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3話 生きる意味ってなんなんだ Where do I go?
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まぶしい……。きっと朝なんだろう。徐々に意識が戻ってくる。目を開ける。
あたりは見慣れた自室の光景だ。全身を確認する。間違いなく人間の体だ。
とするとさっきのは何なのか。夢? なんにせよ嫌な経験だった。頼まれたって2回目はごめんだ。
まぁ生きていればこういうこともあるさ。ところで、現在の正確な時刻は? 枕もとの時計を見る。「うわっ……」、思わず独り言を漏らしてしまうほどの遅い時間!
しかし超特急で身支度すれば大学の講義に間に合うだろう。だったらやるまでだ。身を起こしてベッドから降りる。
今日も一日頑張らなきゃ!
そういうわけで、今はシェイクスピアの講義を受けている。教材は『ハムレット』。高校生の頃からよく知ってるよ、本を読んで芝居を見て、映画だって鑑賞したんだから。
教授の話を聞きながら要所要所をノートに書き留めていく。この先生は声が大きい、いつだってスポーツの応援団か何かみたいに話す。
そんな状況だってのに部屋の外じゃあ沢山のセミたちが鳴いていて、ミンミンミン、実にうるさくてたまったもんじゃない。まるでラジオを聞きながらテレビをつけっぱなしにしてるみたいだ。
あんな夢をみたせいか、どうにも調子が悪い。それなのにこれだ。少しずつ気分が悪くなる、ボーッとしてくる。
集中力を欠いた僕の心はとりとめなく物事を考えてあちこちをさ迷う。
ハムレット、デンマークの王子ハムレット。実父を叔父のクローディアスに暗殺され、継承すべき王位を奪われ母親もとられた。
亡霊となった実父から真相を聞かされたハムレットは、復讐のために立ち上がり、レアティーズとの撃剣勝負のどさくさにまぎれてクローディアスを討つ。
だが彼自身もレアティーズの毒の刃に倒れ、あぁだこうだで母親もレアティーズも死ぬ。
全滅だ。ホレイショーやフォーティンブラスといった連中を除き、主要人物はことごとく死ぬ。
そもそもレアティーズとの勝負に至るまでにもいろんな奴が死んでいる。ポローニアスが死ぬ、オフィーリアが死ぬ。クソッ、なにが名作だ。死体ばかりじゃないか。
死体。公園で見たセミの幼虫。蟻にたかられ食い殺される。僕もいつかはあぁなるのか? 形はどうであれ死を迎え、肉体を失ってこの世からいなくなる?
どうして死ななくちゃいけないんだろう。いつまでも生きてちゃいけないんだろう。
そもそも根本の話、なぜ生きねばならんのか? 人生は苦痛と悲しみだらけなのに、それでも頑張らなくちゃいけないのか?
生きていく中で何かを築き、偉大な科学理論を生み出すとか、スポーツで優秀な成績をおさめるとか、もしそういうすごいことを成し遂げたとしてだ。
どうせ最後はハムレットやクローディアスみたいに死んで、すべてを手放しあの世にいかなくちゃいけない。じゃあ頑張る意味ってなんなのか。いずれ失うもののために命を懸け、心血を注ぎこむなんて馬鹿らしくないか?
もちろん頑張った結果ってのは死後も残るから、頑張ることはまったく無意味ってわけじゃない。しかし、どんなものにせよそれらは自分の外側にあるもので、肝心な自分自身は死ねばどこどこまでも無だ。魂が存在するだけ。
それだったらぐーたら生きて今の状態を続けていっても構わないのでは? 魂だけを財産にして生きていくので万事こと足りるのでは?
教会の神父さんは僕の言い分に反論する。彼は言う、死後は天国や地獄での暮らしがあるのだと。そしてもし天国にいきたいのなら、今いるこの世界で努力し、善の生活を送らねばならないのだと。
じゃあ仮にそうなんだとしよう。しかし天国での暮らしは本当に幸せなのか?
大嫌いな奴と一緒にやってかなくちゃならないのは苦痛だ、そしてもし僕の嫌いな奴が僕と一緒に天国で暮らすというなら、それはもはや地獄と大差ないのでは? だったら天国にいってもしょうがない。
そもそも僕は天国にいけるのか。ウソをついたり怠けたり、すぐ怒ったり罵ったり。そんな僕が天国にいけるなど、とてもじゃないが信じられない。要するにあの世なんて僕にとっては無意味だ。まったく有難味がない。
結局のところ、僕はわからないのだ。人生を生きる意味が、目的が。しかしそれなのに人生は、「生きろ」と命令し、強要してくる。いったいお前に何の資格や権利があるんだ。その口を閉じろ、命令するな! 黙れ!
なんにもわからない。僕は何かを見失っている。ちくしょう、頭痛がしてきそうだ。気分はますます悪くなる、セミのミンミンという鳴き声が心をかき乱す。
僕の心はふらつき具合を増していく。そして幼虫が死んでいくあの映像を繰り返し繰り返し僕に見せてくる。
全身どこも蟻だらけ。たかられ、食われ、殺される。この悲惨な光景を見るたび、死にたくないとつくづく思う。けど、生きてみようという積極的な気持ちにはなれない。
今の僕は、ただ死にたくないから生きている、それだけの存在で、真の意味では生きていないんだ。生きようという意思のもとに生きているわけではない。
あっ、また映像! 蟻だ、死体だ! いやだ、こんなのはお断りだ! 死にたくない! でも生きたくもない。クソッ、どうしたらいい? 混乱が混乱を呼ぶ、暗闇が世界をおおう。
あたりでは相変わらずセミたちが鳴き叫んでいる。
ミンミンミンミンミンミンミンミン。おい、遅かれ早かれ死ぬくせになぜそんなに鳴く?
ミンミンミンミンミンミンミンミン。奴らは何も考えず、本能に従って盲目的に行動しているだけだ。
ミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミン。幼虫の時代に死ぬか、羽化にしくじって死ぬか、運よく成虫になれても寿命で死ぬか。
ミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミン。そんなに気合いを入れてどうする? どうせ死ぬのに。
ミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミン。
ミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミン。
頭がおかしくなる……意識を失っていく……。
あたりは見慣れた自室の光景だ。全身を確認する。間違いなく人間の体だ。
とするとさっきのは何なのか。夢? なんにせよ嫌な経験だった。頼まれたって2回目はごめんだ。
まぁ生きていればこういうこともあるさ。ところで、現在の正確な時刻は? 枕もとの時計を見る。「うわっ……」、思わず独り言を漏らしてしまうほどの遅い時間!
しかし超特急で身支度すれば大学の講義に間に合うだろう。だったらやるまでだ。身を起こしてベッドから降りる。
今日も一日頑張らなきゃ!
そういうわけで、今はシェイクスピアの講義を受けている。教材は『ハムレット』。高校生の頃からよく知ってるよ、本を読んで芝居を見て、映画だって鑑賞したんだから。
教授の話を聞きながら要所要所をノートに書き留めていく。この先生は声が大きい、いつだってスポーツの応援団か何かみたいに話す。
そんな状況だってのに部屋の外じゃあ沢山のセミたちが鳴いていて、ミンミンミン、実にうるさくてたまったもんじゃない。まるでラジオを聞きながらテレビをつけっぱなしにしてるみたいだ。
あんな夢をみたせいか、どうにも調子が悪い。それなのにこれだ。少しずつ気分が悪くなる、ボーッとしてくる。
集中力を欠いた僕の心はとりとめなく物事を考えてあちこちをさ迷う。
ハムレット、デンマークの王子ハムレット。実父を叔父のクローディアスに暗殺され、継承すべき王位を奪われ母親もとられた。
亡霊となった実父から真相を聞かされたハムレットは、復讐のために立ち上がり、レアティーズとの撃剣勝負のどさくさにまぎれてクローディアスを討つ。
だが彼自身もレアティーズの毒の刃に倒れ、あぁだこうだで母親もレアティーズも死ぬ。
全滅だ。ホレイショーやフォーティンブラスといった連中を除き、主要人物はことごとく死ぬ。
そもそもレアティーズとの勝負に至るまでにもいろんな奴が死んでいる。ポローニアスが死ぬ、オフィーリアが死ぬ。クソッ、なにが名作だ。死体ばかりじゃないか。
死体。公園で見たセミの幼虫。蟻にたかられ食い殺される。僕もいつかはあぁなるのか? 形はどうであれ死を迎え、肉体を失ってこの世からいなくなる?
どうして死ななくちゃいけないんだろう。いつまでも生きてちゃいけないんだろう。
そもそも根本の話、なぜ生きねばならんのか? 人生は苦痛と悲しみだらけなのに、それでも頑張らなくちゃいけないのか?
生きていく中で何かを築き、偉大な科学理論を生み出すとか、スポーツで優秀な成績をおさめるとか、もしそういうすごいことを成し遂げたとしてだ。
どうせ最後はハムレットやクローディアスみたいに死んで、すべてを手放しあの世にいかなくちゃいけない。じゃあ頑張る意味ってなんなのか。いずれ失うもののために命を懸け、心血を注ぎこむなんて馬鹿らしくないか?
もちろん頑張った結果ってのは死後も残るから、頑張ることはまったく無意味ってわけじゃない。しかし、どんなものにせよそれらは自分の外側にあるもので、肝心な自分自身は死ねばどこどこまでも無だ。魂が存在するだけ。
それだったらぐーたら生きて今の状態を続けていっても構わないのでは? 魂だけを財産にして生きていくので万事こと足りるのでは?
教会の神父さんは僕の言い分に反論する。彼は言う、死後は天国や地獄での暮らしがあるのだと。そしてもし天国にいきたいのなら、今いるこの世界で努力し、善の生活を送らねばならないのだと。
じゃあ仮にそうなんだとしよう。しかし天国での暮らしは本当に幸せなのか?
大嫌いな奴と一緒にやってかなくちゃならないのは苦痛だ、そしてもし僕の嫌いな奴が僕と一緒に天国で暮らすというなら、それはもはや地獄と大差ないのでは? だったら天国にいってもしょうがない。
そもそも僕は天国にいけるのか。ウソをついたり怠けたり、すぐ怒ったり罵ったり。そんな僕が天国にいけるなど、とてもじゃないが信じられない。要するにあの世なんて僕にとっては無意味だ。まったく有難味がない。
結局のところ、僕はわからないのだ。人生を生きる意味が、目的が。しかしそれなのに人生は、「生きろ」と命令し、強要してくる。いったいお前に何の資格や権利があるんだ。その口を閉じろ、命令するな! 黙れ!
なんにもわからない。僕は何かを見失っている。ちくしょう、頭痛がしてきそうだ。気分はますます悪くなる、セミのミンミンという鳴き声が心をかき乱す。
僕の心はふらつき具合を増していく。そして幼虫が死んでいくあの映像を繰り返し繰り返し僕に見せてくる。
全身どこも蟻だらけ。たかられ、食われ、殺される。この悲惨な光景を見るたび、死にたくないとつくづく思う。けど、生きてみようという積極的な気持ちにはなれない。
今の僕は、ただ死にたくないから生きている、それだけの存在で、真の意味では生きていないんだ。生きようという意思のもとに生きているわけではない。
あっ、また映像! 蟻だ、死体だ! いやだ、こんなのはお断りだ! 死にたくない! でも生きたくもない。クソッ、どうしたらいい? 混乱が混乱を呼ぶ、暗闇が世界をおおう。
あたりでは相変わらずセミたちが鳴き叫んでいる。
ミンミンミンミンミンミンミンミン。おい、遅かれ早かれ死ぬくせになぜそんなに鳴く?
ミンミンミンミンミンミンミンミン。奴らは何も考えず、本能に従って盲目的に行動しているだけだ。
ミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミン。幼虫の時代に死ぬか、羽化にしくじって死ぬか、運よく成虫になれても寿命で死ぬか。
ミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミン。そんなに気合いを入れてどうする? どうせ死ぬのに。
ミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミン。
ミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミン。
頭がおかしくなる……意識を失っていく……。
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