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第三章 冷酷非情の世界に生きる
第25話-2 汚い仕事は俺が実行する
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ビルの中に入った隊長は、捜査令状を手に持ちながら叫ぶ。
「ボトム・ロック警備隊、第二部隊隊長、メイユー・ワンだ! 市民より、ここで麻薬の製造が行われているとの通報が入った! よって、これより強制捜査を行う!」
即座に一人の男性警備員が飛んできて文句を言う。
「ちょっと、あんた! いきなりなんだ、横暴だ!」
「横暴も何もない。これは正式な捜査令状に基づいている」
隊長はそいつに令状を押しつけ、俺たちに言う。
「お前ら、三階に上がるぞ。遅れるな!」
俺たちは駆け足で奥へ進み、階段を上り、三階に到達する。そのまま直進、社長室と思われる部屋のドアを開け、中に踏み込む。銃を構えつつ隊長が叫ぶ。
「動くな! 警備隊だ! これより強制捜査を行う!」
隊長の正面にある机、それの席に座っているやせた白人男性が返答する。
「なんだね、君たちは!?」
「ダーカー、こいつを外に出せ」
「ちょっと君たち、何をする気だ!」
ダーカーはその男性に近づき、腕力に物を言わせて室外に引きずり出す。男性は抗議する。
「おい、やめろ! 後で訴えるぞ! おい、聞いているのか!」
誰も男性に答えない。俺たちは黙々と室内を捜査する、机の引き出しを開けて中を調べたり、家具をどかしてみたり。
その間、俺はみんなの死角にある本棚の前に移動し、それの下部にある引き戸を開けて、中を調べているふりをする。持ってきていた麻薬の袋を取り出し、素早く中に入れる。しばらくごそごそと中の物を漁り、タイミングを見計らって声を上げる。
「隊長、ありました! 見てください!」
俺は、麻薬の袋を手にしながら隊長のもとへ行き、それを見せる。彼女は険しい顔で言う。
「いかにもって感じだな。エイミー、ちょっと来てくれ」
「はい」
「お前のカバンに検査キットが入ってるだろう。それでこいつを調べてくれ」
「はい」
エイミーは検査の準備を始める。俺はそれを見ながら複雑な気持ちになる。隊長が声をかけてくる。
「どうした、何か変なことでもあるのか?」
「いや……そうじゃなくて……」
「しっかりしろよ、今は仕事中なんだ。ほら、あっちはまだ調べてないだろう。早く行ってくれ」
「分かりました」
俺は指示された場所へと歩き出す。
その検査によって、本棚から出てきた物は麻薬だと証明された。そりゃ当たり前だわな、俺がそれを持っていったんだから。そしてそれを理由にして、俺たちは例の白人男性を捕まえ、本部へと連行した。
今は事務室で報告書その他の書類を作成中だ。みんなして机にかじりつき、せっせとコンピューターで仕事をしている。
俺の横の席にいるダーカーが、ずるずるとコーヒーをすすりながら俺に話しかけてくる。
「まさか本当に麻薬があるとはなぁ。驚きだ」
「司令が言ってたじゃねぇか。あいつはノーリアの工作員、それもリーダーだって。なら、麻薬でも火薬でも、何を持ってたって不思議じゃない」
「確かにな。しかし、別件で捕まえて取り調べって、そんな方法で自分の正体を喋るだろうか?」
「そんなこと気にするなよ。そういうのは他の部隊の仕事なんだから。俺たちは言われたことをやればそれで十分だろ?」
「それもそうだな……」
隊長からお叱りの言葉が飛んでくる。
「こら、喋ってんじゃないよ! 口じゃなくて手を動かせ、仕事が終わんないだろうが!」
俺たちは「すみません」と言って謝り、仕事に戻る。カタカタとキーボードを打ち、書類を仕上げていく。
捜査が行われた日から少しの日数が経った後。例の秘密のフロアにある一室。俺と司令は、席でくつろぎながら会話をしている。俺。
「事件をでっち上げ、嘘の罪で捕まえる。工作員が相手とはいえ、やはりいい気持ちはしませんね」
「すぐに慣れるさ。これから先、こういったことをいくつもやるのだから」
「それもそうですね」
「念のために言っておくが、このことは私と君だけの秘密だ。君の仲間たちは、でっち上げが行われたとは思っていない。あの男が本当に麻薬を持っていた、そう思っている」
「それでいいんです。汚い仕事は俺が実行する、もともとそういう覚悟です」
「いい言葉だ」
司令はちらりと俺の顔を見る。それから続ける。
「捕まえた男は、しばらく留置場に入れておくつもりだ。適当な時期がくるまでずっと捕まえておく」
「拷問はしないんですか?」
「今はいい。彼は重要人物だ、手荒に扱うと後で面倒ごとになる」
「分かりました」
「では次の話題だ。市長を選ぶ選挙だが、そろそろ投票日になる」
「じゃあ、いよいよあれをやるんですか」
「何か問題でも?」
「いえ、ありませんよ」
「タイミングが重要だ。しっかりやれよ」
「了解です」
悪だくみがまた一つ進行していく。
翌日。ある高級レストランで大爆発が起き、そこにいた約二十人の人々が命を失った。その中には市長選挙の対立候補も含まれていた。
そういうわけで、司令の部下は予定通りに市長に当選し、ケニスとの戦争をするための政治工作を行い始めた。
それからさらに数日後。第一部隊から編成された特別チームがイエロー・ビルに突入し、地下にある工作員のアジトを制圧した。
そこからはあっという間に話が進み、潜入中の工作員はすべて逮捕、以降、爆弾テロが起きることはなくなった。
最後に、例の金髪野郎のことを喋っておこう。俺と司令の手によってズタズタにされた彼は、街の公園にある大きな木に吊るされた。
彼の首には木の板がかけられていて、そこには次の言葉たちが刻まれていた。
『苦痛を癒すは苦痛なり』
この一件は、マフィア同士の抗争の結果だと司令は発表した。それでいい。たいていの場合、真実は闇に葬られるのだから。
そろそろケニスとの全面戦争が始まるだろう。どんな手段を使ってでも俺は勝つ、そして、この世界に生き残ってみせる。
「ボトム・ロック警備隊、第二部隊隊長、メイユー・ワンだ! 市民より、ここで麻薬の製造が行われているとの通報が入った! よって、これより強制捜査を行う!」
即座に一人の男性警備員が飛んできて文句を言う。
「ちょっと、あんた! いきなりなんだ、横暴だ!」
「横暴も何もない。これは正式な捜査令状に基づいている」
隊長はそいつに令状を押しつけ、俺たちに言う。
「お前ら、三階に上がるぞ。遅れるな!」
俺たちは駆け足で奥へ進み、階段を上り、三階に到達する。そのまま直進、社長室と思われる部屋のドアを開け、中に踏み込む。銃を構えつつ隊長が叫ぶ。
「動くな! 警備隊だ! これより強制捜査を行う!」
隊長の正面にある机、それの席に座っているやせた白人男性が返答する。
「なんだね、君たちは!?」
「ダーカー、こいつを外に出せ」
「ちょっと君たち、何をする気だ!」
ダーカーはその男性に近づき、腕力に物を言わせて室外に引きずり出す。男性は抗議する。
「おい、やめろ! 後で訴えるぞ! おい、聞いているのか!」
誰も男性に答えない。俺たちは黙々と室内を捜査する、机の引き出しを開けて中を調べたり、家具をどかしてみたり。
その間、俺はみんなの死角にある本棚の前に移動し、それの下部にある引き戸を開けて、中を調べているふりをする。持ってきていた麻薬の袋を取り出し、素早く中に入れる。しばらくごそごそと中の物を漁り、タイミングを見計らって声を上げる。
「隊長、ありました! 見てください!」
俺は、麻薬の袋を手にしながら隊長のもとへ行き、それを見せる。彼女は険しい顔で言う。
「いかにもって感じだな。エイミー、ちょっと来てくれ」
「はい」
「お前のカバンに検査キットが入ってるだろう。それでこいつを調べてくれ」
「はい」
エイミーは検査の準備を始める。俺はそれを見ながら複雑な気持ちになる。隊長が声をかけてくる。
「どうした、何か変なことでもあるのか?」
「いや……そうじゃなくて……」
「しっかりしろよ、今は仕事中なんだ。ほら、あっちはまだ調べてないだろう。早く行ってくれ」
「分かりました」
俺は指示された場所へと歩き出す。
その検査によって、本棚から出てきた物は麻薬だと証明された。そりゃ当たり前だわな、俺がそれを持っていったんだから。そしてそれを理由にして、俺たちは例の白人男性を捕まえ、本部へと連行した。
今は事務室で報告書その他の書類を作成中だ。みんなして机にかじりつき、せっせとコンピューターで仕事をしている。
俺の横の席にいるダーカーが、ずるずるとコーヒーをすすりながら俺に話しかけてくる。
「まさか本当に麻薬があるとはなぁ。驚きだ」
「司令が言ってたじゃねぇか。あいつはノーリアの工作員、それもリーダーだって。なら、麻薬でも火薬でも、何を持ってたって不思議じゃない」
「確かにな。しかし、別件で捕まえて取り調べって、そんな方法で自分の正体を喋るだろうか?」
「そんなこと気にするなよ。そういうのは他の部隊の仕事なんだから。俺たちは言われたことをやればそれで十分だろ?」
「それもそうだな……」
隊長からお叱りの言葉が飛んでくる。
「こら、喋ってんじゃないよ! 口じゃなくて手を動かせ、仕事が終わんないだろうが!」
俺たちは「すみません」と言って謝り、仕事に戻る。カタカタとキーボードを打ち、書類を仕上げていく。
捜査が行われた日から少しの日数が経った後。例の秘密のフロアにある一室。俺と司令は、席でくつろぎながら会話をしている。俺。
「事件をでっち上げ、嘘の罪で捕まえる。工作員が相手とはいえ、やはりいい気持ちはしませんね」
「すぐに慣れるさ。これから先、こういったことをいくつもやるのだから」
「それもそうですね」
「念のために言っておくが、このことは私と君だけの秘密だ。君の仲間たちは、でっち上げが行われたとは思っていない。あの男が本当に麻薬を持っていた、そう思っている」
「それでいいんです。汚い仕事は俺が実行する、もともとそういう覚悟です」
「いい言葉だ」
司令はちらりと俺の顔を見る。それから続ける。
「捕まえた男は、しばらく留置場に入れておくつもりだ。適当な時期がくるまでずっと捕まえておく」
「拷問はしないんですか?」
「今はいい。彼は重要人物だ、手荒に扱うと後で面倒ごとになる」
「分かりました」
「では次の話題だ。市長を選ぶ選挙だが、そろそろ投票日になる」
「じゃあ、いよいよあれをやるんですか」
「何か問題でも?」
「いえ、ありませんよ」
「タイミングが重要だ。しっかりやれよ」
「了解です」
悪だくみがまた一つ進行していく。
翌日。ある高級レストランで大爆発が起き、そこにいた約二十人の人々が命を失った。その中には市長選挙の対立候補も含まれていた。
そういうわけで、司令の部下は予定通りに市長に当選し、ケニスとの戦争をするための政治工作を行い始めた。
それからさらに数日後。第一部隊から編成された特別チームがイエロー・ビルに突入し、地下にある工作員のアジトを制圧した。
そこからはあっという間に話が進み、潜入中の工作員はすべて逮捕、以降、爆弾テロが起きることはなくなった。
最後に、例の金髪野郎のことを喋っておこう。俺と司令の手によってズタズタにされた彼は、街の公園にある大きな木に吊るされた。
彼の首には木の板がかけられていて、そこには次の言葉たちが刻まれていた。
『苦痛を癒すは苦痛なり』
この一件は、マフィア同士の抗争の結果だと司令は発表した。それでいい。たいていの場合、真実は闇に葬られるのだから。
そろそろケニスとの全面戦争が始まるだろう。どんな手段を使ってでも俺は勝つ、そして、この世界に生き残ってみせる。
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