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第2部 闇に死す
第4話-2 ラズベリー飴の味
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カールとの、突然の再会。キャンディスは何故かどぎまぎしてしまう、頭がボーッとして、言葉が浮かばなくなる。そんな様子を知ってか知らずか、レーヴはのほほんとカールに返答する。
「カールさん、久しぶりー!」
カールは笑いながら答える。
「はは、久しぶり。まさかこの街で再会するとはね」
「ホントですよー。まるで磁石が引き合うみたいに再会するなんて」
「中々うまい例えだね。それで、君たちはなぜこの街に?」
「ダンジョンで見つけたアイテムがあって、鑑定してもらおうと思って」
「もう鑑定はすんだのかい?」
「いやぁ、それが、どこのお店でもわかんなくて……」
「ふむ……」
カールはほんの少しだけ考えた後、口を開く。
「前に話したことを覚えているかい? 私には学者の友人がいて、彼はこの街にいるということを」
「あ~、そういえば……」
「もしかすると、彼ならそのアイテム、鑑定できるかもしれない」
「ほんとですか!?」
「実際にやってみないと、何とも言えないけれどね。まぁ、物は試しだ。行ってみるといい」
「場所はどこですか?」
カールはいま来た道へ振り返り、それを指さしながら説明する。
「この道を十分ほど行くと、大きなケヤキがある。そこの左側、ちょっとした坂になっているところを五分も歩けば、彼の屋敷さ」
「ありがとうございます!」
「彼の名前はイーホウ。私からの紹介だと言えば、会ってくれるよ。きっと」
「はい!」
「実はさっき訪ねてみたんだが、今日はもう出かけてしまったらしくてね。そういうわけだから、明日また行くといい」
キャンディスはまだボーッとしている。カールが声をかける。
「キャンディスくん、大丈夫かい? なんだか気分が悪そうだけれど」
「あっ、はい!」
「疲れているなら休んだほうがいいよ。そうだ、ラズベリーの飴があるんだが、いるかい? 少しだけ体力が回復するけれど」
「はい」
「うん、ちょっと待ってくれ……」
彼は腰の小さなバッグを漁って飴を取り出し、キャンディスに渡す。
「どうぞ。少し癖のある味だけど、大丈夫、腐ってるわけじゃない。安心して」
「はい」
「それじゃ、元気でね」
まだ話を続けるため、レーヴが口を開く。
「カールさん、行っちゃうんですか?」
「宿に帰らないといけないんだ。前はイーホウのところにいたんだけど、いろいろあって、今は宿屋暮らしでね」
「どこの宿なんですか?」
「それを聞いてどうするんだい?」
「後で遊びにいこうと思って」
「なるほどね。シルヴァー・レイン(silver rain)って宿屋に泊っているよ。有名なところだから、調べればすぐに場所がわかる」
「わかりました!」
「それじゃあ、さよならだ」
カールは軽く手を振って、キャンディスたちに別れを告げ、立ち去る。キャンディスはその姿をずっと目で追い続けている。そんな彼女に声をかけるレーヴ。
「ちょっと、キャンディス? ほんとに大丈夫?」
「えっ、えぇ……。すごく驚いてしまって……」
「とりあえずさ、もらった飴、なめたほうがいいんじゃない?」
「はい……」
包み紙をはがし、中の飴を取り出す。スモモのような色をしたそれからは甘い香りが漂い、キャンディスの感覚を刺激する。指でつまみ、口へ運び、舌の上に転がす。唾液が飴を出迎え、少しずつそれを溶かしていく。
レーヴはキャンディスに質問する。
「ねぇ、どんな味?」
「……ラズベリー味……」
それはきっと、経験したことのある人だけが理解できる味。
その日の夜、大衆料理店。ギンたちはそこに集まり、食事をしながらお喋りをしている。テーブルの上には楕円型の食器が並び、その中には、マカロニ&チーズが入っている。それを食べながらリッチーが言う。
「ほーん、カールさんと、ねぇ……」
レーヴが返す。
「いやぁ、あの時はびっくりしたよー。突然だったもん」
「それで、イーホウだっけ? その人がアイテムに詳しいって?」
「うん。そう言ってた」
「おい、ギン、どうするよ。行ってみるか?」
「みんなに反対意見がないなら、俺はそうしたいな。キャンディス、どう思う?」
「えっ?」
キャンディスは顔をギンに向ける。ギン、少し呆れながら喋る。
「おいおい、話、聞いてなかったの? イーホウさんのとこに行くかどうか、それについてなんだけど」
「そうですね……」
彼女はレーヴにたずねる。
「レーヴさん。イーホウさんはカールさんのお友だち、そうですよね?」
「うん、そうだけど。それがどうかしたの?」
「いえ、別に……」
イーホウのところに行けば、もしかしたら、そこに遊びに来ているカールと再会できるかもしれない。キャンディスはギンに向かって喋る。少し強い、ハッキリした口調で。
「ギンさん。ぜひ、イーホウさんのお屋敷に行きましょう。その話、私は賛成です」
「いいの?」
「はい」
「了解。じゃあみんな、明日はイーホウさんのとこでいい? 反対の人、いる?」
誰からも異議は出ない。事実上の全員一致である。こうして、次の目的地が決定された。
カールとの再会は、やはり、さざ波のローブのおかげなのだろうか。
「カールさん、久しぶりー!」
カールは笑いながら答える。
「はは、久しぶり。まさかこの街で再会するとはね」
「ホントですよー。まるで磁石が引き合うみたいに再会するなんて」
「中々うまい例えだね。それで、君たちはなぜこの街に?」
「ダンジョンで見つけたアイテムがあって、鑑定してもらおうと思って」
「もう鑑定はすんだのかい?」
「いやぁ、それが、どこのお店でもわかんなくて……」
「ふむ……」
カールはほんの少しだけ考えた後、口を開く。
「前に話したことを覚えているかい? 私には学者の友人がいて、彼はこの街にいるということを」
「あ~、そういえば……」
「もしかすると、彼ならそのアイテム、鑑定できるかもしれない」
「ほんとですか!?」
「実際にやってみないと、何とも言えないけれどね。まぁ、物は試しだ。行ってみるといい」
「場所はどこですか?」
カールはいま来た道へ振り返り、それを指さしながら説明する。
「この道を十分ほど行くと、大きなケヤキがある。そこの左側、ちょっとした坂になっているところを五分も歩けば、彼の屋敷さ」
「ありがとうございます!」
「彼の名前はイーホウ。私からの紹介だと言えば、会ってくれるよ。きっと」
「はい!」
「実はさっき訪ねてみたんだが、今日はもう出かけてしまったらしくてね。そういうわけだから、明日また行くといい」
キャンディスはまだボーッとしている。カールが声をかける。
「キャンディスくん、大丈夫かい? なんだか気分が悪そうだけれど」
「あっ、はい!」
「疲れているなら休んだほうがいいよ。そうだ、ラズベリーの飴があるんだが、いるかい? 少しだけ体力が回復するけれど」
「はい」
「うん、ちょっと待ってくれ……」
彼は腰の小さなバッグを漁って飴を取り出し、キャンディスに渡す。
「どうぞ。少し癖のある味だけど、大丈夫、腐ってるわけじゃない。安心して」
「はい」
「それじゃ、元気でね」
まだ話を続けるため、レーヴが口を開く。
「カールさん、行っちゃうんですか?」
「宿に帰らないといけないんだ。前はイーホウのところにいたんだけど、いろいろあって、今は宿屋暮らしでね」
「どこの宿なんですか?」
「それを聞いてどうするんだい?」
「後で遊びにいこうと思って」
「なるほどね。シルヴァー・レイン(silver rain)って宿屋に泊っているよ。有名なところだから、調べればすぐに場所がわかる」
「わかりました!」
「それじゃあ、さよならだ」
カールは軽く手を振って、キャンディスたちに別れを告げ、立ち去る。キャンディスはその姿をずっと目で追い続けている。そんな彼女に声をかけるレーヴ。
「ちょっと、キャンディス? ほんとに大丈夫?」
「えっ、えぇ……。すごく驚いてしまって……」
「とりあえずさ、もらった飴、なめたほうがいいんじゃない?」
「はい……」
包み紙をはがし、中の飴を取り出す。スモモのような色をしたそれからは甘い香りが漂い、キャンディスの感覚を刺激する。指でつまみ、口へ運び、舌の上に転がす。唾液が飴を出迎え、少しずつそれを溶かしていく。
レーヴはキャンディスに質問する。
「ねぇ、どんな味?」
「……ラズベリー味……」
それはきっと、経験したことのある人だけが理解できる味。
その日の夜、大衆料理店。ギンたちはそこに集まり、食事をしながらお喋りをしている。テーブルの上には楕円型の食器が並び、その中には、マカロニ&チーズが入っている。それを食べながらリッチーが言う。
「ほーん、カールさんと、ねぇ……」
レーヴが返す。
「いやぁ、あの時はびっくりしたよー。突然だったもん」
「それで、イーホウだっけ? その人がアイテムに詳しいって?」
「うん。そう言ってた」
「おい、ギン、どうするよ。行ってみるか?」
「みんなに反対意見がないなら、俺はそうしたいな。キャンディス、どう思う?」
「えっ?」
キャンディスは顔をギンに向ける。ギン、少し呆れながら喋る。
「おいおい、話、聞いてなかったの? イーホウさんのとこに行くかどうか、それについてなんだけど」
「そうですね……」
彼女はレーヴにたずねる。
「レーヴさん。イーホウさんはカールさんのお友だち、そうですよね?」
「うん、そうだけど。それがどうかしたの?」
「いえ、別に……」
イーホウのところに行けば、もしかしたら、そこに遊びに来ているカールと再会できるかもしれない。キャンディスはギンに向かって喋る。少し強い、ハッキリした口調で。
「ギンさん。ぜひ、イーホウさんのお屋敷に行きましょう。その話、私は賛成です」
「いいの?」
「はい」
「了解。じゃあみんな、明日はイーホウさんのとこでいい? 反対の人、いる?」
誰からも異議は出ない。事実上の全員一致である。こうして、次の目的地が決定された。
カールとの再会は、やはり、さざ波のローブのおかげなのだろうか。
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