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【ミニュモンの魔女】序章
11話
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クラコ達が自宅に着く頃、空にはもう真っ赤な夕日がキラキラと輝いていた。
遠くに見える村人の家の煙突からは、夕食の支度をしているのだろう、暖かな煙が空に上って行く。
「今日も終わりね。私も夕食を食べなくてはいけないのだけど……まずコレをどうにかしないと」
自宅に入り、大収穫だった籠をテーブルへ置く。
脱ぎ捨てたロングスカートごと男を床に転がし、クラコはさっさと寝室に着替えに行ってしまう。
本当は瀕死の男を寝かせるべきなのだろうが……その臭く汚ならしいなりを見ると、どうしても自分のベッドを使う気になれなかったのだ。
「本当、大っ収穫だわ。いらないモノまでついつい拾ってきてしまうくらいにね……」
床に寝かされた男は、聞き取れないくらい浅く不規則な呼吸をしている。
クラコの皮肉など聞こえるはずもない。
「ふぅ……」
仕方なしに薬棚に向かい、栄養剤を手に取った。
丹誠込めた手作り品だ。
「ほら……飲める?」
赤黒い液体をスプーンに乗せ、男の口に無理矢理流し込んだ。
「…………………………ゴブ……」
「……飲んだ?……のかしら、今の音」
首を捻りつつも、クラコは男の口に薬を流し込み続ける。
「ふぅ……何とか薬は飲ませたけれど、これからどうしたものかしら。
それにしても、この臭いはどうにかしないと……ケホッ」
あまりの臭さにむせ返りながら、急ぎ部屋の窓を全開にする。
床に転がる男がもう忌々しくてしょうがない。
「……あなた、いい加減臭いのよ。さっさと目覚めて……コホッ……とっとと出て行きなさいよ。
…………何で私がこんなことしなくちゃいけないの。……って言うか、何で私こんなのを連れ帰ってしまったのかしら……」
出来るだけ息をしないように急ぎシチューを温めなおし、ララッコ茸をバターで炒める。
窓が全開なのに凄く臭う。
「コホッ……うー……ケホンッ。も、もう駄目」
シチューとバター炒めを手に、クラコはたまらず家から飛び出した。
「ケホッ……な、何てことなの。まさか私が自分の家から追い出されるなんて……くぅ。
本当最低、あんな奴連れて来るんじゃなかった。臭いし、臭いし…………臭いし」
現状を心底後悔しているクラコは、恨めしそうに男の眠る家を睨み付けながらも、強烈な臭いが充満している室内に戻る勇気は無い。
夕日も沈み、辺りはヒンヤリとした夜の空気に変わっている。
クラコは家に戻ることを諦め屋外で夕食をとっていたが、ふと見上げた夜空に目を奪われた。
「……凄い…………瞬く星達が、今にも降り注いで来そうだわ。…………満天の星空をこんな風に見上げたのは、いつ以来だったかしら。
…………綺麗……」
澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込みながら星空を見ていると、クラコは自分の中に溜まっている毒の部分がすぅーっと消えて無くなって行くような気分になる。
救われたような気分になる。
「……もう少し、もう少しだけ………………今日は眠るのが惜しいの……」
輝き光る星達と共に、クラコは明け方近くまで天を仰ぎ続けていた。
遠くに見える村人の家の煙突からは、夕食の支度をしているのだろう、暖かな煙が空に上って行く。
「今日も終わりね。私も夕食を食べなくてはいけないのだけど……まずコレをどうにかしないと」
自宅に入り、大収穫だった籠をテーブルへ置く。
脱ぎ捨てたロングスカートごと男を床に転がし、クラコはさっさと寝室に着替えに行ってしまう。
本当は瀕死の男を寝かせるべきなのだろうが……その臭く汚ならしいなりを見ると、どうしても自分のベッドを使う気になれなかったのだ。
「本当、大っ収穫だわ。いらないモノまでついつい拾ってきてしまうくらいにね……」
床に寝かされた男は、聞き取れないくらい浅く不規則な呼吸をしている。
クラコの皮肉など聞こえるはずもない。
「ふぅ……」
仕方なしに薬棚に向かい、栄養剤を手に取った。
丹誠込めた手作り品だ。
「ほら……飲める?」
赤黒い液体をスプーンに乗せ、男の口に無理矢理流し込んだ。
「…………………………ゴブ……」
「……飲んだ?……のかしら、今の音」
首を捻りつつも、クラコは男の口に薬を流し込み続ける。
「ふぅ……何とか薬は飲ませたけれど、これからどうしたものかしら。
それにしても、この臭いはどうにかしないと……ケホッ」
あまりの臭さにむせ返りながら、急ぎ部屋の窓を全開にする。
床に転がる男がもう忌々しくてしょうがない。
「……あなた、いい加減臭いのよ。さっさと目覚めて……コホッ……とっとと出て行きなさいよ。
…………何で私がこんなことしなくちゃいけないの。……って言うか、何で私こんなのを連れ帰ってしまったのかしら……」
出来るだけ息をしないように急ぎシチューを温めなおし、ララッコ茸をバターで炒める。
窓が全開なのに凄く臭う。
「コホッ……うー……ケホンッ。も、もう駄目」
シチューとバター炒めを手に、クラコはたまらず家から飛び出した。
「ケホッ……な、何てことなの。まさか私が自分の家から追い出されるなんて……くぅ。
本当最低、あんな奴連れて来るんじゃなかった。臭いし、臭いし…………臭いし」
現状を心底後悔しているクラコは、恨めしそうに男の眠る家を睨み付けながらも、強烈な臭いが充満している室内に戻る勇気は無い。
夕日も沈み、辺りはヒンヤリとした夜の空気に変わっている。
クラコは家に戻ることを諦め屋外で夕食をとっていたが、ふと見上げた夜空に目を奪われた。
「……凄い…………瞬く星達が、今にも降り注いで来そうだわ。…………満天の星空をこんな風に見上げたのは、いつ以来だったかしら。
…………綺麗……」
澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込みながら星空を見ていると、クラコは自分の中に溜まっている毒の部分がすぅーっと消えて無くなって行くような気分になる。
救われたような気分になる。
「……もう少し、もう少しだけ………………今日は眠るのが惜しいの……」
輝き光る星達と共に、クラコは明け方近くまで天を仰ぎ続けていた。
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