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不審人物

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「そういえば、ゼロ…お前に弟がいたなんて知らなかったぞ」

「ナイトハルト様には興味がない話題かと思いまして」

「俺とお前の仲ではないか」

俺の話をしている?ゼロは話題を逸らそうと必死だったが、ナイトハルト様と呼ばれた王子はゼロの謎の私生活が気になるのかグイグイ聞いている。
自分の話だから俺も気になっていたが、廊下の奥から話し声が聞こえて急いで部屋から離れる。

観葉植物の後ろに隠れると、近衛騎士が戻ってきた。
ノアは捕まってしまったのだろうか、近衛騎士達は見た感じ手ぶらだったが…

もっとよく見ようと身を乗り出していたら、後ろから口を塞がれて後ろに引っ張られた。
驚いてつい声が出そうになっていたから口を塞がれていて良かった。

『エル様…部屋に戻りましょう』

「……うん」

ノアにそう言われて何度も頷くとその場から離れた。
人型になっているノアには傷がなさそうで、無事で良かった。

部屋に戻って急いで服を寝間着に着替えて、ゼロが帰ってきていいようにベッドに潜り込む。
ぬいぐるみの姿になったノアに「さっきはありがとう」とお礼を言った。
ノアは『エル様のためなら平気ですよ』と笑っていた。

しばらくベッドでゼロの帰りを待っていたら、うとうとと眠くなってしまい夢の世界に旅立った。

いつ帰ってきたのだろうか、ゼロの腕の中で目を覚ました。
昨日は遅くまでお疲れ様だったし、俺がゼロから離れると起きてしまうから二度寝する事にした。

寝過ぎないようにしたいが暖かくて、これじゃあ熟睡してしまいそうだ。

ドンドンと強く部屋のドアが開く音が聞こえて、ゼロをもう少し休ませようとした作戦は失敗に終わった。
ゼロは俺の頭を撫でて起き上がってベッドから出ていった。

俺もゼロの後ろを着いていくと、ちょうどドアを開けるところだった。
ドアの向こう側にはヤマトがいて、ゼロに慌てた様子でなにかを伝えていた。

「…兄様、朝食は?」

「悪い、先に食べていてくれ…今日は帰らないから」

そう言ったゼロは部屋を出ていってしまった、仕事なら仕方ない…確か夕方はパーティーだからそこでゼロと会えるだろう。

私服に着替えているとドアが叩かれ、メイドさんが朝食を運んできた。
メイドさんにお礼を言い、ゼロと二人分だったからノアにあげて朝食を済ませた。

ヤマトが慌てるなんて、ナイトハルトになにかあったのだろうか。
うーん、ヒロインの様子も見ていきたいし…まだパーティーまで時間があるし…

最後の一欠片のパンを口に放り込み、立ち上がった。

「ノア、今日は船を探索しよう!」

『おまかせ下さい』

メイドが何処にいるか分からないし、船の中を把握するためには必要だろう。

ノアを肩に乗せて部屋を出て、ちょっと小走りになっていたら誰かと肩がぶつかった。
その人は大量のシーツを持っていて、尻餅を付いたからかシーツが床にばらまかれた。

慌ててシーツを掴んで、拾いぶつかった人に謝った。
下を向いていて、俺の方を一度も見ずに去っていき…俺も気にせず歩き出した。

客、従業員が通りすぎてメイドがいるのを見つけて、曲がり角に隠れて進み…観葉植物に隠れて進みを繰り返した。

『エル様、あの女がどうかしたのですか?』

「…え、ううん…ただ何処に行くのかなぁって思って」

『女性を付け回すのは、感心出来るものではありませんよ』

ノアにトゲのある言葉を言われて、どうしたものか悩む。
ヒロインの様子を見るなんて言ったら同じ付け回す行為だよな。

ゼロとヒロインが会ったら大変なんだ!と言ったら理由を説明するのは難しい。
チラチラ去っていくメイドを見送っていたら、別の声が聞こえた。

『リリィ』その名前は聞き覚えがある名前で、すぐに声のした方向を見つめる。
そこにいたのは、茶髪でボブヘアーのヒロインで…朝食が乗ったワゴンを運んでいた。

急いでメイドの後を追いかけようとしたら、ノアに袖を咥えられて引っ張られた。

「の、ノアッ…何?どうしたの?」

『それはこちらのセリフです!なんであの女性を追いかけるんですか!?やっぱり女がいいんですか!?』

「言ってる意味が分からないよ!昨日は協力してくれたのに!」

『あれはエル様が兄に会いに行きたいというので、僕として主人の願いを叶えただけです!』

「じゃあ今回も見逃してよ!」

『無理です!兄のいる部屋を盗み聞く事より女性を付け回す事の方が変態度が高いです!』

どう違うんだ、それ…どっちもどうかと思うんだけど…

俺達が廊下の真ん中で言い合いをしていたら当然周りは何事かと注目していた。
あぁ…これじゃあリリィどころではないではないか。

ノアが俺を正しい道に導こうとしているのは分かる、でも俺にはやらなくてはいけない事があるんだ。

そう思っていたらその場でよく響く透き通るような声が聞こえた。
周りはその声の主は誰だと周りを見渡していたら、一人の青年が俺達の前に立った。

「何をしているんだ、こんなところで」

「…えっ」

俺も青年の方を見つめると一気に緊張で固まって動けなくなった。
まさかこんなところで、会うとは思わなくて…どうしようか戸惑う。

ゼロ達が護衛している筈のナイトハルトが一人で廊下に立っていた、昨日の護衛騎士もいない。
騒動に気付いたリリィもどうしたのか近付いてきて、ゲームのヒロインと攻略キャラクターが揃ってしまった。

「どうしたんですか?」とナイトハルトに聞いていたから、もう顔見知りなのか「こちらはいいからゼロとヤマトに朝食を頼んだ」と言っていた。
あの料理は二人の料理なのか、どうしよう…考えている暇はない。

俺は元気よく手を上げた、突然の事で魔法を使うと思っていた周りは驚いて後ずさっている。

「お、俺…暇だから運びます!」

「………なんだと」

明らかにナイトハルトに不審そうな顔をされてしまった。

ゼロの弟で、エル・イスナーンだと言ったが信じてくれなかった。
騎士団長の姓なんて王都民なら誰でも知っている話だ。
それにゼロは弟の名をナイトハルトに話していないのだろう、俺が嘘を付いていると思われた。
手を掴まれて、至近距離で綺麗な顔に睨まれて本当に犯罪を犯したように感じた。

リリィに行くように手で合図して、俺はズルズルとナイトハルトに引きずられていく。

「話は個室で、聞こう…お前が義賊集団なら、分かってるだろうな」

「そ、そんな…俺は…」

『エル様、この方に何を言っても無駄ですよ…今は大人しく従いましょう』

ノアに言われて、確かにこのまま言い続けても信じてくれないなら…大人しくして悪い人ではないアピールをした方がいいだろうか。

ナイトハルトに連れていかれたのは、昨日の部屋ではなく無人の部屋を借りていた。
そりゃあ怪しい人物を部屋に入れるわけないもんな。

まずナイトハルトはノアを眺めていたが、腹を押すと喋るぬいぐるみのフリをしていてやり過ごしていた。
それだと俺がぬいぐるみに怒っていた痛い人になるんじゃ…

何度腹を押してもぬいぐるみだから、ナイトハルトはこれ以上調べても仕方ないと分かり机に置いた。
そして次は俺の番だと、ナイトハルトと目が合った。

「お前が義賊集団か調べる」

「…え、義賊集団ってこの船に乗ってるの?」

「義賊集団だとしたら白々しいな」

フッと笑われて、俺は義賊集団じゃないのになと思った。
でも今朝ゼロとヤマトが慌てていた理由は分かった。

今はリリィと変な会話して悪役スイッチを押さない事を願うばかりだ。

ナイトハルトは俺に「服を脱げ」とそうはっきり言った。

「え、なんで…」

「義賊集団は全員体の何処かに十字架の刺青をしている筈だ」

「…俺、違う」

「そう言うなら、見せられるよな」
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