカが、驚いて叫んだ。すぐ後ろを、金茶色のモフモフ仔グマが、ぽてぽてとついてきた。
「ここから、屋根まで飛んだ……? まさか、驚異的な跳躍力だな……」
「えらいもんを連れて来たなあ、お前」
仔グマは、星空を見上げながら言った。
「ありゃ、ただもんじゃねえぞ」
「そうですね……強力な『双方向目くらまし』を使い、おれの攻撃も避けた……
何者でしょうか」
「ナニモノって、そりゃあよ……」
バイ・ベアはニヤリとした。愛らしい仔グマのぬいぐるみが、邪悪な笑いをうかべるのとクルティカは初めて見た。
「まちがいない……89、64、84」
「なんですか……呪文ですか?」
クルティカは小声で尋ねた。仔グマは重々しくうなずく。
「64……のうち短剣の厚みを抜いたら、59ってとこか」
「短剣?」
「左の横腹に短剣をはさんでいた。だから、59」
「……なにが?」
「おっぱい、腰回り、おーしーりの数値ー💛」
ぴょん、と仔グマは飛び跳ねて踊りだした。
「いっやああ、えらい傑物だぜ、あの女。
あんないい物件、久しぶりに見たなああ!
クルティカ!」
「……はあ」
「で・か・し・たっ! お前、今日から俺の一番弟子を名乗っていいぞ💛」
「名乗りませんよっ! 真剣に聞いて、損をしましたっ!」
「またまたああ。意外と恥ずかしがり屋さんだな、俺の弟子は」
「だから、勝手に弟子にしないでくださいっ!」
ほてほてと踊って酒場へ戻る仔グマの後をついて行きつつ、クルティカは思った。
あの訓練された動き。防御の完璧さ、術の高さ。
まちがいない。深紅の髪の女は、王都から追放されたクルティカとロウ=レイを尾行し、
襲ってきた黒衣の集団の一人だ。
「いったい、誰がおれたちをそんなに狙っているんだ……?」
心当たりは、あるようで、ない。
が。
ないようで、やはり、ある。
クルティカの脳裏にはひとりの男が浮かんでいた。
ザロ辺境伯。
ロウ=レイをだまし、リデルの妹を踏み台にして黄雲騎士になろうとしている男。
この『西の町城』の城主にして、ホツェル王国いちの美少女であるトーヴ姫を妻にしようとしている男。
クルティカの知る限り、史上最低の辺境伯だ。
だが、なぜザロ伯がこれほどしつこく狙ってくるのか……。その理由は分らない。
「ティカ」
「……ロウ?」
酒場の前で立っているのは、ロウ=レイだ。
ロウはいきなり飛びついてくると、クルティカの耳をぎゅうぎゅうと引っ張り始めた。
「うわ、痛! なんなんだよ、ロウ!?」
「聞きたいのはこっちよ! あの赤毛は何よ?? 何なのよ!?」
「街道で知り合ったんだって……いたた……ちょ、おまえ本気で首絞めに来てるだろ……」
「あんた相手に、全力以外で挑むと思う!? 信じらんないわ、あの女とキスしたんですって!」
「なんで……しってる……?」
「リデルが洗いざらい吐いたわよ!」
「あの……バカ龍……」
「もう龍じゃないわ、人間に戻って、ドカバカ食べまくっているわよ!」
ロウ=レイに首をしめられつつ、クルティカは思った。
ザロ伯がおれたちを殺したがる理由を、探り出そう。
きっと、そこにはなにか大きな理由があるはずだ。単純にクルティカとロウ=レイを抹殺したい、という以外の理由が……。
どうでもいいが。
後ろから首を絞めに来るロウ=レイの胸は、『西の町城』に来てから一段と成長したようだ。
……ふるふるふる……ふるん❦
クルティカの鼻から、つうううと一筋、鼻血がおちていった……。
女に、クルティカの繰り出した箒の柄が当たった、と思った瞬間に、うしろへ100タールほど飛び下がった。
素早い動きだ。
よく訓練された動き……。
クルティカは動きをとめずに、次の攻撃を仕掛けた。
最初はこめかみ、次は胸元、鎖骨のあたりを狙うのが定石だ。
運が良ければ鎖骨を砕ける……ただのほうきの柄ではない。
史上最年少で蒼天騎士になったクルティカの突き技だ。たやすく避けられるはずがない。
だが。
深紅の女は軽々とよけた。
後ろに飛びすさり、酒場を出る。同時に屋根へ高々と飛んだ。
「なにっ!?」
追い詰めたはずのクルティカが、驚いて叫んだ。すぐ後ろを、金茶色のモフモフ仔グマが、ぽてぽてとついてきた。
「ここから、屋根まで飛んだ……? まさか、驚異的な跳躍力だな……」
「えらいもんを連れて来たなあ、お前」
仔グマは、星空を見上げながら言った。
「ありゃ、ただもんじゃねえぞ」
「そうですね……強力な『双方向目くらまし』を使い、おれの攻撃も避けた……
何者でしょうか」
「ナニモノって、そりゃあよ……」
バイ・ベアはニヤリとした。愛らしい仔グマのぬいぐるみが、邪悪な笑いをうかべるのとクルティカは初めて見た。
「まちがいない……89、64、84」
「なんですか……呪文ですか?」
クルティカは小声で尋ねた。仔グマは重々しくうなずく。
「64……のうち短剣の厚みを抜いたら、59ってとこか」
「短剣?」
「左の横腹に短剣をはさんでいた。だから、59」
「……なにが?」
「おっぱい、腰回り、おーしーりの数値ー💛」
ぴょん、と仔グマは飛び跳ねて踊りだした。
「いっやああ、えらい傑物だぜ、あの女。
あんないい物件、久しぶりに見たなああ!
クルティカ!」
「……はあ」
「で・か・し・たっ! お前、今日から俺の一番弟子を名乗っていいぞ💛」
「名乗りませんよっ! 真剣に聞いて、損をしましたっ!」
「またまたああ。意外と恥ずかしがり屋さんだな、俺の弟子は」
「だから、勝手に弟子にしないでくださいっ!」
ほてほてと踊って酒場へ戻る仔グマの後をついて行きつつ、クルティカは思った。
あの訓練された動き。防御の完璧さ、術の高さ。
まちがいない。深紅の髪の女は、王都から追放されたクルティカとロウ=レイを尾行し、
襲ってきた黒衣の集団の一人だ。
「いったい、誰がおれたちをそんなに狙っているんだ……?」
心当たりは、あるようで、ない。
が。
ないようで、やはり、ある。
クルティカの脳裏にはひとりの男が浮かんでいた。
ザロ辺境伯。
ロウ=レイをだまし、リデルの妹を踏み台にして黄雲騎士になろうとしている男。
この『西の町城』の城主にして、ホツェル王国いちの美少女であるトーヴ姫を妻にしようとしている男。
クルティカの知る限り、史上最低の辺境伯だ。
だが、なぜザロ伯がこれほどしつこく狙ってくるのか……。その理由は分らない。
「ティカ」
「……ロウ?」
酒場の前で立っているのは、ロウ=レイだ。
ロウはいきなり飛びついてくると、クルティカの耳をぎゅうぎゅうと引っ張り始めた。
「うわ、痛! なんなんだよ、ロウ!?」
「聞きたいのはこっちよ! あの赤毛は何よ?? 何なのよ!?」
「街道で知り合ったんだって……いたた……ちょ、おまえ本気で首絞めに来てるだろ……」
「あんた相手に、全力以外で挑むと思う!? 信じらんないわ、あの女とキスしたんですって!」
「なんで……しってる……?」
「リデルが洗いざらい吐いたわよ!」
「あの……バカ龍……」
「もう龍じゃないわ、人間に戻って、ドカバカ食べまくっているわよ!」
ロウ=レイに首をしめられつつ、クルティカは思った。
ザロ伯がおれたちを殺したがる理由を、探り出そう。
きっと、そこにはなにか大きな理由があるはずだ。単純にクルティカとロウ=レイを抹殺したい、という以外の理由が……。
どうでもいいが。
後ろから首を絞めに来るロウ=レイの胸は、『西の町城』に来てから一段と成長したようだ。
……ふるふるふる……ふるん❦
クルティカの鼻から、つうううと一筋、鼻血がおちていった……。
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