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連載

セーラー服の戦士

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 天宮 マガリは白状する。

 今私は、少し後悔している。

 ちょっとした相談をするつもりで話しかけた相手にこう切り返されたからだ。

「ん? モデルになりたいのか? すまないが、正規の手続きを踏んで、オーディションを受けてくれないか? どうしてもと言うのなら、他ならぬそなたほどの逸材だ。妾のコネでねじ込む事も出来ようが?」

「いえ、そう言う事ではないんですけど……」

「違うのか?」

 なんでこの人に相談しようと思ったのか自問自答している私がいた。

 だがしかし太郎の事をよく知っていて、人生経験が豊富、なおかつ女性の知り合いという条件で思いつくのは女王様しかいなかった。

 そう、いなかった……と思うのだけれど。

 迷いを振り払い、私は相談事を打ち開けた。

「実は……太郎についてなんですけど。なんとなく最近視線が変だなぁと」

 私にとっての悩みの種、それは太郎についてだった。

 女王様はピクリと片眉を上げ、席を立つ。

「ふぅ……しばし待て」

「?」

 怒らせてしまったかと不安になったが、女王様はどこからか、ティーポットとお茶菓子のクッキーを持って来て、テーブルの上に置いた。

 そして両肘をついてドンと構えた女王様は、冷静な口調のままキラリと目を輝かせた。

「ん? それはまた面白そうな話ではあるな」

 ものすごく食いついた。いや……とてもありがたい事なんだけれども。

「え、えーっと」

「ではまず、ファッションチェックからだな? しかしなんだその格好は?」

「え? えっと、変ですか?」

 いきなりそんな事を指摘されれば私だって気にはなる。

 今日はジーンズにピンクのパーカーだが、女王様的にはまったく気に入らないらしい。

「ああ、大いにな。実用性重視すぎる。異性の目を気にするのならもっと肌を出して行かんか。色香とは肌色から出るものだぞ?」

「そのチェック、乱暴すぎません? それに視線は気になるとは言いましたが……」

「健全な人間の男ならば女が視界を横切れば目が行くものだ。それが美しければなおさらだろう? だがスペックに胡坐をかいていては自ずと限度というものがあるのだからな?」

「だから……そう言う話ではなく」

「なんだ? 違うのか?」

 女王様はようやく話に戻ってきてくれるが、私の言い方が悪かったせいで少し趣旨がずれてしまったようだ。

「ええっと変な意味ではなくてですね。なんというか、含みがあると言うか、未練がましいと言うか。うまく言えないんですけど……確実にネガティブな視線を感じるんです」

「そっちの方がよっぽど変だろう」

「まぁそうなんですが」

 要約すると、ふとした時に私を見ている太郎の視線が気になると言う話なんだ。

 言葉を濁す私に女王様は不可解そうな顔だが、それでもしばし考えて、何かを思いついたように楽しげな表情になる。

「ふむ、視線が気になると言うのなら、ちょっと待っておれ。いい物があった」

「いい物ですか?」

「うむ。男の視線を変えたいのだろう?」

「……まぁ、大きな意味で言えばそうなのかな?」

 女王様はどこかにいそいそと姿を消して、今度はにょろにょろと周囲の床からヒマワリの花を生やして現れた。

 花のチョイスから言って、なんとなく機嫌がよさそうだ。

「では、これをお前にやろう。ためしてみるがいい」

 女王様の手のひらに乗っていたのは銀色の小さな指輪だった。

「これは?」

 私が尋ねると、女王様はふふんと笑って、指輪を私に手渡す。

「この指輪は面白いぞ? 簡単に言えば印象を変化させる魔法がかけられている。持っていればタローとて何かしらのリアクションは期待出来るだろう、ひょっとすればそのリアクションからそなたの感じている違和感の正体も見極められるかもしれんな」

「……リアクションって」

 私はもう一度私の手の中にある指輪を眺めて、喉を鳴らす。

 相談をしておいてなんなのだが、心配だ。

「妾とてあ奴の考えなどまるで見当もつかん。まぁ気休めだ、使ってみるのもいいだろう」

「ありがとうございます……」

 私はとにかく頭を下げて礼を言うと、何とも言えない気分で女王様の部屋を出た。

「……ああ、そうそう。ちなみにそのアイテムはタローが作ったものだからな、効果のほどは期待していい」

 ただ、聞き取れないくらいの小声で囁かれた女王様の言葉は、私の耳にはまったく届いていなかった。



 指輪はさすが魔法の品だけあって、指にはめると持ち主の指のサイズに勝手に収まった。

 印象を変えると言う話だったが、漠然としすぎてどんな効果があるのかまるで分らない。

「さて……どうなるかな?」

 何が起こっても驚きが少なくなるように心の準備をしつつ、私がまず行ったのは確認だ。

 女王様のお城には色んなところに姿見が設置されている。

 前はそんな事はなかったけれど、きっと女王様が服装に凝っているからだろう。

 しかし鏡に映った自分の姿を見て、もらった指輪にどんな効果があるのかはすぐにわかった。

「服が変わった? でもなんでドレスなんだろう?」

 私の格好は、いつかシンデレラの一件で着たことがある真っ赤なドレス姿に変わっていたのだ。

 どうやらこの指輪は、付けた人をドレスアップする効果があるらしい。

 私はすっかり変わった自分の格好を見てため息を吐いた。

「要するに、身なりを整えて。印象を変えろって事かな? これはまた随分直接的な……」

 そりゃあ、相手の印象も変わるだろう。何せ見た目がここまで変わっているのだから。

 求めていた物とは違ったが、そもそも女王様に思い当たる所がなかった時点でどうにもならない話だったのだ。

 折角だから太郎にも見せてみて、期待通り、何らかのリアクションがあればいいし、なければそれで終わり。

 肝心の気になる所は、折を見てまた何らかの手段で問いただせばいい。

 結局のところ私の疑問は本人に尋ねて見ないとわからない。それがいやなら、相手の態度から察する他ないのは間違いなかった。

「まぁ、そんなところだよね」

 私は気を取り直して太郎の家に向かう事にした。



 私が太郎の家にたどりつくと、カワズさんが庭先で踊っていた。

 私もカワズさんが中国拳法をやっているらしいとは聞いている。

 カワズさんの動きはすでに何を見るわけでもなく完璧らしく、動きに一切の淀みがなかった。

 ただ上半身裸のカワズさんはますます蛙に見える度合いが上がっていて、なんだか声を掛けづらい。

 ためらっている間にカワズさんの方から私に話しかけて来た。

「おう。来ておったのか、おぬしもなかなか暇じゃのう」

「ハハハ……ついついここの方が勉強なんかもしやすくって。静かだし、気候がいいしね」

 タオルで汗を拭きつつ、休憩を入れるカワズさんは私の咄嗟の返しに、妖精郷を見渡して、したりと頷く。

「ふむ。それもそうか。ここより快適な場所はなかなかなかろうのぅ」

「そうなんですよね。時間もある程度調整が利くっていうのもすごく助かっていて。こっちはズルっぽいけど」

 実際太郎から行き来できるアイテムをもらった今、ここに来るのにそんなに手間はかからない。

 少し手順を踏めばいつでも問題なく、数日くらいなら、うまく時間を調整出来ると言うのも実はすごく助かっていた。

 遅れを取り戻すにしても、リラックスするにしても、余裕が出来るのはプラスになる。

 少し前まで、すべての余裕を奪っていた場所がいざ元の世界に還れるとなるとまったく真逆に感じるのだから、我ながら現金な物だと呆れてしまう。

 カワズさんはズルっぽいと言った私に首を振っていた。

「いや。利点は活用すべきじゃろう。気にせず好きに使えばええわい。……ところでお前さん、今日はいい感じの衣装じゃのぅ。その格好で出歩くのはどうかと思うが」

「あ……そうだった」

 そう言えば私は今、ドレス姿に見えているんだった。

 着心地は、ジーンズとパーカーから変わっていないから、そんなに違和感はなかったけれどそりゃあ変だろう。

「ん、まぁ着る物くらい個人の自由じゃけどな。わしもいらんことを言ったわい」

「いえいえ。私も照れ臭いし。太郎は家にいますか?」

「ん? ああ、中でスケさんと何かしておったが?」

「そうなんだ。じゃあ私はこれで」

「うむ。ゆっくりしていけ」

 ドレスで出歩くなんて確かに恥ずかしい。慌てて私は太郎の家に入る。

 ただ部屋に入る寸前、カワズさんのぼそりと呟いた言葉が耳に入った。

「しかし……アレがチャイナドレスというものか? 普段着でも行けるんじゃろうか? 切れ目が入りすぎじゃろ」

(チャイナドレス?)

 何のことだろう? 一体。



「なんだろうこれ?」

 太郎の家に入ると床に散乱しているのはピンク色の布地だった。

 家のリビングでは、大柄の男の人と太郎が一心不乱に針を動かしている。

 彼らは布地をチクチクと縫い合わせ、一生懸命何か縫っているようだ。

 入って来たこちらに気がついたのだろう、大柄の男の人が作業を続けながらもこちらに話しかけて来た。

 彼は恐らく竜のスケさんだ。何をどう間違ったら竜がピンクの布で裁縫をすることになるのかわからないが、本人は真剣みたいだった。

「ん、お客さんですかな? いやはや散らかしてすいません。少々慣れない作業をしているもので。……この匂いはセーラー戦士殿ですか?」

「おお、ちょっと待ってて、もうちょっとで切がつくから。そしたらお茶でも入れようか」

 太郎も反応は示してくれるものの、顔は上げない。

「男二人で何してるの? なんだか甲斐甲斐しいけど」

 私は好奇心で尋ねてみた。

 どうやら作業は佳境のようだが、何をそんなに必死に作っているのだろう?

 我慢出来ずに覗き込む。

 すると太郎の方には若干余裕があるのか作っている物を教えてくれた。

「あー、あれだよ。新団員用のハッピを作ってるんだ。ここには生地は沢山あるからね」

 そう言ってピンク色の糸をすいすい布に這わせると、それはどんどん服の形になっていった。

 ああなるほど、あのアイドル関係のやつか。

 私も太郎がこちらの世界で元の世界の文化を取り入れようとしているのは少し知っている。

 私も、旅をしていた時は動画を使わせてもらっていたものだ。

 こちらの動画は数が少ないので一際華やかですごく目立つ動画だったが、やはりあの騒ぎにも太郎が一枚噛んでいるらしい。

 そしてどうやら、その騒ぎにはスケさんも巻き込まれているようだ。

 内心、竜なのに人間のアイドルに興味あるのかな? と思ったが、きっと太郎が何かしたんだろうと見当をつけた。

「私一人でやろうと思っていたのですが、タロー殿が見かねて……。いやはや面目ない、しかし団長としてはこれくらいの事、やらないわけにはいきますまい!」

 ……訂正、どうやら彼もこの騒ぎの中心人物みたいだ。

 声を弾ませるスケさんは本当に楽しんでいるみたいで、趣味はこうやって人生を豊かにしていくんだなーとそんな事を考えてみた。

 あまり理解はできないけれど。趣味とはそもそもそう言うものだろう。

「わざわざ手で縫わなくても、魔法を使った方が楽なんじゃないの?」

 話のタネにそう言ってみたが、今度は太郎がこれを否定する。

「数少ないし。これはこれで別に楽しいし? だいたい最近すること多くて、こう言うのに魔力使うくらいなら新しいパソコン作る」

「あぁ。優先順位はそっちが上なんだ」

「それはそうでしょう。あれは魔力がないと出来ないし」

 いや普段からどれだけ魔力を使っているんだよといいたい。

 なにか釈然としなかったけれど、本人が言うのならそうなのだろう。

 作業を邪魔しているようなので黙って完成を見守っていると、数分もしないうちに太郎がハッピを持って立ち上がり、その30秒後くらいにスケさんが完成したようだ。

「はっはっはー。俺の勝ち」

「ぬぬぬ……ハンデ付きだとさすがに悔しい」

 どちらが先に完成させるか勝負をしていたらしい。

 ようやく勝ち誇った笑顔の太郎と渋面のスケさんが顔を上げてお互いに出来上がったハッピを私に見せようと振り返ったが。

 私を見た途端、二人の表情は激変したのだ。

「ぬほ! こいつはいったいどういう事ですか! 何かのハッピーイベントとかですか! ハッピだけに!」

「おお! 今日はセーラー戦士じゃないか! やっぱりいいもんじゃないかセーラー戦士! 最近セーラーでも、戦士でもないから、もうなんだか寂しくって! せっかく確立したキャラなのにもったいないなーって思って見てたんですよ!」

 スケさんは顔を真っ赤にして、一方太郎は頬を桜色にして大興奮だ。

 あまりのテンションの上がりっぷりに、一歩引いてしまったほどだが彼らの発言は耳に残った。

「……え? 何それ?」

「え! 口に出していいんですか! 危険ではないですかね!?」

 特にスケさんの興奮の仕方が尋常ではなく、鼻の穴から真っ赤な炎を吹いている。

 やっぱり竜なんだなと思ったが、なぜそうなったのかまではわからない。

「えっと目が血走ってるんだけど……?」

 戸惑う私は助けを求めて、視線を彷徨わせると、ようやく太郎も何かおかしいと気が付いてくれたらしい。

 太郎は私をざっと見て、指に目を止めた。

「ああこれ幻系? ってこれはまさか……!」

 そう言って私の手を取る。

 もちろん太郎の掴んだ手には、銀色の指輪が光っていた。

「え? これ? えっと……女王様に貸してもらったんだけど」

「!!すまんスケさん!」

 すると慌てて太郎はそこら中に散らかっているピンクの布に魔法をかけて、スケさんの頭から足の先までをミイラのように拘束した。

「ぬおおお! 何事!」

「え! なに!」

 私も突然のことで驚いた。

 もがくミイラの中からスケさんのうめき声が聞こえていたがそれを確認し、太郎はふぅと額の汗をぬぐった。

「やれやれ、すまんなスケさん。緊急措置だ、悪く思うな」

「思いますよ! そりゃあないでしょう!」

 もがもが叫ぶミイラスケさんは、非難めいた声を上げていた。

 太郎は私の手から指輪を抜き取って、回収した。

「やれやれ、女王様もやってくれる。まさかこいつを引っ張り出してくるとは」

「この指輪を知ってるの?」

「ああもちろん。こいつは俺が作った奴だから」

「……そうなんだ」

 私は嫌な予感がしていた。

 そりゃあ変な効果がついていたとしてもおかしくはない。

 なにせ太郎作である。思いつきで道具を作る事には定評のある太郎なのだ。

 太郎は懐かしげにその指輪を眺めてため息をついていた。

「そうなんだよ……あー、うん」

「……?」

 太郎は難しい顔で唸る。そして今度は私に質問をした。

「ふむ、何と説明したものか。とりあえずそれ付けて、自分を鏡で見るとどう見えた?」

「え? 赤いドレスだよ。シンデレラの時にもらったやつ」

 意図はわからなかったが、意味があるのだろうと私は正直に答えた。

 すると太郎は何故か驚いた。

「……え? そうなの? これは予想外」

「なんなのいったい?」

 いい加減じれて来た私は急かすが、太郎の歯切れはいまいち悪かった。

「あー、なんて言ったらいいかな? 落ち着いて聞いて欲しい」

「? うん」

 一拍おいて、太郎は深呼吸すると指輪について解説しはじめた。

「俺は一時期、服飾の魔法について研究していた時期があったんだけど、そいつはその時に生まれた魔法で造ったんだ」

「そうなんだ」

「うん。手軽に最高の格好になれる魔法があったらいいなーっと思って。ほら、いちいちデザイン考えたりするのって大変だろ? それに魔法使いっぽくないから一瞬でほいっ! て格好を変えられたらいいなっと思ったんだよね。でも、じゃあどんな姿にすればいいんだよって話になる」

 流石太郎が作った道具だけあって、その機能は面白い効果らしい。

 そして太郎は結論にたどり着く。

「俺が導き出した答えは三つだ。魔法を使う俺に合わせるか、着る人間に合わせるか、それとも周りに合わせるかだ。指輪には周りに合わせる魔法が掛けられてるんだよね」

「……」

 太郎の話を聞いて私も結論にたどり着きつつあった。

 私は体中から汗が噴き出るのを感じていた。

 だがその答えにたどり着くのを、すでにやってしまった私は頑なに拒んでいるらしい。

 しかし太郎は、言うのである。

「つまりそいつは見た人間の思い描く最高の服になるんだよ。相手の好みに合わせて。一番気に入っている服装に」

「……というと?」

 あえて問いただす。私の視線は自然とスケさんに向いた。

「見せてくださいタロー殿! 後生です!」

 太郎も同じくスケさんを見ていて、ゆっくりと私に視線を戻すと、残念ながらと首を横に振った。

「……まぁ、スケさんがエロい服に見えていても何の不思議もない……のかもしれない」

「~~~~!」

 私の絶叫は、家の外まで響き渡った。



「私これ全然悪くないと思うんです……。むしろこう言うのこそラッキースケベとして大きな心でゆるされるべきではないかと。私は選ばれたのですよ、エロの神に」

 私の右ストレートがろくなことを言わない竜に炸裂する。

「そう言うこと言うから怒られるんだろうに」

「ですか。まぁそうなんでしょうね。次頑張ります」

 太郎もあきれていたがセクハラはよくないと思う。

「太郎も、欠陥があるってわかっている道具は処分しようよ」

 火照った顔をごまかし、若干怒っている風に言うと、太郎はまさかと驚いた。

「失敗はモノづくりにはつきものさー。だけど失敗したものだって作り手の思いは十分籠っている物なのさー」

「……言い方が胡散臭い」

「ですな、卑猥な企みがあったとしか思えませんな」

 私がじとっとした視線を向け、スケさんは確信を持って頷くと、太郎は心底慌てていた。

「そんな事ないし! 俺ってば元々物とか捨てられない人だし!」

 太郎は必死に言い訳を始めたけど、言えば言うほど、その慌て方が怪しかった。

 でも、今回のことで一番悪いのはどう考えても私である。

 太郎の視線が気になるなんて言いださなければ、いらぬ恥をかかなくてもよかった。

 そもそもそれにしたって、疎ましいと思われていたらどうしようという不安から来ていたのかもしれない。

 スケさんにはどんな格好を見られたかわかんないし、赤いドレスが実は気に入っていたこともばれちゃったし。

 っていうか、ドレスの件の方が不覚のような気がする、私的に。

 しばらく動揺は収まりそうにないが、そこまで思い返して、頭に引っかかる物があった。

 私は最初の目的を思い出す。

 そして私は見事女王様の提案通りに太郎の動揺を誘う事に成功したという事なのだろう。

 その時の台詞を思い出し、私はまさかと太郎を見た。

「ねぇちょっといい太郎?」

「……あの。やっぱり僕もお仕置きでしょうか?」

 何故か観念している太郎だが、それは別にいい。

「違うから。それよりも、太郎ってさ、いつもあんなこと考えてない? あのセーラー戦士がどうとかって」

 私はズバリ尋ねると、太郎の視線がサッとそらされた。

「いや……まぁ。純粋に。せっかくあだ名を付けたのにとか。キャラが立ってていいなぁとか」

「……」

 これは、間違いなさそうだ。

 どうやら、太郎は私の格好についてずっと不満に思っていたらしい。

 方向性は違うが女王様のアドバイスが、ニアピンだった。

 私は視線の真意をなんとなく察して、思いっきり脱力していた。

 得心いってしまったのが、安心したような、がっかりしたような。複雑な心境である。

「でも……いちおう、本当にあの格好が似合ってるとは思ってたんだな」

 だけど私はしょんぼりする太郎を見て聞こえないようにそんな事を呟いた。



 そして後日。

「どうしたの! やっぱりセーラー戦士にしたのか! ……ん? 微妙にいつもと違う?」

「まぁね。制服風ファッションって奴かな?」

 驚く太郎に満足感を感じつつ。新調した服を見せる。

 それは私服をセーラー服風に改造した物だ。それに鎧をつけて、動き回ることを考慮してスパッツは履かせていただいた。

 これで、呼び名は元通りになるかぁと少し残念だったが。まぁそれはこれからがんばっていけばいいだろう。
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