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第1章
プロローグ「酔いどれ女神とカミトのギフト」
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ある所に身も心も美しい少女がいました。少女は神々に愛されており、その美貌は他の追随を許さない程でした。
周囲は蝶よ花よとその少女を大変可愛がり、将来は妃も夢ではないと立派な淑女になるように教育を始めました。しかし、それは少女が望む将来とは違いました。
少女は小説が好きでした。その中でも特に好んでいたのが、人々を救う英雄譚でした。将来は冒険者になりたい、そんな叶わぬ夢を少女は抱いていました。心優しき少女にとって、自分の夢は二の次、周囲の期待に応えることだけが全てでした。
そんな少女を不憫に思った女神は、少女に特別に自分の力を与えることにしました。本来であれば直接人間界に介入するのは神の中でも御法度。そのため、女神は事故を装い少女に力を与えました。
突然手に入れた力に周囲は嘆き悲しみ、少女はそれを見て更に悲しい気持ちになりました。女神は人々の機微には疎く、失敗してしまったのです。
少女の扱いに困った家族は、最後の慈悲として幾ばくかの資金を与え、少女を野に放ちました。
こうして、少女は夢だった冒険者になることが出来ました。しかし、望んでいたのはみんなが笑顔になる道、これは少女が望んでいたものとは違いました。
少女の不幸はこれだけで終わりませんでした。女神の力を色濃く引き継いだ少女は、神々に反意を抱く集団に目をつけられてしまいました。それによって、少女の行く先々に厄災が降りかかるようになったのです。
最早、神々にとっては祝福だと思っていたそれは、少女にとっては完全なる呪いでした。
ある時、もういいと、もう死んだ方が良いと少女は命を諦めました。そんな時、1回の攻撃で世界を3度破壊すると言われている闇の中の闇、暗黒龍が少女の前に現れました。
少女はそんな暗黒龍に願いました。私の命は好きにしていいから、この世界の人々には手を出さないで欲しいと。暗黒龍は分かったと、少女の願いを受け入れることにしました。少女は聞き入れて貰えてホッとしていましたが、それは真っ赤な嘘でした。少女が逃げられないところに閉じ込めた後、彼女の目の前で沢山の人間を蹂躙しました。人の絶望、憎悪といった負の感情が暗黒龍の大好物だったのです。
そんな時、一人の超絶スーパーハイパーマックスなイケメンの英雄が現れました。ワンパンで暗黒龍を殴り飛ばし、少女を颯爽と助けました。マジでイケメンです。
勿論少女は自分を助けてくれたそんなイケメン英雄に速攻で惚れました。流石イケメン!
そして、イケメン英雄と少女の唇は自然と近づき、熱い接吻を交わしました。するとどうでしょう、彼女にかけられていた呪いはきれいさっぱり消え去りました。
そして、二人は力を合わせて暗黒龍を滅ぼし、世界を救いました。
めでたしめでたし
イケイケ英雄譚 第1章 完結
この世界では、15歳を迎えた時に神様よりギフトという能力がランダムで与えられる。一般的に多いのは剣術や槍術といった特定の武器の扱いが上達する能力や、視力強化や肉体強化などの身体機能を上昇させる能力。他にも生産系の技能や魔法に特化した技能もあり、その授かった技能によって将来の道が決まるといっても過言ではない。
「カミトも明日で遂に15歳だな。どんなギフトが授けられるか緊張してないか?別に自分の欲しかったギフトじゃないからといって落ち込まなくても良いんだぞ?別にギフトが無いからといってその職業につけないというわけでもないし、それに――」
「もう、あなたの方が緊張しているじゃない」
両親と食卓を囲んでいると、出てくる話題はもっぱら俺のギフトに関してだ。今の俺は14歳、そして明日を迎えると遂に15歳になる。この瞬間を俺は待ち望んでいた。
「父さんそんな心配しなくても大丈夫だよ。俺は絶対に戦闘系の技能を授かるって」
「あ、あぁ。そうだよな、毎日筋トレや素振り頑張ってたもんな」
「そーだよ!」
神様から授かるギフトはランダムと言われているが、それは少し違う。戦いを忌避する子供や、物作りをよくするような子供は非生産系のギフト、闘争心に溢れている子供や、俺みたいに力をつけるために体を動かしてきた子供には戦闘系のギフトが与えられている。つまり、ギフトの詳細な内容までは決められないが、戦うための力かそうでない力かは日頃の行いで決めることが出来るのだ。
この世の中には冒険者という職業が存在する。未開の森の探索、遺跡の探索、人々に害をなす魔物の討伐などを生業とする者たちだ。そんな彼らが成し遂げた様々な偉業は、物語として現代まで語り継げられていた。中でも有名なのが王都を襲撃した暗黒ドラゴンを討伐した一人の英雄の物語だ。
幼い頃からそんな冒険者に憧れていた俺は、いつか自分も冒険に出ると心に決めていた。冒険に出るにはやはり戦闘系のギフトがあった方がよい。俺は冒険者を目指すと決めてから、その日に備えて体を鍛えていた。両親には内緒で森で狩りもしていた。だから戦闘系のギフトが与えられるのは間違いないはずだ。
後もう少しだ。ここから俺の伝説はスタートするんだ!
家の中が静寂で包まれている。布の擦れる音さえ大きく聞こえる位に全員が緊張する中、ついにその時は訪れた。
パァァァァ
俺の体が深紅の光に包まれた。
「おぉ、カミト! やったな‼」
「良かったわねカミト!」
俺の体から発せられた光を見て、両親は歓喜の声をあげた。俺も声には出さないが、狙った通り戦闘系のギフトを得らることを確信でき内心では喜びの声をあげていた。
基本的にその人の得たギフトはその人自身にしか分からない。しかし、例外が数個存在する。その一つがギフトを授かる瞬間だ。ギフトを受け取る瞬間、必ず青又は赤色の光でその身を包まれる現象が起こる。そして、青色は非戦闘系、赤色は戦闘系と決まっていた。また、その濃度によってより特化したギフトかどうかが判別されている。俺の場合、濃い赤色に包まれているため間違いなく戦闘に超特化したギフトを授かるだろう。
ふふふ、思惑通りだ。これだけ濃い色だ。物語の中で出てきたような、身体能力10倍、武芸の極み、巨大化なんてギフトかもしれない。もしかしたらそれ以上のギフトの可能性も――――。
「あったま痛ーい。あぁ、これ間違いなく二日酔いだわ。あまりの美味しさに飲み過ぎたわね。あの僕っ子のクソ野郎はいけ好かんけど、奴が管理する地球の酒は侮れないわ」
先ほどまで家の中にいたはずなのに、一瞬意識が飛んだかと思ったら、いつの間にか四方が白い壁で覆われた部屋にいた。何言っているか分からないと思うが俺も訳が分からない。声を出そうにも何故か声は出ないし、目の前には頭に輪っかを浮かべた綺麗な女の人が酒瓶片手に寝っ転がっていた。
「ん?あぁ、もう次が来たのね。このシステム面倒くさいわね。何でこんなシステムにしちゃったのかしら。あーはいはい、あなたは戦闘向きね。えいっ……と。はい、これに向かって手に持ってるそれを投げて」
彼女が虚空に向けて指を向けると大きなルーレットが目の前に出現した。そしていつの間にか手の中には1本のダーツが存在している。
相変わらず声は出ないし意味も分からないが身体だけは勝手に動く。誰かに体を操作されているようで正直気味が悪い。そんな意思とは裏腹に俺の指からダーツが放たれ、放物線を描いたそれは見事に的に的中した。
「はい終わりっと。一仕事したしまたお酒でも飲もうかしらって、あ、間違って酔った勢いで作ったルーレット出しちゃった。どうしよう…………ま、いっか。どうせ皆この空間での出来事なんてあっちに戻ったら忘れてるし。さーてお酒お酒!」
え、ちょっ、今あの女なんて言った? 間違いって言わなかったか? 何のことかは分からないが嫌な感じしかしないのだが――――。
「カミト、結局どんなギフトを授かったんだ?」
「カミトの好きな物語の中のと同じものでも授かったのかしら?」
再び意識が戻ると、目の前には期待の眼差しを向けた両親が存在していた。
さっきまでのは何だったんだ? 夢? 幻?
まあいい、気にしても無駄だ。それよりもギフトだギフト。俺は偉大なる神様からどんな素晴らしいギフトを授かったんだ。
ギフト、ギフト、ギフト……。目を閉じて念じると頭の中に文字が浮かび上がってきた。
ふむふむ、なるほどなるほど。ほうほう、あ、ふーん……。
「…………」
「おいカミト、どうした?」
「カミト……? あなた! 大変、カミトが気絶しているわ!」
俺の物語は始まる前から終了していた。
確かにもくろみ通り戦闘系に特化したギフトを授かることが出来ていた。戦闘系のギフトであれば何でも良いと思っていたが流石にこれはない。
『男とキスをすると数分の間能力がめっちゃ上がる!! 濃厚であれば尚よし!!』
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そんな少女を不憫に思った女神は、少女に特別に自分の力を与えることにしました。本来であれば直接人間界に介入するのは神の中でも御法度。そのため、女神は事故を装い少女に力を与えました。
突然手に入れた力に周囲は嘆き悲しみ、少女はそれを見て更に悲しい気持ちになりました。女神は人々の機微には疎く、失敗してしまったのです。
少女の扱いに困った家族は、最後の慈悲として幾ばくかの資金を与え、少女を野に放ちました。
こうして、少女は夢だった冒険者になることが出来ました。しかし、望んでいたのはみんなが笑顔になる道、これは少女が望んでいたものとは違いました。
少女の不幸はこれだけで終わりませんでした。女神の力を色濃く引き継いだ少女は、神々に反意を抱く集団に目をつけられてしまいました。それによって、少女の行く先々に厄災が降りかかるようになったのです。
最早、神々にとっては祝福だと思っていたそれは、少女にとっては完全なる呪いでした。
ある時、もういいと、もう死んだ方が良いと少女は命を諦めました。そんな時、1回の攻撃で世界を3度破壊すると言われている闇の中の闇、暗黒龍が少女の前に現れました。
少女はそんな暗黒龍に願いました。私の命は好きにしていいから、この世界の人々には手を出さないで欲しいと。暗黒龍は分かったと、少女の願いを受け入れることにしました。少女は聞き入れて貰えてホッとしていましたが、それは真っ赤な嘘でした。少女が逃げられないところに閉じ込めた後、彼女の目の前で沢山の人間を蹂躙しました。人の絶望、憎悪といった負の感情が暗黒龍の大好物だったのです。
そんな時、一人の超絶スーパーハイパーマックスなイケメンの英雄が現れました。ワンパンで暗黒龍を殴り飛ばし、少女を颯爽と助けました。マジでイケメンです。
勿論少女は自分を助けてくれたそんなイケメン英雄に速攻で惚れました。流石イケメン!
そして、イケメン英雄と少女の唇は自然と近づき、熱い接吻を交わしました。するとどうでしょう、彼女にかけられていた呪いはきれいさっぱり消え去りました。
そして、二人は力を合わせて暗黒龍を滅ぼし、世界を救いました。
めでたしめでたし
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この世界では、15歳を迎えた時に神様よりギフトという能力がランダムで与えられる。一般的に多いのは剣術や槍術といった特定の武器の扱いが上達する能力や、視力強化や肉体強化などの身体機能を上昇させる能力。他にも生産系の技能や魔法に特化した技能もあり、その授かった技能によって将来の道が決まるといっても過言ではない。
「カミトも明日で遂に15歳だな。どんなギフトが授けられるか緊張してないか?別に自分の欲しかったギフトじゃないからといって落ち込まなくても良いんだぞ?別にギフトが無いからといってその職業につけないというわけでもないし、それに――」
「もう、あなたの方が緊張しているじゃない」
両親と食卓を囲んでいると、出てくる話題はもっぱら俺のギフトに関してだ。今の俺は14歳、そして明日を迎えると遂に15歳になる。この瞬間を俺は待ち望んでいた。
「父さんそんな心配しなくても大丈夫だよ。俺は絶対に戦闘系の技能を授かるって」
「あ、あぁ。そうだよな、毎日筋トレや素振り頑張ってたもんな」
「そーだよ!」
神様から授かるギフトはランダムと言われているが、それは少し違う。戦いを忌避する子供や、物作りをよくするような子供は非生産系のギフト、闘争心に溢れている子供や、俺みたいに力をつけるために体を動かしてきた子供には戦闘系のギフトが与えられている。つまり、ギフトの詳細な内容までは決められないが、戦うための力かそうでない力かは日頃の行いで決めることが出来るのだ。
この世の中には冒険者という職業が存在する。未開の森の探索、遺跡の探索、人々に害をなす魔物の討伐などを生業とする者たちだ。そんな彼らが成し遂げた様々な偉業は、物語として現代まで語り継げられていた。中でも有名なのが王都を襲撃した暗黒ドラゴンを討伐した一人の英雄の物語だ。
幼い頃からそんな冒険者に憧れていた俺は、いつか自分も冒険に出ると心に決めていた。冒険に出るにはやはり戦闘系のギフトがあった方がよい。俺は冒険者を目指すと決めてから、その日に備えて体を鍛えていた。両親には内緒で森で狩りもしていた。だから戦闘系のギフトが与えられるのは間違いないはずだ。
後もう少しだ。ここから俺の伝説はスタートするんだ!
家の中が静寂で包まれている。布の擦れる音さえ大きく聞こえる位に全員が緊張する中、ついにその時は訪れた。
パァァァァ
俺の体が深紅の光に包まれた。
「おぉ、カミト! やったな‼」
「良かったわねカミト!」
俺の体から発せられた光を見て、両親は歓喜の声をあげた。俺も声には出さないが、狙った通り戦闘系のギフトを得らることを確信でき内心では喜びの声をあげていた。
基本的にその人の得たギフトはその人自身にしか分からない。しかし、例外が数個存在する。その一つがギフトを授かる瞬間だ。ギフトを受け取る瞬間、必ず青又は赤色の光でその身を包まれる現象が起こる。そして、青色は非戦闘系、赤色は戦闘系と決まっていた。また、その濃度によってより特化したギフトかどうかが判別されている。俺の場合、濃い赤色に包まれているため間違いなく戦闘に超特化したギフトを授かるだろう。
ふふふ、思惑通りだ。これだけ濃い色だ。物語の中で出てきたような、身体能力10倍、武芸の極み、巨大化なんてギフトかもしれない。もしかしたらそれ以上のギフトの可能性も――――。
「あったま痛ーい。あぁ、これ間違いなく二日酔いだわ。あまりの美味しさに飲み過ぎたわね。あの僕っ子のクソ野郎はいけ好かんけど、奴が管理する地球の酒は侮れないわ」
先ほどまで家の中にいたはずなのに、一瞬意識が飛んだかと思ったら、いつの間にか四方が白い壁で覆われた部屋にいた。何言っているか分からないと思うが俺も訳が分からない。声を出そうにも何故か声は出ないし、目の前には頭に輪っかを浮かべた綺麗な女の人が酒瓶片手に寝っ転がっていた。
「ん?あぁ、もう次が来たのね。このシステム面倒くさいわね。何でこんなシステムにしちゃったのかしら。あーはいはい、あなたは戦闘向きね。えいっ……と。はい、これに向かって手に持ってるそれを投げて」
彼女が虚空に向けて指を向けると大きなルーレットが目の前に出現した。そしていつの間にか手の中には1本のダーツが存在している。
相変わらず声は出ないし意味も分からないが身体だけは勝手に動く。誰かに体を操作されているようで正直気味が悪い。そんな意思とは裏腹に俺の指からダーツが放たれ、放物線を描いたそれは見事に的に的中した。
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え、ちょっ、今あの女なんて言った? 間違いって言わなかったか? 何のことかは分からないが嫌な感じしかしないのだが――――。
「カミト、結局どんなギフトを授かったんだ?」
「カミトの好きな物語の中のと同じものでも授かったのかしら?」
再び意識が戻ると、目の前には期待の眼差しを向けた両親が存在していた。
さっきまでのは何だったんだ? 夢? 幻?
まあいい、気にしても無駄だ。それよりもギフトだギフト。俺は偉大なる神様からどんな素晴らしいギフトを授かったんだ。
ギフト、ギフト、ギフト……。目を閉じて念じると頭の中に文字が浮かび上がってきた。
ふむふむ、なるほどなるほど。ほうほう、あ、ふーん……。
「…………」
「おいカミト、どうした?」
「カミト……? あなた! 大変、カミトが気絶しているわ!」
俺の物語は始まる前から終了していた。
確かにもくろみ通り戦闘系に特化したギフトを授かることが出来ていた。戦闘系のギフトであれば何でも良いと思っていたが流石にこれはない。
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