ミニュモンの魔女

藤枝ゆみ太

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【ミニュモンの魔女】第一章

16話

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「でもまぁ、それ一枚じゃあ切なそうだから、大きなタオルを出してあげるわ」

 クラコは寝室へ行くと、バスタオルを一枚引っ張り出してジャムに渡す。

「これでしばらく過ごすといいわ。あのボロを着るよりよっぽど良いじゃない」

「うぅ」

 どうも納得いかないが、渡されたバスタオルを腰に巻くと確かにホッとする。

「さあ、こっちに来る」

 クラコは居間の椅子をぽんぽん叩いてジャムをうながす。その手には巨大なばさみが……

「な、何する気なんだ?」

「………………………………」

「おおお、おいっ!何か言えよぉっ!」

「髪を切るだけよ。……ビックリした?」

 クラコはジャムの慌てようを見てクスクス笑っていた。

 からかわれたことに気を悪くしてはいたが、初めてクラコの笑い声を聞いたジャムは、少しだけドキッとしてしまう。

「汚ならしく伸ばし放題なその髪を切ってあげるから、少しじっとしていることね」

「お、おお」

 クラコは大量のブルーとゴールドの髪をザクザク切ってゆく。

「それにしても、小汚ない色ね。染めるならちゃんと染めた方がいいわよ」

「俺、染めてねぇぞ?そんなことしてる余裕なんて無ぇ」

「じゃあ生まれつきなの?余計に哀れだわ、こんな薄汚い髪で生きて行くのだから」

 文句を言おうとしたが、確かに自分の髪は汚ならしい。

 それに言い出せるはずも無かった。背中に感じる魔女の気配にソワソワしていたのだから。

「お前のー」

「クラコでしょ」

「……ク、クラコの髪は何でそんなにサラサラでキレイなんだ?」

「あら、分かる?毎日のブラッシングは欠かさないようにしているのよ。髪は女の命だし、魔女にとっても重要なものなの。力の結晶みたいな感じかしら」

「へぇ~。……俺もとかしたらそんなキレイになれるのかな?」

「うふふ、さぁね。この痛みようじゃあ分からないわね」

「そっか」

 恐ろしい魔女の気配がする。しかし、クラコの楽しそうな声や、背後から漂ってくる甘い香りの方がジャムにとっては重要だった。

 相手は魔女だ。恐ろしくおぞましい魔女だ。なのにジャムは、そんな彼女にほのかなときめきを感じていた。

「な、なぁクラコ?」

「何?」

「クラコって年は幾つなんだ?」

「度胸があるのね。女に、それも魔女に年を聞くなんて」

「ややややややっぱりいいやっ」

「うふふっ。まぁ、その度胸に免じて許してあげる。そう言うあなたは幾つなのよ?」

「俺?あー……たぶん十八」

「?……そぅ。それじゃあ私より年下だわ」

「ま、マジか」

「ええ、あとは秘密。……さてっ、随分さっぱりしたわ。だいぶ不揃いになったけれど」

 クラコは目の前の短く刈った頭を眺めて、満足げに頷いた。

 スッキリしたジャムの頭に手を置くと、何やらゴツゴツしたものに当たる。

「?」

 髪をかき分けてみると、そこには小さな出っ張りがあった。

 前方に二本、後方に二本。短髪にしても隠れてしまう程小さなものだったが、これは明らかに角ではないだろうか。

「…………………………」

 クラコはここに来てようやく、目の前の男が人間族では無いと言うことに気が付いた。

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