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お迎え

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※※※

ポツポツと雨が降っているのを窓から眺めて壁に掛けてある時計を眺めた。
ゼロは学校だ、傘を持っていったっけ?と少し考えて部屋を出た。
家の玄関にある傘立てから二本傘を持ち、家を出た。

家の中は昔の賑やかさと違い、俺が立てた音の他に何の音もしなくなった。
そりゃあそうだ…だってこの屋敷には俺とゼロしかいなくなってしまったから…

事件は数日前の朝に起きた、使用人の一人が俺の部屋に勝手に入ってきた事から始まる。
その日は夜中にトイレに行って戻ってきた時に鍵を掛け忘れた俺にも原因はある。
理由はよく分からないけど、その使用人は俺の上に覆い被さってきた。

俺はゼロのおはようのキスかと思い、寝ぼけて首に腕を回して甘えてしまった。
なんかベタベタしてるし、臭いな…といつものゼロのいいにおいと正反対で眉を寄せたところゼロの声が聞こえた。

俺に怒る時よりももっと地を這うような低い声で「何をしてる」とゼロは言っていた。
近くにいる筈なのに遠くからゼロの声が聞こえて完全に目を覚ました。
目の前に知らないおじさんが息を荒げて俺の胸を揉んでいて恐怖以外のなにものでもなかった。

ゼロの手によって俺の目は覆われて目の前で何が起きたか分からない。
おじさんの重さがなくなったと思ったらゼロの唇が俺の唇に触れた。
おはようのキスだろうか、でも今日のはいつもよりちょっと荒々しいキスだった。

するとさっきまで適温を保っていた室内が急激に冷えた。
まるで冷凍庫の中にいるような寒さだったが、ゼロがギュッと抱きしめてきて暖かい体温を感じる。

これはゼロの魔法だ、ゼロは氷を司る魔法使い…だからきっと俺の部屋は大変な事になっているのだろう。
ゼロに「良いって言うまで絶対に目を開けるな」と言われて、ギュッと瞑った。
あのおじさんを捕まえているのだろうか、しばらくベッドに座りゼロが帰ってくるまで待っていた。
ドアが閉まる音を聞いたら、再びドアが開いてゼロが近付いてくる気配がする。

「もう大丈夫だ」

「…兄様」

ゼロはいつものように俺に微笑んでいた。
おじさんの事を聞いても、はぐらかされて教えてくれなかった。
真相が分からないが、ゼロを信じるしかなかった。

今すぐにでも体を洗いたいとゼロに言ったら、抱き抱えられた。

そのまま一緒に部屋を出て、風呂場まで行って結局一緒に入った。
一人でも出来ると言ったがゼロは一歩も譲らず俺の体を洗ってくれた。
洗い残しがないように、指を一本一本まで丁寧に泡が滑る。

その日は学校をわざわざ休み、一日中ゼロが俺の傍を離れる事はなかった。

それからゼロは使用人を全員解雇した、また何処に変態がいるか分からないからという理由だった。
最初は自分の身の回りの世話をさせるためだったが、俺と出会ってからは自分がいない間、俺の事が不安で今まで雇っていただけだと俺に話した。
それは使用人がいなくても大丈夫になったからだろう。
もう俺は13歳だし、筋肉という筋肉はないが自己流の武術でそれなりに強くなったからゼロが認めてくれて、もう使用人が必要なくなったのも理由の一つだと思いたい。

まだ少し子供扱いしてくるから、学校に通えるほど自立しないと完全に安心ではないのかもしれない。
料理はやっと許してくれてゼロに教わり俺が毎日作っている、ゼロも帰ってきたら空いた時間手伝ってくれるから二人でもやっていける。
ゼロは俺の料理しか食べないと言うから、毎朝お弁当を持ってゼロに渡している。

いつも残さず食べてくれるから、俺も嬉しい。
でも最近レパートリーが偏ってる気がするから新しい料理を学びたいと思っている。

今は俺達二人しかいない、買い物に出かけると相変わらず変な人に声を掛けられるが逃げ足は自信があり掴まる前に逃げているから被害はない。
俺は平凡な顔なのに、変な人からしたら俺には分からないなにかを感じているのだろうか。
変な人が怖くてずっと家に引きこもっていたら健康にも悪いし、体力トレーニングにもなるからいい。

傘を広げて歩くと、小さな水溜まりを踏み雨粒を弾き音を奏でていた。

正直俺は学校に行った事がなかった、行く用事も特になかったしちょっと楽しみで浮き足立っていた。
遠くからしか見た事がない学校を近くまで行き見上げる。
何人か学校から出てくる人を眺めながら行き違いじゃなきゃいいなと思いながらも、校舎の入り口を見つめる。
俺の横を通る人一人一人が不思議そうな顔をしながらこちらを見ていた。

ちょっと気まずくなり、目線を下に向けてゼロ用に持ってきた傘を握る。

「……エル?」

「あ、兄様」

いつも聞いている大好きな声に顔を上げるとゼロが近付いてきた。
ゼロの後ろには数人の女の子達が自分の傘を持ってそわそわと落ち着きなかった。

もしかして邪魔しちゃっただろうかとゼロと女の子達を交互に見つめる。
とりあえずゼロに傘を渡した、受け取ってくれたが使う気配はない。
やっぱり迷惑だっただろうかとショックを受けながら自分の傘を開いた。
傘に付いた水滴がぱらぱらと弾けて地面の水溜まりに吸い込まれた。

「エル、俺も入れて」

「でも兄様の傘あるよ?」

「エルとくっついて帰りたい」

俺にだけ聞こえるように耳元で囁いて、吐息が耳をくすぐり頬を赤く染めた。

ロボットのように何度も頷くとゼロは肩を引き寄せてきた。
お互い傘を開いたら距離が出来てしまうから俺もこの方がゼロを近くで感じられて嬉しい。

傘はゼロが持って、ほとんど俺に傾けていたからゼロは肩が濡れていた。
だからちゃんとゼロも傘の中に入れるようにギュッと密着した。

一緒に学校を出て街を歩く、ゼロとくだらない話をして笑うのは楽しい。
そんな話をしていたらふとゼロは足を止めて何処かを見つめていた。

そこは路地裏の一角で、俺が見た時は影しか見えなかったが誰かが入ったのは分かる。
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