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ずっと一緒に

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『俺は帰らないといけないんだ、ここから出たいに決まっている』

『望んだくせに』

『……え?』

『体がいらないと望んだのに、魔力がいらないと望んだのに、何故願いを受け入れない?』

その声は、何処か寂しそうな不思議な感じだった。

体がいらない……そうだ、俺は体が動かなくなって兄様に心配掛けたくないのに掛けてしまった。
そんな自分が嫌だった、だからいらないと思ってしまった。
でも、俺が消滅したら兄様はもっと悲しむ…そんなの絶対ダメだ。

根っこは願いだと言っていた、でも俺はそんな願いを受け入れるわけがない。

俺がそう望まなきゃ良かった、そうしたらきっと…いや、違う。

俺は最初体が動かなくて、声が出なかったんだ。
普通そうなったら、生きる希望を失う人もいる。
…そうなったら、負の感情が芽生えてしまうのは当然だ。

この根っこは、それを狙っているとしたら…悲しげな声に騙されてはいけない。

『はぁっ、はぁ…願いを、取りっ消してほしい、俺は生きたい』

『それはダメ、願いを叶えるのがローズリーの役目』

『ローズ…?ぐっぅ…なら、俺の願いはここから出る事だっ』

『ダメ、一度決めた願いは取り消せない』

全く聞いてくれない、そりゃあそうか…死にたい…消えたい…という願いをわざと引き出しているんだから…
恩着せがましく願いを叶えたとか言っている。

早く消化される前に出口を探さないとと思っていたら根っこの締め付けがより強くなった。
食い込むようにギチギチと痛みが襲い、俺の動きを止めようとしている。

それでも諦めたくない、俺は生きたい…どうなっても…それをこの根っこに証明してやる!

何処を歩いているか分からない中、もがいて必死に生きようとした。
何を失ったとしても、俺は生きている…ここにいるんだ。

ゼロのところに帰るんだ!

その時、目の前になにかがあって先に行けなくなった。
行き止まりかと思っていたら、頭が温かくなった。

それは足に感じる激痛ではない、優しい温かさだ。

「エル」

その声を聞いて、俺を覆っていた根っこが離れていく。
目の前にいるのは、俺の大好きな家族だった。

ゼロの姿は、ゼロの精神世界で見た姿だった。
優しく微笑まれると、安心するがそう思っている暇はなかった。
ゼロの後ろに根っこが襲いかかっていて、ゼロに手を伸ばす。

ゼロを助けないと、自分の事なんかよりゼロの事を心配して手を伸ばした。

「ゼロ!逃げて!早く!」

「エル」

ゼロを押してみたが、全くゼロが動く様子はなかった。
押してもびくともしない、なんで逃げないんだよ。

根っこはゼロの腕に絡みついて、強く締めていた。
俺がゼロに絡まる根っこを掴むと、根っこが枝分かれして俺の腕にも絡まる。

俺とゼロの腕を一つにまとめられるように拘束されて両手がゼロの両手に縛られる。
ゼロを見ると俺をジッと見つめていて全然慌てる様子はない。

「ゼロ、逃げないと…この根っこは人を消化して食べる怪物なんだよ」

「エル」

ゼロは聞いているのかいないのか、俺の名前しか呼ばない。
やがてゼロの首に根っこが絡まり、俺の首にもまた根っこが絡みついている。

俺の名を呼ぶ声に甘さはあるが、何処か危うい雰囲気だった。

拘束されていて、もう逃げられそうにないがゼロに必死に呼びかける。
チクッと手に鋭い痛みを感じて、根っこに棘でもあったのかと下に視線を向ける。

それは棘ではない、ゼロの爪が俺の手のひらの柔らかい肉を裂いて血が溢れていた。

「ゼロ、痛いよ…なんでこんな…」

「エル」

「ゼ…ロ…?」

「これでもう誰にも邪魔されない、一緒だね」

そう言ってゼロは俺に優しく微笑んでいた。

どういう事か聞く前に、その言葉はゼロの口付けと共に消えた。
優しく触れるだけだったキスだが、舌が入ってきて俺の舌と絡ませる。

音のない世界で、激しいキスの音だけが響いた。

喉を根っこで締められて、声が出なくなってもゼロは止めなかった。

血が床に垂れるが、真っ黒な色が血の色を消した。
頭がボーッとしてきた、このまま消えてもいいのかなと思い始めてきた。

ゼロを一人にしたくない、傍にいたいから俺はここから出ようとした。
でも、ゼロがいるなら…外に出る必要もない。

そう思っていたら、突然俺とゼロの首を絞めていた根っこが離れていった。
手の拘束はまだそのままだけど、さっき全身を包んでいた俺を根っこから解放してくれた温かさを口の中で感じた。

何かが溢れてきて、ゼロの舌ではないそれを吐き出した。
それは、銀色のなにかだった…花びらのようなカタチのそれは俺の口いっぱいにある。

ゼロを見ると、ゼロは咳をしていて…その度に銀色のものを吐き出した。

「ごほっ、エル…」

「ゼロ、これって」

「表面であんな事、言わなければ良かった」

「どういう…事…?」

「エル、俺は君に…」

ゼロが口をゆっくりと動かして、その度に花びらが落ちる。
根っこに花びらが落ちると、根っこは腐り…俺達を自由にした。

ゼロが俺に手を伸ばしてきて、俺はその手を取ろうとした。
でも、一瞬だけ迷ってしまい…手の動きが止まる。

悲しそうにするゼロに、もう一度手を伸ばした。

その手はゼロに触れる事なく、俺の意識はプツンと切れた。
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