ヒューマン動物園

夏野かろ

文字の大きさ
上 下
1 / 22

第1話 汚い水の惑星

しおりを挟む
 これは、私(名はモサーベ)がまだ若かった頃の話である。




 ある時、宇宙を旅していた私は、宇宙船の調子がおかしいことに気づいた。
 調べてみたところ、それは今すぐトラブルを引き起こすようなものではなかったが、だからといって放置していい性質のものではない。

 私はどうすべきかを思案したが、幸いなことに、近くの星に修理できそうなところがあった。
 そういうわけで、水や食料といった物資を補給する必要もあり、私はその星にしばらく滞在することにした。



 そこは、現地の知的生命体の言葉では「地球」と呼ばれているようだった。
 地球。地面が多く存在する球体という意味なのだろうか。しかし、宇宙から見た地球の様子は、地面よりも水が多いように思えた。

 汚い水だった。かつては青く澄んで美しかったらしいが、とてもそうは思えなかった。
 あれが地球の海ということだが、最初、私は信じられなかった。悪い冗談とすら感じた。しかし事実だ。

 宇宙船のコンピューターによると、あれは現地の知的生命体が環境を破壊した結果なのだという。
 自分たちの住む星をこんなにまで汚すとは、知性ある生き物のすることではない。だがそうなのだ。

 いったい彼らは何を考えてこのような結果を引き起こしたのか。
 それを知るためには、まず彼らについて語る必要がある。



 彼らはヒューマンという名で呼ばれている、二足歩行型の生物である。
 なかなか優れた知性を持ち、かつては科学力によって宇宙進出を果たした。そして非常に好戦的で、それほどの力を同胞に向け、大戦争を行い、原始的な核兵器や毒ガスなどで大量殺りくを実行した。

 そういったことは当然のように環境を汚染する。また、彼らの文明は電気に大きく依存したものであったため、維持するためには多くの火力発電所や原子力発電所が必要だった。
 いうまでもなく、それらは環境汚染を助長する。こういったことが積み重なり、彼らが気づいた時、地球は疲労の限界に達しつつあった。



 フェーレと呼ばれる宇宙人たちが地球を発見した時、星は死に始めていた。フェーレは、ヒューマン風にいうなら猫の顔をした人間だが、知性はずっと上である。そして生き物を愛する心もだ。
 フェーレたちは考えた。「我々がヒューマンを保護しなければ、いずれ彼らは絶滅してしまうだろう」。だから決心した、その運命から救おうと。

 ヒューマンを救うことは環境破壊を食い止めることと同じであり、また、地球の死を阻止することとも同じである。地球が生きればヒューマン以外の生き物たちも生きる。つまり、ヒューマンを救うことは全てを救うことなのだ。
 この大義名分の元にフェーレたちは熱心に活動し、長い歳月と多大な労力、費用を投じた末に作り上げた。

 この、ヒューマン動物園を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

Starbow(スターボウ)の彼方へ      

morituna
SF
 Starbow(スターボウ)とは、亜光速で宇宙船が宇宙を航行するときに、ひとつは光行差のため星の見かけの位置が宇宙船の進行方向前方へ移動集中し、またひとつにはドップラー偏移のため星のスペクトルがずれて星の“色”が変化し、それらの効果が合わさった結果、宇宙船の前方の観測窓からは進行方向を中心としたリング状の星の虹が見えるという現象である。 Starbow(スターボウ)は、日本語では、星虹(せいこう)であるが、てぃな、せな とも読む。

機械化童話

藤堂Máquina
SF
今の時代、きっと魔法を使えるのは作家だけだ。 彼らの作り出す世界は現実離れしたものだがそこには夢と希望があった。 残念ながら私が使える魔法というのはそう優れたものではない。 だから過去の遺物を少し先の未来の預言書として表すことにしよう。 残酷な機械による改変として。

15分で時間が解決してくれる桃源郷

世にも奇妙な世紀末暮らし
SF
 住まいから15分で車を使わず徒歩と自転車または公共交通手段で生活、仕事、教育、医療、趣味(娯楽)、スポーツなどを日常における行動機能にアクセスできる都市生活モデル。そして堅実なセキュリティに広大なデジタルネットワーク。それを人々は「15分都市」と呼んだ。しかし、そんな理想的で楽園のように思われた裏側にはとんでもない恐ろしい内容が隠されていた。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

地球の愛

綿柾澄香
SF
人類が宇宙への打ち上げに成功しなくなって久しい近未来。 そんな中、たったひとりで宇宙を目指す男。 その前に現れた少女。少女は自らを地球の化身だと言う。 その少女は男になぜ自分から出て行くのかを訊ねる。 それに答えたくない男は、少女の言葉を受け流すものの、それでも少しずつなにかが変わっていく。    *   *   * 近未来SFラブストーリーです。 少しでもいいな、と思ったら感想、評価いただけると幸いです。 よろしくお願いします。

処理中です...