4 / 29
第4話 来客
しおりを挟む「すみません、すみません……!」
「んん……? むにゃむにゃ……zzz」
「すみません! す・み・ま・せ・ん!」
「はぁい!」
早朝、私の小屋の扉を叩く声で、叩き起こされました。
まったく、こんな朝早くからどなたでしょうか。
せっかく引退したのだから、ゆっくり寝かせてもらいたいものです。
ま、不老不死の私には睡眠すらも必要ないんですけどね……。
「いま開けますからー」
私はベッドの上から扉に向かって叫び、眠い目をこすりつつ、急いで玄関へと向かいます。
ですが――。
「ん?」
なんでしょうかこの違和感……。
そうです!
こんなところに来客なんてあるわけがありません!
森は昨日まで瘴気で覆われていたんですよ!?
それに、ここら辺に用がある人間なんて……。
怪しいですね……。
もしかしたら、新手のモンスターかもしれません。
人間のふりをして襲い掛かるつもりかも。
それか、私が知らないだけで、ここらへんにも人が住んでいるのでしょうか……?
この森のある地域に関しては、なるべく関わらないようにしていましたから……。
それもあり得ない話では……、いやいや!
ありえません!
さすがにこんな辺境の地に人なんて……。
疑いながらも、私はおそるおそる扉を開けてしまいます。
もちろん最大限、警戒はしています。
「どなたでしょうか」
「あ、どうも……。よかった、開けてもらえて……」
扉を開けると、一人の青年が安堵した表情で突っ立っていました。
優しそうな青年で、茶髪に、ラフな旅人の恰好。
腰には剣を差しています――冒険者でしょうか?
この方に敵意があるようには見えません……。
ですがなぜこのようなところに?
すると彼は私が訊くまでもなく――。
「私はリシアン・コルティサング。旅のものです。近くにある、ルキアール王国という国の者です」
「はぁ、そうですか……。まあ、とりあえず上がってください」
私は彼をテーブルへ案内しながら、思考を巡らせます。
ルキアール王国……聞いたこともありませんね……。
新世界秩序機構の資料図書館には載っていなかった……。
だとすると……新世界秩序機構への非加盟国であることは確かです。
それにしてもまだそんな国が?
よっぽどの小国か、変わり者の指導者なのでしょうか。
まあ私が意図的に、この周辺地域のことを避けていたのはありますが……。
とにかく話を聞いてみましょう。
「実は……この森を歩いていたところ……道に迷ってしまって……」
「はぁ、そうですか。まあ迷いますよね、普通。普段人は立ち入りませんし、整備もされていません。それに地図などもないわけですし、迷わない方がどうかしています」
「ですよねぇ! よかったぁ……僕はバカじゃないぞ!」
なにやら怪しげな青年ですね……。
森を歩いていた、なんて。
そんな人がいるわけないじゃないですか。
「お一人で、歩いていたんですか?」
「いえいえ、仲間といっしょだったのですが……はぐれてしまって」
「でも、どうして森へ……? ここには何もないですよ……?」
「それがですね、森を覆っていた瘴気が、一夜にして消え去ったという情報を耳にしまして……。我々で調査にきたというわけです」
あ……これ、完全に私のせいですね……。
はぁ……そういうことでしたか……。
この人が迷ってしまったのも完全に、私のせいじゃないですか。
「そ、そうでしたか……。それは、お疲れ様です」
「普段なら森になど入ることはなかったのですが……。正直、自然を舐めていましたよ……。ここまで過酷な森が広がっているなんて……。このままじゃ今日は帰れないかもなぁ……。凶悪なモンスターに追い回されたりもしました」
ああ……私が瘴気を祓ったために……こんな犠牲が……。
それにしても凶悪なモンスター?
この森に、そのような生物が存在していたでしょうか?
いや、私基準で考えてはいけませんね。
普通の人からすれば、そこらへんのモンスターでも十分に凶悪です。
「そ、そういうことでしたら、ぜひ泊っていってください。大したことはできませんが」
「そんなつもりじゃ! いいんですか!? 女性お一人なのに……」
「いいんですよ、そこは気にしないでください」
500年も生きている私ですから、その程度のことは気にしません。
男性が一つ屋根の下で寝泊まりしようが、変に意識したりなんかするものですか。
それに、もし変な気を起こしたとしても、私は負けませんからね。
なんといったって、世界最強の魔術師でもありますからね、私は。
「では、お言葉に甘えて……!」
「はい、ゆっくりしていってください」
◇
「改めて、このリシアン・コルティサング。ルキアール王国を代表して、お礼を申し上げます」
「またまた、そんな大げさな……」
「ところで、あなたのお名前をまだお聞きしていませんでしたが……」
「あ……」
名前……ですか。
困りましたね……。
シルヴィア・エレンスフィード――本名を名乗るわけにもいきませんし。
せっかく議会から離れたというのに、この名前が広まってしまっては、またどんな嫌がらせを受けるとも知れません……。
そうですね……エルムンドキアから名前を頂戴しましょうか。
私の世を忍ぶ仮の名は――。
「エルキア……と申します。ここエルムンドキアの王女をしております……ま、私一人しかいないんですが……」
「エルキア……さんですか! いいお名前ですね! それに、いい国だ……」
一人しかいない国の王女だなんて……もっとツッコまれるかとも思いましたが、意外と大丈夫だったようです。
なんとかこれで誤魔化せたようですね……。
細かいことは気にしないタイプの方なのでしょうか?
とりあえずは問題なさそうです。
「では、リシアンさん」
「はい、エルキアさん。なんでしょうか?」
「リシアンさんのお家を作りましょう!」
「はい?」
私の急な提案にリシアンさんは困惑します。
まあ無理もないですね。
ちょっとここからはびっくりさせてしまうかもしれません……。
◇
「建築カタログ・オープン! 建築カタログ・クリエイト!」
外に出て私が唱えると、私の小屋のすぐ横に、もう一つ同じものが生成されます。
こっちをリシアンさんのお家にしちゃいましょう。
「うわ! すごいですね……。一瞬にして小屋が建ちましたよ……」
「ええまあ。このくらい、どうってことないですよ」
「エルキアさん……あなたは一体何者なんですか……」
さすがにこれは怪しまれてしまいましたか……?
いろいろ詮索されると面倒です。
彼の記憶や精神を操作することもできますが……それは倫理に反するのでナシです。
ここは私のたくみな話術で誤魔化しましょう。
「実は私は……この森に隠れ住み、魔術の研究をしているのです」
「魔術研究者の方でしたか! どうりで……! ですがこのような魔法……今までに見たことも聞いたこともないですよ……。さぞ、高名な魔術師なのでしょうね」
「いえいえ……私はずっとここに引きこもっているので、世間のことをまるで知らなくて……」
「そんな! もったいない! こんな功績、学会で発表すれば、一気に大魔導士の仲間入りですよ!」
「そ、そうですか……ま、まぁ……そういったことには興味が疎いもので……」
「なら仕方ないですが……。もしよければ、そのうち私の国を案内しますよ」
「はい、そのときはぜひ」
なんとか誤魔化せたようですね……。
ちょっと無理筋な気もしないではないでしたが……。
「では、こちらの小屋をお使いください。あとはご自由に」
「はい。なにからなにまでありがとうございます。迎えが来れば、すぐに帰りますので……」
というわけでしばらくの間、私はリシアンさんをここに置くことになりました。
はぐれたリシアンさんを探して、そのうち迎えの者が来るとのことでしたが……。
この深い森を抜けて、本当に来られるのでしょうか?
ま、私は不干渉を貫いて、自分のやりたいことをするだけです!
32
お気に入りに追加
271
あなたにおすすめの小説
「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート
ハル*
ファンタジー
コミュ障気味で、中学校では友達なんか出来なくて。
胸が苦しくなるようなこともあったけれど、今度こそ友達を作りたい! って思ってた。
いよいよ明日は高校の入学式だ! と校則がゆるめの高校ということで、思いきって金髪にカラコンデビューを果たしたばかりだったのに。
――――気づけば異世界?
金髪&淡いピンクの瞳が、聖女の色だなんて知らないよ……。
自前じゃない髪の色に、カラコンゆえの瞳の色。
本当は聖女の色じゃないってバレたら、どうなるの?
勝手に聖女だからって持ち上げておいて、聖女のあたしを護ってくれる誰かはいないの?
どこにも誰にも甘えられない環境で、くじけてしまいそうだよ。
まだ、たった15才なんだから。
ここに来てから支えてくれようとしているのか、困らせようとしているのかわかりにくい男の子もいるけれど、ひとまず聖女としてやれることやりつつ、髪色とカラコンについては後で……(ごにょごにょ)。
――なんて思っていたら、頭頂部の髪が黒くなってきたのは、脱色後の髪が伸びたから…が理由じゃなくて、問題は別にあったなんて。
浄化の瞬間は、そう遠くはない。その時あたしは、どんな表情でどんな気持ちで浄化が出来るだろう。
召喚から浄化までの約3か月のこと。
見た目はニセモノな聖女と5人の(彼女に王子だと伝えられない)王子や王子じゃない彼らのお話です。
※残酷と思われるシーンには、タイトルに※をつけてあります。
29話以降が、シファルルートの分岐になります。
29話までは、本編・ジークムントと同じ内容になりますことをご了承ください。
本編・ジークムントルートも連載中です。
世界樹とハネモノ少女 第一部
流川おるたな
ファンタジー
舞台は銀河系の星の一つである「アリヒュール」。
途方もなく大昔の話しだが、アリヒュールの世界は一本の大樹、つまり「世界樹」によって成り立っていた。
この世界樹にはいつからか意思が芽生え、世界がある程度成長して安定期を迎えると、自ら地上を離れ天空から世界を見守る守護者となる。
もちろん安定期とはいえ、この世界に存在する生命体の紛争は数えきれないほど起こった。
その安定期が5000年ほど経過した頃、世界樹は突如として、世界を崩壊させる者が現れる予兆を感じ取る。
世界を守るため、世界樹は7つの実を宿し世界各地に落としていった。
やがて落とされた実から人の姿をした赤子が生まれ成長していく。
世界樹の子供達の中には、他の6人と比べて明らかにハネモノ(規格外)の子供がいたのである。
これは世界樹の特別な子であるハネモノ少女の成長と冒険を描いた壮大な物語。
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
クリスの物語
daichoro
ファンタジー
地底世界や海底世界、空中都市や風光都市など世界中を駆け巡る壮大なスケールで描かれる冒険物語全4部作。剣と魔法の王道ファンタジーにスピリチュアル的視点を交えた、新しいカタチの長編ファンタジーストーリー。
小学校6年生のクリスは、学校でいじめに遭い人生に何も楽しいことが見出せなかった。唯一の生きる糧は愛犬ベベの存在だった。しかし、そんなベベがある日突然死んでしまう。悲しみに暮れるクリスだったが、ベベの死をきっかけに前世の人生を垣間見ることになる。
時代は紀元前。愛する人を救うべく、薬売りの老婆から指示されるまま地底世界へと誘われた前世の自分。運命に導かれるまま守護ドラゴンや地底人との出会いを果たし、地底図書館で真実を追い求める。
しかし、情報に翻弄された挙げ句、望む結果を得られずに悲しい結末を迎えてしまう。そんな前世の記憶を思い出したのは決して偶然ではなかった。
現代に戻ったクリスは自分の置かれた運命を知り、生まれ変わったかのように元の明るい性格を取り戻した。そして周囲の対応もまったく違った対応となっていた。
そんなクリスのもとへ、地底世界で出会ったドラゴンのエランドラや地底人のクレアたちがやってくる。その目的は、闇の勢力から地球を救うため。
現在、地球は次元上昇【アセンション】の時期を迎えていて、光の惑星へと目覚めつつある。ところが、闇の勢力が何としてもそれを阻止して、消滅させてしまおうと躍起になっているという。
アセンションを成功させるには、伝説のドラゴン【超竜】のパワーを秘めるドラゴンの石【クリスタルエレメント】を入手する必要がある。そして、クリスはそのクリスタルエレメントを手に入れる資格のある『選ばれし者』だということだった。
クリスは、守護ドラゴンや仲間たちと共に海底都市や風光都市へといざなわれ、各地にちらばるクリスタルエレメントを探し求める冒険へと旅立つ。
やがて、すべてのクリスタルエレメントを手に入れたクリスたちだったが、ひょんなことから闇の勢力にそれらすべてを奪われてしまう。
そして遂に闇の勢力の本拠地へ乗り込み、最終決戦に臨むことに─────
ぜひ、お楽しみください♪
とある辺境伯家の長男 ~剣と魔法の異世界に転生した努力したことがない男の奮闘記 「ちょっ、うちの家族が優秀すぎるんだが」~
海堂金太郎
ファンタジー
現代社会日本にとある男がいた。
その男は優秀ではあったものの向上心がなく、刺激を求めていた。
そんな時、人生最初にして最大の刺激が訪れる。
居眠り暴走トラックという名の刺激が……。
意識を取り戻した男は自分がとある辺境伯の長男アルテュールとして生を受けていることに気が付く。
俗に言う異世界転生である。
何不自由ない生活の中、アルテュールは思った。
「あれ?俺の家族優秀すぎじゃね……?」と……。
―――地球とは異なる世界の超大陸テラに存在する国の一つ、アルトアイゼン王国。
その最前線、ヴァンティエール辺境伯家に生まれたアルテュールは前世にしなかった努力をして異世界を逞しく生きてゆく――
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる