ひまわりの涙

ゆうぜん

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アルストロメリア

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愛する人が涙を流している。顔に手を添えたいのに、腕が上がらない。暗闇の中、響く声が胸を苦しくさせる。泣き叫ぶ声が動かない全身に衝撃として走る。俺は、どうなったんだ?これは夢なのか?それとも現実なのか?深く落ちていく意識は分からない問いの答えをも沈ませる。


私の前にはいつも璃人がいる。暗く歩きづらい道の先に、灯を点して待っていてくれる。笑顔で、いつも私のことを励ましてくれて。私を正しい道へと示してくれる。璃人の案内で辿り着いたのは、一軒の家だった。庭には向日葵ひまわりが咲いており、夕日が中にいる家族の影を見せる。楽しそうな笑い声と共に影が三人見えた。胸が熱くなる。この家庭が自分の求めた家族だということ。そして、それに手を伸ばすことは、家に入ることは出来ないという事が分かってしまう。
持っていた灯を消した璃人は、姿を変えていく。温かな家も楽しそうな笑い声も無くなり、闇が広がる。
すぐ近くで泣いている声がした。
後ろを振り返ると、涙を流す璃人が立っていた。璃人の周りが明るくなり、暗闇が晴れていく。見えなかったものが鮮明に見える。
涙が落ちるたびに景色は変わり、現実を映し出す。愛する夫はもうこの世にはいないこと。璃人があの日からずっと泣いていること。私の心に穴が空き、月日が経つたびに綻びが生まれていること。望んだものが形を変えて、やがて崩れていく。
「やめて!!もう……こんな思いは嫌なの……」
自分の泣き叫ぶ声が聞こえる。目を覚まさない璃人の横で、私は手を握りながら涙を流す。今まで涙が出なかったのは、私の心に涙が無かったから。だから代わりに璃人が泣いてくれて、流した涙の意味を知っているから、私はそれに甘えていた。でも、愛する人を失う悲しさは唐突にやってきて、現実を見ないふりをして目を逸らしてた。璃人が私よりも多くのことを失って、私よりも現実を見ているのを私は知っている。知っているのに、それをも包み込んであげる優しさが、私にはなかった。璃人が頑張っているのに、私は、現実から逃げている。だからなのかな……こんなことになったのは。今まで璃人が流した涙が私の心に海をつくる。溜まった海水は荒れ狂う波と化して心を荒れさせる。
周りの人が私を哀れむように見る。耐えられない。こんな悲しみに襲われる日が二度も来るなんて。不安で押しつぶされそうで。私は何度も名前を呼ぶ。失いたくない。もう、失う辛さは味わいたくない。
「璃人は目を覚ましますよ。何食わぬ顔で起きてきます。だから……」
悲痛な顔で私に声をかける。ボロボロの心がその言葉を払いのける。
「誰かを失う悲しみなんて知らないくせに、分かったようなこと言わないで!」
辺りが静寂に包まれる。
ただ、限界だった心のガラスが割れる音がした。それは粉々に砕け、自分という形が保てなくなる。
静かに部屋から出ていく人影に、その人は目もくれず、泣き続けた。


悪い夢を見ていた感覚が、胸の中に残っている。目を覚ますとそこは知らない天井で、ぼうっとする頭を横に振ると、母さんが椅子に座って寝ているのが見えた。そうか、ここは病室か。でもなんでこんな所にいるんだ?
俺は直前の記憶を思い出し、顔が真っ青になる。
そうだ……確かあの時母さんと塔坂が俺の名前を呼んですぐに頭に何か当たったんだ。その衝撃で意識が無くなったのか…
頭を触ると、包帯が厳重に巻かれているのが分かる。体を起こしても、その重みとズキズキとする痛みでふらついて、思わず頭を押さえる。
「あきと……?」
目の前の光景を受け止めるように徐々に開かれていく瞳。疲労が浮かんだ顔で母さんは俺を見て、心底安心したように息をついた。
「本当に良かった……このまま璃人が目を覚まさなかったら私……」
長い時間心に負荷をかけていたのが分かる。俺が心配させたから……
「ごめん、母さん……」
椅子から立ち上がる音がし、俺の体を温かい腕が包み込む。
「いいのよ……璃人が目を覚ましてくれただけで、私は嬉しい…」
「うん……」
顔がほころび優しさが心に染み渡る。
ふと窓の外を見た。空は少し明るくなり、それが朝日だということが分かった。
「母さん、今日って何曜日…?」
腕をほどき椅子に座りなおす。
「今は月曜日の朝よ」
「……てことは、一日半くらい寝てたってことか!?」
「そうよ。昨日、友達が心配して来てくれたの。早く目が覚めるようにって璃人のそばにいてくれたわ。退院したらお礼を言っておいてね」
「分かった」
相当心配してるだろうな。退院したらみんなに謝りに行かないと。
「そうだ。塔坂と話すことがあったんだ。昨日塔坂は来てた?」
ピクッと肩が動いた。下を向く視線は疲れた顔に暗い影を落とす。
「それが……病院に運ばれた時一緒にいたんだけど、その時私すごく取り乱してて、葵くんに失礼なことを言ってしまったの……」
嫌な予感がした。その言葉から察するに塔坂は……
「誰かを失う悲しみを知らないのに分かったようなこと言わないでって言っちゃったの」
心臓がドクンと鳴る。その時の塔坂の顔がはっきりと思い浮かぶ。塔坂は……自分を失う苦しみを誰よりも知っている。それに悩んでいて、自分自身が追い詰められていることも。そんな言葉をかけたらあいつは……!
俺は布団をはがし、スリッパを履く。慌てた母さんは俺の前に立ち、腕を広げた。
「どこに行くの!安静にしてなさい!」
「早く行かないとあいつが!」
「待って!!」
掴まれた腕に体が引っ張られ、後ろに倒れる。だがすぐさま立ち上がる。目覚めてすぐの体は重く、立ち上がった瞬間体がふらついた。支えようとする手を無視し、その場に踏ん張る。
「やめなさい。謝るなら今じゃなくても」
「塔坂は今!苦しめられてるんだ!!俺が眠ってる一日の中であいつがどれだけ自分を追い詰めてるか……今行かなきゃダメなんだ!」
制止を振り切りドアを勢いよく開ける。走るたびに動く腕が肩の痛みを主張し、荒げた声が頭の中を駆け巡る。おぼつかない足が何度も体勢を崩し、その度に地面に付きそうになる手を無理矢理振る。玄関の鍵を開け、外に出る。そこでやっとこの病院があいつと初めて言葉を交わした公園の近くにある物だと知る。空を昇る朝日は公園の草木を明るく照らし、世界を鮮やかに染めていく。
ここから塔坂の家はさほど遠くない。募る不安が心を支配し、焦りを覚えさせる。あいつの中の恐怖や不安が時間が経つごとに大きくなっているのは確かで、俺があの時言った言葉と母さんが言った言葉が塔坂にとってどれだけ心を抉ったか。深く刻まれた傷は癒えないまま時間だけが過ぎている。
早く塔坂に会わないと。その気持ちが俺の体を奮い立たせる。
鮮やかな世界で、一つ、淡い色を見つけた。それは俺の動きを遅くし、自然と顔がそちらに向く。日を浴びる向日葵畑の中を歩いていく人影は、周りの景色より淡く、心を感じなかった。儚い背中は今にも消えてしまいそうで、それを掴もうと俺は後を追う。
長い茎が視界を覆い、先に行く背中を隠してしまう。前を見つめる瞳は、立ち止まる色を逃さず離さない。歩き続け、辿り着いた場所はたった一つベンチがあるだけで、向日葵畑はまだ奥にも続いていた。息を切らし、ベンチに座る友達の前に立つ。
「はぁ……はぁ……塔坂、俺……」
顔を上げず、まるでそこにいるのが当たり前かのようにピクリとも動かない。ただ黙って座っている。心地よい朝の風が向日葵を揺らし、前髪の隙間を伏せる睫毛まつげが見え隠れする。
「塔坂が生きる事に必死なのを分かっていて、その苦しさを話して欲しくてあんなことを言った……無理矢理で本当にごめん」
今なら分かる。誰かがいなくなった世界は、親しかった人にとって心に穴が空くことで、それは他人も自分も同じなんだってことを。
「どうして……自分がいなくなればいいと思うんだ。俺はお前に会って、お前と友達になれてすげー嬉しいんだ。俺は、塔坂に生きて欲しい!」
真っ直ぐな言葉が砕かれた心にいる自分に一筋の光をくれる。それは欲しかった言葉で、誰かに必要とされたい気持ちが、僕の空になった体に染み渡る。
「僕…………は……」
見上げた璃人の顔は真剣で、僕から一切目を逸らさない。
ボロボロな心は璃人を見た途端、僕の瞳から涙を流させる。苦しい。つらい。怖い。独りで抱えた思いが涙となって溢れる。
「聞いて欲しい……僕の、思いを……」
独りで考えるのは疲れた。もう……楽になりたい。
「とことん聞いてやる。お前の思いも、弱みも苦しみも、全部。だから泣くなよ、塔坂」
隣に座り笑う璃人はどこまでも輝いて見えて、朝日に照らされる顔は、それは美しかった。



「……どうして、璃人は僕の悩みが分かったの?」
俺は空を見上げ、ゆっくりと流れる雲を眺めて言う。
「お前が抱えるものを夢で見たんだ」
「夢?」
「毎回違う夢だったけど、何かに怯える恐怖や、自分の存在が消えて無くなる不安みたいなのはずっと同じだった。不安や恐怖が何に対していだいているものなのかまでは分からなかったけど」
「そう…なんだ」
「でも、それが塔坂の抱えているものだっていうのは分かったんだ」
俯きながら、自分の心と答え合わせするように、俺の言葉を受け止める。
「クラウンの最後のシーンが変更になった日、あっただろ?」
「うん」
「あの日、瀬川先輩に言われたんだ。"塔坂をちゃんと見ていてくれ"って。あの時点で瀬川先輩はお前の悩みに気づいていたのかもしれないな。俺はその言葉があって、お前の悩みに気付けたんだ」
塔坂はフッと笑った。来た道を目で追いながら、塔坂は口を開いた。
「瀬川先輩は気づいてたよ。あまりにも正確だったからびっくりした。僕はこの気持ちを誰にも分かって欲しくなかった。だから瀬川先輩には誰にも言うなって忠告をした。約束は守ってくれたみたいだけど、違う形で璃人には気付かれちゃったね」
笑う塔坂は、どこか傷付いて見えた。隠してたものが他人に暴かれるのは、動揺するし、取り繕いたくなる。その気持ちが俺には分かる。だから、笑いたくなるのも受け止められる。
「僕は瀬川先輩に言われてから、自分の気持ちに蓋をした。簡単には開かないつもりだったんだけど、どこで漏れたのかな。僕、そんなに分かりやすかった?」
「はっ。お前の小説にも、心は反映するんだぜ。俺は改めてお前の小説を読み返してみたんだ。そしたら世界が変わったみたいに、見えなかったものが見えてきた。恐怖や不安、喪失感がなのか、そこで分かった」
「僕の……小説?」
塔坂は驚いた顔で俺を見た。
「最初に読んだ推理小説あっただろ?あれはお前そっくりだ。感情を失くした主人公が、事件を解決して犯人の感情を知る。それが主人公の失われた感情を呼び覚ます。主人公の大切な人がいなくなった悲しみが、あの話の鍵だっただろ?全ての感情を取り戻した主人公は、大切な人がいなくなった喪失感を抱えたまま、世界と向き合う。
これは……お前がいなくなった後の誰かの話なんだ。悲しくて涙を流したり、寂しい思いをしてほしいっていうお前の心が表れてるんだ。そこで分かった。塔坂は"死への恐怖と不安"を抱いてるんだって」
驚いた顔がゆっくりと前を向く。目をつむり、顔を上げる。息を吐き、まぶたを開ける。
「そっか……隠してたつもりでも、隠せてなかったんだね……本当は、誰かに知って欲しかったのかもしれないな……」
心地よい風が吹き、静寂が流れる。
涙を流し、自分の心のうちを話そうと決めた塔坂は落ち着いてる…………そう見えるだけで、本当はすごく動揺しているのかもしれない。俺は塔坂が口を開くのを待っていた。心の整理がつくまで、次の言葉は話さない。ゆっくり、時間をかけて話がしたいから。
空を見ていた顔がすとんと落ち、また息を吐く。
「僕は……生きることを諦めた訳じゃないんだ」
長い沈黙を破った言葉は、塔坂の正直な思いを口から零れさせた。
「璃人が言ったように、僕は死ぬことを怖がっている。僕が熱を出して寝込んだ時や学校に行った時、そういう時に思っちゃうんだ。"僕は今生きてるのかな"って。見ている光景、頭の中で浮かぶ光景。それら全ては死ぬ間際に見る走馬灯なんじゃないかって。勝手に、生きることを諦めてしまうんだ。その気持ちが僕の中で死の恐怖や不安、喪失感を煽らせる。生きることへの執着と、死ぬことへの諦めが交錯して、今の僕があるんだ」
初めて塔坂と言葉を交わした時、なんて儚いやつなんだろうと思った。今にも消えてしまいそうで、掴んでいないとどこかへ行ってしまいそうな、危うい存在。
悩んできたことがハッキリして、感じる。
心が、重くなる。塔坂の抱えてきたものの重みを感じ、言葉が詰まる。
本人から語られた言葉は想像していたより遥かに心を抉り、恐怖が背中に根を張り、体中を不快な感覚が走る。
怖い。苦しい。塔坂の思いが今、身に染みて感じる。自分にも起こりうる死。生きている今の脆さ。安全な橋を渡っているようで、実は横を向けば濁流がこちらに押し寄せている。いつ壊れるか分からない橋を、俺は渡っているのだ。
ーーーーでも、前を向けば歩いて行けることを俺は知っている。
恐怖や不安で押しつぶされそうで、足が震える。それでも歩みを進められるのは、そんな気持ちより、見失わない希望があるからだ。
喉を開き、息を吸う。圧迫していた心に空気が入り、詰まっていた言葉が吐き出される。
「俺は!!死ぬ恐怖を知ってるぞ!!」
静かな朝に、声が響く。塔坂は突然のことに驚き、思わず声が出る。
それに構わず俺は叫ぶ。
「誰かが居なくなる恐怖も、心に隙間が空く感覚も、俺は知ってる!!だから!!」
立ち上がり、塔坂の前で止まる。
「俺と一緒に生きよう、塔坂」




「…………え?」
いきなり叫んだかと思えば一緒に生きよう…?頭が混乱している。璃人は何を言っているんだ?
璃人はその場でしゃがみ、僕と近い距離で話し始めた。
「俺は知ってるんだ。お前が抱えてる気持ちを。分かるんだ。だって家族が一人いないから」
ドキリと心臓が跳ねる。
「死ぬってさ。ほんと突然なんだよ。準備も予感も、何もなく、平凡な日常に突然割り込んでくる。お前が感じてる気持ちを、俺は痛いほど知ってる。それでもなんで生きていけるかって言われたら……」
表情が柔らかくなる。笑みが言葉と共に零れる。
「俺は、俺の生きる意味を知ってるからって答えるよ」
膝に置いた拳に力が入る。眩しい顔を見れず、下を向く。
「僕は……分からない。僕が生きる意味を……」
「だったらさ」
腕を引かれ、その反動で僕はベンチから立ち上がる。視線が地面から璃人の顔に移り、表情から目が離せない。璃人が僕の腕を上に伸ばし、背伸びをする形になる。表情は笑ったまま、世界を璃人が覆う。
「これから見つけていこうぜ。お前が悩む時は俺が聞いてやるし、塞ぎこんだら言葉をかけてやる。そうやってお前の心が折れそうな時は、俺が側にいるからさーー
一緒に生きよう、塔坂。二人なら怖くないだろ?」
上げていた手を下ろし、璃人はそのまま両手で僕の手を握る。暖かい温もりが僕の冷えた心にまで伝わってきて、自然と顔まで赤くなる。
「璃人は……どうしてそんなに笑えるの?僕の気持ちを知っていながら、家族が一人いない空白も受け入れて、どうして……」
涙で視界がぼやける。赤らめた頰に雫がつたい、溜まった重みで落ちていく。
璃人は、強くて優しい。そんな璃人に頼りたい気持ちと心の弱い自分が嫌で、涙が止まらない。
「俺は、誰かの涙を見たくないんだ。悲しませたくないんだ。だから母さんも俺も、。悲しい思いをするより、楽しい思い出を作った方が心も体も楽だって気付いたから。塔坂にも、そんな楽しい思い出を作って欲しい。その中で生きる意味を見つけて欲しい。これは……俺の願いだ」
生きる意味が、生きたい理由が、心に溢れる。
「はは……」
笑いがこぼれる。優しい風が吹き、前髪を揺らす。
「璃人」
「涙を流すなって言ってごめんね。君の涙の理由を分かったようなフリしてごめん。試すようなことばっか言ってごめんね。謝らなくちゃいけないこと、話したいこと、沢山あるんだ。だから……」
「僕は生きるよ。君と、僕の為に。まだ自信は持てないけど、少しずつ、自分と向き合って生きてみるよ」
ーーその言葉に思わず顔が下を向く。握っていた手を離し、顔を覆う。
聞きたかった言葉が反響し、瞳を熱くする。
「はあ…………」
手を離し、恐る恐る顔を上げる。
潤んだ瞳に映る塔坂はそれまでとは全く違う。

生きた色をしていた。




塔坂と病院に戻った時、まず最初に母さんに怒られた。涙を溜めてずっと玄関で待ってくれていたと担当の先生は言っていた。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。だが母さんは怒った後にそっと頭を撫でてくれた。それが母さんの優しさで、不安な心の中にある愛情が俺に伝わってまた涙が出る。
隣にいた塔坂が俺を見て笑う。
もう塔坂には隠さない。俺の本音を。涙が出る衝動を。救えた心が嬉しくて、涙とともに心が温かくなるのを感じた。目の前の二人が笑っている。それだけで世界は明るくなる。朝の空気が、光景が、光を帯びて眩しく映る。世界は、こんなにも色であふれている。塔坂にも母さんにも見えてるかな。
「母さん、塔坂。俺、二人に言わなきゃいけないことがあるんだ」
二人はきょとんとした顔で俺をみる。
「俺…役者になりたいんだ。俺の才能がどこまでいけるか知りたい。もっと演じることの楽しさを知りたい。でも、それと同じくらいやりたいことがあるんだ。それは…」
「璃人とまた同じ作品を作りたい」
「……え?」
言われた言葉が俺の言おうとした言葉と同じで、思わず声が出る。
「僕も同じ気持ちだったよ。璃人が一緒に生きようって言ってくれた時、やりたいことが頭に浮かんだんだ」
それって……
「僕は脚本家になるよ。璃人とまた一緒に作りたいから」
「ふふ、いいわね、二人で目指す場所が同じだなんて。素敵だわ。私も、全力で応援するわね」
母さんが未来の話を笑ってくれた。
俺は…過去ばかり見ていて未来なんて分からなかった。でも少しずつだけど心に余裕が生まれて、考える隙間ができた。一人で考えていたことを、夢を、未来を口に出す。
それだけで、今を生きている実感が湧く。
俺は胸に期待を残したまま、二人の手を取る。
「頑張ろうな!」
笑顔を浮かべたその瞳には、希望があふれていた。
生きたい。その気持ちが、俺たちを明日みらいへと進ませる。一歩は小さくて、長い道のりになるかもしれない。でもその一歩は確実に前に足を踏み出した。

みんなが見る遠い道の先は何があるのかな。



これは、生きることを始める物語。





さあ、行こう。輝く未来へ!






















彼が涙を流す時、それは心を強く震わせた時。舞台の上で、スクリーンのなかで、はたまたテレビの中で。その人は涙を流し、それを見た人は涙を綺麗だと言う。なぜそう思うのか。答えは簡単だ。
彼は、で涙を流せないから。
彼の涙の意味を知っている人は、その涙を見て思う。"早く君と作品が作りたい"。
募る思いはテレビに映る彼に注がれる。
ーー向日葵畑でした約束を果たす日が来るまで、彼らは何度でも立ち上がる。スクリーンでも、舞台でも、テレビでも、どこにいても。



また会えるその日を待ち望んで、


今日も彼は、


涙を流す。
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