上 下
21 / 48

第二十一話「解花《ブルーム》」

しおりを挟む
 アリシアとメイリーが駆けつけてくれて、絶望的だった状況に希望が見えた。

「アリシア達は何でここに?」

「中々生徒の姿が見当たらなくてね。不思議に思っていたらクレアの魔法が派手に放たれていたから様子を見に来たんだ」

「もしかしてクレアさんが先行投資ってことで派手に魔法ぶっ放してたのって……」

「ええ。アタシが感じてる違和感はアリシアも感じてただろうし、アタシの居場所さえ分かれば様子を見に来ると思ったのよ。ただ予想より遅かったけど」

「それはすまない。魔法を派手に放つのはクレアにとっては珍しいものじゃないから気付くのに時間がかかってしまった」

 そういえば敵云々以前に生徒相手にも派手にやってたわ……。

「それで……君がそれほどまでにやられるとは、相手は相当の使い手だね。魔法の検討はついてるかい?」

「アイツの魔法は“干渉型”。あの二本のナイフの場所に瞬時に移動できる。解花ブルームは斬った相手の位置に瞬時に移動が出来る。そしてあのナイフの刀身が完全に赤く染まったら何か別の能力条件が満たされる」

 敵のナイフは両方ともほとんどの刀身を赤く染めている。

「“干渉型”か……サラ、メイリー、魔力の状態は?」

 アリシアに聞かれたけど、意味が分からず咄嗟の返答が出来ない。

「“解花ブルーム”いけます!」

 メイリーが返答する。
 なるほど、今どれくらい魔力が練られてるかってことか。

「“解花ブルーム”がいけるかは分からないけど、出来る限り魔力は練ってる」

 基準が分からないからそういう返答しか出来ない。
 ん? あたしもメイリーもその状態なら……

「じゃあ、あたしとメイリーでアリシアかクレアさんに授吻したら、“満解ブロッサム”まで行くんじゃない?」

 “解花ブルーム”のその先――“満解ブロッサム”に至ればほぼ勝ちと言っても過言じゃないって言ってたし、それなら一人に魔力を集めた方が良い。
 ただ、あたし以外の三人はあまりいい反応を示さない。

「あまり現実的な策ではないな。確かに魔力を合わせる“融吻ゆうふん”という技術は存在する。ただそれは同じメンバーのシースが何年もかけ、魔力の波長を全く同じにしてようやく出来る超高等技術だ。普通は強い魔力に上書きされる。今やったところで片方の魔力を無駄にするだけだ。いくら勝負運の強い私でさえ、そんな賭けは乗りたくない」

 なるほど、シースの魔力と言っても十人十色っていう訳ね。

「私が時間を稼ぐ。その間にクレアは授吻を済ませるんだ」

 あたし達が同時に授吻したなら、相手はその好きを見逃さない。

「させるかよ!」

「悪いが君の相手は私がしよう」

 飛び込もうとする敵に対し、アリシアは光の剣で刺突する。
 光の剣はグンと伸びて敵の懐へ。
 ただ、相手はクレアさんと接近戦で優位に立ったほどの実力。
 遠距離攻撃を難なく躱す。

 だけどアリシアはあたし達から離れられない。
 今アリシアがすべきはあたしとクレアさんが無防備になる授吻中の護衛。
 相手の“斬った相手の所に瞬時に移動する能力”がある以上、アリシアはあたし達の近くで構える必要がある。
 必然的に遠距離の攻撃で牽制する形になる。

「時間がない。始めるわよ」

 クレアさんがあたしを支えるように腰に手を回す。
 身長はクレアさんの方が高いから、あたしは見上げるように少し顎を上げた。
 敵がすぐそこにいる緊張感と、クレアさんの凛々しい顔が徐々に近づく緊張感が入り混じり変な気分だ。

「「んっ……」」

 クレアさんの柔らかい唇があたしの唇と重なる。
 動き回ってクレアさんの上がった体温がより強く感じる。
 あたしは練った魔力を全力でクレアさんに流し込む。

 あたしとクレアさんの吐息が混じり、重なった唇の僅かな隙間から漏れる。
 クレアさんの手はあたしの身体を抱き寄せるように力を籠める。
 クレアさんの舌があたしの口内でうねり、反応するようにあたしも絡ませる。

「「ぷはっ……」」

 唇が離れると同時、あたしとクレアさんは大きく息を吸う。
 するとクレアさんの綺麗な赤い髪が燃えるように光輝いた。

解花ブルーム――“炎燦装フレア”」

 赤く輝いた髪はチリチリと火の粉を放ち、種器シード炎脚フレイムは熱気を纏い、さっきまでなかった緋色の片マントがひらりと舞う。
 
「これが……“解花ブルーム”」

 さっきまでの雰囲気とは全然違う。
 クレアさんを纏う熱は空気を焼いてゆらゆらと揺れている。

「反撃開始よ。燃え滾って来たわね!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

けだものだもの~虎になった男の異世界酔夢譚~

ちょろぎ
ファンタジー
神の悪戯か悪魔の慈悲か―― アラフォー×1社畜のサラリーマン、何故か虎男として異世界に転移?する。 何の説明も助けもないまま、手探りで人里へ向かえば、言葉は通じず石を投げられ騎兵にまで追われる有様。 試行錯誤と幾ばくかの幸運の末になんとか人里に迎えられた虎男が、無駄に高い身体能力と、現代日本の無駄知識で、他人を巻き込んだり巻き込まれたりしながら、地盤を作って異世界で生きていく、日常描写多めのそんな物語。 第13章が終了しました。 申し訳ありませんが、第14話を区切りに長期(予定数か月)の休載に入ります。 再開の暁にはまたよろしくお願いいたします。 この作品は小説家になろうさんでも掲載しています。 同名のコミック、HP、曲がありますが、それらとは一切関係はありません。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

男装の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。 領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。 しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。 だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。 そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。 なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

元勇者は魔力無限の闇属性使い ~世界の中心に理想郷を作り上げて無双します~

桜井正宗
ファンタジー
  魔王を倒した(和解)した元勇者・ユメは、平和になった異世界を満喫していた。しかしある日、風の帝王に呼び出されるといきなり『追放』を言い渡された。絶望したユメは、魔法使い、聖女、超初心者の仲間と共に、理想郷を作ることを決意。  帝国に負けない【防衛値】を極めることにした。  信頼できる仲間と共に守備を固めていれば、どんなモンスターに襲われてもビクともしないほどに国は盤石となった。  そうしてある日、今度は魔神が復活。各地で暴れまわり、その魔の手は帝国にも襲い掛かった。すると、帝王から帝国防衛に戻れと言われた。だが、もう遅い。  すでに理想郷を築き上げたユメは、自分の国を守ることだけに全力を尽くしていく。

処理中です...