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第一印象 2

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「その事件はある日突然起こった! 火喰い鳥という魔獣が近くの森に墜落し町は炎に包まれる!」

 そんな語り口で人形劇は始まった。

 火喰い鳥は、その名の通り炎を喰らう魔獣だ。

 何処かで大量の炎を食べた後だったのだろう。動きが鈍くなった所を他の魔獣に襲われたのか、他に理由があったのか、火喰い鳥は森の中に墜落した。

 そうして悲劇は起こる。

 火喰い鳥の中に溜め込んだ炎は一気に解き放たれ、噴出した。

 火山の噴火のように吹き上がる炎は周囲にあふれ森を焼き、この町にも押し寄せたのだ。

 紅蓮に染まる空に、燃える町。

 突然降って湧いた災害に、町は混乱の極みに達していた。

 逃げ惑う人々。飛び交う悲鳴。

 しかし無常にも炎の勢いは収まらない。

 誰もがこの町はもう終わりだとあきらめていた。

「きゃあああ!」

 町中に取り残された少女の鳴き声が木霊する。

 炎の津波は無慈悲に町ごと少女を飲み込まんとせまったが、その炎を吹き散らしたのは一人の魔法使いだった。

 颯爽と現れた魔法使い。

 神がかったことをあっさりとやってのけ、彼はすまし顔で火の粉の中に立っていた。

「大丈夫かな? お嬢さん?」

「……は、はい」

 立ちすくむ少女をその背にかばい、彼はその精悍な顔つきを悲しげに歪め、炎を静かに見つめる。

「ひどい物だ……。仕方がない。少し離れているんだ」

 燃え上がる炎にもひるまない魔法使いに少女は涙を浮かべて訴えた。

「危険です! 何とかここから逃げる方法を探さなければ!」

 しかし魔法使いは微笑を浮かべてばさりとマントを翻し、少女にささやきかけたのだ。

「大丈夫。待っていなさい。この炎、俺が何とかして見せよう」

 そして少女は奇跡を見た。

 魔法使いの手に魔力が溢れ、炎が光り輝いた。

「あぁ……」

 涙を流す少女の前には、もはや荒れ狂う炎はない。

 炎はすべて、赤い石に姿を変えて少女の周りに煌いている。

 呆けている少女に魔法使いはそっとささやく。

「これで、大丈夫だ。町の人々にも伝えてあげなさい」

 優しく魔法使いから手を取られたこの瞬間少女は確信した。

 彼はこの町を救うために女神レイナ様が使わした奇跡なのだと。

 一心に祈りを捧げる少女に、魔法使いはさわやかな微笑を浮かべていた。



 話は終わり、思っていた以上の拍手が上がる。

「いいぞ!」

「はーかっこいいなー」

 人形劇の受けはいい。

 町を救った英雄の話はどうやら町で大人気のようだった。

 だがしかし、私はどうにも砂を噛むというか、私の中のタローとのズレに違和感を覚えた。

「颯爽と現れたか。なるほど……」

 せっかくだから熱心に拍手をしているエルエルにも聴いてみた。

「太郎っぽかった?」

「いいえ・一見すると別人です」

「……でもこんなことできるのは太郎しかいないだろうな」

「はい・そうだと思われます」

 結局そういった結論に落ち着くわけだが、それもそれでどうかと思う。

 だから私は、人形劇のお姉さんを呼び止めて尋ねてみる事にした。

「あのーすみません。少しお話を伺っても?」

「はいはい。何でしょう?」

 劇が終わり、観衆がはけてきた頃を見計らって話しかけると、お姉さんはにこやかに私達に振り返る。

 振り返った人形遣いはとても綺麗なお姉さんだ。

 彼女はチューリップハットに隠された蜂蜜色の前髪の奥から、きょとんとこちらに視線を向けている。

「このお話に出てきた魔法使いについて聞きたいんですけど。実話だったりするんですか?」

 そう尋ねると、お姉さんの目はきらりと輝いて、前のめり気味に顔を寄せてきた。

「もちろん! 実話ですとも! この町の赤い石がその証拠なんですよ!」

「……は、はぁ」

 自分で聞いておいてなんだが、迫力に押された。

 向こうも興奮しすぎたことに気が付いたのか、コホンとせきばらいして仕切りなおした。

「おっとすみません。この話をする時はつい熱が入ってしまって。私も実はお話の火災から助けてもらった一人なんです」

「そうなんですか」

「はい。本当に突然でしたから。あの時は絶対死んだと思いました」

 なるほど、確かに命を助けてもらった相手のことなら、ある程度興奮するのも仕方がないのかもしれない。

 あははと笑うお姉さんだが、相当にまずい事態だったのは間違いなさそうである。

「それで、その魔法使いの特徴なんですが。黒いマントに、片手剣を持っていて、癖のある黒髪で間違いないですか?」

 ならばその魔法使いが太郎であることも確かめてしまおうと私は特徴を並べてみる。するとお姉さんはさっき以上にがぶりよりだった。

「貴女! あの方のことを何か知っているんですか!」

「ち、近いです」

「ああ! ゴメンナサイ! でもどうなんです!」

 まったく距離を離す気のないお姉さんに私は搾り出すように言った。

「ええ、まぁ知人ですが……」

「そうなんですか! ぜひ我が家に! 詳しくお話を伺いたい!」

 いきなり家に誘われてしまったわけだが、この際都合がいいといえば都合がいい。

 人形劇をやるくらいなのだから、件の魔法使いについて、彼女はある程度詳しいのだろう。

「えーっと。はい……予想外だ」

「ちょうど・よいのでは?」

「そうなんだけど」

 そうなんだけど……なんだかいやな予感がする。

 私は口の中だけで呟いた。
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