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第1部 すべては経験

第10話-2 いいものを安く/Get Along with You!

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 街の北側にある、冒険者向けの店や商人があふれる場所。今、ギンたちはそこにいて、のんびりと歩いている。ギンが喋る。

「こうやって買い物するのは久しぶりじゃない?」

 リッチーが返す。「ここんとこ、冒険だなんだと忙しかったしな。ま、たまにはゆっくりとブラつこうぜ」。それにレーヴが返す。

「あのさぁ、あたしたちは装備を買いにきたんだよ? 買い食いとか、そういうわけじゃないんだからさぁ。気合入れてかないと」

 カールはキャンディスにたずねる。

「目的の店まで、まだかかるのかい?」
「いえ、もうそろそろだと思います……あっ、あそこです」

 ずいぶん古いレンガ造りの建物、それがその店だった。ギンたちは店内に入り、奥に進み、カウンターにいる初老の男性の前に立つ。ギンが話しかける。

「こんにちは、モーゼルさん。どうですか、調子は?」

 モーゼルと呼ばれた男性はギンたちを見る。そして不機嫌そうに言う。

「ふん、今日は朝から忙しくてな……。それで、何をしに来たんだ?」

 ギンに代わり、リッチーが話を引き継ぐ。

「実はよ、毒よけのアイテムを買いに来たんだけどよ。なんかねぇかな?」
「毒よけか……」

 モーゼルは店の隅をちらっと見る。その場所は、本来なら指輪などがたくさん並んでいる場所なのだが、今は少ししかない。そのことを確認後、彼は話を続ける。

「残念だが、あまり在庫がねぇ」
「おいおい、そりゃ困るぜ」
「朝、団体の客が買い占めていってな。おう、そうだ、予算はいくらぐらいだ?」
「1万マー」
「1万か……」

 モーゼルは少し考えこむ。

「毒よけの指輪が1つだけ残ってる。3000マーだ。あと、指輪じゃなくてイヤリングでいいなら2つあるぞ。2つとも買ってくれるなら、割り引いて合計5000にしておく。どうだ?」
「みんな、どうするよ?」

 店の隅、先ほどモーゼルが視線をやった所にいるカールが、指輪を見ながら返す。

「私はいいと思う。立派な品だ、これで3000だったら誰でも買うよ」

 結局、彼のこの一言が決め手となって、ギンたちは商談を成立させた。指輪1つとイヤリング2つ、合わせて8000マー。店を出た後、カールが上機嫌そうに言う。

「ここはいいな。良い物を扱っている」

 レーヴの返事。

「どうしたのカールさん、そんなにウキウキして?」
「私は買い物が好きでね。いい店に出会うとつい興奮してしまって……」
「ここ、そんなに良かった?」
「あぁ、かなり。また来たいな。いろいろと掘り出し物もありそうだ、たとえば、壁に飾ってあった……」

 カールの話が長引きそうなのを見て、それを終わらすべく、リッチーが喋り出す。

「カールさん、盛り上がってるとこ悪りぃけど、まだ装備の話が終わってねぇ」
「あぁ、そうだった……すまない。それで、指輪1つにイヤリング2つだったか?」
「まず、誰にどれを渡すかっつー問題がある」
「ふむ……」
「ギンは手袋するから、指輪は無理だろ。だから、イヤリングの1つはギンだ。それと、できれば俺もイヤリングにしたい。指輪をはめてると、細かい作業がやりにくいからな」
「では、指輪は誰に?」
「レーヴかキャンディスじゃねぇか? 二人とも素手が基本だし、細かいことをするわけでもねぇ」

 それを聞いてキャンディスが申し出る。

「では、指輪はレーヴさんにお譲りします」
「えっ、いいの?」
「私が毒になっても、その場で魔法を使ってすぐ治せますから」
「じゃあ、ありがたくもらっちゃおうかな」

 話がここまで来た時、ギンが発言する。

「じゃあ、カールさんとキャンディスはどうするの?」

 カールが答える。

「私が使っている鎧には、毒でもマヒでも防げる魔法がかかっている。とりあえずはこれで何とかしてみよう」
「俺、聞いたことありますよ。そういう何でも防ぐ魔法って、抵抗力そのものは低いって」
「それはしかたないさ。そういうアイテムだからね」
「やっぱり毒よけ専門の装備を買ったほうがいいですよ」
「とはいえ、予算の都合もある。それに、私と違って、キャンディスくんは何の装備もないだろう。残ったお金で彼女用の装備を買うべきだよ」

 話し合いの末、カールの意見を採用することに決まった。後はどこかで装備を買うだけである。キャンディスは提案する。

「女性の冒険者向けのお店なんですけど、いいところを知っています。そこに行きませんか?」

 リッチーが言う。

「まさか、五人でぞろぞろ行くのか? 男が三人もいるのに?」
「そ、それは……」
「お前とカールさんの二人だけでいいんじゃねぇの?」

 カールは驚く。

「ちょっと待ってくれ、キャンディスくんはともかく、なぜ私まで?」
「キャンディスだけだとクズ商品をつかまされるかもしれねぇ。でもカールさんがいてくれれば安心だ、その鑑定力があれば大丈夫」

 それからの話し合い、カールもキャンディスも、男女の二人で行くのはためらいがあると主張した。だが、リッチーの意見よりいいものはなく、彼の意見通りになった。彼は言う。

「俺らは宿へ帰ってるから、お二人はゆっくり選んできてくれよ」

 キャンディス、「もぅ、私は嫌なのに……」。

「しょうがねぇだろ、ほら、さっさと行動しねぇと日が暮れちまうぞ」
「えぇ、わかってますよ」
「それにしても、カールさんと二人っきりとはいいねぇ~。まるでデートじゃん」
「で、デート!? 冗談でしょう!?」

 カールが思わず笑う。

「デートか、それはいい。じゃあ、頑張ってエスコートすることにしよう」

 キャンディスの顔が恥ずかしさで真っ赤になる。同時に、彼女の心に少しの喜びが広がる。もしかすると、彼女は話がこうなることを期待していたのかもしれない。



 ギンたちに冷やかされながら、キャンディスとカールは出発する。
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