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私は"幸せ"になりたい。
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定時から3時間が経過した午後9時。
コートを羽織り、帰宅の準備をしながらスマホを見る。
《今週末会えない?映画でも見よ~》
連絡は付き合って5年目になる彼氏からだった。
その連絡になんとなく、ため息をつきながら頭を掻く。
《いいね。》
思ってもいないその言葉になんだか一気に疲れが出た。
彼氏のことは別に嫌いではない。ただなんとなく、この人のことがわからなくなる。この人は私に何を求めているんだろう。
私は今年で31だ。結婚適齢期に突入した頃に、たまたま行った会社の親睦会で出会い、付き合いはじめた私たちは、なんとなく結婚するのだと思っていた。
彼氏の収入はそれなりに安定してるし、優しい。特に何か不満があるわけではない。でもわからないのだ。結婚適齢期を過ぎてもなお、うわついた話ひとつなく、恋人のように振る舞うあなたが。
数ヶ月前、いつも通りのセックスを終え、私に背を向けてタバコを吸うあなたに、私は聞いた。
「将来どうしたい?どうなると思う?」
そう聞いた私に、あなたは煙を深く吸い込み、ゆっくり吐き出して言う。
「うーん。仕事は頑張りたいと思ってるよ。あとはそうだなー、海外旅行とか行きたいかも。」
あなたの横顔を見ながら、少し間を開けて私はつぶやく。
「、、、。あーうん、いいね、、、。」
『でしょー。』と彼は嬉しそうに言う。その将来に私は1ミリ出ていないこと、私の将来はどうしたいのか聞いてくれないこと、そんなことあなたは何も気づいていないんだろうな。この人にとって私はなんなのだろう。ただ会って恋人ごっこして、ヤレる女?そんなふうに思った。
でもそんな気持ちすぐにかき消した。きっと大丈夫。私はこの人と幸せになれる。普通の人と同じように結婚して、子ども産んで、育児して、普通の人と同じように幸せになって。あれ、普通の"幸せ"ってなんだっけ。あぁもうわかんないよ。難しいな。
コンビニに寄り、ビールと砂肝ポン酢、それとレジ横の焼き鳥を買う。
「ありがとぉーございましたぁ。」
気の抜けた店員の声を背に、コンビニを出る。街灯が煌めく街を歩きながら、夜風に身を任せる。
彼氏の前では毎回自炊をしていた。付き合いはじめた頃、結婚するために料理が得意なふりをしたから。そのふりが今でも抜けない。
《夕方からでいいー?夜は久々にオムライス食べたいな。》
彼氏からのLINEにまたため息が出る。
付き合いはじめた頃、好かれたくて彼の好物のオムライスを得意料理だと言った。本当は得意なんかじゃない。
年を増すに連れ、炭水化物をとるのに罪悪感を抱くようになった。だから彼氏と会う時以外は控えるようにしている。彼と食事をした後も、必ず体をチェックする。変な肉がついていないか。私はまだ綺麗か。"女"でいれているか。
あぁ、私は誰のために"女"でいようとしているんだろう。これも結婚のためか。あぁもう全て嫌になる。
袋からビールを取り出し、プルタブに指をかける。プシュッって音がして、泡が出る。手が汚れるのも気にせず、液体を喉に流し込む。ゴキュゴキュと喉を通る液体が身体に染み渡る。周りの人が私を見てる。そんなの関係ない。勢いよく唇から缶を離し、息を吐く。なんて清々しい気分だろう。周りから見たら私はたぶん、かわいそうな女なんだろうな。笑える。
ポケットからスマホを取り出し、気が変わらないうちにLINEを打つ。
《別れよっか、私たち。》
これでいい。少なくとも私は私を否定しない。これを私の"幸せ"にしてやる。
コートを羽織り、帰宅の準備をしながらスマホを見る。
《今週末会えない?映画でも見よ~》
連絡は付き合って5年目になる彼氏からだった。
その連絡になんとなく、ため息をつきながら頭を掻く。
《いいね。》
思ってもいないその言葉になんだか一気に疲れが出た。
彼氏のことは別に嫌いではない。ただなんとなく、この人のことがわからなくなる。この人は私に何を求めているんだろう。
私は今年で31だ。結婚適齢期に突入した頃に、たまたま行った会社の親睦会で出会い、付き合いはじめた私たちは、なんとなく結婚するのだと思っていた。
彼氏の収入はそれなりに安定してるし、優しい。特に何か不満があるわけではない。でもわからないのだ。結婚適齢期を過ぎてもなお、うわついた話ひとつなく、恋人のように振る舞うあなたが。
数ヶ月前、いつも通りのセックスを終え、私に背を向けてタバコを吸うあなたに、私は聞いた。
「将来どうしたい?どうなると思う?」
そう聞いた私に、あなたは煙を深く吸い込み、ゆっくり吐き出して言う。
「うーん。仕事は頑張りたいと思ってるよ。あとはそうだなー、海外旅行とか行きたいかも。」
あなたの横顔を見ながら、少し間を開けて私はつぶやく。
「、、、。あーうん、いいね、、、。」
『でしょー。』と彼は嬉しそうに言う。その将来に私は1ミリ出ていないこと、私の将来はどうしたいのか聞いてくれないこと、そんなことあなたは何も気づいていないんだろうな。この人にとって私はなんなのだろう。ただ会って恋人ごっこして、ヤレる女?そんなふうに思った。
でもそんな気持ちすぐにかき消した。きっと大丈夫。私はこの人と幸せになれる。普通の人と同じように結婚して、子ども産んで、育児して、普通の人と同じように幸せになって。あれ、普通の"幸せ"ってなんだっけ。あぁもうわかんないよ。難しいな。
コンビニに寄り、ビールと砂肝ポン酢、それとレジ横の焼き鳥を買う。
「ありがとぉーございましたぁ。」
気の抜けた店員の声を背に、コンビニを出る。街灯が煌めく街を歩きながら、夜風に身を任せる。
彼氏の前では毎回自炊をしていた。付き合いはじめた頃、結婚するために料理が得意なふりをしたから。そのふりが今でも抜けない。
《夕方からでいいー?夜は久々にオムライス食べたいな。》
彼氏からのLINEにまたため息が出る。
付き合いはじめた頃、好かれたくて彼の好物のオムライスを得意料理だと言った。本当は得意なんかじゃない。
年を増すに連れ、炭水化物をとるのに罪悪感を抱くようになった。だから彼氏と会う時以外は控えるようにしている。彼と食事をした後も、必ず体をチェックする。変な肉がついていないか。私はまだ綺麗か。"女"でいれているか。
あぁ、私は誰のために"女"でいようとしているんだろう。これも結婚のためか。あぁもう全て嫌になる。
袋からビールを取り出し、プルタブに指をかける。プシュッって音がして、泡が出る。手が汚れるのも気にせず、液体を喉に流し込む。ゴキュゴキュと喉を通る液体が身体に染み渡る。周りの人が私を見てる。そんなの関係ない。勢いよく唇から缶を離し、息を吐く。なんて清々しい気分だろう。周りから見たら私はたぶん、かわいそうな女なんだろうな。笑える。
ポケットからスマホを取り出し、気が変わらないうちにLINEを打つ。
《別れよっか、私たち。》
これでいい。少なくとも私は私を否定しない。これを私の"幸せ"にしてやる。
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