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第7章 革命前夜
第123話 人それぞれの思惑 Frantic vibes
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《レーヴェの視点》
勝ったか。やはり捨て身の攻撃で正解だったようだ。私は死体となったハンドへ視線を向ける。
それは光の粉をまき散らしながら消滅し、直後、地面にいくつかのドロップが出現する。肉を見つけた犬のような勢いでZが走り、それらの1つを手にする。
「うひゃー、プラチナ・ジェム! すげぇ! 9個も!」
ゆっくりとハンドへ歩いていく最中のウィッチが言う。
「ねぇ、あたしへの感謝は? あんなに危険なおとり役をやったんだしさぁ、ちょっとは……」
ウィッチと同じくハンドへ接近中の私がZのかわりにこたえる。
「ありがとう、ホワイト・ウィッチ。勝てたのは実際きみのおかげだ、本当にありがとう」
「へへー、どうも!」
本来お礼を言うべきZは、ドロップを漁るのに夢中な様子だ。ウィッチはそんな彼を見て苦笑し、言う。
「こんな簡単にハンド倒せるしさー、あたしらやっぱ超強いじゃん? これなら連合軍も余裕っしょ」
Zが答える。
「当ったり前だろ! ヘル・レイザーズは象の群れ、でも奴らはせいぜいネズミの集団! どこを探しても勝ち目はねぇよ」
私は小さな訂正を入れる。
「連合軍の中心になっているのはウサギ王国だ。それを考えると、ネズミというよりはウサギの集団の方が正確じゃないか?」
「はは! そりゃぁな!」
そうだ、我らヘル・レイザーズは象の群れ、ウサギごときはあっさり踏みつぶして殺せる。私の思いを代弁するようにウィッチが叫ぶ。
「この調子でさ! 次の戦争も勝っちゃおう! ヘル・レイザーズ最強、ヘル・レイザーズ最強!」
Zが「はははは! 最強、最強!」と高笑いをあげるのを聞きながら、私は自身も高揚するのを感じ、満足する。
《白木/ホワイト・ウィッチの視点》
よしよし、うまいことおだてるのに成功したな。戦いってのは士気が肝心だから、こうして盛り上げていかないとね。
このぶんならしばらくは問題ないっしょ。むしろ連合軍の動きが気になる、どうなってんだろ? ログ・アウトしたら赤羽さんに聞かなくちゃ。
《レッド・マスクの視点》
前回の冒険から数日後。俺はデカい建物のデカい一室にいる。スエナが企画したレイザーズへの決起集会にお呼ばれしたんだ、断るわけにはいかねぇ。
俺の耳に、彼女がさっきからやっている演説の内容が聞こえてくる。
「みんな! ボクたちが挑もうとしている相手は実に強大だ、簡単に倒せるわけじゃないってのはよく知ってると思う。
しかし! だからといって諦めたくない、誰もがその思いを共有しているはずだ。そうだろう!?」
方々から「そうだ!」「そうだァ!」「うおぉーっ!」ってな感じで叫び声が上がる。どいつもこいつもすげぇ気合いだ。
レイザーズも同じくらい勢いづいてるといいんだが。ログ・アウトしたら白木から話を聞いてみよう。
《アップルの視点》
スエナのそばで演説を聞いている私は、少し遠くに立っているアンドリュー、そしてその横のアカネに目を向ける。
彼女はネメシスの参謀役で、同時に外交官でもある。別の言い方をするならネメシスのナンバー・2、アンドリューの腹心の部下。
私の視線に気づいたアカネは微笑みを返し、軽く顔を動かす。ご自慢のポニーテールが揺れる、女の私からみてもなかなか見事な美人だ。
でも気を許さないほうがいい。こいつもまた、マスクと同じようなうさん臭い雰囲気を発散している。
今この瞬間、アカネは何を考えているんだろう? 穏当なものだといいんだけど、しかし、ろくでもなさそうな予感がする。
《姉川/アカネの視点》
私が、本名の姉川のかわりにアカネを名乗ってエージェント活動をするようになり、かなりの月日が流れた。正確にはどれくらいか思い出せないほどだ。
そんなことを考えていたらアップルが視線を向けてきた。とりあえず微笑んでごまかし、思考の続きに戻る。
私としてはもうエージェントの仕事はうんざりだ。そろそろ別のことをやらせて欲しい。赤羽さんにずっとそう陳情している、おかげでついにこの言葉を引き出した。
「わかった、わかったよ。この戦争が終わったらエージェントを引退できるよう取り計らうから……」
ボンクラ上司め、常識的に考えたらもっと早い段階でそう言えるでしょ……。まぁとにかく言質を取ったんだ。後はヘマなくこの戦争を乗りきれば異動できる。
問題はアンドリューだ。最近どうも過激な言動が目立つ、常識外れとすら感じる。あとで赤羽さんと打ち合わせの時、どうしたらいいか知恵を借りよう。
《アンドリューの視点》
スエナの演説を聞きながら俺は満足の笑みを浮かべる。なにせ彼女は俺の予想以上によく働いているのだ、嬉しい誤算はいつ訪れても素晴らしい。
前にアカネがくれた情報によれば、スエナは連合軍結成後もメンバー集めに奔走し、おかげでかなりの戦力を得ることができた。
それだけでなく、今もこうして演説をぶち、士気を鼓舞してくれている。
「どんなにたいへんな戦いだろうと、みんなの気持ちがひとつにまとまれば必ず勝てる! だから信じよう、勝利を! 明るい未来を!
ボクたちは下克上を達成する! ヘル・レイザーズを倒し、革命を成し遂げる!」
会場の熱気は最高潮だ。「やるぞーッ!」「勝つんだ!」「下克上!」「下克上!」「革命だ!」「絶対勝利!」。まさに一致団結している。
お前がそうやって頑張ってくれている間、俺は殺人テクニックの精進に励むとしよう。
レイザーズの愚者どもが見誤っているのは「パワーが高ければそれだけ強い」という点だ。間抜けめ、パワーはあくまで目安にすぎないことが分かっていない!
あんなものはちょっと課金して装備品を強くするだけで大きく増える。そんなものにどれほどの意味がある?
大事なのは殺意だ。いかに優れた銃を持とうと、ただぶら下げているだけでは何の意味もない。殺そうと思って撃つことではじめて役に立つ。
そして次に大事なのが、PKに関する知識や技術、装備だ。モンハン向けの武器やスキルは対人戦では使いづらい、殺人をするにはそれに適したものが必要だ。
包丁で人を殺すことはもちろん可能だが、軍用ナイフを使うほうが楽だ。逆に、そんなナイフで料理をするのは骨が折れる。道具は目的に応じて使いわけるのが賢い。
レイザーズの大半はこれが分からない。そこに隙がある。戦場で奴らに遭遇した時、プラネットは単純なパワー勝負のゲームではないことを思い知らせてやる……!
勝ったか。やはり捨て身の攻撃で正解だったようだ。私は死体となったハンドへ視線を向ける。
それは光の粉をまき散らしながら消滅し、直後、地面にいくつかのドロップが出現する。肉を見つけた犬のような勢いでZが走り、それらの1つを手にする。
「うひゃー、プラチナ・ジェム! すげぇ! 9個も!」
ゆっくりとハンドへ歩いていく最中のウィッチが言う。
「ねぇ、あたしへの感謝は? あんなに危険なおとり役をやったんだしさぁ、ちょっとは……」
ウィッチと同じくハンドへ接近中の私がZのかわりにこたえる。
「ありがとう、ホワイト・ウィッチ。勝てたのは実際きみのおかげだ、本当にありがとう」
「へへー、どうも!」
本来お礼を言うべきZは、ドロップを漁るのに夢中な様子だ。ウィッチはそんな彼を見て苦笑し、言う。
「こんな簡単にハンド倒せるしさー、あたしらやっぱ超強いじゃん? これなら連合軍も余裕っしょ」
Zが答える。
「当ったり前だろ! ヘル・レイザーズは象の群れ、でも奴らはせいぜいネズミの集団! どこを探しても勝ち目はねぇよ」
私は小さな訂正を入れる。
「連合軍の中心になっているのはウサギ王国だ。それを考えると、ネズミというよりはウサギの集団の方が正確じゃないか?」
「はは! そりゃぁな!」
そうだ、我らヘル・レイザーズは象の群れ、ウサギごときはあっさり踏みつぶして殺せる。私の思いを代弁するようにウィッチが叫ぶ。
「この調子でさ! 次の戦争も勝っちゃおう! ヘル・レイザーズ最強、ヘル・レイザーズ最強!」
Zが「はははは! 最強、最強!」と高笑いをあげるのを聞きながら、私は自身も高揚するのを感じ、満足する。
《白木/ホワイト・ウィッチの視点》
よしよし、うまいことおだてるのに成功したな。戦いってのは士気が肝心だから、こうして盛り上げていかないとね。
このぶんならしばらくは問題ないっしょ。むしろ連合軍の動きが気になる、どうなってんだろ? ログ・アウトしたら赤羽さんに聞かなくちゃ。
《レッド・マスクの視点》
前回の冒険から数日後。俺はデカい建物のデカい一室にいる。スエナが企画したレイザーズへの決起集会にお呼ばれしたんだ、断るわけにはいかねぇ。
俺の耳に、彼女がさっきからやっている演説の内容が聞こえてくる。
「みんな! ボクたちが挑もうとしている相手は実に強大だ、簡単に倒せるわけじゃないってのはよく知ってると思う。
しかし! だからといって諦めたくない、誰もがその思いを共有しているはずだ。そうだろう!?」
方々から「そうだ!」「そうだァ!」「うおぉーっ!」ってな感じで叫び声が上がる。どいつもこいつもすげぇ気合いだ。
レイザーズも同じくらい勢いづいてるといいんだが。ログ・アウトしたら白木から話を聞いてみよう。
《アップルの視点》
スエナのそばで演説を聞いている私は、少し遠くに立っているアンドリュー、そしてその横のアカネに目を向ける。
彼女はネメシスの参謀役で、同時に外交官でもある。別の言い方をするならネメシスのナンバー・2、アンドリューの腹心の部下。
私の視線に気づいたアカネは微笑みを返し、軽く顔を動かす。ご自慢のポニーテールが揺れる、女の私からみてもなかなか見事な美人だ。
でも気を許さないほうがいい。こいつもまた、マスクと同じようなうさん臭い雰囲気を発散している。
今この瞬間、アカネは何を考えているんだろう? 穏当なものだといいんだけど、しかし、ろくでもなさそうな予感がする。
《姉川/アカネの視点》
私が、本名の姉川のかわりにアカネを名乗ってエージェント活動をするようになり、かなりの月日が流れた。正確にはどれくらいか思い出せないほどだ。
そんなことを考えていたらアップルが視線を向けてきた。とりあえず微笑んでごまかし、思考の続きに戻る。
私としてはもうエージェントの仕事はうんざりだ。そろそろ別のことをやらせて欲しい。赤羽さんにずっとそう陳情している、おかげでついにこの言葉を引き出した。
「わかった、わかったよ。この戦争が終わったらエージェントを引退できるよう取り計らうから……」
ボンクラ上司め、常識的に考えたらもっと早い段階でそう言えるでしょ……。まぁとにかく言質を取ったんだ。後はヘマなくこの戦争を乗りきれば異動できる。
問題はアンドリューだ。最近どうも過激な言動が目立つ、常識外れとすら感じる。あとで赤羽さんと打ち合わせの時、どうしたらいいか知恵を借りよう。
《アンドリューの視点》
スエナの演説を聞きながら俺は満足の笑みを浮かべる。なにせ彼女は俺の予想以上によく働いているのだ、嬉しい誤算はいつ訪れても素晴らしい。
前にアカネがくれた情報によれば、スエナは連合軍結成後もメンバー集めに奔走し、おかげでかなりの戦力を得ることができた。
それだけでなく、今もこうして演説をぶち、士気を鼓舞してくれている。
「どんなにたいへんな戦いだろうと、みんなの気持ちがひとつにまとまれば必ず勝てる! だから信じよう、勝利を! 明るい未来を!
ボクたちは下克上を達成する! ヘル・レイザーズを倒し、革命を成し遂げる!」
会場の熱気は最高潮だ。「やるぞーッ!」「勝つんだ!」「下克上!」「下克上!」「革命だ!」「絶対勝利!」。まさに一致団結している。
お前がそうやって頑張ってくれている間、俺は殺人テクニックの精進に励むとしよう。
レイザーズの愚者どもが見誤っているのは「パワーが高ければそれだけ強い」という点だ。間抜けめ、パワーはあくまで目安にすぎないことが分かっていない!
あんなものはちょっと課金して装備品を強くするだけで大きく増える。そんなものにどれほどの意味がある?
大事なのは殺意だ。いかに優れた銃を持とうと、ただぶら下げているだけでは何の意味もない。殺そうと思って撃つことではじめて役に立つ。
そして次に大事なのが、PKに関する知識や技術、装備だ。モンハン向けの武器やスキルは対人戦では使いづらい、殺人をするにはそれに適したものが必要だ。
包丁で人を殺すことはもちろん可能だが、軍用ナイフを使うほうが楽だ。逆に、そんなナイフで料理をするのは骨が折れる。道具は目的に応じて使いわけるのが賢い。
レイザーズの大半はこれが分からない。そこに隙がある。戦場で奴らに遭遇した時、プラネットは単純なパワー勝負のゲームではないことを思い知らせてやる……!
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