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第十三話「誘い」

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「……ということがあってねー」

「それはいきなり大変だったねー。それに“煉燦姫ブレイズリリー”のクレアさんって言えば、名の知れた風紀委員だし、変な方向に目をつけられてなければ良いけど……」

 昨日の出来事をネタにあたしはメイリーと昼食を楽しんでいた。
 相変わらず食堂は賑やかで、話し声が周りの喧騒でかき消されそうになる。

「いや大丈夫でしょ。あたしは別に何もしてないし」

「それは分かんないよ。もしかしたら騒動の前からサラちゃんのこと知ってたかも知れないし」

「それはないない。だってあたしそんな目立つことしてないし」

「でもほら例えば――――」
「アリシアのペタル試験とか」

 突然会話に混ざられてあたしもメイリーもビクッとなる。
 横にはまさに話題になってた“煉燦姫ブレイズリリー”ことクレアさんが立っていた。
 その凛々しい佇まいにあたしを含め周りの生徒も目を惹きつけられる。

「昨日ぶりね。サラ……だっけ?」

「あっ、どうも……」

「そんな萎縮しなくても大丈夫よ。ちょっと話をしに来ただけだから」

 そう言いながらクレアさんはあたしの横に座る。

「えっと……外した方がいいですか?」

 メイリーは気まずそうに言った。
 
「別に気を使わなくて結構よ。邪魔したのはアタシの方だし」

「じゃああたしが外れますねー」

「なんでそうなるのよ」

 冗談で言ったつもりが、クレアさんが逃げられないようにあたしの肩に手を回す。
 
「単刀直入に言うわ。サラ、アタシのパートナーになりなさい」

 突然のお誘いにあたしは理解が追いつかなかった。
 アリシアの試験はギャラリーも多くいたからあたしのことを知ってる人もいるだろう。
 けどあたしはそんな公衆の面前で魔力が上手く扱えないという醜態を晒したばかり。
 つまりあたしをパートナーにするメリットはない。

「……何が目的ですか?」

「そんな警戒しなくても……と言っても無理な話よね。簡単な話、アリシアに勝つためよ」

「勝つため? なら絶対にあたし戦力外なんですけど」

「そんなことないわ。アンタには素質がある。あの試験ではアリシアとアウラに目が行きがちだけど、見る人が見れば、あの場で異質だったのは間違いなくアンタよ」

「え、あー……どうも」

 褒めてくれるのは嬉しいけど、あたしじゃ足を引っ張るだけ。
 それに相手はあのアリシア。
 どんな状況でも笑顔で切り抜けようとする胆力と、実際になんとかする実力、神に愛されているみたいな勝負運。

 あんな完璧超人にあたしが太刀打ち出来るわけがない。
 それに、そもそもあたしはアリシアと――――

「へぇ、面白そうな話をしてるね」

 突然割り込んで来たのはまさに話題にしていたアリシアだ。
 当然、話題が話題だから全員に緊張が走った。
 別に陰口ってわけじゃないけど、アリシアが聞いて気分がいい話題じゃない。

「あら、アンタがここに来るなんて珍しいわね」

「そうかい? 最近はちょくちょく顔を出しているよ。友人がここを愛用していてね。今日も様子を見に来たら、その友人と君が楽しそうに話してるじゃないか」

 笑顔なはずなのに心の中では絶対に笑っていないクレアさんとアリシアの会話。
 あたしとメイリーはどう言う気分で聞いてたらいいんだろうか。

「別に大した話じゃないわ。一緒に組んでアリシアを泣かせようって話をしてただけ」

 あ、はっきり言っちゃうんだ……。

「サラをパートナーに、みたいなことを確かに言ってはいたが、まさか本当に接触するとはね」

「もう今はアンタのパートナーじゃないんでしょ? ならいいじゃない。それとも、やっぱり手放すのが嫌になった?」

 まーアリシアも誰もパートナーになってくれないって言ってたし、そう簡単には――――

「別に構わないよ」

「えっ…………」

「本当にいいのね?」

「前にも言ったけど、私とサラの約束は前回の一回きりだ。今のサラはフリーだし、サラも私に気を遣う必要もない。クレアと組むならそうしたらいいさ」

 アリシアの言う通り、あたしとアリシアのパートナー契約はペタル試験の一回きり。
 今の関係はただの友人関係で、あたしがクレアさんとパートナーになる分には全然問題ない。
 けど、そんな淡々と言われたらなんか切り離されたようで少し寂しい。

「本当にいいの? あたしがクレアさんと組んでも」

「ああ構わない。私に気を遣わず、君は好きな人とパートナーになってくれ」

 そこには執着心の一切が感じられない本音なんだと分かった。

「クレアさん! あたしをパートナーにしてください!!」

「え、あ、うん……」

 頭に血が上るような感覚が行動や啖呵に勢いがつく。
 椅子が倒れるくらい勢いよく立ち上がって、勢い任せに声を張ったから、当然周りの注目は集まる。
 
 驚きと困惑に満ちた冷ややかな視線があたしを冷静にさせる。
 忙しいことに、一旦冷静になったらあとは恥ずかしくなるだけだ。
 あたしはメイリーとクレアさんを連れて食堂を出て行った――――。

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