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第一章 おーい西詰、野球しようぜ!
第2話-6 人生はやりたいことやるのが一番
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試合はその後も続いたが、赤チームも白チームも追加点を取ることなく全イニングを終えて、試合はおしまいとなった。そして勝敗は、赤三点の白六点で白チームの勝ちという結果になった。
ベンチに座って疲れた体をやすめている西詰は、目の前の球場を眺めながら色々なことを思い返している。そんな彼の横の席に山阪がやってきて座る。
「おう、お疲れさん。ちょっと座るぜ」
「はい」
山阪は麦茶入りのペットボトルから中身を飲みつつ話し出す。
「どうだ、やってみての感想は?」
「やっぱ大変でしたよ。ランナー出しちゃった時はすっごい焦りましたし……」
「六回のあれか。確かに大変だったよな。でも失点しなかったんだし、それでいいじゃねぇか。とにかくお前はよくやったよ、急な話だったのに付き合ってくれてありがとな」
「こちらこそ、いろいろお世話になって、ありがとうございます」
「それでよ、本題に入るが……。どうする、草野球? まだ続けてみるか?」
西詰を見ている山阪の顔は平静で穏やかだ。決して威圧的ではなく、何かを無理強いするような雰囲気は一つもない。西詰はそれに安心を感じつつ返事をする。
「正直、まだ決心がつかない部分があるんですよ。大学の勉強って大変で、俺は英文学科なんですけど、とにかく宿題が多くって。それに、読みたい本とかもたくさんあるんです。そういうこと考えたら、ちょっと野球は無理かもしれない。試合の前はそう思ってました」
「おう」
「でもやってみて気づきました。野球ってやっぱり楽しくて、俺には才能とかないのかもしれないけど、だからって諦めたりする必要ないんだって。人生はやりたいことやるのが一番、そして俺は野球がしたい。ならやってみよう、ファルコンズで頑張ろうって、今はそういう気持ちです」
「じゃ、それで決まりか?」
「はい。俺を正式にファルコンズに入れてください。お願いします」
「いい返事じゃねぇか! 歓迎するぜ!」
山阪は右手を差し出す。西詰も右手を差し出し、握手する。そんなところに矢井場がやってきて声をかける。
「どうしたお前ら、相談か?」
西詰が答える。
「相談っていうか、今後もファルコンズで頑張りたいって話をしてました」
「じゃあお前、ちゃんとメンバーになるんだな?」
「はい」
「いいねぇいいねぇ! ありがとうよ」
「はい!」
「いやぁー嬉しいねぇ、この調子でメンバー増えるといいんだけど」
「でもあんまり増えると大変じゃないですか? スタメンに入れなくて試合に出れない人が発生しますよ」
「まぁそうなんだけどよ、でも仲間が増えると嬉しいじゃねぇか。それに、うちはとにかくピッチャーがいねぇんだ。だから投げられそうなのは一人でも増やしてかねぇと……。なぁ、山阪?」
「みんな投げるよりも打つ方が好きですからねぇ、バッターばっかり増えるのは仕方ないですよ。それに、たまにピッチャー希望者が来ても、仕事だの勉強だの、なかなか参加できなかったり……」
西詰は矢井場に質問する。
「ファルコンズってどれくらい人がいるんですか?」
「だいたい二十人ぐらいか? でも出席率高いのはまぁ十人くらいだな、忙しい奴ばっかでよ」
「あの、俺みたいに若い人ってのはいないんですか?」
「何人かはいるな。そうそう、今年の頭に二人入ったんだ。どっちも女の子なんだけど、一人がすげぇ奴でよ。ショートなんだけど、守備はうまいし打撃も凄い、足だって早くてさ。今じゃうちの三番だよ」
「へぇ……」
「やっぱ外人さんの血が入ってると凄いのかねぇ……」
「その人ってハーフなんですか?」
「親父さんがアメリカ人で、お袋さんは日本人だが、とにかく美人な子でねぇ……」
山阪が発言する。
「まぁまぁ、監督、今日はこれくらいにしましょうよ。だいぶ時間もなくなってきたし、とりあえず片付けしねぇと……」
「もうそんな時間か? そうだな、続きはじゃあメシでも食いながら話すか」
「おごりですか?」
「んなわけねぇだろう(苦笑)。とにかくグラウンド行くぞ、ついてこい!」
三人はグラウンドへ向かって歩き出す。五月の風が優しく吹き抜け、彼らを心地よい気分にしながらどこかへ去っていく。
こうして、西詰歩は遠山ファルコンズの選手として活動し始めたのだった。
ベンチに座って疲れた体をやすめている西詰は、目の前の球場を眺めながら色々なことを思い返している。そんな彼の横の席に山阪がやってきて座る。
「おう、お疲れさん。ちょっと座るぜ」
「はい」
山阪は麦茶入りのペットボトルから中身を飲みつつ話し出す。
「どうだ、やってみての感想は?」
「やっぱ大変でしたよ。ランナー出しちゃった時はすっごい焦りましたし……」
「六回のあれか。確かに大変だったよな。でも失点しなかったんだし、それでいいじゃねぇか。とにかくお前はよくやったよ、急な話だったのに付き合ってくれてありがとな」
「こちらこそ、いろいろお世話になって、ありがとうございます」
「それでよ、本題に入るが……。どうする、草野球? まだ続けてみるか?」
西詰を見ている山阪の顔は平静で穏やかだ。決して威圧的ではなく、何かを無理強いするような雰囲気は一つもない。西詰はそれに安心を感じつつ返事をする。
「正直、まだ決心がつかない部分があるんですよ。大学の勉強って大変で、俺は英文学科なんですけど、とにかく宿題が多くって。それに、読みたい本とかもたくさんあるんです。そういうこと考えたら、ちょっと野球は無理かもしれない。試合の前はそう思ってました」
「おう」
「でもやってみて気づきました。野球ってやっぱり楽しくて、俺には才能とかないのかもしれないけど、だからって諦めたりする必要ないんだって。人生はやりたいことやるのが一番、そして俺は野球がしたい。ならやってみよう、ファルコンズで頑張ろうって、今はそういう気持ちです」
「じゃ、それで決まりか?」
「はい。俺を正式にファルコンズに入れてください。お願いします」
「いい返事じゃねぇか! 歓迎するぜ!」
山阪は右手を差し出す。西詰も右手を差し出し、握手する。そんなところに矢井場がやってきて声をかける。
「どうしたお前ら、相談か?」
西詰が答える。
「相談っていうか、今後もファルコンズで頑張りたいって話をしてました」
「じゃあお前、ちゃんとメンバーになるんだな?」
「はい」
「いいねぇいいねぇ! ありがとうよ」
「はい!」
「いやぁー嬉しいねぇ、この調子でメンバー増えるといいんだけど」
「でもあんまり増えると大変じゃないですか? スタメンに入れなくて試合に出れない人が発生しますよ」
「まぁそうなんだけどよ、でも仲間が増えると嬉しいじゃねぇか。それに、うちはとにかくピッチャーがいねぇんだ。だから投げられそうなのは一人でも増やしてかねぇと……。なぁ、山阪?」
「みんな投げるよりも打つ方が好きですからねぇ、バッターばっかり増えるのは仕方ないですよ。それに、たまにピッチャー希望者が来ても、仕事だの勉強だの、なかなか参加できなかったり……」
西詰は矢井場に質問する。
「ファルコンズってどれくらい人がいるんですか?」
「だいたい二十人ぐらいか? でも出席率高いのはまぁ十人くらいだな、忙しい奴ばっかでよ」
「あの、俺みたいに若い人ってのはいないんですか?」
「何人かはいるな。そうそう、今年の頭に二人入ったんだ。どっちも女の子なんだけど、一人がすげぇ奴でよ。ショートなんだけど、守備はうまいし打撃も凄い、足だって早くてさ。今じゃうちの三番だよ」
「へぇ……」
「やっぱ外人さんの血が入ってると凄いのかねぇ……」
「その人ってハーフなんですか?」
「親父さんがアメリカ人で、お袋さんは日本人だが、とにかく美人な子でねぇ……」
山阪が発言する。
「まぁまぁ、監督、今日はこれくらいにしましょうよ。だいぶ時間もなくなってきたし、とりあえず片付けしねぇと……」
「もうそんな時間か? そうだな、続きはじゃあメシでも食いながら話すか」
「おごりですか?」
「んなわけねぇだろう(苦笑)。とにかくグラウンド行くぞ、ついてこい!」
三人はグラウンドへ向かって歩き出す。五月の風が優しく吹き抜け、彼らを心地よい気分にしながらどこかへ去っていく。
こうして、西詰歩は遠山ファルコンズの選手として活動し始めたのだった。
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