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第二章 フレンズ(Friends)

第8話-6 ナイス・キャッチ!

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 得点状況は依然として二対四、ファルコンズ劣勢のままである。そんな中、西詰はまたマウンドに登る。
 先頭打者は四番の玉橋だ。右投げ左打ち、走攻守の三拍子が揃ったジャイアンツの主砲一号である。絶対に塁に出してはいけない相手だ。

 西詰は彼の様子を見る。

(打席後方のスクエア・スタンスか。うーん、隙なんてなさそうだけど……)

 谷下からのサインは内角低めを要求している。とりあえず首を縦に振って、西詰は投球を始める。
 一球目が投げられ、内角へ飛んでいく。コントロールに失敗したか、それは要求された高さよりも少し高い。西詰は打たれる危険を感じる。

 玉橋が全力でバットを振りにくる。それは球のギリギリ上を通過して空振りに終わる。

「ストライク!」

 冷や汗が西詰の背中を滑り落ちていく。

(やべぇ……投げそこなったら外野深くまでもってかれる……!)

 谷下から返されてくるボールを捕り、気を落ち着けるために深呼吸する。

(全力でいくしかねぇ。俺が投げられる最高の球で勝負するんだ)

 サインが来る。外角低め、ゾーンの横側でボールになるコース。指示通りに西詰は投げる。
 力いっぱいの一球は、九二キロほどだろうか、勢いよく宙を走ってミットに収まる。

「ボール!」

 次の指示はストライク狙いで内角低めだ。ゾーンの隅めがけて全力で投げ込む。だがコントロールが定まらない、ボールになる。
 カウントを確認しよう、ボール・ツーのストライク・ワンだ。次の一球が大事なところで、ここでボールを投げてしまうとフォアボール一歩手前になり、辛い状況に追いこまれてしまう。

 もう一度、玉橋の様子を見る。さっきから全くバットを動かしていないが、彼は何かを待っているのだろうか。

(えぇい! 悩んでどうなる、いくしかねぇんだから!)

 西詰はボールを握り、セット・ポジションをとる。谷下からは(外角低めでストライクをとれ)の指示が来ている、それに従って四球目を投げる。
 全身全霊のファスト・ボールが放たれる。だが狙いがズレている、それは外角の高めに飛びこんでしまう。

 カーン! 金属音が響き渡り、ショート方向へ強い打球が飛ぶ。思わず声が漏れる。

「クソっ!」

 打球はゴロになり、雷光のような速度で地面を転がっていく。テイターが反応する、捕球すべく走り寄る……間に合いそうもない! そう判断するや否や、彼女は横っ飛びでそれに食らいつく。

「えぇぇぇぇいッ!」

 左手のグラブが伸びる、ボールを……捕る! 直後、素早く立ち上がって一塁へ投げる。女子が投げたとは思えないほど速いその球は、玉橋が一塁に着く寸前で山阪のミットに入る。

「アウト!」

 危機一髪の当たりだった、そういえよう。だが、テイターのおかげでどうにかヒットにならずにすんだ。西詰は礼をいう。

「助かったよ、ありがとう。ファイン・プレイだ!」
「えへへ、どーも! ところで、今のはファイン・プレイっていうより、ナイス・キャッチってほうが自然な英語だと思うな」
「そうなの?」
「多分ね」

 こうして玉橋を倒した後は、楽な勝負が続いていった。
 次の五番バッターは大ぶりなスイングを繰り返した末に三振となり、六番も内野フライという結果で終わる。気づいてみれば三者凡退、西詰はランナーを出すことなくこの回を守り抜いた。

 問題は打線の方にある。六回表の攻撃は、五番谷下の単打と八番めぐみの四球以外はまったく出塁できず、得点ゼロで終わってしまった。
 その裏のジャイアンツ打線は西詰がきっちり三者凡退で抑えるが、彼もそろそろスタミナ切れで辛くなってきた。

 試合はいよいよ七回表に突入する。これはファルコンズが攻撃する最後の機会であり、逆転する最後の機会でもある。
 だが幸いなことに、打順は一番のデイビッドから始まるのだ。いわゆる上位打線であり、得点力には期待できる。

 せめて引き分けに持ちこんで試合終了といきたいものだが。
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