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初出勤.
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18※エル視点※
「じゃあ早速初仕事してもらうわよー!!」
「よろしくお願いいたします」
学校から帰ってきて、制服を着替えようと部屋に向かっている途中の廊下での出来事だった。
待ち構えていたかのように俺と兄様の部屋の前のドアに寄りかかっていたリアカさんが俺に気付いて手招きしていた。
リアカさんに近付くと突然腹を持ち上げられて荷物のように脇に抱き抱えられた。
突然の事で思考停止してリアカさんにされるがまま運ばれて研究室のソファーの上に下ろされた。
どうやら俺がバイト初日で逃げ出すと思っていたそうだ。
逃げ出すわけがない、俺がやりたくてやる仕事なんだから…
ソファーに座り直して、リアカさんに何をすればいいのか説明を待つ。
するとリアカさんは俺の目の前に小さな小瓶を見せた。
「これは今朝完成した治癒薬よ」
「…治癒薬?」
「そうよ、だけど何故だか分からないけど私の治癒薬は不評でね、ヤマトちゃんも治癒薬を作っててそっちの方が人気なのよ!」
ヤマトは薬の研究をしているからヤマトの薬の方が効力が高いんだよな。
ゲームではそもそもこの研究室は治癒薬以外の戦闘用の爆薬とか武器とかを作っていた。
ヤマトがいるから治癒薬は作らなくてもいい気がするが、リアカさんは「ヤマトちゃん一人に頼るのは悪いでしょ?」と言っていた。
そして俺にこの薬の素晴らしさを身を持って知ってもらいたいそうだ。
最終的に薬を他の人にも広めてほしいとリアカさんは目を輝かせていた。
それがバイト内容?薬飲んで感想言うだけ?正直それだけでもらえる給料としては高すぎる気もする。
だとしたらこの薬になにか大変なものが入っているのではないのか?
疑いの眼差しで瓶を見つめる、なんかちょっと臭い。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ、変なものは入ってないわ…治癒薬だもの」
「…あ、はは…それじゃあ」
俺は覚悟を決めて瓶の蓋を開けて、中のものを全部一気に飲み干した。
蓋を開けた時、下水道みたいな嫌な臭いがして、頭がくらくらしそうだった。
舌に広がるのは食べてはいけないものを食べた時のような苦味だった。
苦かったと思ったらお酢をそのまま飲んだような酸っぱさが口内を支配する。
怪我をしていないからまだ良かったが、これを戦場で死にそうな時に飲んだら生きる希望を失いそうだ。
…嘘でも人にはとてもじゃないが広める事は出来ない。
机に顔を伏せて、走馬灯がちらつきながらそんな事を思っていた。
「やだ!大丈夫!?」
「……み、水」
砂漠の真ん中で取り残されたように水を欲するとリアカさんが慌てて水道水を汲んでくれて俺に手渡す。
一気にコップの水を飲み干して、まだ口の中が不快だがとりあえず落ち着いた。
…そうか、この仕事って俺自身がモルモットになるって事だったのか。
だからあの半裸のバイトは逃げ出して、ヤマトが必死に止めていたのか。
リアカさんは俺の表情を見ても自分の薬に自信があるようだった。
「どうだった?」と聞くリアカさんのためにも正直に言う事にした。
「苦くて酸っぱいです」
「うーんじゃあ飲みやすいように甘味を入れようかしら」
俺はリアカさんの考えを全力で止めた、これ以上は危険だ。
何故苦味と酸っぱさを最小限に抑える事を考えずにさらに味を増やそうとするんだ?
リアカさんはなにか紙にメモをして俺が感じた事を書いていた。
正直不快になるだけで元気にならないから治癒薬としては使えないとはっきり言った。
さすがにちょっと言い過ぎたかもと思っていたが、リアカさんは意見が聞けて満足していた。
「……」
「あら、今日は遅い出勤ねルキア」
ドアが開いてルキアが現れた、そうだこの研究室にはルキアもいるから挨拶しないといけない。
昨日は逃げられてしまったから逃げられないようにちょっと距離を離す。
ゲームのルキアはあまり人が近くにいるのは好きではないから、現実のルキアもそうだろう。
確かルキアはヒロインの3つ下だから14歳だった筈だ。
14歳で研究室の責任者になっているから天才だと騎士の人に言われていた。
薬も魔導具も全てルキアが作っているから納得だ、今はリアカさんも作っているかもしれないけど…
「こんにちは、ルキアさん」
「……俺、アンタより年下だと思うけど」
「あ、うん…えっと」
「分かりにくくてごめんねぇ!ルキアは呼び捨てしてもいいよって言ってるのよ」
呼び捨て、年下でもバイトでは先輩だし良いのだろうか。
なんて呼ぼうか考えていたら、ルキアが俺になにかを押し付けてきた。
両手いっぱいのそれは持ちきれなくて、腕からこぼれ落ちてしまった。
ルキアは何も言わずに自分の席に戻っていってしまった。
ルキアに渡されたのは昨日俺がルキアのお菓子だと知らずに食べたクッキーだった。
リアカさんにどうしたら言いか聞こうと目線を向けたらリアカさんは首を傾げていた。
「あの甘党魔人のルキアが人にお菓子あげるなんて初めて見たわ」
「…リアカさん、これ…もらっていいんですか?」
「ルキアから手渡されたんだから良いんじゃない?」
そう言ったリアカさんは俺が抱えるクッキーの山から一つ袋を取って開けて食べていた。
ルキアがリアカさんを睨んでいるんだけど本当にもらって良かったのだろうか。
俺はルキアさんの机に向かって「クッキーありがとう、ルキア」とお礼を言った。
ルキアからの返事はなかったが顔を机に伏せていた。
「ルキア!?大丈夫!?」
「きゃー!!ちょっと血っ、血!!」
何処からかルキアは血を流していて俺達は慌てて医務室に連絡を入れた。
どうやら鼻血だったらしく、原因は分からないまま初バイトは終わった。
「じゃあ早速初仕事してもらうわよー!!」
「よろしくお願いいたします」
学校から帰ってきて、制服を着替えようと部屋に向かっている途中の廊下での出来事だった。
待ち構えていたかのように俺と兄様の部屋の前のドアに寄りかかっていたリアカさんが俺に気付いて手招きしていた。
リアカさんに近付くと突然腹を持ち上げられて荷物のように脇に抱き抱えられた。
突然の事で思考停止してリアカさんにされるがまま運ばれて研究室のソファーの上に下ろされた。
どうやら俺がバイト初日で逃げ出すと思っていたそうだ。
逃げ出すわけがない、俺がやりたくてやる仕事なんだから…
ソファーに座り直して、リアカさんに何をすればいいのか説明を待つ。
するとリアカさんは俺の目の前に小さな小瓶を見せた。
「これは今朝完成した治癒薬よ」
「…治癒薬?」
「そうよ、だけど何故だか分からないけど私の治癒薬は不評でね、ヤマトちゃんも治癒薬を作っててそっちの方が人気なのよ!」
ヤマトは薬の研究をしているからヤマトの薬の方が効力が高いんだよな。
ゲームではそもそもこの研究室は治癒薬以外の戦闘用の爆薬とか武器とかを作っていた。
ヤマトがいるから治癒薬は作らなくてもいい気がするが、リアカさんは「ヤマトちゃん一人に頼るのは悪いでしょ?」と言っていた。
そして俺にこの薬の素晴らしさを身を持って知ってもらいたいそうだ。
最終的に薬を他の人にも広めてほしいとリアカさんは目を輝かせていた。
それがバイト内容?薬飲んで感想言うだけ?正直それだけでもらえる給料としては高すぎる気もする。
だとしたらこの薬になにか大変なものが入っているのではないのか?
疑いの眼差しで瓶を見つめる、なんかちょっと臭い。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ、変なものは入ってないわ…治癒薬だもの」
「…あ、はは…それじゃあ」
俺は覚悟を決めて瓶の蓋を開けて、中のものを全部一気に飲み干した。
蓋を開けた時、下水道みたいな嫌な臭いがして、頭がくらくらしそうだった。
舌に広がるのは食べてはいけないものを食べた時のような苦味だった。
苦かったと思ったらお酢をそのまま飲んだような酸っぱさが口内を支配する。
怪我をしていないからまだ良かったが、これを戦場で死にそうな時に飲んだら生きる希望を失いそうだ。
…嘘でも人にはとてもじゃないが広める事は出来ない。
机に顔を伏せて、走馬灯がちらつきながらそんな事を思っていた。
「やだ!大丈夫!?」
「……み、水」
砂漠の真ん中で取り残されたように水を欲するとリアカさんが慌てて水道水を汲んでくれて俺に手渡す。
一気にコップの水を飲み干して、まだ口の中が不快だがとりあえず落ち着いた。
…そうか、この仕事って俺自身がモルモットになるって事だったのか。
だからあの半裸のバイトは逃げ出して、ヤマトが必死に止めていたのか。
リアカさんは俺の表情を見ても自分の薬に自信があるようだった。
「どうだった?」と聞くリアカさんのためにも正直に言う事にした。
「苦くて酸っぱいです」
「うーんじゃあ飲みやすいように甘味を入れようかしら」
俺はリアカさんの考えを全力で止めた、これ以上は危険だ。
何故苦味と酸っぱさを最小限に抑える事を考えずにさらに味を増やそうとするんだ?
リアカさんはなにか紙にメモをして俺が感じた事を書いていた。
正直不快になるだけで元気にならないから治癒薬としては使えないとはっきり言った。
さすがにちょっと言い過ぎたかもと思っていたが、リアカさんは意見が聞けて満足していた。
「……」
「あら、今日は遅い出勤ねルキア」
ドアが開いてルキアが現れた、そうだこの研究室にはルキアもいるから挨拶しないといけない。
昨日は逃げられてしまったから逃げられないようにちょっと距離を離す。
ゲームのルキアはあまり人が近くにいるのは好きではないから、現実のルキアもそうだろう。
確かルキアはヒロインの3つ下だから14歳だった筈だ。
14歳で研究室の責任者になっているから天才だと騎士の人に言われていた。
薬も魔導具も全てルキアが作っているから納得だ、今はリアカさんも作っているかもしれないけど…
「こんにちは、ルキアさん」
「……俺、アンタより年下だと思うけど」
「あ、うん…えっと」
「分かりにくくてごめんねぇ!ルキアは呼び捨てしてもいいよって言ってるのよ」
呼び捨て、年下でもバイトでは先輩だし良いのだろうか。
なんて呼ぼうか考えていたら、ルキアが俺になにかを押し付けてきた。
両手いっぱいのそれは持ちきれなくて、腕からこぼれ落ちてしまった。
ルキアは何も言わずに自分の席に戻っていってしまった。
ルキアに渡されたのは昨日俺がルキアのお菓子だと知らずに食べたクッキーだった。
リアカさんにどうしたら言いか聞こうと目線を向けたらリアカさんは首を傾げていた。
「あの甘党魔人のルキアが人にお菓子あげるなんて初めて見たわ」
「…リアカさん、これ…もらっていいんですか?」
「ルキアから手渡されたんだから良いんじゃない?」
そう言ったリアカさんは俺が抱えるクッキーの山から一つ袋を取って開けて食べていた。
ルキアがリアカさんを睨んでいるんだけど本当にもらって良かったのだろうか。
俺はルキアさんの机に向かって「クッキーありがとう、ルキア」とお礼を言った。
ルキアからの返事はなかったが顔を机に伏せていた。
「ルキア!?大丈夫!?」
「きゃー!!ちょっと血っ、血!!」
何処からかルキアは血を流していて俺達は慌てて医務室に連絡を入れた。
どうやら鼻血だったらしく、原因は分からないまま初バイトは終わった。
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