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【ミニュモンの魔女】第一章
25話
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クラコは裁ち鋏で勢いよく髪を切る。
ジョキッ……ジャキジョキジャキジョキッ!
「ちょっ!ちょっと待てーっ!」
「お黙りっ!……舌まで切り落とされたいのかしら?」
「いやっ……」
ジャキジョキジャキジョキジャキジョキジャキジョキッ!
容赦ないクラコの鋏さばきでジャムは短髪に……
「丸坊主っつうんだこれはぁっ!」
「ん~……スッキリ」
クラコは斑に髪が切り残ったジャムの頭をぽんと叩く。
「スッキリし過ぎじゃねぇかっ!あぁぁ……。無ぇ……頭に髪が無ぇ……ぐすっ」
「ふんっ。泣いたってもう遅いのよ。髪なんてまたすぐ生えてくるんだから良いじゃない。それに……うふっ……案外似合ってるわよ」
「ちーっとも嬉しかねえっつの!何だその『うふっ』っつうのはっ」
「うふっ……うふふふふっ」
「むぎぃぃっ!」
ジャムはその後髪が伸びる度に何度も、肩を震わせて笑うクラコによって同じ髪型にされてしまうのだった。
*****
『なー親父ぃ……何でオレ、親父みたいにでっかくなれねーんだろー……』
親父の大きな膝の上、小さな男の子はひっくり返りそうになりながら見上げる。
『おー?そりゃあお前、オレはちーっとだけジャジャック族が混じってるからなぁ。でかくて当たりめぇなんだよ』
『ん~っ、オレもでっかくなりてっ!』
『がはははははっ、そーかそーかっ!それじゃあ目一杯食えっ。そうすりゃあオレなんかすぐ追い越すぞーっ』
『ほんとーっ?』
『おおさっ!だからー……………………だから……死なずに育てよ、ジャムミッツ』
『うー?』
親父はその巨体に似つかわしくない優しい視線を、死体置き場で拾った小さな息子に注いでいた。
*****
「はぁ……」
ジャムは久し振りに懐かしい夢を見た気がしたが、目覚めると同時に忘れてしまった。
ミニュモンに着いてはや二月が過ぎていた。
順調に体力を回復していく中、ジャムは日増しに大きくなるある思いに心を締め付けられていたのだ。
「はぁ……」
「……ため息をつくと死に神が来るのよね……確か」
「いや、幸せが逃げるだろ」
「そぅ…………」
「ああ、確かそうだった。…………はぁ……」
「……」
原因は分かっている。クラコが何気なく言った一言が効いているのだ。
『サブナリスは相当危機的な様ね……』
故郷が大変なのは今に始まった事では無いのだが、ミニュモンのこの豊かな状況を目にしてしまうと嫌でも比べてしまう。
そして、皆の事がとても気になってしまう。
「なぁ……………………クラコ」
「何?」
「……もしも……もしも住み慣れた土地を出て行かなくちゃなんなくて、家族やダチとも別れなくちゃで、落ち着いた先で自分一人今までよりずっと良い暮らししてたら……それっていけない事じゃねぇか?」
「……何故?」
「だって……故郷じゃ家族が死にそうになってるかもしれねぇんだぜ?連絡なんて取れっこなくてさ。……自分一人のうのうと生きてるって、最低じゃね?」
「んー……それは、事情によりけりじゃないのかしら」
「事情?」
「そう。その人が、大事な人達のことを欠片も顧みず、我が身可愛さだけで家族も、友人も、恋人も、何もかもを捨てて故郷からヘラヘラ逃げ出して来ましたー……とか言うのならば、私は笑いながらそいつを殺せるわね」
「……」
「けれど何かしらの、やむにやまれぬ事情があったら?例えば……結婚して遠方に住む事になったとか、出稼ぎに出ているとか、病気で空気の良い所に移住しなければならなくなったとか。そこにいられない理由が何なのか分からない以上、最低と決め付ける事は出来ないでしょう?」
「……んん」
「まぁ、何もかもを捨てて一からやり直したいと思う事は、決していけない事だと言い切る必要は無いんじゃないかしら。そう言う考えに共感する人だっていないわけがないだろうし。……でもね、本当に最低な人の所になんてろくな奴は集まらないものよ」
ジョキッ……ジャキジョキジャキジョキッ!
「ちょっ!ちょっと待てーっ!」
「お黙りっ!……舌まで切り落とされたいのかしら?」
「いやっ……」
ジャキジョキジャキジョキジャキジョキジャキジョキッ!
容赦ないクラコの鋏さばきでジャムは短髪に……
「丸坊主っつうんだこれはぁっ!」
「ん~……スッキリ」
クラコは斑に髪が切り残ったジャムの頭をぽんと叩く。
「スッキリし過ぎじゃねぇかっ!あぁぁ……。無ぇ……頭に髪が無ぇ……ぐすっ」
「ふんっ。泣いたってもう遅いのよ。髪なんてまたすぐ生えてくるんだから良いじゃない。それに……うふっ……案外似合ってるわよ」
「ちーっとも嬉しかねえっつの!何だその『うふっ』っつうのはっ」
「うふっ……うふふふふっ」
「むぎぃぃっ!」
ジャムはその後髪が伸びる度に何度も、肩を震わせて笑うクラコによって同じ髪型にされてしまうのだった。
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『なー親父ぃ……何でオレ、親父みたいにでっかくなれねーんだろー……』
親父の大きな膝の上、小さな男の子はひっくり返りそうになりながら見上げる。
『おー?そりゃあお前、オレはちーっとだけジャジャック族が混じってるからなぁ。でかくて当たりめぇなんだよ』
『ん~っ、オレもでっかくなりてっ!』
『がはははははっ、そーかそーかっ!それじゃあ目一杯食えっ。そうすりゃあオレなんかすぐ追い越すぞーっ』
『ほんとーっ?』
『おおさっ!だからー……………………だから……死なずに育てよ、ジャムミッツ』
『うー?』
親父はその巨体に似つかわしくない優しい視線を、死体置き場で拾った小さな息子に注いでいた。
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「はぁ……」
ジャムは久し振りに懐かしい夢を見た気がしたが、目覚めると同時に忘れてしまった。
ミニュモンに着いてはや二月が過ぎていた。
順調に体力を回復していく中、ジャムは日増しに大きくなるある思いに心を締め付けられていたのだ。
「はぁ……」
「……ため息をつくと死に神が来るのよね……確か」
「いや、幸せが逃げるだろ」
「そぅ…………」
「ああ、確かそうだった。…………はぁ……」
「……」
原因は分かっている。クラコが何気なく言った一言が効いているのだ。
『サブナリスは相当危機的な様ね……』
故郷が大変なのは今に始まった事では無いのだが、ミニュモンのこの豊かな状況を目にしてしまうと嫌でも比べてしまう。
そして、皆の事がとても気になってしまう。
「なぁ……………………クラコ」
「何?」
「……もしも……もしも住み慣れた土地を出て行かなくちゃなんなくて、家族やダチとも別れなくちゃで、落ち着いた先で自分一人今までよりずっと良い暮らししてたら……それっていけない事じゃねぇか?」
「……何故?」
「だって……故郷じゃ家族が死にそうになってるかもしれねぇんだぜ?連絡なんて取れっこなくてさ。……自分一人のうのうと生きてるって、最低じゃね?」
「んー……それは、事情によりけりじゃないのかしら」
「事情?」
「そう。その人が、大事な人達のことを欠片も顧みず、我が身可愛さだけで家族も、友人も、恋人も、何もかもを捨てて故郷からヘラヘラ逃げ出して来ましたー……とか言うのならば、私は笑いながらそいつを殺せるわね」
「……」
「けれど何かしらの、やむにやまれぬ事情があったら?例えば……結婚して遠方に住む事になったとか、出稼ぎに出ているとか、病気で空気の良い所に移住しなければならなくなったとか。そこにいられない理由が何なのか分からない以上、最低と決め付ける事は出来ないでしょう?」
「……んん」
「まぁ、何もかもを捨てて一からやり直したいと思う事は、決していけない事だと言い切る必要は無いんじゃないかしら。そう言う考えに共感する人だっていないわけがないだろうし。……でもね、本当に最低な人の所になんてろくな奴は集まらないものよ」
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