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《金色の刃》

1話 選定式

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「ユノン! とうとう俺たちも、Aランクパーティーだな!」

 パーティーメンバーのギルティア・カストールが、嬉しそうに俺の肩をぶったたく。
 トゲトゲの金髪とするどい目つきが威圧的な、いかにもないじめっ子タイプの男だ。
 少々力が強くて、若干イラっとする俺であったが、今日はめでたい日だからやめておこう。

「ああ、ここまで長かった」

 俺はしみじみと噛みしめながら応える。
 なにを隠そう、我らがパーティー【金色の刃】がAランクパーティーに昇進することが決まったのだ。
 そしてAランクになったということは、【上級職】の選定式を受けられるということだ。

 【金色の刃】は同じ村出身の幼馴染5人で立ち上げたパーティーだ。
 俺はユノン・ユズリィーハ――そこのパーティーリーダーをしている。
 だがリーダーと言っても名ばかりで、その実務はほとんど雑用ばっかだ。

 ギルドとの間を取り次いだり、宿を確保したり、素材や金銭の管理など。
 めんどくさいことは全部俺任せ。
 だが俺は文句ひとつ言わずにやってきたのだ。

 まあ、俺のスキルがそれに適しているというのもあった。
 だがそれ以上に、俺は現状に十分満足していた。
 俺が活躍しなくても、仲間の活躍をサポートできればそれなりに嬉しかった。

 それに、俺は村に病気の妹を残してきている。
 万が一俺自身が死ぬことになったら、仕送りがストップすることになる。
 それだけは避けたかった。
 だから俺は、縁の下の力持ちに徹してきた。

「今日はいよいよ、【上級職】の選定式だな。俺はこの日を、待ちわびていたぜ!」

 ギルティアが、また俺の肩をぶったたく。
 こいつにとってはスキンシップのつもりかもしれんが、正直鬱陶しい。
 力の加減をしらないのか、わざとなのかは知らないが、とにかくかんに障る。

 まあ、ギルティアは最前衛職の《狂戦士》だからな。
 このくらい元気でパワーのあるほうが、戦闘では役に立つ。
 俺はクエストが上手くいき、金がもらえればそれでいい。

「きっと私たちから勇者が出るに違いないわ!」

 《獣使い》のレイラ・イリノラがそう言う。
 金髪の化粧の濃いチャラついた女だ。
 正直俺は苦手なタイプ。
 まあこいつはギルティアとから、マジでどうでもいいんだがな……。

 だがレイラが言ったことは、決して夢物語ではない。
 本当に、今年の選定式で《勇者》の上級職が誰の手にわたるのかが決まるのだ。
 そのことは、前々から噂になっていた。

 《勇者》というのは上級職の一つで、普通の職業とはまた別らしい。
 とにかくそのスキルを手にすれば、魔王をも倒せる力に目覚めるのだとか。

 今年の始めに、新たな魔王が誕生した。
 魔王が現れたということは、勇者が現れる前兆である。
 そして俺たち新進気鋭のパーティー【金色の刃】が、勇者パーティーそれに選ばれる可能性は、かなり高い。

「ユノンくんが勇者になるって、私は信じてるから!」

 治療師ヒーラーのアンジェ・ローゼが俺に期待の目を向けてくる。
 俺がこのパーティーのリーダーだからだろうか。
 まあ、順当にいけば……そうなってもおかしくはない。

 アンジェは短く整えた茶髪に、青色の薄く柔らかいローブを着ている。
 首からぶら下げたアクセサリーは、昔俺があげたものだ。
 生地の薄いローブと、胸元のアクセサリーが、その豊満な胸を余計に強調している。
 そんな魅力的な幼馴染から期待され、俺は少し照れてしまう。

「はは、荷が重いな」

 正直俺は、どっちでもいい。
 面倒事はごめんだからな。
 俺は妹に仕送りできるだけの金を、ちゃんと稼げればそれでいい。

「さっさと選定式に行くわよ」

 二日酔いの腹黒エルフが、だるそうにそう言った。
 エルーナ・ルナアーク――我がパーティーの《魔導士》だ。
 スレンダーで褐色の美少女エルフ……。
 しかし酒癖と男癖が最悪な女だ。

 昨日も俺に「ユノンは勇者になるだろうから、今のうちにどう?」などと誘惑をしてきやがった。
 もちろん俺は断ったし、その後エルーナは何事もなかったかのように酒場へ出かけてたがな……。
 さすがに「そんなんだからいつまでも童貞なんだよ」なんて捨て台詞を言われたのは傷ついたけど。
 それにしても、いつの間に戻ってきてたんだコイツ。

「エルーナ……そうだな、もう出かけよう」







「おい見ろよ【金色の刃】だぞ!」

「ほんとうだ……! すげえ、あれが最年少Aランクパーティーか……」

 王都に着いた俺たちは、さっそく注目の的となる。
 当然だ。
 今をときめく新進気鋭のパーティーが、選定式を受けるというのだから。
 しかも、おそらく今日、勇者が決まる――!

「うう……緊張してきたぁ」

 王城に近づくにつれ、アンジェがそわそわし始める。
 こいつは昔から、注目されるのが苦手だったな。

「大丈夫だアンジェ。肩の力を抜け。悪いようにはならないさ」

 俺はアンジェの頭にそっと手を置いた。

「う、うん。ありがとうユノンくん」

 選定式は毎年、王城にて行われる。
 その様子は一般にも公開され、一種のエンターテイメントとなっていた。
 会場に集まった何百人もの大衆が、俺たちを取り囲み、固唾かたずをのんで見守る。

「それでは【金色の刃】のみなさん、どなたからカードを引きますか?」

 授かる《上級職》は、タロットカードの柄によって決定する。
 といってもカードは最初どれも白紙で、カードを引いた人物の魔力を読み取るだけのものにすぎないのだが。

「じゃあ俺が一番先に引かせてもらおう」

 ギルティアが威勢よく前に出る。
 こいつはこういうときには真っ先に飛び出す性格だから、なんら驚きはない。
 俺が遠慮がちなこともあり、こういった順番事で揉めたことは一度もなかった。

「では、ギルティア・カストール殿。カードを」

「よし……いくぜ!」

「では、柄をお見せください」

「えーっと、これは……うわ! マジか! やったぜ!」

 どうやらギルティアの反応を見るに、相当いい《上級職》を手に入れたようだな。
 俺もパーティーリーダーとして、嬉しいよ。
 そう思っていた俺は、次の瞬間面食らうことになる。

「俺の引いた上級職は――《勇者》だぁあああああああああ!」

 ギルティアはカードを高らかに掲げ、そう叫んだ。
 一瞬、会場全体が静まり返って、それからすぐに歓声が沸いた。

「うおおおおおおおおおおおお! 勇者の誕生だ! マジか!」

「すげえもんを見ちまったな! さすがは一流パーティーだ!」

 狂喜乱舞の群衆の中、俺だけは放心していた。

 は――?

 あいつが、ギルティアがだと?
 どう考えても、向いてないだろ……そんなの。

 みんなあいつの性格を知らないから、そうやって手放しに喜べるんだ。
 どう考えても、リーダーである俺のほうが選ばれると思っていた……。
 興味ないつもりでいたが、意外と俺は、無意識に期待をしていたようだ。

「わ、わーすごい。でも、ユノンくんもきっと、それに負けないすごい上級職だと思うよ? ほら、まだ《剣聖》とか《賢者》とか残ってるし……」

 アンジェが気まずそうに俺を慰める。
 そんなに顔に出ていただろうか?
 俺はつとめて冷静に、平静を装って応える。

「あ、ああ……そうだな。きっと俺たち全員、勇者パーティーにふさわしい上級職に決まってるさ。ありがとう、アンジェ」

「じゃあ次は私ね」

 レイラがギルティアに続き、カードへ手を伸ばす。
 勇者パーティーは勇者をサポートするのが仕事だ。
 だから俺たちにも必ず、チート級の上級職が与えられるはずだ。

「やった! 私は《神調教師》よ! どんなモンスターでもテイム可能ですって!」

 《獣使い》であるレイラにとっては、これ以上ない上級職だろう。
 どうやら俺も勇者パーティーの恩恵にあずかれそうだ。
 俺はもともと《パーティーリーダー》の職をとっているから、《軍神》の上級職なんかが出ると嬉しい。

「次は私が」

 続いて、エルーナがカードを取る。
 エルーナはカードを確認したものの、ぷるぷると震えだし、なかなか口を開かない。
 よほど嬉しいカードだったのだろうか。
 それとも――。

「みんな見て! 私は《大賢者》よ!」

「な……!? 《大賢者》だって!?」

 《大賢者》――それは超レア上級職《賢者》のさらに上に位置する職だった。
 元が魔導士のエルーナが大喜びするのも無理はない。
 エルーナはエルフの高い魔力を駆使して、あらゆる魔法を使えるようになるだろう。

「じゃ、じゃあ次は私……お先にいくね、ユノンくん」

「ああ、いい結果を祈る」

 さて、アンジェはどんな上級職を引くのだろうか。
 治療師ヒーラーであるアンジェがなにを引くのか、だいたいの見当はつく。

「そんな……!? やった……! 《聖女》だって、ユノンくん!」

 アンジェは柄にもなく、飛び跳ねて大喜びする。
 おお、そんなに跳ねるでない。
 揺れる揺れる……。

 俺は内心穏やかではなかった。
 いや、アンジェに興奮したとかではなく。
 ここで俺が変な職を引いたら、どうなる……?

 まあ万が一にもそんなことはあり得ないだろうが……。
 お願いだ神様、せめて有用な上級職を与えてくれ!
 俺は信じてもいない神にまで祈って、引いた――。

「…………っ!」

「ゆ、ユノンくん! 見せて見せて! もしかして《剣聖》かなぁ!?」

 アンジェが俺に痛いほどの期待の目を向けてくる。
 そう、残っている上級職の中で、勇者パーティーと渡り合えるような神職といえば《剣聖》あたりが第一候補になるだろう。
 だが、あいにく俺は剣など振ったこともない。

 俺は恐る恐る、手の中のカードを確認した。
 そこに書かれていたのは――――。


「《憑依者》…………?」

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