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第5話 新居

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「おお……これが俺の家か……!」

 レベッカに連れられて、俺は家の見学に来ていた。
 不動産屋のリストにあったとおり、立派な家だ。
 一軒家でしかも2階建て、俺一人で済むには広すぎるくらいだった。
 暖炉や煙突まである。

「じゃあ、ここに決める……?」
「ああ、そうするよ」

 俺はその場で契約書にサインをした。
 なにか身分証やハンコのようなものは必要ないらしい。
 ただ念じて書くだけで、契約成立となる。
 本当、この街では犯罪とか起きないのか……?

「なあこれだけでいいのか……? 本当に?」
「ああ大丈夫大丈夫。もしなにかあったら、首がねじ切れるから」
「は…………?」

 なんとなくきいただけの俺に、衝撃的な言葉を放つレベッカ。
 さっきまで本当にいい街なんだなぁとなごんでいたのに、物騒な……。

「今の魔法ペンだからさ。魔法契約。知らない……? 破ったら、自動で首がねじ切れるからね。気を付けてね」
「ま、マジか……」

 どうりでこの街で犯罪が起きないわけだ……。
 俺は知らぬ間にとんでもないものにサインしてしまってたわけだな。
 まあ、得体の知れない組織と契約してベーシックインカム実験に参加しているから今更か。

「じゃあお金もらうね」
「ああ、うん」

 俺はその場で家の購入代金1,200,000Gを支払った。
 レベッカが俺の身体に触れて契約書をかざすと、自動的にインベントリから数字が減る。
 なかなか便利な仕組みだ。

「じゃあぼくはこれで! あとは自由にしていいよ」
「え……もういいのか? このまま住んでいいの?」
「うん、そうだよ」
「いろいろありがとうな」

 これだけの手続きで家を買えてしまうなんて、異世界っていろいろ緩いな……。
 レベッカは俺を一人残して去っていった。
 だだっ広い家に一人だけ残されると、なんだかさみしいな。
 大学時代に、初めての一人暮らしをしたことを思い出す。
 引っ越しが終わって親が帰っていったあの感じだ。

「喉が渇いた……。そういえば家の裏に井戸があるんだったな……」

 俺は家の裏手から外に出る。
 裏庭には花壇や大きな木もあって、なんだか居心地のいい空間が広がっていた。
 いくつか果物のなっている木もあるし、これは楽しめそうだ。
 石畳の上を通って庭を抜けると、そこには綺麗に整備された井戸があった。

「えーっと、これを使えばいいのかな……」

 井戸なんて使ったこともなかったが、なんとかテレビなんかの記憶をたどって使ってみる。
 草原を歩いたりもしたから、かなり喉が渇いていた。
 起きたら異世界にいたから、昨日の晩からなにも飲んでいない。

「ごきゅごきゅ……ぷはぁ……! なんだこの水……!? う、うまい……!」

 俺は思わず声に出して驚いていた。
 日本の水道水やコンビニのミネラルウォーターも、かなり美味しい部類だとは思う。
 だがこの水は……!
 ただの井戸水だというのに、ありえないほどうまい……!
 今までにこんな美味しい水は飲んだことがない。

 井戸水ってもっと汚いのを想像していたけど、綺麗に整備されているし、透き通るような水だ。
 異世界だからなにか特別な水なのかもしれないけど。
 これはいい暮らしができそうだと安心する。
 日本人にとっては水がきれいなのに慣れすぎているからな。
 水さえ綺麗なら、異世界でも心配ない。
 俺が水を飲むのに夢中になっていると――。

「あら……? あなたは……」

 頭上から、聞き覚えのある女性の声がする。
 恐る恐る顔を上げてみると、そこにはなんと先ほど道案内をしてくれたジャスミンさんがいた。
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