上 下
10 / 67

第10話 1984***

しおりを挟む

「なにがおかしいんだ?」

 俺は闖入者をとっ捕まえた。

「い、いや……別に。ただちょっと姫の様子が気になっただけだ」

 オブライエンはこの期に及んでまだ誤魔化そうとする。
 すべてまるっとまとめてお見通しなのにな。

「姫はティナがいっしょにいるから大丈夫だろ? まさか夜這いってわけじゃないよな?」
「ははは……まさかぁ……」

 苦笑いで誤魔化しつつ、オブライエンは攻撃の態勢に入る。
 後ろをとっている俺を、不意打ちで倒そうと、腹に後ろ蹴りをかまそうとしてくる。
 しかし、もちろんそんな腑抜けた陳腐な攻撃が俺に通用するはずはない。

「ふん!」
「ぐぎゃあああああああ!!!!」

 俺が魔力を少し解き放って威圧すると、オブライエンの脚はあらぬ方向へと曲がり、べきべきに折れてしまった。
 もうべきべきのめっきょめきょだ。
 オブライエンはその場にのたうち回る。

「あ、ちなみにお前が姫に盛った毒とやらも解除済みだ。毒見を装って毒を盛るなんて、あんなやりかたで俺を出し抜けるとでも思ったか?」
「っく……くそぉ……くそが! この化け物め!」
「姫の忠実な従者を演じつつ、平気な顔して暗殺を仕掛けることのできるお前さんのほうが、俺にはよっぽど化け物に見えるがね」

 まあなにかこいつにもただならぬ事情とやらがあるんだろうが、そんなの俺の知ったことじゃない。
 ライゼのような美人を殺そうとするやつは俺が殺す。しかも男だしな。
 俺のおっぱいをこの世から一つでも消させはしないぜ。
 なんてったってまだ一揉みもしてねぇんだからよぉ。

「っく……こうなったら自棄やけだ! えい!」

 オブライエンは懐からなにやら取り出すと、おもむろに地面にたたきつけた。

「わ! なんだ!?」

 彼が地面にたたきつけた玉のような物体からは、大量の煙が放出された。
 煙はあっという間に廊下中に充満し、あらゆる視界を遮った。

「目くらましか!? なんだこれすげえ、なんも見えねえ」

 さすがの俺もいきなり視界を奪われては、一瞬の隙を作られる。
 すぐに魔力を制御して風を起こし、煙を吹き飛ばすが、そのときにはすでに廊下からオブライエンの姿は消えていた。

「ふん、未開のバカな蛮人め」

 オブライエンの声のしたほうを向くと、彼はライゼたちの寝室に立ち入っていた。
 しかも姫を人質にとっていやがる。卑怯な奴だ。

「へっへっへ、姫を殺されたくなければ俺を森の外まで安全に送れ。本当は姫を毒殺して一人で逃げ切るつもりだったが、さすがにこの脚じゃあな」
「きゃああああ!? オブライエン!? どうして!?」
「うるせえ! まだ状況が理解できねえのか?」

 ライゼは信じていたオブライエンに裏切られたというショックで、まだ状況を飲み込めていないようだ。
 まあ、そりゃあそうだろうな。
 オブライエンのほうは裏切ったというより、もともと姫を暗殺するために送られた刺客だったのだろうが……。

「どうした! 俺を送り届けろ!」
「えー……いやだよ」
「じゃあ殺すぞ!」
「でも、送り届けても殺すんだろ?」
「ああもちろんだ。それが俺の目的だからな」

 なら、こいつの言うことをきく必要はどこにもないな。
 すると、ティナが俺に向かって嘆願してきた。

「お願いだ! 助けてくれ!」

 まあ、美人の頼みだ。
 それにおっぱいのためだから、助けるに決まってる。

「あいつはどうなってもいいか?」
「構わん! 殺してでも姫を助けてくれ!」
「よし。まあ、殺しはしないけどな」

 すると俺とティナの会話をきいていたオブライエンがまた吠えだした。
 あまり強い言葉を使うと、弱く見えるというのに、よく吠える犬だ。

「っは! この状況でどうするつもりだ! 人質がいるんだ。俺に手は出せまい!」
「人質? どこにいるって?」
「は…………?」

 俺は一瞬にして転移魔法でライゼをこの手に取り戻した。
 ライゼは俺の腕に抱かれている。おっぱいが手に当たっている。最高だ。
 オブライエンは急に消えた人質を探して手が虚空をさまよってるようだ。
 あまりの恐怖と安堵によるのか、ライゼは俺の腕の中で気を失った。
 これでやりやすくなったな。姫様に血は見せたくない。

「じゃあ、ボコるか」
「ま……待ってくれえええええええ!!!!」
「待たねえよ!!!!」
「ぎやああああああああああああああああああ!!!!」

 まずは金玉に蹴りを一発くらわせる。
 俺はオブライエンを死なない程度にボコボコにした。
 美人を泣かすやつは許さない。
 それに、裏切りや嘘は俺が最も嫌う行為だ。



◆◆◆



 俺とティナはオブライエンを柱に括り付けにした。
 ライゼは安心したのかベッドでぐっすり眠っている。
 念のため寝室には俺が結界魔法を施したから、これでもう安心だ。
 あとはこのクソ野郎を、俺とティナでなんとかするだけ。
 俺は自白魔法を使ってこいつを拷問なしで自白させることにした。
 まあ拷問とかで苦しめてやってもいいけど、別にこいつに個人的な恨みとかがあるわけでもないしな。

「それで、お前はなんでこんなことをしたんだ!」

 ティナがオブライエンに問い詰める。
 自白魔法のせいで、オブライエンは一切の嘘を許されず、質問に答えざるを得ない。

「それは姫を神殿に行かせないためだ」
「お前はどこの所属だ。本当の主は?」
「俺は他国のスパイだ。アルテミス国の大臣に飼われてる」
「だがなぜ他国のスパイが姫を狙う……!」
「お前の国の姫に聖女として活躍されるわけにはいかんのだ。聖女が死ねば別の聖女があらわれる」
「馬鹿め、そんなことしてなんになる! 今は人類の危機だというのに……」
「は、知ったことか! 我々の国が救わない世界などに価値がない!」
「っ……! 狂ってる……!」

 話をまとめると、オブライエンは前から姫の暗殺を狙っていたわけか。
 その目的は自国の利益のため……。
 まあ、人間どもの考えることは俺にはわからんな。
 詳しい事情は俺の知ったことじゃない。

「じゃあ、先の森で襲われた件も貴様が手引きしたのか?」
「い、いや……! それは違う! 俺は関与していない。あれはまた別の国の刺客かなにかだろう」
「姫は多方から狙われているということか……!」
「道をわざと間違えさせ、あの森へと誘導したのは俺だがな。余計な邪魔が入ってこんなことに……」

 他の国の刺客がそこをチャンスとばかりに襲い掛かってきたということか。
 あの一件がなければ、オブライエンがそのまま姫を暗殺しておしまいだったかもな。
 つくづく姫は俺に出会えて運がいい。

「それで、こいつはどうするんだ?」
「私が処分しよう。レルギア殿の手は汚させない」
「ああ、頼む。俺には関係のない話だしな」

 オブライエンは姫を暗殺しようとした罪で、ティナによって処刑された。
 これにて一件落着、と言いたいところだが……。
 まだまだライゼには敵が多そうだな。
 できれば俺が守ってやりたいが……。
 はてさて。
 まあ、胸揉むためならなんでもやりませう。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

僕のおつかい

麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。 東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。 少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。 彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。 そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※一話約1000文字前後に修正しました。 他サイト様にも投稿しています。

人の身にして精霊王

山外大河
ファンタジー
 正しいと思ったことを見境なく行動に移してしまう高校生、瀬戸栄治は、その行動の最中に謎の少女の襲撃によって異世界へと飛ばされる。その世界は精霊と呼ばれる人間の女性と同じ形状を持つ存在が当たり前のように資源として扱われていて、それが常識となってしまっている歪んだ価値観を持つ世界だった。そんな価値観が間違っていると思った栄治は、出会った精霊を助けるために世界中を敵に回して奮闘を始める。 主人公最強系です。 厳しめでもいいので、感想お待ちしてます。 小説家になろう。カクヨムにも掲載しています。

ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた

八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』 俺はある日突然、ゲームに登場する悪役貴族、レスト・アルビオンとして転生してしまう。 レストはゲーム中盤で主人公たちに倒され、最期は哀れな死に様を遂げることが決まっている悪役だった。 「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」 レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。 それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。 「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」 狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。 その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった―― 別サイトでも投稿しております。

ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。 剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作? だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。 典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。 従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜

秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。 そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。 クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。 こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。 そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。 そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。 レベルは低いままだったが、あげればいい。 そう思っていたのに……。 一向に上がらない!? それどころか、見た目はどう見ても女の子? 果たして、この世界で生きていけるのだろうか?

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...